凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(15)

 

 

「リッカ……」

「ぁ……ユーリ……?」

 

 ラフィーナに支えられて、というより、半ば抱き上げられるように立ち上がるリッカ。

 その表情には焦りと安堵――そして、恐怖のような、怒りのような、複雑な感情が浮かんでいた。

 

「……見たんだ、ここ」

「――うん。リッカの秘密に、勝手に踏み入った」

「これで、二度目。あの時も、やめてって言っても、止まらなかった。ユーリの危機感の無さと、無神経さには、心底呆れる。最低だと思う」

「……いや、そこまで言わなくても……」

 

 責められることこそ覚悟していたが、そんな風に苛立ち混じりに言われるとは思わなかった。

 それもリッカの視線は、もうそういうものだから仕方ないと割り切っているような、やや生温かいもの。

 言いようのない居心地の悪さを感じ、思わずラフィーナに視線を投げる。巻き込むなとばかりに目を逸らされた。

 

「と……ところで、リッカ。どうやってここに……?」

「誤魔化した」

「ッ……」

 

 じっとりと、細めた目を向けてくるリッカに、どうして今こんなことを言われなければならないのかと返したい気持ちを堪える。

 そんな状況ではないにも関わらず、口喧嘩で言い負かされた時のような悔しさを覚えていると、やがてリッカは深々と溜息をついた。

 

「……別に。ユーリがあんなことして、反応まで消えたから……待っていられなくなっただけ。私自身解除できないファイアウォールだけど、いつの間にかいたこいつに解かせた」

「初仕事にしては規格外が過ぎるにゃあ……」

 

 リッカは足元で倒れているアンニャを見下ろした。

 ……アンニャが、いつの間にかリッカの空間内にいた……?

 冥界でリヒトとトーカを地上に送ってもらって以降は会っていなかったが、一体どうして……。

 

「にゃ……ナルラトの姉貴には言ってきたにゃ。出向ってやつにゃあ」

「それでよりによってこんなところに来るとか物好きよね。まあ、おかげでごり押しが効いたんだけど。流石は上位の魔族ね」

「精神の壁どうにかするならサキュバスのが得意な筈にゃ。なんで二人もいて、ここであたしがやることになるにゃ……」

 

 小声でぶつぶつと文句を言うアンニャ。

 ……ともかく、彼女がリッカたちをここに連れてきてくれたようだ。

 彼女に感謝すべきかもしれない。僕だけでは、この空間から出ることはできなかったのだから。

 

「――で、どうすんのよ、リッカ」

「ん……そこの部屋」

 

 リッカが指したのは、先ほどまで僕たちがいた部屋。

 ラフィーナに支えられて、ふらふらとリッカはそこまで歩いていって、呆然と立ち尽くしていた彼と相対した。

 

「……ぁ」

「……懐かしい部屋」

 

 ぽつりと、リッカは呟いた。

 それまで記憶の奥底――掘り起こせないほどの最下層に埋まった、小さな部屋。

 何も思わないわけがない。

 ここは、リッカとして“生まれる前”の世界。途方もない繰り返しの彼方に消えた筈の光景なのだから。

 

「――その、冴えない顔も久しぶりに見た。そんなに、なんの希望も持ってないって顔だっけ」

「っ……“俺”が言えたことかよ。俺は……虚勢を張らないと、立てもしないくせに」

 

 自分との対話は――互いに悪態から始まった。

 

「ん。もう、碌に歩けない。“二年前”みたいなこと……普通に無理」

「だろうよ……今の記憶だけを持っていて、それなんだ。ここにあるものは、“俺”が忘れているべきものなんだよ」

「……そんな、忘れないといけないものの中で引き籠ってたんだ。物好きだね」

「誰かさんのおかげでな。本来、“俺”がしっかりしていればこのやり取りだっていらなかった。余計なことをしてくれたな」

 

 表情を変えないまま、淡々と言い合う二人。

 そのやり取りに感慨のようなものは互いに感じられなかった。

 

「……ラフィーナ、何これ?」

「……自己嫌悪の発展形じゃないかしら。私は精神カウンセラーじゃないから知らないわ」

 

 思わずラフィーナに問えば、流石に彼女も予想外だったようで、呆れた様子で返してきた。

 お互い、言わずにはいられないということだろうか。

 過去の自分、未来の自分だからこそ、積もり積もった不満をぶつける機会なのかもしれない。

 

「相変わらず口が減らない……で? どうよ。前世の光景ってのは」

「……別に」

 

 僅かに迷う素振りを見せた後、リッカは彼の問いに短く答える。

 強がりでもなんでもなく、リッカはさほど感情を動かしていなかった。

 

