凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(14)

 

 

 それから少しの間、どちらも口を開くことはなく。

 僕自身、何を言えばいいのかわからなくなって、もやもやとした気持ちの中で、彼から聞いたことを整理していた。

 ……その中で、ふと気になって、ようやく声を上げられた。

 

「……リッカは、生まれ変わりのことを覚えているの?」

「覚えてる。ただ、“転生していた”ってことだけだ。こんな風に俺が再現されていて、ここにこの街がある以上、生まれ変わる前がなんだったのかなんて少しも覚えていないよ」

 

 転生――きっとそれは、死んだ者が冥界で魂を休めて……という話でもないのだろう。

 リッカの始まりは、別の世界だという。そこにこの世界と同じように、冥界があるのかなど分からないし。

 本来は、僕が感知すら出来ない概念。こうしてリッカの深奥に訪れなければ、最後まで悟ることも出来なかっただろう秘密。

 リッカの特異性の骨子――生まれた時から精神的に成熟していたというのが、すべての答え。

 

「……」

 

 特異性、別の世界、転生。

 そんな単語がぐるぐると頭の中を廻って、やがて一つにまとまる。

 別に、この場を切り抜けられるような答えではない。どうでもいいことだったけれど、積もり積もった疑問を解消したい気持ちが強かった。

 

「転生領域――あの場所に繋がることが出来るのは、特別な才能だって聞いた。それって……管理人や、あの二人も同じってこと?」

「ああ。あの二人も俺と同じ転生者だ。……同じとは言えないか。あいつらは自分のやるべきことをきちんと終えたんだもんな」

 

 フミナと、もう一人。それから管理人。かれらとリッカに共通する特異性は、それだったのか。

 自分と同じ出自を持ち、一生で得られる以上の知見を持つ者たち。

 だからこそ、リッカは頼った。どうにもならない状況になってなお、そこに一縷の希望を託したのだ。

 

「でも……やるべきことって?」

「あー……そこは俺も良くは知らないんだけど。転生領域ってのは、名前の通り、死んだヤツが転生して別の世界に送られるための場所で、転生者はその世界の問題を解消するのが役割だって聞いたような。要は、人生二周目の経験値を活かして無双してこいって話だよ」

「えっと……僕たちの世界にリッカが“転生”したのは、魔王を倒すためだったり?」

「だろうな。だからまあ、てっきり俺が勇者になるものだと思ってた。結果はこの通りだけど。ともかく、問題解決して、一生を終えたら、次の世界に生まれ変わって……そんなどうしようもなく非人道的な機構らしい」

「……えぇ」

 

 思わず、拒否感の強い困惑を口にしてしまった。

 フミナはどことなく、達観したような雰囲気を有していた。

 あれは見た目通りの年齢ではなく、もう何度も人としての生涯を送っていたがためなのかもしれない。

 もう一人については……考えない方が良いのだろうが。

 

「……待って。それじゃあ、リッカは、本当の意味で死んでしまったら――」

 

 その話を聞いて、一つの予感に辿り着いた。

 それが本当なのだとすれば、ここで諦めたとして――。

 

「次はないよ。みんな言ってるだろ? 魂はもう残りカスみたいなものだって。死んだらもう跡形も残らない。転生者としては、最初で最後の仕事も果たせなかったってことになるけど」

 

 彼が自嘲する一方で、リッカにこの世界の外でさえ、次がないことを知って。

 僕に芽生えたのは、二つの感情だった。

 リッカは、本来幾度も転生を繰り返すらしい転生者としてはよほど特殊な、一度目で終わりを迎えた存在だ。

 それを、リッカは仕方ないとしている。思い返せば、あの時に出会った管理人も、リッカを責める様子はなかった。

 ――だというのならば。

 

「……僕たちの世界に生まれる前。……キミは、幸せだった?」

「――さあ? この場所からも風化して消失した記憶は多い。親がどうだったかとか、友達はいたのかとか、そういう記憶はもうここにさえ残ってないんだ。そういう未練は優先的に忘れていったのかもな」

「……そっか」

 

 彼の表情は少し寂しげだった。

 この場所に来てから見たものは何もかもが理解の外だ。彼が“リッカ”となる前、どんな人生を送っていたかなど、想像もつかない。

 けれど、彼は己の死因を、ちょっとした不幸だと称していた。

 ああ、それは――あんまりではないか。

 

「――――やっぱり、納得できないよ」

「は……?」

「キミの言っていることが事実なら、キミには……リッカには、後にも先にもハッピーエンドがなかったってことじゃないか」

 

