凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(9)

 

 

 その魔族と出会ったのは、水の試練を終えてすぐのこと。

 初めて海を渡っている最中に遭遇したのが彼女だ。

 あの時のことは、忘れよう筈もない。この旅の中でも異質な出来事だった。

 

 ――つがいになってくれ、勇者。お前に惚れた。一目惚れだ。淫魔のいたずらの如く、電撃的に惚れた。

 

 魔族の感情を推し量ることなど出来ないが、あの時僕は、彼女に強烈な求愛を受けた。

 遭遇して数分と経っていない、言葉を交わしたこともない。

 かつてカルラに聞かされてきた恋物語のような語らいもなく、一方的に愛を告げられた。

 あの時の薄ら寒さと、同じものが背筋に走って。

 

「っあ……!?」

 

 立ち上がろうとした足が竦み、それを目敏く見て取ったかのように、熱を帯びた吐息が耳に吹きかかけられた。

 背筋の寒気が瞬く間に広がり、全身の力が抜けていく。

 

「む……そうか。耳が弱いか、ユーリ」

「ッ、そんな、こと……」

「いや、意図的に攻めたりはすまいよ。抗えぬ快楽で無理に堕としてしまうのも違う。だがな――」

 

 未知の感覚に一瞬、痛みを忘れて困惑する。

 その困惑の中で、情欲に揺れるセイレーンの瞳が、他の二人の怒りよりも恐ろしく感じた。

 

「我を僅かでも受け入れてくれれば、我はもう、他の者が何をしようともお前が苦痛を感じさせない。我の体も、我の声も、我の心も、すべてを懸けてお前を愛そう」

 

 だが、どうあれ、彼女が向けてきているものは無償ともいえる好意だった。

 そのセイレーンに、僕を害そうという意思は一切ない。他の魔族たちを止めようとはしないまでも、彼女からは献身以外が行われることはないだろうと確信できた。

 もしもその言葉に頷き、それを受け入れれば、この先であらゆる痛みは感じなくなる。

 味わったことのないほどの苦痛がまだ続くとも考えると、それは甘美な誘惑だった。

 

「……我も、お前に苦しいと感じていてほしくはないし、望みもしないのに痛ましい姿を見続けたい訳でもない。お前がもう嫌だと言うのなら、我が解放してやれる」

「……」

 

 どの道、リッカがここから僕を逃がすつもりがないのであれば、苦痛か安寧か、僕がどちらを選ぶのかという話だ。

 リッカの言う通り、本当にどうにもならないというのなら、抵抗には意味がない。

 ここで、これ以上僕が何をしても、無意味にリッカを焦れさせるだけ。

 ――その認識を変えられるのは僕だけだ。

 

「だから、お前は――」

「……必要ない」

「――む?」

 

 セイレーンを押し退けて、歯を食いしばって痛みに耐えながら、立ち上がる。

 幾度となく受けた致命傷を脳が受け入れてしまっているのか、殆ど力は入らない。膝が震え、ただ立っているだけでも体中が悲鳴を上げる。

 ――けれど。

 

「僕は諦めない……ううん、違う」

 

 僕が受けている痛みは、リッカの諦めと迷いそのものだ。

 ならば受け入れた上で立ち向かおう。受け入れたところで状況は、最悪より悪くはならないのだから。

 

「内臓を抉られても、腕をもがれても、頭を潰されても、痛いだけで死ななくて済むのなら――諦める必要もない」

「――なに、言ってるの、ユーリ」

 

 何をされようと諦めてやるものかという意思を込めてリッカを見つめ返す。

 挑発するつもりはなかったけれど、自然と笑みが零れた。

 

「僕はまだ、“何かできる”気がする。死なないし、気も失わないなら、一歩ずつでも確実に進める」

「まだ……そんなことを。根拠のない諦めの悪さは、もうたくさん」

「――リッカにだけは、言われたくないよ」

 

 もう繰り返しの“次”はない。

 そんな中で、これまでのいつよりも終わりに近付けたけれど、リッカには限界が訪れて、僕もここから外に出られなくなった。

 リッカは自分の可能性を燃やし尽くしてここまでやってきた。ここで何も思いつかないのならば、リッカが諦めてしまうのは仕方ない。

 だが、そうであるならば。

 

