凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
痛みを堪えて立ち上がるまで、ラフィーナは何を言うこともなかった。
嫌な予感があった。
これまでの魔族たちと同じように、今度はラフィーナが敵として立ちはだかるのではないかと。
他の魔族であれば仕方ない。けれど――それは嫌だと思いながら、どうにか足に力を込めた。
「……ラフィーナ」
「散々やられたみたいね。出来ることならもうやめたいって顔してるわ。それでも立ち止まらないでここまで来られたんだから、やっぱりあんた、イカれてるわ」
「そんな言い方、しなくても……」
ふらふらと立ち上がり、ゆっくりラフィーナに近付く。
こちらに敵意は感じられないが、どこか不快そうに見えた。
「そうでもなきゃ、死ぬより苦しい目に遭ってなおも進めるなんてあり得ないのよ。あの女とあんたとの根競べでしょ、ここまでの道程は」
――僕もリッカも同じことだ、と言っているのだろうか。
確かにここまでは、リッカとの意地のぶつけ合いだった。
どちらも、自分の選択を押し付けたいがための大喧嘩――そしてそれは、まだ終わっていない。
「……それで。ラフィーナはどうしてここに?」
「なんで、あんたより先に来てるかって? どうせあんたは最深部までやってくるだろうから、ここで待っていたってだけよ」
つまり――ここが最深部だと、ラフィーナは理解していたということだろうか。
だとしたら、どうやって。僕はオズマに力を与えてもらって、ここを把握することができた。
ラフィーナはオズマを呼んだあの場にいなかったし、僕より後にあの場に現れたとも考えにくい。
そんな疑問を察したのか、ラフィーナはどこかばつが悪そうに溜息をついて、答え合わせをしてきた。
「このわけの分からない場所のことなんて知らないわ。ただ、ここはあの女の精神で構成されている空間でしょ。そういうの、私たちの得意分野なのよ。相手が許しているのであれば、“心の奥底”へと潜ることなんて容易いわ」
「……そっか。サキュバスの性質なんだね。……僕にもそれがあれば、少しは楽だったかもしれないのに」
「笑えない冗談やめなさいよ。あんたが性に躊躇なかったら間違いなく碌でもないことになるから」
「……」
軽い冗談ではあったが、ラフィーナは笑うどころか余計に機嫌を損ねたようだった。
ばっさりと僕の言葉を切り捨てると、ともかく、と脱線しかけた話題を元に戻す。
「あんたが諦めたくなくてここに来たのは正解かもね。ここはあいつの――無意識すら介在していない未知の場所。あいつに残った“可能性”ってやつが、多分この先にある」
「リッカの……可能性……」
ラフィーナが示すのは、銀が積み重ねられた巨大な箱。
これまでに見てきた半透明なそれとは、性質が異なるもののようだ。
中身を見ることは出来ないし――まだ触れてもいないのに、とにかく強固に封じられていることだけは、こうして見ているだけで理解できる。
「……あいつ、まだ意識を保っている連中をあんたに嗾けたでしょ。どうあれ、あいつがあんたを傷つける――魔族に傷つけさせるという判断をした。もちろん、あんたの心を折る意味もあると思うんだけど……それ以上に、あんたをここに近付けさせたくないって本能があった筈よ」
「この場所に、近付けさせたくない……?」
「誰しも、触れてほしくないものの一つや二つあるでしょ? 意識的に“暴かれたくない”って思っているものか、無意識のうちに“秘密のままでいい”と思っているものかの差はあるけど。あいつの場合、後者よ。ここにはあいつが、いつか置き去りに――あるいは忘れたはずのものが封じられている」
この箱の中に……リッカ自身が今はもう覚えていない何かが存在している。
それは触れられたくないもので、たとえ存在を知覚していなくても、そこに近付けさせてはいけないと本能で感じてしまうもの。
ラフィーナはそこまでを理解していた。他者の心を、そして精神を操ることに長けたサキュバスだからこそ。
「……ラフィーナは、この中にあるものがリッカの“可能性”だって推測しているんだね」
「あいつの隠しているものがまともなものな筈がないでしょ。……まあ、なんにせよ、これだけガッチリ封印されているものの中に入れないと、無意味な推測でしかないんだけどね」
……ここは、リッカの内の“N”の最奥部の空間だ。
これよりも奥はなく、脇道も存在しない。僕が何かできると思って歩き続けた果てがこの場所なのであれば、僕はこのリッカの秘密に触れなければならない。
立っていて、感じられるものはなかった。手がかりを得なければと思い、それに近付いた。
その銀色からは、これまで見てきた同じ色のように、芯まで凍るような冷たさはない。
寧ろ、伝わってくるのは、何よりも近しいリッカのあたたかさだ。