 こうして、リッカの秘密を知って。

 この繰り返しが終わっても、次の人生があるのだとすれば、諦めの果ての終わりを僕も認めていたかもしれない。

 次の世界で幸せを、安寧を得る。それは悔しいけれど、僕にとって一つの選択になり得るものだった。

 だが、リッカには次がない。真実、今の生が、繰り返しと転生の終点なのだ。

 それなら僕は納得しない。リッカの最後は、幸福の中でなければならない。僕はそのためにここまで来たのだ。

 

「……だから、お前が何もせずにいてくれることが、唯一の道なんだよ。“俺”が、言ってただろ?」

「そんなの嫌だって言って、僕はここまでやってきた。リッカをハッピーエンドに連れていくこと、リッカと一緒に歩いていくことが――僕の存在意義なんだ」

 

 最初はリッカに手を引いてもらって、どうにか歩いていた。その“最初”は、リッカ自身にとっては途轍もなく長い道程だっただろう。

 長い長い絶望があって。何千人もの僕という存在が、足手まといになって。

 そうして、僕はようやくリッカの秘密に足を踏み入れて、対等になれた。

 あの日から僕は、リッカのための勇者になった。自分の在り方を定めて、満ち足りたハッピーエンドのその先まで歩いていこうと、心に決めた。

 

「ここで終わるのも、もしかすると一つの幸せかもしれない。それは、僕にも理解できる」

「――だったら」

「けど――ここの幸せには、その先がないじゃないか」

 

 椅子から立ち上がって、そう指摘する。

 リッカは、何もしなければ二百年は維持できると言っていた。

 人の寿命を大幅に超えた平穏だ。苦痛の果てのその選択は、なるほど確かに幸福に感じられるだろう。

 それでも、そこは幸せの終点なのだ。その先へ――まだ見ぬ、更なる幸福へと歩いていくことの出来ない妥協点でしかない。

 ならば僕は否定する。否定して、力強く宣言しなければならない。

 まだ、僕たちの足掻きは終わっていないのだと。

 

「……いい、んだよ。俺は、それで満足なんだ」

「僕が満足してない。僕は、それを幸せだとは思わない。僕たちの幸せは……勇者としての旅を終えて、ただの(ユーリ)キミ(リッカ)になってからじゃないといけないんだ」

 

 これまでの不幸を塗り潰すくらいの幸せを。

 それは、きっともうすぐそこにある。こんなところで諦めてしまっては勿体ない。

 カルラだってそういう筈だ。自分だけ除け者の状況で立ち止まるなど、カルラが認める訳がない。

 

「っ……そうはいっても、手段がないんだよ。何より、ユーリの体を取り戻す方法が!」

「それは――」

「時間を巻き戻そうにも、お前の肉体だったものを全部集めないといけない。そもそも、残った時間でそこまで巻き戻せるかも分からない。“俺”も、死ぬほど考えたんだ! ユーリだけでも、生き返らせないとって!」

 

 彼は必死の形相で詰め寄ってくる。

 初めて見せた、大きな感情。それまでの寂しげなものとは違う、悔しさと怒りに満ちた表情。

 今にも殴りかかってきそうな勢いの彼の言う通り――リッカは既に、手を尽くしたのだろう。

 それでも、駄目だった。何も思いつかなかった。

 そうであるならば、僕自身が解決しなければならない。そもそも、僕の体のことまで、リッカに頼ろうとしていたのは甘えだったのだ。

 

「言ってみろよ。“俺”が考え尽くしても出てこなかった、この状況全部解決する手段を!」

 

 ――そうだ。

 ここまで来て、ようやく思い至った。僕はずっと、この状況をリッカに解決してもらうことを期待していた。

 リッカには無限の可能性があるという信頼。それは、消えた訳ではない。まだ僕は、リッカが何かしてくれると信じている。

 けれど、信じるべき可能性はまだ他にもあるじゃないか。

 

「分からない。けど……必ず、何か出来る」

「まだ……言うのかよ、その根拠のない“もしかしたら”……なんで、諦めないでいられるんだよ」

「決まってる。僕が、リッカのための勇者だから。リッカのためなら、僕はきっと、なんだって成し遂げられる――未来を創るための僕の可能性は、いくらでも湧き上がってくるんだ」

 

 リッカによって、つながりの力は、まだ封じられている。

 それでも胸の内の熱さは、変わらない。寧ろ――ラフィーナが押し付けてきた熱さえ取り込んで、より熱く、より強く燃え上がる。

 ……ラフィーナにとっても、完全に想定外のことだろうけど。

 

