凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(13)

 

 

「――こっちだ。来いよ、ユーリ」

「ちょ、ちょっと……」

 

 どうして彼が“リッカ”だと認識しているのか、その答えは見つからないまま。

 何も言えずにいれば、彼は喧噪の中心である人だかりを一瞥してから、路地裏へと僕を誘った。

 ……なんとなく、この場所には二度と戻ってこないような気がして。

 あの人だかりの理由を確かめるのであれば、今しかない。きっと、彼は自分から話すことはないだろう。

 

「……」

 

 ……そんな、好奇心に近い何かの誘惑を振り切って、僕もまた、路地裏へと入っていく。

 そこは聖都の路地裏ほど綺麗ではなく、ナイトラクサのそれほどゴミや煤に満ちている訳でもない。

 あれだけ往来のある大通りの、建物と建物の間。誰の目にもつかないようなそこを、彼は迷いなく歩いていく。

 

「ねえ、リッカ……?」

「っ……そう呼ぶなって。お前の知っているそいつと俺とは、似ても似つかないだろ」

「うん。でも……わかる。……そうだ。だって、ここは、リッカの内にある領域の筈だ」

 

 根拠のない確信に、後から思いついた理由をつけた。

 どういう現象が起きたかは分からないが、僕はリッカの最奥部へと向かっていた。

 ここは、その最奥部――銀色の箱の中なのだろうか。だとすれば、彼の姿は、そしてこの景色は一体、なんなのだろう。

 

「……ん。まあ、そうだけどさ。……こっちだ」

 

 彼はそれきり、曖昧に黙り込んで、足を速めた。

 路地裏を出て、先ほどの場所ほどではないが広い路地を、反対側まで渡って。

 少しでも往来を効率的にするためか、道に開いた穴から地下へと続く階段を下りて、人だかりの中を歩いていく。

 異常な人の多さだ。ここまでの密度で人が歩き回るような街、僕は知らない。

 こんな、地下さえ人がごった返して、まともに歩くことさえままならないような街、どこにあるのだろう。

 

「……」

「あ――」

 

 迷いなくすいすいと歩いていく姿が見えなくなりかけた頃、彼は振り返って立ち止まり。

 何度かすれ違った人と肩をぶつけながらも、ようやく追いつけば、彼は僕の腕を掴んで先導するように歩き始める。

 人混みの中の、その中でも人の少ない方向へ。

 ほぼ全員が同じ場所から先に進んでいる一方で、彼は僕を連れてそこを避けるようにすいすいと歩いていた。

 

「……なんで皆、あっちを通ってるの?」

「そうしないと普通は中に入れない。まあ……気にするな。誰も俺らのことは見ていない」

「え……?」

 

 ――そういえば、誰もこちらに注目していない。

 彼が言うには、今こうして歩いているのは正しい入り方ではない。なのに、誰もそれを咎める様子がなかった。

 警備を担当しているように見える男性の前を素通りして、僕たちはさらに奥へと進んでいった。

 さらに何度か階段を下りて、やがて違う騒がしさのある空間に辿り着いて、彼は立ち止まる。

 

「……ここ?」

「まだだ。すぐ電車が来る。……この時間にこっちに乗るの、初めてだな」

 

 電車……? 首を傾げていると、轟々と尋常ではない音が近付いてきた。

 ……乗り物、だろうか。横長の箱のような――外を走っていたそれよりもずっと大きくて、中は人が限界を超えているのではというほど詰め込まれているのが見える。

 その扉が開いて、疲弊した様子の人々が早足で出てくる。それから、彼がまた僕を引っ張り――

 

「ちょっと……? まさかこれに入るんじゃ……!」

「我慢しろ。歩くよりマシだ。気は滅入るが」

 

 彼は腕を離すことなく、僕ごとその乗り物に入り込んだ。

 一歩踏み込んでみて実感した。やはり、限界など当たり前に超えている。だというのに、僕たちに続いて次々と入ってくる。

 ……何を考えているのだろう。ここまでして、この乗り物には乗りたいものなのだろうか。

 離れた場所へ行くための乗り物であれば、地下を走ることで魔族に襲われる危険性がない……とか、そういう理由ならば分からなくもない。

 だが、それにしたってここまで大人数が、一体どこへ向かうというのだろう。

 

