凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
息が詰まる。致命傷だ――という確信があった。
激痛の中で自由の利かなくなった体が投げ出される。最も深い部分まで砕け、限界を迎えた体は四散する。
しかし、痛覚が曖昧になったのは、僅かな間だった。
腕も、足先の感覚も健在で、五体満足。体が千切れたのは錯覚だったのかという疑問は、膨らんでいく痛みに塗り潰されていく。
「ぁ……ぐ、ぅあ……!」
「チッ……元の体のままなら一撃だっただろうに。クソみたいに弱くなってやがる」
「そんなことないんじゃない? あたしたちよりはずぅっと馬鹿力だったし」
辺りで誰かが喋っているが、それを聞き分けられるほど余裕はなかった。
痛みの絶頂が延々と続いている。一切引くことなく、体中が悲鳴を上げ続ける。
立ち上がることも出来ず、その場で蹲り、悶えることしかできない。
目を開いても視界は霞んで判然としない。間違いなく死に瀕している筈なのに、意識は一向に消えることなく鮮明としている。
「すぐに死んじゃったらつまんないじゃん? ゆっくりやろうよ、ゆっくり。ねー、お兄ちゃん。痛かったよね、今の?」
「――っ……ぁ、あ……」
「うんうん。何言ってんのか分かんないけど、大丈夫だよー。だって、死んでないもんね」
痛みの中で頭に手が置かれ、ほんの数秒、撫でられた気がした。
しかし、それをようやく気付いた時には、置かれていた手が頭を鷲掴み、強引に持ち上げられる。
滲む視界の間近に迫るのは、見覚えのある顔だった。
今の状況を対する愉快さを隠さない笑みを浮かべる、幼い外見の魔族。
「聞いたよ。お兄ちゃん、ナイトラクサで死んじゃったんだってね。あたしと同じ。ヴァージニアがやってくれたのかな。ねえ。ねえ?」
――小さなヴァンパイア。ナイトラクサで戦った強大な魔族の片割れ――ルメリーシャ。
目の前にいることで、意識がその姿に集中して、言っていることを認識できた。
言葉だけはこちらを案じている笑顔のルメリーシャが向けてくる感情は、つながりを感じることが出来なくても、はっきりと伝わってくる。
――そこにあるのは、ようやく行き場を見つけた怒りと、復讐心。
「ま、誰でもいっか。今お兄ちゃんがここにいることが全部……でしょ?」
「がぁ、あ……ッ!?」
その満面の笑みが見えなくなったのは、その直後。
腹に走った衝撃に、意識のすべてが塗り潰される。喉から、そして目から熱いものが零れ、一瞬息が出来なくなった。
ぐしゃり、と真下で聞こえ、その音は続けてぐちゃり、と粘っこい水音を含んだものに変わる。
小さな手に腹を“漁られて”いる。指が、爪が、体内で揺れ動くたびに、何故壊れてしまえないのか不思議なほどの痛みが頭を震わせる。
「痛い? それともくすぐったいのかなぁ? こことか、こことか? ぐりぐり、ぐーりぐり……」
「うあ、ぐ、ぁぁあああああ、あああああああああ――――!」
「あっはははは! これこれ! これ聞きたかったんだ! でもね、あたしがここで味わったの、そんなものじゃないんだよね!」
――かつて、バルハラのいた迷宮で、リッカの回想を相手に戦った時。
死ぬことなく、致命傷に近い傷を受けたのは、あの時の記憶が強く残っている。
腹を裂かれたこともあった。
しかし、今受けている鮮烈な痛みは、それとは比較にならないように感じた。
「あ……ぁ……っ」
ひとしきり臓腑を荒らして気が済んだのか、手を離される。
体を支えることも出来ず、その場に崩れ落ちる。掠れた視界に映る小さな魔族は、体中を返り血で赤く染めていた。
肘から先が真っ赤になった腕に滴る血液を舐め取りながら、ルメリーシャはただ裂かれた腹を押さえて痛みに耐えるしか出来ない僕を見下ろしていた。
「あは――まっず! 最初に会った時はあんなに魂も瑞々しくて美味しそうだったのに、今はコクもなければ舌触りも悪いし……こんなんになるんだったら、あの時さっさと縊り殺しちゃえば良かったなぁ。……にしても、死なないんだね、お兄ちゃん?」
「ごほっ……、かふっ……」
死なない――死ねない。
致命傷であることは明らかだった。
先の一撃もそうだが、尋常ならざる痛みを感じる一方で、死の気配を感じない。
一分か――それとも十分か。気付けば、押さえ込んでいた腹の傷はなくなっていた。
