凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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あけましておめでとうございます。
今年こそ完結目指して頑張っていきます。


永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(5)

 

 

 ゆるやかな安寧の中にいた。

 それは、最高のかたちとは程遠いけれど、ずっと欲していたものだった。

 

「……」

 

 だれかがこれを見ているのだとしたら、これをハッピーエンドだなんて思うまい。

 目指していた理想(もの)は果たされず、妥協する暇もなく、壊れかけたそれをどうにか繋ぎとめて拾っただけ。

 言うなれば、メリーバッドエンド。

 

 それが、■――――リッカという転生者の、結論だった。

 

 後悔と罪悪感に、胸が締め付けられる。いつもであれば、動悸が荒くなり、満足に呼吸することも出来なくなる。

 けれど、腕の中にあるあたたかさがそれを気にさせない。

 膨れ上がる申し訳なさ以上に、■にとっての幸福がここにはあった。

 

「……ごめん……ごめんね、ユーリ」

 

 ユーリはまだ、諦めようとしていなかった。

 当たり前だ。だって、ここはまだ、ハッピーエンドとは言えない場所なのだから。

 辿り着くと決めた以上、ユーリは止まらない。それは、分かっていたことだった。

 ■は、無理やりユーリの選択肢をなくした。最後まで■は、ユーリの足手まといにしかならなかったのだ。

 

「……限界は、とっくに自覚していたけど……あんなことがなければ、まだ生きていられた」

 

 眠るユーリには聞こえていないというのに、言い訳はぽろぽろと零れてくる。

 エナジードレイン――サキュバスとして当然、あの四天王は有しているだろう。

 対策はしておくべきだった。ユーリも、■自身も、守れるすべはどこかにある筈だった。

 

 ……いや、待って。

 いつか、これは絶対対策しておかないとって――そう思ったことはなかったか。

 

「っ……」

 

 ――込み上がってくる吐き気を堪えながら、考える。

 数えきれないほどの後悔の一つである、あの出来事の後……■は確かに、もう二度とあんなことにはなるまいと、決意したのではないか。

 それさえ、■は――忘れてしまったのか。

 旅路の中で、零れ落ちたのか。或いは、この記憶さえ、失敗の理由をどこかに探して正当化しようとしている■の現実逃避なのかもしれない。

 ……いくら後悔しても、もう遅いのだが。

 ■はどうあれ、ここまでだ。もう体を動かすことは出来ない。ここでこの魂が尽きるまで、引きこもっていることが限界だ。

 

「ユーリ……ごめん、ユーリ。私だけであれば、まだ何とかなったのに。ユーリまで死ぬ必要なんて、なかったのに」

 

 詳しいその瞬間は見ていないけれど、ユーリの肉体が無事ではないことは、既に確かめた。

 ユーリはここから外に出ることは出来ない。出ることが叶っても、人としてユーリが生き続けることは不可能。

 せいぜいが、レイスのような未練の残滓として存在することが許されるかどうか。

 そんなこと、■は認めない。ユーリがあんなものに落ちぶれるくらいであれば、ユーリにこれから先ずっと恨まれようともここで抱き締め続ける。

 死ぬ瞬間の痛みよりも死に損なった後の苦痛の方がずっと長く、強いものなのだ。

 

 ■も、ユーリも、もうこの先に道はない。

 ならば、この領域の終わりが訪れるまで、ここに居続けるのが、ユーリにとっての最大のしあわせだ。

 こうしていれば、ユーリが傷つくことはない。もうこれ以上、■のためにユーリが無理をすることもない。

 

 ずっと――ずっと、苦しかった。

 ■自身の苦痛なんて、どうってことはない。次があるからと、耐えれば良いだけの話だった。

 けれど、ユーリは繰り返せない。そんなユーリを、何度も何度も、死なせてきた。

 今、ここにいるユーリに記憶はなくとも、■の記憶には残っている。

 何百、何千のユーリの死。その中に、最後に加わった――まともに肉体さえ残らない、悲惨な死。

 それを食い止めるどころか、自分の死によって誘発したという、認めがたい末路。

 償いなんて、出来よう筈もない。もう、この次はないのだから、足掻く権利さえなくなった。

 

「ユーリは、ずっと頑張ってくれたのに。私のために、歩き続けてくれたのに。私は、ユーリを生かすことさえ出来なかった」

 

 ユーリだけが生き残る。最悪、それでも良かったのだ。

 元々はその方針だった。すべてが終わった後、生きていられるとは思っていなかったから、そこで満足するつもりだった。

 真っ直ぐなユーリに絆されて、その先も満たされることなく生き続ける気概を固めたけれど、結局そんな権利はなかったということ。

 そこまで欲張った結果がこれだ。こればかりはと願ったユーリの幸せさえ、奪ってしまった。

 

「……みんな、手を貸してくれたのに。全部、ここで終わり。……そっか。私にもまだ、みんなに悔いる気持ちがあったんだ」

 