「り、リッカ……!」

「っ……だから……、……」

 

 押し潰されそうな息苦しさを感じていると、彼は何も言わずに体を動かし、多少のスペースを作って僕を押し込んだ。

 彼は……慣れているのだろうか。だったら、何故……。

 分からないことだらけだ。あの街も、この乗り物も、僕は見たこともない。

 

「……」

「……」

 

 それから、お互いに何を言うこともなく、その窮屈な状況が続く。

 何度か乗り物が停止し、扉が開いたが、乗っている人が何割か入れ替わって、息苦しさは変わらないまま再び発進する。

 そんな状況で、また停止し――ここが目的地のようで、彼は僕を引っ張り外へと連れ出した。

 

 ――そこから、もう一度、また別の場所にやってきた、似たような乗り物に乗って。

 わけが分からないまま移動を続け、ようやく階段を上り外へと出た時には、雨が降り出していた。

 それを気にせず歩き続ける彼に付いていきつつも、辺りを見渡す。

 最初にいた場所に比べると、静かだ。人混みというほど往来はないし、妙な乗り物もそこまで多くは走っていない。

 ここと比べれば、聖都の方が賑やかだろうか。

 

「ここだ」

 

 やがて彼は、立ち並んでいた建物の一つに躊躇いもせずに入っていった。

 そこの階段を上り、長い廊下にいくつもの扉。……これほどの規模のものは見たことがないが、宿だろうか。

 彼はその内一つの扉を開けて中に入る。僕もそれに続くと、小さな廊下があった。正面と左右に、それぞれ扉が一つずつ。

 彼と共に右の扉を開いて入ると――

 

「これ、は……」

 

 そこで僕はようやく、見知ったものを見つけることが出来た。

 小さな部屋、それ自体に見覚えはないものの、向こうの壁の棚に並んでいる人形には――クイールやイリスティーラ、ナディアの外装を模したらしいものを含めた小さな人形がいくつも置かれている。

 残っているのは、顔の部分を見たことはないけれど、“僕たちの外装”だろう。

 飾られているそれは、棚の一段で済む程度の数で、他の段には何も置かれていなかった。

 

「……それな。大昔はもっと別のものを飾ってたんだが、こうなった。座れよ。椅子はそれしかない」

 

 肩を竦めて、彼は足にタイヤの付いているらしい椅子を引いて差し出してきて、自分はベッドに腰掛ける。

 

「ご足労をかけた……って言うべきかな。別にあの場所でも話せたんだが、あまり居たくない場所だったんだ。ここが一番落ち着く」

「それは、いいんだけど……もう、分からないことだらけだよ。ここはどこなの? キミは、本当にリッカなの?」

「……まあ、いいか。誤魔化しきろうと思ってる訳じゃない。それに、答え合わせは必要だよな」

 

 言葉を選んでいるようで、彼はしばらく、無言で天井を眺めてから。

 

「ここは俺ん()。で、今通ってきたのは通学路……これ分かんねえか。つまり、理由があって毎日往復していた道だ」

「キミの、家……?」

「見たことないだろ? ユーリの力でも、多分、ここまでは繋がらなかったと思う。だって、“俺”自身がそれをもう覚えていないんだから」

「……キミは、やっぱり……リッカなんだね」

「お前にとっては、大体二年前。“俺”にとっては遥か昔の、な。……正確には、その頃の記憶を再現したもの、か」

 

 かつて――リッカが今のように、変わってしまう前。

 理不尽な繰り返しに囚われるより前の、希望に満ち溢れていたリッカ。

 もしかしたら、とは思っていた。その希望は彼の瞳にはないけれど、言葉にも態度にも、かつての面影があったから。

 

「俺も、この部屋も、あの街も。今の“俺”がいつか取り落とした記憶の再現体に過ぎない。手応えの見えないループに耐えられるようにするために、無意識の内に不要と見なされて、剥離していった記憶(もの)が未定義の穴の中に堆積した……言ってしまえばここはゴミ箱だよ」

「ゴミ、箱……?」

「そこのフィギュアみたいに、再現さえ難しくなって、今の記憶を中心に置き換えられているものもあるけどな」

 