「リッカやカルラがそうであるように、僕だって負けず嫌いなんだ。この程度で諦められたら、二人の幼馴染なんてしてないし、リッカのための勇者なんて務まらない」

「……強がっても、みっともないだけ。碌に歩ける状態でもないくせに」

「みっともない強がりで、リッカはずっと歩いてきた。――強がるリッカを、誰より隣で見てきたんだ。“碌に歩けない”からって歩くのをやめたら、みっともない以上に情けない」

 

 ああ――リッカが諦めた分、僕が諦める訳にはいかないじゃないか。

 

「ッ……その目をやめて、ユーリ。また勝手に、変なものを受け入れて。それは……絶対人間が持っていて良いものじゃない」

「今をどうにかするために、リッカのために、僕の意思で選んだことだ。今までのリッカの無茶ほどじゃない。このくらい、受け入れて見せる」

「わけの、分からないことを――」

 

 そう考えてみれば、いくらでも耐えられる。

 痛いだけだ。苦しいだけだ。いつかのリッカと比べれば、何のことはない。

 むしろこの程度耐えられなければ、リッカのための勇者に相応しいと言えようか。

 

「わけが分からないなら、黙って見ていればいいんだ。そうすれば、僕は僕自身も、リッカの問題も、きっとなんとかしてみせる」

「だからっ……何を根拠にそんなことを……っ、私の中で、これ以上ユーリが何を出来るって言うの」

 

 窓の向こうのリッカとは、つながりを感じられない。

 けれど、その目を見れば僕の言葉に苛立っていることは分かる。

 

「私のことは私が一番分かってる。もうどうにもならないって――私が一番理解してる。だからもう大人しくしていてっ」

「僕だって、僕のことは一番僕が知ってる。まだ諦めるにはやり尽くしてないし、何より、僕自身が納得してない。だから――」

 

 何か考えがある訳じゃない。これは、ただ僕の意地をぶつけているだけだ。

 向こうが僕に対して苛立っているように、僕だって――今更“このくらい”で諦めるリッカに、文句の一つも言いたくなる。

 ここまでの喧嘩、もしかすると初めてかもしれない。

 どちらも引く気のない、苛立ちのぶつけ合いともなれば、面白いほどに言葉は出てきた。

 

「諦めたのなら、諦めてない僕の邪魔をしないでよ、リッカ!」

「ッ……!」

 

 吐き出し切って、この場の魔族たちに視線を移す。

 気が済むまでやればいい。ただし、降参する気などない。何度だって立ち上がってみせるという意思を込めて。

 唖然としている、セイレーン以外の二人は、奇怪なものを見る目を向けてくるばかりで、動き出そうとしない。

 ……それなら、それでいい。僕のやりたいことを進めるだけだ。

 ――星の海の彼方へと。

 

「――――――――!」

「はっ……?」

 

 ()()()()()

 上下も左右もないように感じられるこの領域も、正しく認識すれば星を紡ぐような順路が見えてくる。

 だが、その道を正直に進む必要もない。ここは未定義だからこそ、自由な星の海。どのような航海だって許される。

 そして、認識の仕方を知らない者が相手ならば、存在しない“陰”に潜むことだって可能となる。

 

「い、つ……っ」

 

 踏みしめたその場所から返ってくる反動はふわりと柔らかいものだったが、それでも痛みは体中に広がっていく。

 どうにかそれまでいた場所の“死角”となる場所に飛び込んで、息を吐いた。

 星の海という光景は変わらない。ただ、その場所が隠れるに適した場所だと分かるだけ。リッカや魔族たちの姿も、もう見えない。

 リッカたちからすれば、ここはオズマの支援を受ける前に見ていたあの景色が広がる領域でしかない筈だ。

 同じようには辿り着けない。リッカ自身、この場所を突き止めるには時間がかかるだろう。

 ……見つかるまでここで休み続けるなんて、してやらないが。

 

「……行かないと」

 