 ナディアだけじゃない。

 クイール――ようやく■が信用することの出来た、先代勇者。

 イリスティーラ――まだ心から信じることは出来ないけれど、裏切らないだろうとは思えた、おかしなエルフ。

 そして、トーカ。他者の地雷にも躊躇なく踏み込んでくる、無遠慮な子。

 今回で知り合った彼女たちのこれからを、知ることは出来ない。トーカはともかく、クイールたちは――きっと、幸福にはなれない。

 ■のせいだ。■がいたから、すべてが狂った。きっと■がいなければ、ユーリの旅は苦しくとも順風満帆で、希望に溢れたものになっていた筈なのに。

 

「……カルラ……ラフィーナ……」

 

 きっとラフィーナは、もうこちらの様子を悟っている。

 知った上で、こちらに顔を出さない。どういうつもりかは知らないが……うん、来てくれない方が、精神的には助かる。

 もう、ラフィーナにも、カルラにも顔向けできないから。

 カルラはすぐに見つけると思う。その時までに……覚悟は決めておかないと。

 どれだけ怒るか、想像もつかない。あんな風に送り出してもらって、最後の旅路に――その早々に躓いて、こんな場所に引き籠っているだなんて。

 ……仕方ないじゃないか。ユーリの命は守れなかった。それでもユーリを守り続ける、これが唯一の方法なのだ。

 それを真摯に伝えれば、カルラも……ラフィーナも、許してくれる。ここで立ち止まって、今度こそ諦めた■を、許してくれる。そう信じるしかなかった。

 

「……ユーリは頑張ったから、怒られるのは私だけでいい。……怒られるだけで、済むかな。ううん、大丈夫……カルラも、ラフィーナも、優しい、から」

 

 少しだけ怖くなって、ユーリを抱き締める力を強める。

 強くしたところで、今の■に出せる力なんて些細なものだし、ユーリは目覚めもしない。

 

 ……安寧だった。ひどい後悔の中で、確かな平和を実感していた。

 考えなかった訳じゃない。こうして出せないように、閉じ込めてしまえば、勇者としての使命なんて放り出して、ユーリを守ることが出来るって。

 それをしなかった――復讐を果たそうだなんて欲を張った報いだ。ここにあるのは、最悪のハッピーエンド。

 それでも、■がユーリと一緒に、掴むことが出来た、ただ一つのしあわせ。

 

 もういいの、ユーリは、何もしなくて。

 ずぅっと、ここにいてくれればいい。ここを出ることなく、叶うことならば、■から、ただ一時も離れないで。

 せめて得られたこのしあわせを、一秒でも長く感じさせてほしい。

 

 ――――行ける所まで行こう。もちろん、魔王よりも、ずっと先まで。

 

「……」

 

 それは叶わなかった。ここが行き止まりだ。

 もう魔王なんて、どうだっていい。……だから。

 

 ――――何もかもを乗り越えて――リッカ、一緒に行こう。リッカが望む、ハッピーエンドまで。

 

「……」

 

 一緒に歩んできたから、こうなった。手を引いて始まった旅は、足を引っ張ることで終わりを告げた。

 妥協に満ちた終わりであったものの、これが■の望みだ。ユーリと一緒にいられる、安寧が。

 ……だから。

 

 ――――リッカが“もっと上”を望むなら、目標に上乗せしたっていい。一緒に描いたハッピーエンドなら、もっと、ずっと大きな力になる。

 

 ――――……無理したくないから、少しだけ、妥協するっていうのは?

 

 ――――絶対に嫌だ、が返事になるかな。

 

「……っ」

 

 だけど、もうこれで終わってしまったのだ。

 十分、無理をしたのだ。ユーリと一緒に、最高のハッピーエンドに辿り着くために。

 それでも駄目だったのだから、もう、思い出さなくていい。

 全部、後の祭りなのだ。今から何を回想しても、変わらない。

 もう■には、繰り返しさえないのだから。

 

 ――だというのに、頭の中に“今回”のユーリとの記憶が巡る。

 たくさんの希望を受け取った。もう碌に歩けない■を、怖くて震える■を、何度も何度も勇気付けてくれた。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 思い出したくない。割り切ったから、もう割り切ったから、思い出させないでほしい。

 いくつもの諦めないユーリの姿を。■に向けて笑うユーリを。手を差し伸べてくるユーリを。

 

『――いいわけないでしょう、そんなん。正当化しようったって、そうはいきませんから』

 

「…………え……?」

 

 それを忘れて、今のユーリだけを感じていようと、目を閉じたとき。

 自分の内側から、そんな声が聞こえた気がした。

 間違えようはずもない、カルラの声が。

 

『やっぱり……手を打っておいて正解でした。ユーリもリッカも、わたしがいないとどうしようもないですからね』

 

「カル、ラ……? 待って……ど、どこに……」

 

 領域をスキャンする。もうカルラはここにいなくて、まだやってくるような状況でもない筈だ。

 あの冥界の管理が安定するまでは、カルラはあそこを離れられない。

 ……やっぱり、カルラはどこにもいない。なのに、今のは――幻聴ではない。

 

『どこにもいないですよ。ただ、別れる時にお守りを残しておいただけです。いざって言うとき、二人の背中を蹴り飛ばせるように』

 

「っ……あの、時……」

 

