凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(6)

 

 

 自分の意思で、リッカから離れていく。そんな日が来るとは、思っていなかった。

 もう道なんてないからと、この領域での仮初の平穏をハッピーエンドにしよう――と。

 僕たちはもう生きていられないからこそ、リッカはそれを妥協点としようとした。

 きっと、リッカが何か方法さえ思いつけば、諦めることなどなかっただろう。

 けれどもう、手詰まり。

 ここに居続けることこそ、僕たちに残された唯一の選択肢なのだと。

 

「……どこに向かっているの?」

「――この領域に変化が起きた。お前を外に出さないために、あの女は必死のようだ」

 

 聖都で出会った、かつての勇者たるポラリス。

 彼女は、目覚めて早々の僕の前に現れ、あの場を連れ出した。

 

「お前が離れた以上、あの女は手段を選ぶまい。この先に、唯一の安全地帯だろう場所がある」

 

 安否を確かめるように一瞥したきり、彼女はこちらを見ることはない。

 道なき道……床も見えない下り坂を、迷いなく進んでいく。

 

「安堵したぞ。お前が何事もなく目覚めて。あの程度の安寧で永遠の眠りについてしまっては、私も興醒めというものだ」

「そう、だね。僕とリッカの二人だけしかいなかったら、僕は眠ったままだったと思う。……リッカの望みを聞いて、それでいいって思った。仕方がないって、僕自身も諦めかけていた」

「……眠るお前を揺する者がいたようだな。深くは聞くまい。私が理解することでもないだろう。私は、ただお前が止まることなく歩み続けてくれれば、それでいい」

 

 ……カルラは、別れる時にこうなることを予期していたのだろうか。

 あの時、頭の中に響いたカルラの声は、僕にあれ以上眠っていることを許さなかった。

 カルラらしい容赦のなさだ。確かに、カルラであれば、あんな体たらく――躊躇いなく背中を蹴り上げてくるだろう。

 おかげで、すっかり目覚めて、また立ち上がることができた。

 

「けど……リッカはすっかり、諦めてしまったんだね」

「死ぬ程度で折れるなどと……とは言うまい。あの女がただ死ぬ程度で諦めぬことなど私でもわかる。それでもああなる程の確信があったのだろう」

 

 これまで何度も何度も繰り返してきたリッカだが、もう次はない。

 そして、少なくともリッカが覚えている限り、ここまで来られたのは初めてなのだ。

 しかし呆気なく、僕とリッカは共に限界を迎えてしまった。

 もう一歩と進むことさえ難しいリッカは、僕が手を引いても立ち上がることは出来まい。

 この状況を覆す方法は――今の僕には、思いつかない。

 

「それでも――お前はまだ足を進められるな? 最後の勇者は、立ち止まりはすまい?」

「当然だよ。僕にも、リッカにも、何も見えていなくても……どこかにある筈なんだ。ここが、リッカの創った領域であるのなら」

「……本人でさえ見えていない可能性があると?」

「リッカはいつだって、僕の想定外のことをしてきた。それなら、リッカさえ忘れている何かがあっても、僕は驚かないよ」

「クク……そこまでの信頼を置けるか。聊か羨ましいな。私にもそのような者がいれば、あのような末路もなかっただろうに」

 

 僕は、リッカの規格外を信じている。

 この領域には、リッカの可能性が満ちているだろう。

 ならば、ここには何でもある筈だ。たとえリッカが自覚していなくとも、きっと希望は存在している。

 

「まあいい。ここだ。揺れるぞ」

 

 前を歩いていたポラリスが、何もない場所に向けて手を伸ばす。

 そして、雑に手を払えば――空間が揺れた。

 地震でも起きたかのような揺れに、数秒目を閉じ、次に開いた時には、景色は切り替わっていた。

 

「っ……ここ、は……!?」

 

 そこに広がっていた、あまりに常識を超えた光景に、開いた目がすぐさま眩んでしまう。

 ノイズの混じった、色鮮やかな光が好き勝手に点滅する、目的の見えない広大な空間。

 そもそもここは、空間として成立している場所なのだろうか。

 ただ、立っているだけで、僕たちの存在までもが不安定になっていくような感覚さえあった。

 

「ここは、リッカの領域の一部なの……? 唯一の、安全地帯って……!」

「ああ、そうだ。あの女の中に在って、しかしあの女は、ここを認識していない」

 

 目を開いているだけで、自分の視界が信頼できなくなるような、奇怪な光景。

 光を遮るように目元を腕で隠しつつポラリスに問えば、彼女もまた目を閉じながら答えた。

 

「――正確には、認識“できない”だねぇ。あの子は無意識の中でこの座標を封じているのさ。自己防衛のために、ね」

 

 そして、ポラリスの回答を補足するように、背後から声が聞こえてくる。

 咄嗟に振り返れば、この空間に負けずとも劣らない、煌びやかな色彩がそこにあった。

 