 どこもかしこも、軋むように痛いが、怪我は一つたりともない。

 リッカのおかげだ。致命的な欠損もないのだから、ただ痛みに耐えるだけで、立つことも、歩くことも可能なのだ。

 体中に力を入れ直して、歩き始める。いや、歩くと表現できるほど、しっかりと進んでいる訳ではなかった。

 よたよたと、まるで立つことを覚えたばかりの子供のようだ。

 もっと、痛みなんて気にしないように努めないと。そうしないと、リッカが僕を見つける方が早く――

 

「あっはは、何その進み方。お人形みたい」

「ッ――――!」

 

 ――その嘲笑は、先ほどまでよりも冷たかった。

 怖気を感じ、咄嗟に飛び退く。振るわれた爪に体を真っ二つにすることは回避できたものの、腕をばっさりと切り裂かれる。

 

「づ……ッ、どうして、ここを……」

「へー、ヴァンパイアをナメられるまでになったんだ。随分思い上がった――ねぇ!」

「あ、ぐ――!」

 

 笑みを消したルメリーシャは、気付けば目の前に迫っていた。

 蹴りをもう片腕で受け止めようとして、あまりの速さに間に合わず、腹に叩き込まれる。

 

「げほっ……ごほ、っ……!」

「あのおかしな恰好しないとまともに戦えもしないくせに。まさかあたしと追いかけっこで勝てるつもりでいたわけ?」

「くっ……」

「それにさ、なに? さっきの。しょうもない口喧嘩を延々と。下らないし、どうでもいいんだよね。あたしたちはただ、お兄ちゃんをズタズタにして、今までのあたしたちを超えるくらい苦しんでほしいだけだからさぁ!」

 

 吹き飛んだ先で、起き上がる前に頭を踏みつけられる。

 

「逃げられるわけないじゃん。ここがどんなに変な空間でも、ヴァンパイアと人間じゃ体のつくりが違うんだから。そんな当たり前も碌に学べなかったの? どんだけお姉ちゃん、過保護だったのかな?」

 

 力を込めて、踏み潰そうとしたのか、僅かに足が上げられた。

 その隙に横に跳んで、その先に空いていた空白からさらに下方に落下する。

 咄嗟の行動に対して――今度はルメリーシャも即座に対応した。

 

「がぁ、あ……っ!」

 

 腕に突き刺さった、血管の如き管。ヴァンパイアが種族として行使できる、血液の操作。

 それをロープのように道標として追ってきたのだ。

 

「だからさぁ……そんな風に逃げようとしても、無駄なんだってば!」

 

 落ちる中で、管を思い切り引かれ、振り回される。

 叩きつけられた先でまた、体中が壊れて――すぐに元通りになった。

 

「――――――――」

「諦めも悪ければ、物分かりも悪い。そんな出来損ないに負けたの、本当に恥でしかないよ。一体なんなの、お兄ちゃん」

 

 苛立ちを隠さない足音が近付いてくる。

 こちらを不快そうに見下ろすルメリーシャは、辺りに血の杭を浮かばせていた。

 僕が何をしようとしても、今度はその前に止められる。そんな確信があった。

 

「っ……僕は、リッカのための勇者だ。リッカと一緒に、ハッピーエンドに辿り着く……こんなところで、諦めるわけにはいかないんだ」

「ハッピーエンド……? あっは。なにそれ。そんな絵空事、本当に叶うと思ってるの?」

「思ってる……そのために、僕たちは必死で進んできた」

「で、お姉ちゃんはとうとう諦めちゃったんだ。そして、お兄ちゃんがここで折れちゃえば、ぜーんぶ無駄になっちゃうってこと」

 

 飛来した杭を転がるようにどうにか躱す。

 しかし第二射を避けることが出来ず、足に深々と突き刺さった。

 

「ぐぅう……!」

「生意気だよ。勇者が幸せになろうだなんて。ただの生贄でしかないって、ここまでの旅で痛感したでしょ? お兄ちゃんが頑張る意味なんて、何もない。結局こんな風に、どうでもいいところで限界を迎えるの」

 

 苛立ちと、困惑と……ほんの僅かな憐れみ。

 つながりを感じ取れない中で、彼女の目から伝わってくるのはそういった感情だった。

 

