凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「――かつて私も、その名に触れたことがある。土の試練で、少々な。混沌、あれはなんだ」
「ぼくから散逸した欠片を受け取った存在の一つなんだけど……まさか“N”の向こうにまで届いているなんてねぇ。この世界の生態系とはまったく違う、異相の生命だよ。にしても、また特異な性質を持ったみたいだ」
オズマ、と名乗ったその存在。またその名前か、と思った。
僕とリッカにとって、始まりの力である外装の名前が、それだ。
「土の四天王は堂々とそれを名乗ってこそいるが――その名は、それだけのものではないのだろう? その特異性こそが、私とあの女との共通点となった」
「いまいち、“土の四天王”くんのことは知らないけど……
幼体……とはいえ、その名を誰かに継承でもしていないのであれば、ポラリスの時代から生きていた存在だ。
魔族と同じ、僕たちとはスケールの違う年月を生きる存在……いや、そんなことはどうでもいい。
いま重要なのは、その存在が希望となるかどうかだ。
オズマの前に立つ。表情は変わらないまま、オズマもふわりと浮いて近付いてきた。
「こなたと つながった ほしのこ。 あなたの よびごえに こたえたよ」
「……キミの声は、聞こえてた。戦いの最中にも。……今も、頭に入り込もうとしている。これは、キミの仕業だね」
こうして相対していると、気をしっかりと張っていなければ、呑まれてしまいそうな感覚がある。
頭痛のような、頭の中が痒くなってくるような。
このままこの感覚に浸っていれば、遠からず正気でいられなくなるという確信があった。
「それは こなたの さきぶれ。 このほしに めばえてから うけとって くれたのは あなたが はじめて」
その喜びに、虚飾はなかった。
少なくともオズマの認識において、このようにつながったのは初めてなのだろう。
「……ネリネの持っていたアレが、キミなんだよね。ネリネとは、話したことがないの?」
「あのこには こなたの さきぶれは とどかなかった。 こなたが ここにきたから あのからだは すぐに かれてしまうかも」
オズマという存在が、どういう生態系を持った種族なのかはわからない。
その成長にネリネが関わっていたのは確実だろう。
けれど、オズマの声がネリネに届くことはなかった。彼女の言い分――魔王の楔を利用して叶えたい願いからして、オズマの影響を受けてこそいたようだが……。
「それよりも あなたのこと。 こなたを よんだ あなたは どうしたい?」
「……何かが、出来るんだね」
「こなたは ほしをいるもの。 そらとおなじ ものでみちた このばしょなら なんでもできる。 あなたは こなたに なにを のぞむの?」
この場所からこれ以上、つながることの出来る存在は感知できない。
ならば、あと一つきっかけが要る。
それを指し示してもらう必要はない。あくまでも、それを僕が見つけることが出来るように。
「この領域は、僕にとって未知のものだ。どこに続いているのか。何を見出せるのか。何も分からない」
「ほしのうみ。 みちのむこう。 こなたの そらは そとから みるべきもの じゃないよ」
「それでも僕は、この場所のどこかに希望があるのなら、見つけ出したい。僕にこの場所を、理解する力をくれる?」
「っ――そう来たかぁ」
その望みを聞いて、オズマは僅かに首を傾げ、沈黙の中でバルハラが息を呑んだ。
自分が言い出したことによる結果ではあるが、少し驚いた。
バルハラにも、驚愕という反応が存在するのか――と。
「出来るか出来ないかをその子が答える前に忠告しておこうか。それはこの世界に生きる命として、踏み出してはいけない禁忌だよ。定義される前のものを、理解してはいけない」
そしてバルハラは微笑みを浮かべたまま、それまでとは違う真剣な声色で、僕の選択に待ったをかけた。
「世界観の外を理解するのなら好きにすればいい。それは好奇心のなせる業だ。けれど、未知を未知のまま理解すれば、もう正常な存在ではなくなる」
一切冗談を含んでいない、真面目な忠告。
バルハラでさえ理解をしようとしていない領域に、僕は踏み込もうとしている、と。
ともすれば、バルハラの忠告に従い、言葉を撤回することが正しいのかもしれない。
もっと他に希望に繋がる道があるかもしれない。
「いいかい。世界観の外の理は、追加で適用されるこの世界の法則になり得る。一方で“N”の向こうは、あくまでもこの
――だけど。
「解答は一つじゃない。言っておくけれど、キミのやろうとしていることは、ぼくの想定した、この先へ向かう正解とは別だ。今ならまだ踏み止まって、考え直せるよ」