「僕は、他人がいないと強くなれない勇者だ。誰かとつながって、誰かの可能性を受けて、自分の可能性にする、人任せな勇者だ。けど、その在り方を恥ずかしいとは思わない。僕はこの力で、リッカのための勇者で在れることを、誇らしいと思っている」

「――――な、んだ……その、魔力……?」

 

 自分にだって分からない。この湧き上がる圧倒的な熱さを定義した属性が、なんなのか。

 僕自身の火の色と、後から自覚した勇気の色。

 それらと交わって、どちらとも共存した状態で。

 より強く強く燃え上がって僕の内から零れ出る、辺りを眩く照らす、輝ける純白。

 

「待て、見たことねえぞ、そんな属性……お前にあるのは、火と勇気の、二つで……」

「リッカにだって、時の力が目覚めたんだ。僕にだって、そういうことが起きてもおかしくないでしょ?」

 

 とはいえ、僕自身、そんな力が芽生えるなどと、兆候さえ感じていなかったが。

 きっとそれは誰しもが原初に有する、何にも染まっていない可能性。

 勇気の属性。つながりの力とはまた異なり、それでいてつながりを更なる力に変える、僕に発現した独自の力――――。

 

「この力なら、今を変えられる。そのための設計図(かのうせい)が見えた。リッカの力を借りられれば、まだ希望はあるんだ」

 

 結局のところ、これを自覚することが出来たのは、リッカがいたから。

 これは真っ直ぐ――たった一つの在り方を貫き通してこそ、それをより強固にするための力だと、苦しいほどの熱そのものが語っている。

 

「もうリッカが一歩も歩けなくなったとしても、僕が背負って連れていく。絶対に、諦めさせない」

「っ……」

 

 生命としての存在意義、想像(創造)の究極。

 それを定めることで、ようやく自覚できるこの白色は、勇気と共に、リッカのためにあるもの。

 

 ならば、傍にはリッカがいないといけない。

 存在の再定義も、世界からの放逐も、安寧への誘いも、未定義の迷宮も、魔族たちの報復も、拒絶の防壁も。

 その程度の障害では、リッカのための存在(ぼく)を諦めさせるには至らない。

 

「……駄目だ」

 

 けれど、それでも彼は首を縦に振らない。

 リッカの諦観、リッカの躊躇い、リッカの未練の集合。

 五千を超える繰り返しの中で堆積していった絶望は、決して希望を見出さない。

 

「そもそも……っ、ここは“俺”自身が忘れたいと思って、拒絶の内に秘した記憶の領域だ。“俺”自身は入れない……入ろうと思えないし、内側が知覚できない以上、お前を外に出すこともできないんだよ……!」

 

 そう――それこそが、大きな問題。

 彼が、この記憶(せかい)をどうこうする権限のない、ただここに在るだけの存在なのだとすれば、当然外に出る権限もない。

 それでもここにあるものすべてがリッカのもので、僕自身が自由に出来るものではない以上、僕に芽生えた力のリソースにすることも出来ず、僕が単独でここから外に出ることは不可能だ。

 

「……何を、笑ってんだよ」

「決まってる。どうにかなるって信じてるからだよ。目を背けたいのは分かる。きっと、忘れ続けている方がリッカにとって、幸せなんだ」

 

 ならば不安か、と問われれば――否だ。

 

「でも――もしここにあるものを目にしたら、きっとリッカは思い直すよ。だってリッカ、死ぬほど負けず嫌いだもん」

「――――――――」

 

 彼が大きく目を見開いた、その直後だった。

 何か、部屋の外から声が近付いてくるような気がして、自然と廊下に視線を向けて。

 

 ――廊下から外に繋がる扉がぶち破られて、悲鳴と共に何人かが塊になって部屋を通り過ぎていった。

 

「は……?」

 

 彼には理解が及ばなかったようで、呆然と声を零す。

 一方で僕は苦笑しつつ、廊下へと出て行った。

 リッカはきっと、来ると思った。けれど、何があったのか――こんな状況になるとは、思っていなかった。

 

「痛った……角折れるかと思った……リッカ、死んでないでしょうね!?」

「……ん。私は、大丈夫」

「にゃ、にゃあ……自分の敷いたファイアウォールぶち抜きたいとか、言いたくないけど頭がおかしいにも程があるにゃ……」

 

 ――まさか、冥界で別れたアンニャ(スフィンクス)に連れられて、ここにやってくるなどと。

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