「ハッピーエンドってなに? お姉ちゃんの魂はズタボロで、お兄ちゃんだってこんな風に、死ぬ方がマシなほど苦しんで、それでも良かったって思えるほどの幸せが、本当にあると思ってたの?」

「つ、ぁ……、っ……思って、るよ。僕は、リッカを幸せにする。ここまでの全部は、このためだったんだって、思えるくらい……っ、幸せにしてみせる……!」

「……そのためなら、どんなに死ねない苦しみが続いても、お姉ちゃんを突き離しても構わないって?」

「そうだ――!」

「――――狂ってるよ、お兄ちゃん」

 

 杭の形を形成していた血液が、その場に落ちる。

 他でもないルメリーシャ本人が、意外そうに血溜まりを見下ろす。

 こちらを見逃した訳ではない――僕の言葉に動揺したのか。

 それを僕が察したと理解したようで、不愉快そうに眉を顰めた。

 

「……そんな夢物語のために、あたしたちをあんな目に遭わせたんだ。そっちが把握してるかどうか、知らないけどさ」

「全部、知ってるつもりだよ。実体験をしたことがないから……どれだけ苦しいことかは、想像するしか出来ないけど」

「最悪。本当に、最悪……お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、こんな狂った人間を外に出した魔王とかいうヤツも」

 

 それきり、ルメリーシャは僕に背を向けた。

 去っていくことはない。その場に立って、苛立たしげな雰囲気を放つばかり。

 ――何を考えているかは、分からない。けれど、こちらに何をしてくることもないような気がして――足が修復されていることを確認した後、立ち上がり、ルメリーシャから視線を外して、再び歩き始める。

 

「っ……、っ――」

 

 歩くたびに、体中が痛んだ。

 先ほどまでの、限界を超えた痛みに比べればマシだけど、集中が乱れて煩わしい。

 それで辿り着くまで余計な時間が掛かるのであれば――ああ、簡単な話ではないか。

 ――走ればいい。歩いても走っても同じくらい痛むのなら、そちらの方が効率的だ。

 

「はぁ、はぁ……っ、はぁ……!」

 

 一歩一歩で、体が弾けるような痛みが響く。

 一瞬でも躊躇えば。一瞬でも恐怖を覚えれば。その時点で体は竦んでしまい、もう二度と走れなくなるだろう。

 だから恐れず、走り続ける。痛みも忘れるほど集中しろと、自分に言い聞かせる。

 そしてもう一度、その先が進路だと分かる、大きな陥穽を飛び降りて。

 

 着地できずにその場に崩れ落ち――頭をぶつけてしまったようで、視界の半分が真っ暗になる。

 それが修復されるよりも前に、もう片目でそれを見上げた。

 

 銀色に仄暗く光るレンガブロックが積み上げられたような大きな壁、或いは箱。

 そしてその前に立つ、僕もリッカも信頼を預ける一人のサキュバスの姿があった。




【リッカ】
合意の上で諦められたならば後悔もなにもないのにユーリには一向に諦める気配がない。
それどころか、自分でさえ先ほどまで気付いていなかった領域の先へ、彼は向かおうとしている。
その先に至らせてはならないと、理由は分からないが本能からの焦燥を感じていた。

【ユーリ】
今更諦めて聞く耳持たないリッカにいよいよキレた耳が弱い勇者。
そこから先はもう半ばムキになった状態で、意地を通して進み続けている。
どうせ歩いても痛いんだしそれなら走ってやろうというのは、幼馴染二人の無茶振りに幾度となく付き合わされて形成された、なるようになる精神の発露。多分。

【イピカ】
ユーリが堕ちていたらそれはそれで全力で愛するつもりだった。
すぐ傍で彼の啖呵を聞いたことで、今頃脳を焼かれてぐずぐずになっている。

【ルメリーシャ】
ようやくやってきた報復の機会を楽しんでいたが、ユーリが気狂い過ぎてドン引きし、少し冷静になった様子。
殺しても足りないほど苦しめたいのは変わらないものの――。

【ラフィーナ】
ラフィーナちゃんのいらいら反省コーナー!
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