「――バルハラ。僕は別に、誰かが正解と決めた選択肢を選びたいんじゃない」
バルハラは思い違いをしている。
正しい道を行きたいのではない。間違いを忌避することもない。
正しい答えに僕の信念がある訳でも、過ちの向こうが絶望しかない訳でもないのだから。
「僕は、僕の意思で誰かの力を借りて、僕の意思でリッカと歩みたくて、ここにいる。ここがリッカの内側の
「――――」
「クッ……ハハ、ハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハッ!」
バルハラはその笑みを消して、意味が分からないと目を瞬かせる。
そしてその一方、ポラリスは腹を抱え、我慢ならないとばかりに大笑しはじめた。
異常なのだろう。本来、生命が至るべきではない結論なのだろう。
だが、そんな常識はいらない。終わりに近付いてきた、常識外れの旅だ。自分で決めた選択に、いまさら疑問など抱かない。
いくらでも誰かの助けは借りよう。誰かに背中を押されよう。それが、僕の力の本質だ。
その上で、僕は僕の意思で、道を選ぶ。
「本命こそはあの女! あくまで人の道を逸脱せぬ勇者は希望にならんと割り切っていたが――ハハハ、私も所詮凡俗か! 混沌! 人間にここまでの可能性があると、お前は知っていたか!」
「ここまでは知らないなぁ。ヨハンナ以上だ、ぼくにはお手上げだよ。キミがこんなにも型破りだなんて、あの子の最大の誤算かもねぇ」
好き放題に批評する二人は納得してくれたらしいと判断し、オズマに向き直る。
バルハラとやり取りをしている間、その存在は首を傾げながらも、何も言わずに決断を待っていた。
……一つ、息を呑む。
直前の忠告は、ほんの僅かに、先へと進む選択を躊躇わせた。
……何を馬鹿なことを。僕はリッカのための勇者だ。
リッカのためならば、どれだけ狂った選択だろうと、実行してみせる。
「――お願い」
「わかった。 こなたの ほしを あなたに やどす。 すこしだけ がまんしてね」
その言葉を認識した直後、視界いっぱいに白い世界が広がった。
オズマが伸ばした無数の触手の奔流だと理解した時には、それは既に僕の内へと侵入を果たしていて――
「――――――――――――――――ぁ」
――、――、――、――、――。
ぐるり、ぐるりと、頭の中身をかき回されるような、耐え難い感覚。
否、頭だけではない。体中が、表面から内側まで、ぐちゃぐちゃにされていく。
悍ましいほどの寒気の中で、それまでの自分のすべてが否定される。抱いていたもの、何もかもが失われ、洗浄される。
どんな価値観も関係ない。等しく収穫され、それよりも大きなものを得て、育むためのリソースへと変換される。
未知の向こう、星の彼方――■■■への奉仕こそが、至上であるという価値観へと。
あらゆる生命が自覚すべき命題。僕もまた、それを知り、この
「―――――――っ、違う。キミもなのか。キミも、僕から……この価値観を、奪うのか!」
――――無へと還ろうとする自分よりも、苛立ちという本能が勝る。
力を込めて舌を噛み、爪を腕に突き立てて、その痛みで“自分自身”を引っ張り上げる。
胸を、腹を、喉を掻き毟り、あらん限りの方法で、僕自身を立ち直らせる。
僕の価値観を否定はさせない。たとえ、星の彼方の、この世界とは異なる法則の混沌だとしても。
僕が求めているのは、そちらの法則を理解する力だけだ。
「僕は……ユーリだ。リッカのための、勇者だ……ッ!」
これまでの過程を奪わせはしない。この先へ進むために、新しい智慧さえ得られればいい。
傲慢だと誹られようとも、僕が僕である証だ。
「おめでとう。 やどせたね。 こなたの ほし。 こなたに いたる むげんへの みち」
目を開く。ああ――と、納得した。
オズマいわく、“星を宿した”状態……自分という存在が、より洗練され、透き通った感覚があった。
本を読むことも、話を聞くこともなく、この世界にはない技術によって埋め込まれた、新たな視座の知識。
そして、広がる視界は先ほどまでのメチャクチャなものではなく、色彩豊かな満点の星空へと変わっていた。
「……別に、キミたちの主に至る気なんてない。僕たちが何をしたところで、目覚めはしないよ」
オズマの言葉に返しながら、周囲を見渡す。
それは、遥か天上のその向こう。この世界さえ見えなくなるほどの、
星の海だ。これまでの僕は、そう認識するための前提条件に欠けていたらしい。
今ならば分かる。リッカの内にある