「……バル、ハラ……?」

「うん。ヒサシブリ、だねぇ。ユーリ――よりぼく好みに育っているようで、何よりだよ。クフ……こんなことを言えばリッカの逆鱗に触れかねないか。ま、ここで何をしようと、あの子は観測出来ないんだけど」

 

 バルハラ――リッカという存在の大本となった、かつての時代に魔王と呼ばれていた存在。

 この、規格外の存在と出会ったのは、ホロゥにあった迷宮の奥底だ。

 あそこでリッカの真実の一つを知り、バルハラは僕たちの旅路への助力として、自身の力の一端をリッカに譲与した。

 それをリッカは使い魔としていたようだが――バルハラはこの奇妙な空間にいてなお、飄々とした顔つきで積み上がった小さな箱を椅子として腰掛けていた。

 

「さて。ご苦労様、幼獣の星(ネガポラリス)。よくここまでユーリを連れて来てくれたねぇ」

「お前の走狗となった記憶はない。それに、その名で私を呼ぶな、混沌。私はあくまでも、ユーリとリッカ――かれらの協力者だ」

「そうだね。ぼくはそれを否定しないさ。けれど、キミたちでは答えが出せない行き止まりに直面しているんだろう? 子が求めるなら、応じてあげないと」

 

 どこか上機嫌に、張り切った様子を見せるバルハラに、ポラリスは嫌悪感を隠さない溜息で返す。

 ……つまり、バルハラが彼女を僕とリッカのいた場所に向かわせたようだ。

 

「それなら、迅速にことを済ませろ。今のこの状態では、あの女との取引も果たせん」

「律儀だねぇ。さて、それじゃあ本題に入ろう。とはいえ、とはいえだ。この狭くて広い領域で何をするか、ぼくは促しもしなければ止めもしない。ユーリ、今ここでしてあげられるのは、あくまで“授業”だけだよ」

 

 バルハラはここで僕が何をしようとも、それで見物者という自分の立場を変えるつもりはない。

 あくまでも、光明となるかもしれない情報を、教えてくれるというだけ。

 ……十分だ。それを見つけるのは、僕の役目だ。教えられて、手を借りるだけで辿り着けるほど簡単なものだとは思っていない。

 試すような笑みのバルハラに頷けば、何が嬉しいのか、手を叩いて笑みを深めた。

 

「それでこそだ。――ここはね、さっき言った通り、今のあの子は見てはならない場所だ。無論、キミも、ぼくたちも、本来は入ることさえ許されない座標に当たる」

「……なら、どうして……この景色と、何か関係しているの?」

「正解だよ。ここは、誰が入ることも想定されていない場所……空間として定義されていない“可能性”。まだなんの意味も持たない“(エヌ)”……本来生命の内は出来ないものだ」

「……あのサキュバス――ネリネも言っていた。その、“N”って……?」

「……なんだって一介のサキュバスがこの概念知ってるんだい? ……ま、いいか。知っていたとして、意識して手を出せるものでもないし。“N”はね、ぼくやぼくの友人……家族? ――たちが分かりやすさのために設定した概念さ。この世界で意味を持つ可能性がありながら、未だその意味を定義されていないものの総称だよ」

 

 バルハラの説明を受けても、ピンと来なかった。

 それも想定通りだったのだろう。さもありなんとバルハラは頷いた。

 

「空の上、天上のさらにずぅっと向こう。或いは、海底よりも底の底。この世界の外、未観測の領域が例として分かりやすいかな。ああ、世界の外っていっても、別の時空は関係ないよ? 世界観の外にある概念は、こっちに則した形式に最適化されるようになっているから」

「……空の向こう……確かネリネが、無限の瞳がどうとか……」

「――ふぅん。そのサキュバス、よほど変な電波を受信したんだねぇ。まあともかく、まだ至ることが想定されていない場所……その一つがここなんだよ。肉体に定義されていない部位なんてある筈がないし、精神ってのは自覚で容量が変化する。だから、意思を持つなにかに“未定義()”が生まれることは、普通ない。混沌の分体であるぼくでさえ、そのすべては定義されているんだ」

「……なのに、リッカには未定義(それ)があるって……? ここはリッカが管理する領域で、リッカ自身が創ったものなんじゃないの?」

「良い着眼点だね。その通り。ここはあの子の復讐の象徴だ。あの子が一から生み出して、無数の魔族を収容するための世界として、自分の精神の内に広げた領域だ」

 

 これまで、“そこ”がどこなのか、具体的な答えを得たことはなかった。

 ……しかしここはやはり、リッカの精神の内部なのか。

 だからこそそれと接続してリッカは魔力を得ることが出来るし、その内部にいるラフィーナとつながった武器を即座に出力することも出来た。

 ここは――リッカが生きることのできるもう一つの世界なのだ。

 