「あれ? 治っちゃった。ふーん、そういう感じなんだ」
「っ……っか……リッ、カ……!」
「……なに? ユーリ……」
傷は癒えても、痛みは引かない。
腹から広がったそれとは別の、行き過ぎた刺激を処理しきれないための頭痛を堪えながら、リッカを呼ぶ。
遠く――手の届かないほどの遠く、この空間の外から窓を介して覗くリッカは、感情の見えない瞳でただ見下ろしてきている。
「リッカ……なん、で……こんなことを……!」
「……ユーリが、いつまで経っても諦めないから。こうやって、折れてもらうしか、私には考え付かなかった」
「く、ぅ……で、でも……まだ……!」
「何か方法がある、って? ……いいよ。ユーリの肉体をどうにかする方法、私は一つ知ってる」
僕たちにとって、本来は希望となるべき情報。
しかしそれはリッカに簡単に実行できる方法だったのならば、リッカもそう簡単に諦めたりはしない。
「ユーリが、私の
「っ――それ、って……」
「そう。外に出るにも制限時間付きで、私の領域に依存する状態。私にすべてを把握されて、今度こそどんな想定外だって出来なくなる。それに……そもそもの話、私がどうにもならない事実は変わらない」
リッカが外装に利用していた使い魔たち――あれと同様、リッカの管理下に置かれるというもの。
正しい“人間”としての在り方を捨てる、それ自体には大きな躊躇いはなかった。
しかし、リッカと共に歩める存在ではなくなる……存在そのものがリッカに依存しなければならないのは、許容できない。
僕は確たる個として、リッカの隣にいなければならないのに。
「ユーリがそれを許せないのは、知ってる。だから諦めさせるしかない。ユーリの尊厳を、叩き落としてでも」
「――だって。残念だったね、お兄ちゃん。見捨てられた……ううん、逆か。お姉ちゃんは、お兄ちゃんにずっと一緒にいてほしいだけだもんね」
ルメリーシャに軽く蹴られ、抵抗できないまま体を仰向けにされる。
しゃがんで哀れみを込めた笑顔を近付けてくる彼女は、そのまま僕の肩に手を置いた。
「あたしね。この場所に放り込まれてから、“それ”が当たり前になるまで、何が起きているのかまるで理解出来なかったんだ。痛くて、苦しくて、気持ち悪くて……けど、それが無理やり快楽に変えられるの。それが、どれだけ怖いことか……分かる?」
「――――ッ!」
その細い指が食い込み、容易に肉を裂いて内へと入り込んでくる。
より耳に近い場所だからか、ぶちぶちと肌が引き千切れていく音が、痛みと共に鮮明に聞こえてきた。
「意味分かんないモノに外から中まで這い回られてさ、意味分かんないモノ産まされてさ。……ねえ、理不尽だと思わない? あたしそこまで悪いことしたかな? お兄ちゃんたちにそこまでされる謂れ、あるかなぁ!?」
「がああぁぁぁ……ぐ、ぅあ……っ!」
あまりにも激しい痛みと、ぶちりという音にかき消され、骨が粉砕された感覚などなかった。
しかし、砕けたというのは確信だった。何故ならば、ルメリーシャが力を込めたことで、掴んでいた箇所が握り潰され、呆気なく腕は落ちたのだから。
「こんなに弱くて、こんなに脆い人間に……っ、それも、ナイトラクサの人間ですらない部外者に! なんであたしたちが死ぬほど頑張って築いた価値観をぶっ壊されて、こんな奴隷以下に堕とされなきゃなんないのさ!? あたしたちがお兄ちゃんたちに何かしたの!? その“何か”は、ここまでされるような事なの!?」
「ガッ、あ、づっ――ぁ……!」
堰を切ったように止め処なく吐き出される、ルメリーシャの怒り。
地団太のように何度も何度も足が振り下ろされて、その度に体がメチャクチャに砕けていく。
それで感じるのは、命が失われて意識が遠くなっていく感覚ではなく、あくまでも頭がおかしくなるほどの痛みだけ。
――理解のできない状況の中で、千切れたばかりの腕が既に元通りになっていることを自覚した。
「お兄ちゃんにも、お姉ちゃんにも! そこまでの怒りも、恨みもないくせに! それが許されるんならさぁ! あたしがお兄ちゃんを壊すのも許されて当然だよねぇ!」
「ご、ふ……!」
力の限りを込めて蹴り上げられ、体のあちこちが壊れたことを悟る。
頭から落ちても、痛いだけ。頭が割れて、血が流れ出ても、ほんの少しその違和感を味わった後には、痛み以外は元通りになっている。