目の前に立って、それに誘われるように手を伸ばし――
「……ちょっと、ユーリ――」
「――――――――――――――――」
――指先が触れるか触れないかのところで、そのあたたかさは、火の中に突き入れたような熱さへと変わった。
「ッあ!?」
咄嗟に手を引っ込める。
これまで、その色に持っていた印象とは正反対だ。芯まで炎が飛び込んできたように指先が焼かれていた。
チリチリと痺れるような痛み。内側に向かって罅が進んでいくような、じわじわと沁み込む痛みが、指先から消えることなく、そして広がることもなくその場を蝕み続けている。
「……あんたでも無理か。試してはいないけど、私も中には入れないわ」
「一体これ、なんなの……っ?」
先の魔族たちから受けたそれとは異なる痛みが残り続ける指先を見れば、ほんの少し焦げたように黒く染まっていた。
それに思わず触れてみると、灰のようになってパラパラと何かが散っていく。
指先が形を失うことはなかったものの――喪失感さえ感じないそれは、取り返しのつかないもののように思えた。
「……あいつの拒絶心が形成した、ファイアウォール――私も今理解したわ。これ、最後の防壁に相応しい障害よ」
「拒絶心……無意識の中でも、ここから先は絶対に進ませるものかって?」
「そうね。ここまで強固な障害になっているなんて多分、前代未聞よ。どれだけ他者を拒絶していても、普通は攻撃的なものにはならない――止めるべきだったわね、ごめん、ユーリ」
ラフィーナにとっても、これは想定外の状況であったらしい。
本来はきっと、ただ道を塞ぐ防壁としてしか機能しないものなのだろう。
だが、リッカのそれは、踏み入ろうとするものを焼き尽くす炎としてここに立ちはだかっていた。
これまでと同じように、ただ痛むだけ、ただ苦しいだけならば問題はなかったが――黒くなった指先は、いつまで経っても癒える気配がない。
……その指先を隠すように握り込む。感覚が鈍くなっているような気がした。
「……大丈夫。けど……無理やり通ることは、出来ないのかな」
「表面は否定の概念が波打っているだけだけど、実際に“壁”として成立はしているわ。焼失を我慢して、その奥に手を突っ込んだとしても、物理的な防壁に阻まれるだけよ」
ラフィーナは苦い表情で、銀色の箱を見上げる。
「今の私たちだと、なおさらね。私はあいつに取り込まれた使い魔みたいな状態、あんたはあいつによって消滅を免れる状態。どっちもあいつの権限で存在を許可される、あいつに依存しきった状態なの」
「……だから、リッカの拒絶を突破することは不可能ってことか」
致命傷を超えるほどの傷を負っても即座に修復されることも、つながりを感じられないことも。
それらは僕自身がリッカに存在を依存する状態となっているからだろう。
先ほどバルハラたちとのつながりを感じられたのは、あの時この領域がリッカに認識されていなかったから。
今、リッカが僕の居場所を特定できていないとしても、発見した未定義領域の中にいるという確証さえあれば、領域そのものに“ルール”を定義してしまえばいい。
そして、存在をリッカに依存する――事実上、リッカの所有物となっている状態で、リッカが触れることを許容しないものに近付ける筈がない。
その上で、この無意識の拒絶には例外がない。リッカの庇護も、この防壁を前にすれば関係ない。
僕がどれだけこの壁の突破を試みても、手応えさえ感じられないまま焼き尽くされるだけだろう。
「……何があるんだろう。リッカのことは、なんでも知っているつもりだった」
「自分以外の誰かのことなんて、全部を知れる訳がないのよ。そんなことが出来たら自他の境界がなくなるわ。……それに、あんたたちは人間でしょ。本来は、他者のこんな深い場所まで入れるような生き物じゃないのよ」
「……」
そうだとしても――僕は他者の深奥に手を伸ばすことを、独自の勇気のかたちとして自覚した。
リッカの、知られたくはなかった秘密に触れ、勇気を自覚した。あの秘密でさえ、リッカの“すべて”ではない。
ならば……生きるとか、諦めるとか、それ以前に――僕はこの先に進まないという選択をする訳にはいかない。
だって、僕はリッカのための勇者だ。
リッカに依存する存在ではなく、リッカの隣に並び立ち、手を引く存在でなければならない。
そのためには……どうすればいい。僕に何が、できるだろうか。
「ユーリ!」
――その時だった。それまでとは違う近さで、リッカの声が聞こえてきたのは。
瞠目するラフィーナの視線の先へと振り返る。
空間に開いた窓から覗き込む瞳はそこにはなかったけれど、あの窓から飛び降りたように倒れ込む、リッカの姿があった。
「リッカ……!」
「ちょ、待ちなさいユーリ!」
思わず駆け出す。ラフィーナの制止の声で、足は止められなかった。