 冥界で、カルラに送り出される直前。

 カルラが口づけと共に何かを流し込んできていたことは、知っていた。

 調べてもよく分からなかったその“お守り”。カルラのことだし、悪いものではないは思っていたけれど、まさか、こんなことを。

 

『で? リッカ。誰がこんなところで諦めることを許したんですか。わたしは、下らない妥協で満足する二人なんて見たくもないんですよ』

 

「け……けど、私は……ユーリ、だって、もう……!」

 

『そんな中でも、何かしてみせるのがあなたたち二人でしょうが』

 

 呆れと、怒りが、その声色から伝わってくる。

 ただ、わたしたちがどうしようもない“詰み”にぶつかったとき、その背中を押すためにカルラが残したかすかな意思。

 幾度となくわたしを立ち上がらせてくれた、カルラの言葉が、心臓を強く締め付けてくる。

 

『いいですか、魔族であるわたしに、あなたたちが勝っていること。それが諦めの悪さと、何を仕出かすかわからない奇抜さなんですよ』

 

「そんな……こと、言ったって……」

 

 ■にも、覆せるものと、覆せないものがある。

 ユーリの肉体も、■の魂も、今から何をしようとどうにもならないというのに――なのに――

 

「――――――――そう、だよね」

 

「……ぁ――」

 

 一体どうすればいいのだとカルラに問おうとした瞬間。

 今このとき、何よりも聞こえてほしくない声も、聞こえてきた。

 自分の真下。腕で抱える、その頭から。

 

「諦めないことを、やめたら……そんなの、僕じゃないよね……?」

 

「――ゆー、り……ちが、ちがう……もう、ユーリは……」

 

 いつの間に、目を覚ましていたのか。

 もっとユーリは眠っていていい。ここから先は、もうずっと、ここに……この腕の中にいていい。いなければならない。

 ――やだ、待って。

 立ち上がろうとしないで。■から、離れないで。なんで、たったあれだけで、そんな風に笑えるの。

 

「まだ、何もかもが終わったって、決まった訳じゃない」

 

「違うの――もう、決まってる。どうやっても、今を切り抜けられる方法、なんて」

 

 なんの根拠もないくせに。その顔は、方針なんて決まっていない顔だ。

 選択肢がいくらでもあった頃なら、その勇気は、希望になった。

 けれど今は違う。

 そうやって歩き始めたって、もう何も出来ることなんて、ないのに。

 

『まったく――世話の焼ける。さ、とっとと歩き出すんですよ、ユーリ。リッカはもう梃子でも動きそうにありませんし、どうにかしてください』

 

「まって、カルラ。ユーリを、煽らないで。やだ……行かないでよ、ユーリ」

 

 どこに、行くの。この領域をどれだけ歩いても、果てから果てまで調べ尽くしても、一粒の希望さえ見つからないというのに。

 それを分かっている筈だ。だって、ユーリは誰より、■のことを知っているのだから。

 なのに、ユーリが今からやろうとしていることを、■は知らない。■は、認めたくない。

 

 寝惚けたような目を擦り、いつも通りの顔に戻って、力強く微笑んだユーリは、■に背を向ける。

 もうカルラの気配は感じない。たったあれだけの言葉で、ユーリはまた立ち上がって、歩き出した。

 存在しない、希望に向けて。

 

「ユー、リ……?」

 

「――リッカ。歩く先に何もなくても。たとえ、その先に希望なんてなくっても――まだ“諦めないこと”が出来ている内は……僕は、立ち止まりたくないんだ」

 

 ゆっくり、ゆっくり、ユーリの背中が遠くなっていく。

 その先になんて、何もないのに。希望なんてないのに。諦めないことが、まだ出来ているからって。

 

「……ようやく目覚めたか。待ちかねたぞ」

「ごめん――待たせたね。どこかに、連れて行ってくれるんでしょ」

 

 いつから、そこにいたのだろう。

 少し前に招いた、憎悪と狂気に満ちた女と並んで、ユーリは離れていく。

 

「……ユーリ……待ってよ……ユーリ……」

 

 手を伸ばしても、届かない。

 この領域は■のものだ。離れていてもその姿は追えるし、言葉を交わすことも出来る。

 けれど、その姿が離れていくことが――どうしようもないほどに、ユーリと■の目指す“しあわせ”の差を象徴していた。

 

 無駄なのに。全部、無駄なのに。

 ――――そっか。まだ、ユーリは折れていないんだ。

 

「……それ、なら……しょうがない、よね。ユーリ、が……諦めないんだもん」

 

 躊躇いの中で、それを実行してしまう自分に嫌気が差す。

 ユーリを守りたいと、片時も離れてほしくないと思いながら、結局、“それ”が出来てしまうのだ。

 気持ち悪い。吐き気が込み上げてくる。

 こんな選択をさせないで。できれば、今すぐに諦めて。

 ■は、ユーリを――ユーリを、傷つけたくないのだから。

 

 ――緊急命令を、発令する。




【■■■】
壊れかけた、ハッピーエンドを望むもの。
ただひとりを慈しむ楽園の主。
だからこそその楽園は、理に抗い逃げ出そうとする者を決して赦さない。
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