いくら体を壊されても、壊れ切らず、意識が途絶えることもない――自分の体が自分のものでないような未知の中にある状態が、たまらなく気持ち悪かった。
「……ま、そういうことだ。オレらはお前らに理不尽を受けて、ここでクソッたれな目に遭い続けた。だがよ、ずっと続くかと思っていたそれから、さっき解放されたんだよ」
限界を超えた苦痛の中で、ルメリーシャではない声が降ってくる。
最初に僕を殴った相手だ。その声も、姿も、覚えがないが――倒した魔族を利用するために、この空間の機構は作られている。
もしかするとそれは僕たちが倒したいずれかの魔族が、苗床としての利用に適したかたちに変えられたものなのだろうか。
……一体誰なのか、答えが出る筈もない。見下ろしてくる彼女はルメリーシャと同じように僕の頭を掴み、持ち上げて目線を自分と同じ高さまで持っていった。
「あのクソ女が言うにはよ、テメェをここで壊せば、オレたちのこの場所での記憶を消して、体を元通りにして、ここから解放するんだとさ!」
「ぐ、ぅ――ッ!」
その、ルメリーシャを超える膂力で振り下ろされ、床に叩きつけられる。
潰れて当然の頭蓋は砕けたような気もしたが……やはり健在だった。
「はぁ……はぁ……っ」
「クソ女が元凶なら、あっちをぶち殺してぇが……全部全部、“テメェのため”、らしいなぁ!」
「っ、っ……ぁ、……!」
首を踏みつけられ、息が詰まる。
大きな足は胸までもを圧迫し、骨が軋み、悲鳴を上げる。
呼吸がなくなったとて、死ぬことはない。しかし、その苦痛は変わりなく、その状態が許容できないのは本能だった。
「リ、ッ……カ……!」
思わずリッカの名前を呼んだのは、助けを求めてなのだろうか。
……どちらにせよ、窓の向こうのリッカの目は冷たいまま。この場の誰よりも感情を見せない瞳でこちらを見下ろしていた。
「……降参? ……でも、ないみたいだね。まだ、折れてない。続けて」
「っ……」
――けれど、たとえつながりを感じることが出来なくとも。
僕は誰より、リッカのことを知っている。
「早めに、諦めた方がいいよ。そいつらが、何しても、私は止めないから。何が起きても、ユーリは死なないし、気も失えない。折れない限り……ユーリは、そこで何でもされる」
なんの感情も浮かべない――そう徹底しているリッカの瞳が、ごく僅かに揺れた。
そうでなくとも、努めて冷酷であろうとするリッカの声色を、察せない筈がない。
僕はこの場で死ぬことはない。何をされてもおかしくない。
――だから、早く諦めて、もう歩く必要はないとすべてを投げ出してほしい、と。
「ふん……お姉ちゃんはああ言うけど、諦めてくれなくてもいいよ。だって、そっちの方がまだまだ遊べるもんね、お兄ちゃん?」
「……僕、は……」
――きっと、ここで考えることをやめれば、リッカの腕の中で、永遠にも感じられる安寧を得られるのだろう。
それは一つの正しい終わり、なのだとしても。認めなければ、想像を絶する苦痛がまだまだ続くのだとしても。
「おい、テメェは何かしねえのかよ。テメェの“お熱”な勇者なんだろうが?」
「……そうさな。我の焦がれた瞬間とは、程遠いが……」
ばさ、ばさと、どこか不満げなはばたき。
僕を見下ろしてくるリッカとの間に立ち、リッカとは違う――しかし、どこか迷いに揺れるセイレーンの瞳が、ゆっくりと近付いてくる。
「――ユーリ。勇者ユーリ……ああ――その倒懸に歪む表情……それでさえ愛おしく想えてしまう自身を恨めしく思うぞ」
そして顔を通り過ぎ、耳元まで寄って、手を差し伸べるかのように、囁いた。
「今一度言おう。我とつがいになってくれ、ユーリ」
【オレブ】
苗床TSオーク。実はこの中では最古参。肉体的に最も被害を受けている魔族。
元より本能で生きていた魔族であり、苗床生活の中では現状への怒りが強く大して恐怖がなかったため耐えられた。
原因の一人を叩き潰せるなら今はそれでいいという感覚。
【ルメリーシャ】
苗床不憫ヴァンパイア。精神的に最も被害を受けている魔族。
明日も知れない身から成り上がって築き上げた立場を壊された理不尽から、ユーリたちに対する憎悪はこの中で一番。
まっず♡ お兄ちゃんの血まっず♡
【イピカ】
苗床純愛セイレーン。
正直あまりこの状況に気乗りしていないが愛を囁くことに余念はない。
加えて、他の面々の行為を邪魔しようとも思っていない。