「少し前まではもっと、ずっと小さかったんだけどね。ほら、そこの子が唆してさ」

「元はと言えばお前が原因だろう、混沌。これほど広大な精神世界を構築できる素養……その大部分を占めているのは、あの女の持つ混沌の破片だ。本来、一人の人間が宿すには不相応な力。であれば、このような不具合も生まれよう」

「ぼくたちの影響だけでこんなもの出来ない筈なんだけどねぇ。まあ、犯人探しはどうでもいいさ。ともかく、ここはまだ何でもない場所だ。何でもないってことは、何にでもなれるってことなんだ」

 

 何にでも、なれる――未定義であるがゆえに可能性に満ちている。

 正確には可能性となるかどうかさえ、決まっていない領域……。

 

「……リッカは、ここを認識していないんだよね」

「それは保障するよ。ここが未定義であり続ける限り、あの子はどうやってもここを気付けない。今あの子は、自分の中を探し回っているだろうね」

「そっか――だから……」

 

 少し前から、自覚していた。

 ――今の僕には、ここに来る前と同じように、つながりを感じ取ることが出来ている。

 この内側の狭い範囲ではあるが、ポラリスやバルハラとのそれは分かる。

 つまるところリッカが僕の力を封じていたのだろう。僕から、外への――持つべき執着を捨てさせるために。

 相変わらず、ここから外へとつながることは出来ない。その筈だが、集中すれば見えてくるものもある。

 その正体に気付いて、少しの間、躊躇いが生まれた。

 大きな賭けではある。“それ”が、僕にとって都合のいい存在であるという確証なんてまるでなく、寧ろ敵対すべき存在の可能性の方が高いのだから。

 だが、ここから見つけることのできた、唯一の――“外”とのつながりだ。

 

「……」

「何をしようとしている?」

「今出来る、僕にしか出来ないことを。状況は好転しないかもしれない。けれど、ここからつながれるんだ。それなら……」

 

 先ほど、要領は掴んだ。

 あれの逆だ。そのつながりを意識して、自分をそこに引っ張るのではなく、相手の方を引き寄せる。

 信頼などない。僕にとって、本当は――二度と認識したくはない存在なのだ。

 だが、それを“リッカの領域”に招いてでも、僕はこの状況を打開し、リッカに希望を取り戻さないとならない。

 

「くっ……!」

 

 向こうからすれば、理不尽なのかもしれない怒りがあった。

 それがアリスアドラとの戦いで関わってこなければ、今こんなことになっていなかったかもしれない、と。

 僕たちの邪魔をしてまで接触してきたのならば。感じ、認識することを求めてきたのならば。

 望み通り、再度認識しよう。

 

「ッ、――――!」

 

 掴んだと確信し、この場に引き寄せる。

 無意識ではなく、意図的につながることで、よりはっきりとした歓喜が脳へと浸み込んでくる。

 初めて誰かとつながれたという喜び。孤独からの脱却。

 目の前に現れた白い存在からは、そんな幼く純粋な感情ばかりが伝わってきた。

 

「……ほう。コイツは――」

「クフ――いやはや、こう繋がってくるんだ。それに、キミもそこまで出来るようになっていたんだねぇ」

 

 長い指を持った、白く光沢のある肌。

 半透明なその肌の内側には気泡が浮き沈みしている。

 頭部から髪のように伸びた無数の触手の先端は薄く黄色――瞳と同じ色に染まっていた。

 

「――こんにちは。 すてきな あなた」

 

 伝わってくる喜びと釣り合っていない微笑みを浮かべ、口を動かさないままに、こちらの頭の中に直接声を届けてくる。

 

「……キミが、僕に話しかけてきた子なんだね」

 

「こなたは ほしをいるもの。 ひとつを むげんに いたらしめるもの。 ほしのそとに おちたかけら」

 

 初めて、誰かに己の名を告げること。

 それによって、その不安定な異形の存在が定義される――。

 

「こんにちは こんにちは。 こなたの なまえは “オズマ”。 よろしくね このほしのこたち」




【ユーリ】
リッカのためならば、やれることは何でも手を出す勇者。
リッカの中に得体のしれない存在を招いたりもする。

【ポラリス】
このままユーリたちに諦められては困るので積極的に協力。
自分たちの祖であるバルハラに特別な感情はない。
とはいえ、何故ここにいるのかという疑問はある模様。

【バルハラ】
リッカの使い魔として譲与した分身のため、この状況を解決できるような力は有していない。
力があったところで、手を出そうとはしないだろう。ここをどう乗り越えるか、それが楽しみで仕方ないのだから。
「さてさて、まだ考えられる試練は残ってるよ、ユーリ。ここからが正念場だねぇ」

【オズマ】
50%くらい今回のユーリとリッカの死因。
本来――この名を持つことがなければ、舞台に立つことがなかったであろう生命体。
リッカ内部の未定義領域に訪れたユーリと再度つながったため、そのつながりを利用して引き寄せられた。
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