「確かに……懐かしさは感じる。この部屋も、そこの廊下も。通学路も、もう一回歩いてみたい気持ちはある」

「……それだけ、なのか?」

「ここに仕舞い込んで、それでも風化して消えた記憶(もの)が多すぎる。友達も、家族も思い出せない前世に、それ以上何を思えっていうの?」

 

 ちら、とリッカは廊下の方を一瞥した。

 ここは、かつてのリッカの家。ということは、廊下の奥の扉の向こうには、リッカの家族がいるのかもしれない。

 けれど、リッカも、彼も、その扉を開こうとはせず、そしてその先へ行こうという気さえ感じられない。

 ――きっと既にその先には何もないのだ。リッカが取り零して、積もり積もったこの場所からも消え去って、どうやっても思い出せないものとなった。

 未練を感じるほどのものではないと、リッカは表情を変えないまま言い切った。

 

「もう私は、ここで生きた時間の何百倍も、“リッカ”として生きてる。前世を恋しいって思えるほど、転生初心者でいる訳じゃない」

「……掲示板知るまでは仕組みさえ知らなかったくせに、良く言う。そうだとしても……今の“俺”が、これだけの恐怖、これだけの後悔を背負えるのかよ」

「……」

「自分のことだから、分かるだろ? ここに溜まった絶望は、怨念の域だ。もうこれは、人が持っていていいものじゃない。それに……ここに“俺”の希望となるようなものは、何一つありはしない」

 

 やはり、彼の思いは変わらない。彼を形成しているのは、捨て去られた記憶だ。

 なんでもないように見えて、その大半は恐怖と後悔で構築されている。

 ここの存在をリッカが知ったところで希望の足しにはならないと、彼は自嘲した。

 

「ここをもう一度封印して、外へ帰れ。終点を迎えた“俺”が今更省みるより、消えてなくなった方が救いなんだ。いや、寧ろ……今抱いている後悔も全部置いていけ。後はゆっくり、休めばいい」

 

 自分自身がようやく諦めを選ぶ、その背中を押す。彼の選択は、それだった。

 自己嫌悪の気持ちもすべて捨て去り、やり切った結果なのだと思い込めば、本当の安寧が訪れる。

 リッカの妥協の結晶としての彼の誘惑は、ほんの少し前であれば、止めていたかもしれない。

 けれど、それは必要ないと直感した。ここに入ってきたリッカの様子がそれまでと違っていたことくらい、すぐに気付けていたから。

 

「……反吐が出る」

「は?」

 

 ――――とはいえ。

 かつての自分と言って良い相手なのだから、もう少し言葉を選んでも良いのではとは思ったが。

 

「卑屈で今にも折れそうな自分とか、客観的に見ると本当に鬱陶しい。なんかそれらしく励ましてくるかと思ったら、真逆の方向に背中押すだけ。そんなの求めていないし、ありがた迷惑もいいところ」

「――待て、ちょっと待て」

「情けない自覚はあったけど、ここまで酷いとは思ってなかった。旅に出た時のユーリより酷い。まだ、私に手を引かれてでも進もうって気があるだけ、ユーリの方がかわいげがある」

「今僕に飛び火する必要あった?」

 

 彼が言葉を挟もうとしても、リッカは止まることなく。

 何故か僕への攻撃までし始め、思わず反応してしまったが、リッカはこちらを一瞥するだけだった。

 ――ラフィーナがさもありなんとばかりに頷いていた。彼女は一体誰の味方なのだろう。

 

「今更、何言ってんだよ――そもそも、“俺”自身が諦めていたんだろうが。知ってるぞ、ユーリをどれだけ傷つけて、心を折ろうとしていたか」

「そんな昔のこと、もう忘れた。ユーリも忘れているはず。ね、ユーリ」

「あんなの一生忘れることないと思うけど」

「――ともかく、今の私は、これからのことを考えるだけで精一杯。過去を思い返すほど、呑気な生き方はしていないから」

 

 恨み節はやはりリッカにスルーされた。

 ……今のリッカの言い分を否定するつもりはないが、忘れられまい。

 あれがどれだけ続いても、僕は進み続けていたと断言はできるけれど。

 またいつか、三人での“当たり前”が戻ってきたら――いくらでも掘り返してやろうと思えるくらいには。

 ひとまず今は、これ以上は何も言わないでおく。それで、リッカがへそを曲げてしまっても困るから。

 

「それなら……なおさら、それ以上の重みを自覚して、進んでいけるわけがないだろ」

「……そうかもね。このまま封じ込めておくのが一番かもしれない。……けど」

 

 せめて忘れたままにしておけと。

 そんな彼の切実な忠告を、リッカは首を横に振って否定する。

 

「――私の中にあるのに、私の知らないことがあるってのは、もうたくさん。私が私であるために、これも全部、背負っていく」

「ッ……」

 

