凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(12)

 

 

 あの箱に入った亀裂が、見た目通りのものなのだとすれば。

 その大きさは相当だ。僕であれば、十分に中に入ることが出来る。

 

「馬鹿な……こと、言わないで! 何を考えてるの、ラフィーナ……っ!」

「そうね。気が触れたみたい。下手したら、ユーリは燃え尽きて終わりよ」

「それが分かってるなら――ッ、今すぐ、ユーリを、取り戻さないと。どうしたら……一回、意識のない状態にして……」

「あんた、本当……ま、いいわ。そういうことよ、ユーリ」

 

 リッカの秘匿の内側。

 無意識であるからこそ、完全に侵入を防ぐことが出来るのは、リッカの管理下にある存在のみ。

 夢を介して入り込んだサキュバスのような侵入者であれば、無意識の壁は強固ではあっても、絶対的なものではなくなる。

 

「今のあんたには、私の淫気を注いでいる。初めての感覚だろうけど、我慢なさい。その状態で欲に溺れなければ、ある程度精神と魂が傷つくのを防いでくれるわ」

「この、熱さ……本当に……?」

 

 ラフィーナの先ほどの行為は、僕にその――淫気を注ぐために?

 気を張っていなければ呑まれてしまいそうな、この感覚は……サキュバスが持つ特有の性質なのか。

 

「まだ賭けの部分は大きいわ。護りは万全じゃない。確実に焼失へは近付いていくでしょうし、感覚は過敏になっているから、さっきより何倍も痛むと思う」

 

 本気の警告だった。立ち止まるのであれば、最後のチャンスだと。

 ここから先に踏み込んでしまえば、成功するにしろ、失敗するにしろ、取り返しは付かないことになる。

 それだけの代償を支払っても、この奥にあるものが必ずしも、逆転のカギとなるとは限らない。

 結局のところ、この先へ進むという選択は意地に過ぎない。まだ、ここで諦めることは出来る――及第点の安寧は、この段階でも得られるのだと。

 

「それでもなお、あんたは進むの? 分かっているとは思うけど、これは勇者としての使命を終えるための最後の試練じゃない。これが終わっても、まだその先に苦しいことは、きっと待っている」

 

 ラフィーナ本人は、この先に希望があると信じていて。それでも僕に強要はしてこなかった。

 この先に進むことは、死よりも大きな苦痛を伴うものだと、確信しているから。

 ――とことん、魔族らしくないと思った。

 ラフィーナは、人間を虐げる側にいるには優し過ぎる。こうして警告を受けている最中でも、思わず笑ってしまうほどに。

 

「だから、立ち止まりたければ……なに笑ってんのよ?」

「ラフィーナは優しいって、思っただけ。ありがとう、心配してくれて」

「バッ……っ、ああもう! 軽口を叩くだけの余裕はあるみたいね。だったら、さっさと行ってきなさいよ」

「うん、行ってくるよ」

 

 呆れ顔で送り出してくれるラフィーナにそう返して、銀色の砦の前まで歩いていく。

 もう、傷を負っても少し経てば癒えるなんてこともない。

 怖いとは思わなかった。カルラに続いて、ラフィーナにまで背中を押されたのだ。それなら、立ち止まる訳にもいかない。

 

「待って、ユーリ……! ラフィーナ、ユーリを、焚き付けないでよ……!」

「そっちこそ、いつまで怯えてんのよ。あんたのことで、あいつが止まらないなんて、最初っから分かり切ってることでしょうが」

 

 ここから先は、取り返しのつかない歩みになる。

 少しだけ身が竦みそうになって、足が止まり。

 

「な、なんで……なんでユーリも、ラフィーナも、そこまで頑なに、あの中に入ろうとするの……!? 私に、もう二人が信じられるほどの可能性なんて……!」

 

 聞こえてきた、きわめて弱気なリッカの言葉に、振り向きそうになった。

 それをグッと堪えて、聳え立つ銀色に近付きながら。

 

「リッカが信じなくても、僕たちは信じてるんだ。リッカの可能性を。その可能性まで手を伸ばすのが僕の役目なら――必ず成し遂げてみせる」

「――――ユー、リ」

 

 返す言葉は、それで十分。改めて宣言すれば、恐怖もどこかへと飛んでいった。

 一つ息を呑んで、目の前の最後の障害へと踏みしめて。

 

「――――――――――――――――ッ!」

 

 バチリと電流のような衝撃が走り、体中の熱さが裂けるような痛みへと変わった。

 これ以上進むなという警告であるのならば、屈する訳にはいかない。

 このくらい、先の魔族たちから受けた痛みに比べれば、大したことはないと自分に言い聞かせる。

 それに――これはきっと序の口だ。試練の入り口で諦めたら、ラフィーナに呆れられるだけでは済まないだろう。

 視界一杯に広がる銀色の炎。感じている熱が、本当に炎の熱であるような錯覚。

 これから、その錯覚が本物になることを予感しながら、更に一歩――炎の内へと踏み込んで。

 