立っていることさえ難しい今のリッカが、この場所に入り込むのに無理をしていない筈がない。
たとえ、僕を止めるためであったとしても、それを無視することなど出来なかった。
「リッカ、一体何を……」
「ッ……ユーリを、止めないと……!」
体を起こそうとしたところ、弱々しい力で腕を掴まれる。
より広がった、体の崩壊。粒子になって散っていくリッカの全身に、仄暗く光る罅が走っていた。
それでも――リッカは無理を通してここに来た。二人で一緒に“諦める”ために。
「あれは、駄目――なんなのかは、覚えてない、けど……あれは……開けられない、から」
「……リッカ……?」
「あの、封印を、解く手段は、もうないの……! だから、もうやめて――その傷は……魂の傷は、私でも、治せない……!」
――こちらを見つけて、その様子を見て飛び込んできたのだろうか。
リッカは崩れ落ちそうになる体を奮い立たせて、出せる限りの力で僕を止めようとしている。
子供にすら劣る力でしかないけれど、リッカにとっては命がけの行動だった。
僕の腕を掴んでいるだけで、その手は少しずつ散っていく。それを止めようと手を離させようとすれば、余計に崩壊は早まりかねない。
「リッカ。開けられないってどういうことよ。あんたがこれを認識したってことは、“思い出したい”“拾い上げたい”って思えば、解くことは出来る筈よ」
ラフィーナの疑問に、リッカは苦痛を顔に出しながらも、首を横に振って否定する。
「解けない……解けないの。その権限は、私にさえない……どんな権限が必要だったか、私も、覚えてないの……!」
「……あんた、まさか――
「っ……」
――ラフィーナの言う
こうして認識したことで、深奥に封じ込めていたものがあったと、リッカは思い出すことは出来た。
だが、それをどうすれば思い出せるのか、リッカ自身にも分からない。
この箱は、誰も開けることのできない究極の守りとなっているのだ。
「……ここ以外なら……ここ以外で、何かするなら、見逃すから」
「え……?」
「ユーリの邪魔をしたこと、謝るから。傷つけたこと、謝るから。何をしてもいいから……! だから、これに触ろうとしないで……じゃないと、ユーリの魂が、燃え尽きちゃう……!」
リッカの最大限の譲歩――いや、懇願だった。
この箱の内側に入ろうとする以外なら、何をしようとも許容する。だから、これ以上癒えない傷を増やすなと。
今は指先が焼けただけで済んでいるが、あれに長く触れていれば、程なくして芯まで焼き尽くされてしまうだろう。
そうなれば、このリッカの世界で可能性を探ることさえ出来なくなる。
力がなくとも、今の必死なリッカが嘘を言っていないことくらいわかる。
本当に、この場所だけは、リッカにもどうにもならない空間なのだ。
「……リッカ」
「……事情は分かったわ。けど、あんた――本当にそれでいいわけ?」
リッカの様子に、何を言うべきか分からなくなって。
それを見て取ったように、僕に代わって、ラフィーナがリッカに問いかけた。
「――なに、が……言いたいの、ラフィーナ」
「今までなんでもかんでも、手段択ばずに無茶苦茶やってきたんでしょうが。なのに今更、そんな風にユーリに縋って諦めようとする……なんからしくないなって思っただけよ」
それまで以上に苛立たしげな声色で、ラフィーナは不満を口にした。
「結局、あんたの秘密を知られたくないだけなんじゃないの? どうせあんたのことだし、“アレ”以上に隠していること、あるんでしょ?」
「っ……ラフィーナ。私は……本当に……」
「――そ。まあ、どうでもいいわ。あんたに“諦めない”気がないんなら、この場であんたの言葉に耳を傾けるつもりないから」
「え……?」
弁明しようとするリッカから、ラフィーナは視線を外す。
その様子に、ここに来た時からの、ラフィーナの苛立ち――その理由が、ようやく分かった気がした。
自分をここまで付き合わせておいて、断りもなく諦めという選択をしたリッカに、これ以上ないほどの不満を感じているのだ。
そんな状態ならば、もう“リッカに従う”理由もないと、ラフィーナは僕に向き直り。
「ユーリ、一つだけ思いついたわ。これをこじ開けられるかもしれない方法。……あんたも望まないことかもしれないけど、どうする?」
――何故か、半ば自棄になったような笑みを浮かべながら、そんな提案をしてきた。
【ファイアウォール】
リッカの疑似記憶空間最奥部に設置された最終防衛機構。
侵入しようとする者の魂を例外なく焼却する精神障壁と、リッカが所有者として設定されている概念を拒絶する物理障壁の二段構えとなっている。
【リッカ】
・カルラがキレた
・ユーリもキレた
・ラフィーナもキレた←New!
【ラフィーナ】
散々付き合わせておいて今更諦めやがったこのアマ。
なら私も好き勝手やってやるわ。ごめんユーリ。