 彼の言っていることが真実なのだとすれば、やはり腑に落ちないところがある。

 彼の姿やこの部屋に、見たことのない街――僕が知る限りそれは、かつてであってもリッカの現実だとは思えない。

 こんな街、世界のどこにあるというのか。彼は、一体いつのリッカなのか。

 僕がリッカの“いつか”の全てを知っている訳ではない。それでも、本能で――彼がリッカの記憶だと捉えるここにあるものは、あまりに僕たちにとっての非現実に満ちているように感じられた。

 

「ねえ――ここは……あの街は、どこにあるの? 今のリッカは、覚えていないの?」

「覚えてない。そして、ここは世界のどこにもない。あの世界から見て、別世界に当たる場所だよ。魔族もいないし魔法もない。勇者の使命なんてなくて、外装を纏った姿に変身して戦うヒーローもいなければ、死んだ後の繰り返しだって起きやしない」

「……そんな世界を――どうして、リッカは知っているの?」

「ここが俺にとって、もう一つの現実だったから。あの世界に生まれる前の俺は、ここで生きていた」

 

 ――何もかもが非現実的なこの場所で、リッカにとって最大の秘密であったそれは、さらりと告白された。

 

「俺には、生まれた時から別の人生を生きた記憶があった。平凡に生まれて、平凡に育って、ちょっとした不幸で死んだどうってことのない人生。剣と魔法の世界、勇者と魔王の物語にちょっとばかり憧れた、ありきたりな人生。まさか記憶を持ったまま、そんな世界に生まれ変わることになるなんて、死ぬ瞬間には期待する余裕もなかったけどな」

「生まれ……変わり……って、ちょっと待って、リッカ――」

「そういうの、流行りだったんだよな。生まれ変わって、剣と魔法の世界で無双して……ってやつ。本当にあるんだって驚いたよ。実際はまあ、浮かれた気分で旅が出来るようなものでもなかったんだけど、さ」

 

 その秘密を受け入れる前に、彼は過去を懐かしむように言葉を続ける。

 簡単には信じられないその告白を否定する気持ちはあれど、それを前提とすれば納得できることもあった。

 僕と二歳しか変わらなくて、同じ村で育ったというのに、どこから仕入れてきたのか分からない知識を持っていたり、他者からすればわけの分からないことにも迷わず突き進む行動力があったり。

 かつてのリッカは、そんな存在だった。

 ――いつか自分が勇者に選ばれると信じる、変な女の子だった。

 

「この長い旅……魔王が言うには、五千と四十か。もう歴史だよな。旅の中で……起きることを他人事のように客観視できるような余裕は、俺にはなくなった。この物語には何か原作があるのかとか、攻略方法があるのかとか、そんなゲーム的な考え方をしていたら、気が狂いそうになる」

 

 そのリッカが変わってしまったのは、僕が勇者に選ばれる一年前。

 リッカからすれば、失敗するたびに繰り返しが始まる地点。

 かつての性格のままでは駄目なのだと、リッカは無意識の内に考えたのだろう。

 繰り返しの中でそれは、自身も知らない内に少しずつ失われていったのだ。

 

「ユーリを守るためにも、俺が壊れちゃいけない。俺は俺のままじゃないといけない。遊び心に満ちた俺も、男としての俺も、残ったままじゃ、あんなの、耐えられなかった」

「っ……」

「……魔王も、この記憶全部持っていけばいいのにな。そうだったら、俺は今も、何も気付かずに繰り返していただろうから」

 

 繰り返しのたびに訪れる、死よりも大きな苦痛の数々。

 それは――“生まれるよりも前”があるリッカだからこそ、より耐え難いものだった。

 だから、リッカは変わることを強いられた。かつての特別さを、捨て去らざるを得なかった。

 

「……ユーリ。今の状況を打開する可能性を探してきたんだろ? ――悪い。ここにあるのは、俺がそんな理由で捨てたものばっかりだ。どこ探したって、武器も希望も出てこないよ」

「…………リッカ」

 

 そこで初めて、彼は笑みを浮かべる。

 何もかもが上手くいかなかった、失敗の果ての諦め。

 この世界の理不尽を煮詰めたような、乾き切った笑みだった。

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