「ッ、ぁア……っ」

「ユ――――」

 

 炎はいとも容易く僕を包み込み、一瞬、頭の中が真っ白になった。

 それまで感じていた熱さはよりはっきりとしたものに塗り替わって、全身に入り込んでくる。

 裂けた傷口から侵入し、罅を広げ、既に気を失うことも出来る筈なのに一秒ごとに更新される鮮烈な痛みが、決して僕を休ませようとしない。

 

「ぐっ、ううぅぅぅ……ぅあ――っ!」

 

 前に前にと進もうとしても、苦痛から逃れようとする本能から思ったように足は動かない。

 きっとそれは、傍から見ればさぞ滑稽な様子であることだろう。

 安寧へと逃れるか、走り抜けるか。それが正しい筈なのに、足は痛みで重くなる一方。

 それでも、この程度の痛み、大したことはないと痩せ我慢をして、箱の中へと進んでいく。

 

「……っ」

 

 何も変わらないのに、思わず顔に振り掛かる炎を防ごうとして両腕を前に出して、ようやく気付く。

 先ほどは指先が黒く焦げたようになっていただけだったが、今は両腕が真っ黒になり、その上から銀色の罅がびっしりと刻まれていた。

 体中を確認している余裕などなかった。しかし、きっと同じようになっている筈だ。

 罅を通って体の内側へとリッカの拒絶は入り込み、僕という存在を破壊しているだろう。

 一度自覚してしまうと、体の――魂の損壊を、嫌でも理解してしまう。

 

 魂が傷つくことがどんな意味を持つのかは知っている。それを誰よりすり減らして歩んできた人を、僕は知っている。

 ――ああ、そうだ。リッカの旅路に比べれば、このくらい。

 

「――ユーリ、それ、以上は……!」

「今更何言ってんのよ。戻ってきてどうなるわけ? ――その意気で進みなさい、ユーリ!」

 

 リッカとラフィーナの声は、炎に反響するように、耳元から聞こえてきた。

 こちらの様子を見ているのだろうか。

 そうであるならば、なおさら、この程度で屈するなど出来る筈もないじゃないか。

 

「リッ、カ……もうすぐ、なんだ」

 

 言葉が届けられるなら、そう伝える。

 安心してほしいとは言わない。だってこれは、リッカの拒絶に抗う行動なのだから。

 その代わり、もうすぐ希望に辿り着く。リッカもきっと、目を覚ますことができる。

 まだ諦めるべき場所ではないと。僕たちが目指していたハッピーエンドはまだ、ほんの少し先にあって、妥協するなんて僕たちには相応しくないと。

 

 内側まで傷ついているのが分かる。可能な限り、欠けることなど無い方が良い筈の魂が、解れ、焼き切れていくのが分かる。

 銀色が揺らめくだけの視界が、正常なのかどうかは、分からない。

 自分が壊れていっているのは確実で、“どこまで”いけば致命的な内の、“どの程度”まで至っているのかも、分からない。

 漠然とした不安だけが確信となる状況。

 そんな中で、少しずつでも歩むことは忘れずに。

 踏み出せなくてもいい。足を引き摺ってでも、進むことが出来ればいい。前に前に、足が動いてさえいれば、それでいい。

 

「っあ……はぁ……はぁ……――――」

 

 不意に目の前を揺らぐ炎を煩わしく感じて、それを掻き分けるように腕を振るう。

 それ自体に意味はない。ただ、進みやすくなったと頭が認識する効果はあるかもしれないという、良くて自己暗示にしかならない行動。

 その過程で、ぱらぱらと腕から黒い粒子が零れ、炎に溶けて消えていく。

 きっと、腕だけではあるまい。体中から現在進行形で、僕を構成しているものが消失しているのだろう。

 ……手遅れだ、とは思わない。考えて、選択して、リッカのために行動できる僕の意思が残っていればいいのだ。

 だから――。

 

 僕が徐々に、燃えて落ちていく。それは好ましい変化だ。そう思えば良い。

 燃えたその分、体が軽くなる。自分が壊れることを、恐れる必要がなくなる。

 足を動かすための妨げが、減っていく。

 

 視界が不意に暗くなる。眩しいほどの銀色が、見えにくくなる。

 目であった部分が、焼けてしまったのかもしれない。

 ――知ったことか。どこまで行っても銀色が揺らめくだけなら、視界だって必要ない。果てに辿り着くまでは、くれてやってもいい。

 

「……ユーリ――」

 