バルハラと出会ったあの領域を思い出す。しかし、あそこよりも――ずっと純粋な、混沌と呼ぶに相応しい気配に満ちている。
ここは――リッカ自身でさえ自覚していない、リッカの最深奥へと至るための、唯一の道だ。
「それでも いい。 あなたが こなたに ふみこんで くれた。 ここが こなたの そらだよ」
「うん。この先に、僕が行くべき場所があるんだね」
胸の奥に何かが刺さった感覚。そして、それと繋がった瞳へと流し込まれる、この領域を理解するための智慧。
この世界の生命が、持つべきではない瞳――或いは、いつか誰もが持つべき瞳、その前借り。
星の海の彼方、オズマが本来、その身命を賭すべき存在さえ見通しかねない力だ。
だが、僕に宿った力は、果てへと至るべきものではない。
すべて、リッカのために使うべき力だ。
「希望は見えたのか、勇者ユーリ」
「そうだね。ここからどこに向かうべきかは、わかった」
――ああ。相変わらず、その先に本当に、リッカを立ち直らせるための希望がある確証はない。
けれど、この先はリッカにとっての不明。リッカの内にあって、リッカには見えていないものなのだ。
あの頃――リッカはいつだって、僕たちの予想外を成し遂げてきた。
リッカだって知らないリッカの可能性があったとしてもおかしくない。
「それならいい。私にはこれ以上案内は出来ん。さっさと終わらせて来るがいい」
「クフ……ぼくももう不要だねぇ。何せ、今のキミはぼくよりも、ここを良く見えているだろうから」
逆に言えば、この先は本当に、何が待っているかも分からないということ。
予想を立てられる者も、誰一人いない。ここにリッカを呼んだって、答えを出せない。
……望むところだ。躊躇うものか。
星にも満たない光で出来た道へと一歩踏み出し、歩けることを確かめてから駆け出す。
ポラリスもバルハラも、そしてオズマも、付いてくることはない。それでいい。ここから先に進むのは、僕だけだ。
「リッカ、待ってて……」
上っているのか、下っているのかも分からない。
星の海の中で、ただ“奥へと通じている”と分かる道を、ただ走っていく。
この先に、きっとリッカにとっても希望となるものが待っていると信じて――
「――見つけた」
「――――え?」
耳に馴染む声で、思わず足を止め、視線を上げる。
その声の主はいつの間にか――感情のない瞳でこちらを見下ろしていた。
ここは、自覚していない場所である筈なのに。
星の海の一部を四角に切り取った窓の向こうに、見慣れている筈の、大きな赤い瞳があった。
「……リッ、カ……どうして、ここを……?」
「……どこにもユーリがいないから、領域を再スキャンした。うん……確かに、ここは私には自覚できない」
――つながりを感じることが、また出来なくなっている。
リッカが知覚していた領域にいたときのように――いや、最早ここも、同じなのか。
「私以外の誰かが、ユーリを“改変”した。未定義の領域でさえ、その信号が届くほどに。――後悔させる。私のユーリを、壊したこと」
「待って、リッカ――」
「……でも、その前に。ユーリを諦めさせなきゃ、ね」
僕が何を言う前に、感情を殺した声で、リッカはそう宣言する。
次の瞬間、リッカが覗くそれと同じ、四角い窓が、僕を囲むように複数現れて。
「あっはは。久しぶり――勇者のお兄ちゃん」
「ふむ。こうして会うのは甚だ不本意ではあるのだが……いや、しかしそれでも会えて嬉しいぞ、勇者」
星の海へと下り立つ、かつて出会った時と、変わらない姿の魔族。
そして――決定的に変質してしまった者。
「おう。テメエか。オレをここに叩き込んだ人間は」
「っ――――ぁ」
真後ろから聞こえてきた、聞いたことのない声。
それに振り返るよりも前に、体が粉々になってしまいそうなほどの衝撃が、背中に叩きつけられた。
【オズマ】
遥か天上の向こう――本来この
バルハラから散逸した名前の一つの影響を受け、この
本来生きるべき世界は、“N”と呼ばれる未定義領域であり、未知の技術・コミュニケーション方法を有する。
“N”の彼方に眠るとある存在の奉仕種族……なのだが、本作には今回の明言以上は出てこないので割愛。
【ユーリ】
意味が定義されないままの未定義領域を理解することは生命として禁忌である。
混沌より分かたれたバルハラでさえ持たないその手段を、ユーリは彼方の“星”を内に宿すことで会得した。
未知に適応する心臓。未明をも見通す瞳。後先を考えないことで至った、人間としての新天地である。
その瞳をもってすれば、見えなかった希望にさえ辿り着ける。
――けれどそれは、星を宿さない者からすれば“自分”を捨てる奇行であり、リッカがそれを許せる筈もなかった。