 それでも、リッカを想う自分だけは失わない。僕が僕であるための、“コレ”だけは、取り落とす訳にも、火にくべる訳にもいかない。

 進み続ける。進み続ける。進み続ける。

 限界なんて知らない。考える必要はない。きっと僕は、限界を迎えても、リッカのために歩き続けていられる。

 どれほど進んだのだろう。あの箱の内側が、見えていた通りの大きさだとは思わない。恐らくは、あの見た目よりもずっと深い。

 もしかすると、大して進んでいないかもしれない。この熱さの中で、既に足は碌に動かせない状態になっているかもしれない。

 そうだとしても進むのだ。前に、前にと、足に信号を発し続けるのだ。

 

「――――って」

 

 そうすれば、いつか果てには辿り着ける。

 リッカのために諦めないことは、僕が何より得意とする分野なのだ。

 全身を内側まで焼かれようとも、魂がどれだけ傷つこうとも、心を折ってやるつもりなんてない。

 

「――――――――頑張って、ユーリ」

 

 何故ならば、僕はリッカのための勇者なのだから、と。

 己を奮い立たせる。それ以外の在り方などない。これは僕の、僕だけの存在価値であり、誰にも――リッカにだって否定させない、僕だけのクオリアなのだから、と。

 そんな意地を、自分自身を、貫き通す――!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

【ラフィーナ】

「――ユーリの反応が……っ、ま、さか……」

 

【リッカ】

「――――ユー、リ……」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 一度視界が真っ暗になって、体が浮き上がる感覚があった。

 意識が遠のいた自覚はなかったけれど、まるで夢のように曖昧な、一秒にも一時間にも感じられるそれの直後――固い足場を踏みしめる。

 それから、喧噪。まるで、あんな惨状が起きる前のナイトラクサのような、品があるとは言えない騒がしさが耳を叩く。

 体に感じていた痛みも、熱さも、いつの間にかなくなっていた。

 もしかして、本当に死んだのだろうか。冥界にでも落ちてしまったのだろうかと、縁起でもない想像をしてしまった後。

 ようやく、視界が真っ暗なのは、両目を閉じていたからだと気付いた。

 

「……え? ここ、って……」

 

 そうして目を開き、そこに広がっていた見たことのない景色に困惑する。

 やはりそこは、聖都よりもナイトラクサに近い。けれど、あそことも違う場所だ。

 さらに背が高くて、きっちりと真っ直ぐで、規則的な建物が所狭しと立ち並んでいる、大きな通り。

 その脇道の隅に僕は立っていた。

 

「……」

 

 常に夜のナイトラクサとは違って、今にも雨の降りそうな曇り空。

 道の真ん中に近い方には、鉄で作った馬車のような乗り物がけたたましい音を立てながら、群れを成して走っている。

 ……馬車ではあんな速度出せないか。ゼクセリオンよりは遅いけれど、妖精たちからあれを貰う前では考えられなかっただろう速度だ。

 僕から見て道の反対側には、似たような服を着た人々が歩いているのが見える。

 こちら側にも、人が多くいるのは変わりないけれど、忙しなく歩いている者の割合は少ない。

 というよりも――すぐ近くにある人だかりが往来の妨げになっているのか。

 どこもかしこも騒がしい中でも、今はそこが喧噪の中心のようだ。

 

「やべ、初めて見ちまったよ。あれ凄くね?」

「もう拡散されてるぜ。ほら」

「――です。お世話になっております、はい、ええ、間もなくそちらに――」

「これ学校休みになるんじゃない?」

「やった、カラオケ行こ。ってかあれ誰なん?」

 

 ここがどこなのかも分からない中で、何重にもなる人だかりの中心――何がそこまで注目を集めているのか、気になって。

 それを覗き見ようと、近付こうとした時だった。

 

「――悪いことは言わない。興味本位なら見ない方がいいぞ、ああいうの。あいつらムカつくほど楽しそうだけど、普通にグロいしな」

 

 こちらに向けて言っていると、はっきりと理解できた。

 背後――建物と建物の間のごく狭い路地から話しかけてきた、聞いたことのない声の主。

 声を知らないのだから当たり前だけど、その姿も見たことはない。

 けれど、何故か確信があった。面影なんてないというのに。

 

「……リッカ……?」

「……そうだよな。ま、気付くよな、お前なら」

 

 髪は黒くて、眼鏡をかけていて、背もリッカより少し高い。そして、そもそも性別が違う。

 同じなのはその諦観に満ちた目だけ。

 別人だと結論付けて良い筈なのに、僕は“彼”をリッカだと認識していた。

 

「確かに呼ばれ慣れてる名前だけど。でも……俺には、お前にそう呼ばれる権利はないんだよ。だからさ……呼ぶな。俺は名無しでいい」

 

 自嘲するような笑いを浮かべながら、その少年は“リッカ”を否定した。

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