 それが、リッカの選択。

 宣言したことがきっかけとなったように――ビシリ、と空間に亀裂が走った。

 飛び散った破片はリッカの手元に集まって、沁みるように溶けていく。

 リッカがそれまで自己を保つために忘れていたものを受け入れた、その証左だった。

 

「私が私のことを気遣う必要なんてない。奪われたもの、失ったもの、回想(きおく)のすべてを糧にしていれば、私はまだ立って歩ける」

「それ、は……それは強がりでしかない。“俺”が一番理解しているだろ。いつか限界が来る……いや、限界はとっくに超えているんだ」

「ん。だから、これ以上無理をするのも大して変わらない」

 

 ああ――そうだ。これが、リッカの頑なさだ。僕と、リッカと、カルラの、最大の共通点だ。

 自分のやりたいことを曲げようとしない。互いの主張がぶつかって喧嘩になることはもちろんあるけれど、噛み合えばどこまでだって進んでいける。

 こうなれば、もう心配はいらないと――確信できる。

 

「……いきなり、何がそこまで“俺”を変えたんだよ」

「同じ“私”なのに分からない?」

 

 彼の困惑に、表情の変化は薄いものの、どこか得意げな様子になってリッカは続ける。

 

「今の状況をどうにかしてこの先を歩き続ける苦しさよりも――ユーリを諦めさせる方が、ずっと面倒臭い」

「――――――――」

 

 どうやら、僕はリッカとの根競べに勝つことが出来たようだ。

 ばらばらと部屋が、廊下が、異なる世界の景色が、パズルのように崩れていく。

 そして、その外側――レンガのような銀色の壁も解れて、リッカの手元へと取り込まれ、未定義の空間さえも溶かしていく。

 一瞬の浮遊感の後、僕たちは半透明な大きな箱の上に立っていた。

 

「……ここに“戻ってきた感”を感じるのがムカつくわ」

 

 色とりどりな箱が積み上がったり、浮遊していたり。

 それらで構成された、リッカの世界。もはや、その中にリッカの認識していない“不明”は存在しない。

 すべての未定義は検められ、ようやくそこは、統一された空間となった。

 ただ一つ、変わらずに残っていたのは、記憶から再現された彼だけ。

 

「……ユーリの心、か。そりゃあ、そうだ。ラスボスより手強いのは道理だわ」

「ここまで分からず屋なのは想定外だったけど。でも……そうだね。妥協する必要がないのなら、私だって、まだやれる」

 

 一秒ごとに、領域に変化が起きている。

 リッカが何かしら操作をしているようだが、そんな大仕事をしている素振りも見せず、僕に向き直る。

 

「それじゃあ……ユーリ。もう一度歩き始める準備をしよう。私は、何をしたらいい?」

 

 こうして――ようやく僕たちは、長い長い足踏みを終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん、もう一回言ってくれる?」

「キミたちに、頼みがあるんだ。まだ、先へと進むために」

 

 信じられないものを見るような目を向けてきながら聞き返してきたルメリーシャに、もう一度頼み込む。

 リッカは希望を持って、立ち上がった。目の前にある問題を解決する準備も整ったということ。

 その解決のためには、彼女たちの力が必要だった。

 

「そこじゃないよ。失った肉体の再構築なんて、出来るわけないじゃん。あたしたちヴァンパイアならともかく、お兄ちゃんみたいな人間が」

 

 即ち、ヴァージニアによって失われた僕の肉体の再構築。

 ルメリーシャの言う通り、そんなこと普通は不可能だ。

 他者の肉体を奪って活動するようなアンデッドにでもならない限り、人間は一度死んでしまえば蘇ることはない。

 リッカの繰り返しのような特殊な要因もない僕では、どうあっても諦めるほかないと、そう結論付けるのが当たり前だ。

 

「それとも、なに? お姉ちゃんの眷属(つかいま)になるって話、受け入れちゃったの? 確か、そうすれば外に出られるみたいな話、してたよね?」

「ううん――そうじゃない。たった一つだけあるんだ。“元通り”を実現する方法が」

 

 僕もそれを知識として持っていたわけではない。

 その“設計図”を認識したのは、新しい属性を自覚したのと同時。

 純白の属性によって齎されたというよりは、それを自覚しないと認識することの出来ない領域の技術なのだろう。

 旅の……或いは、ただ生きるための支えとなる救済策(かのうせい)

 手を伸ばせば届く場所にあるそれは、どうしようもない状況をたった一度だけ、“誤魔化す”ことのできるものだった。

 

 どうして僕が、内なる純白を自覚することが出来たのか。

 それはきっと、直前にあった未知との接触が要因だ。

 ここに集められた者の一人――僕がつながりを見出してこの領域に呼び出した、名状しがたき生命体が与えてくれた力は、これを自覚する手段の一つだったのだろう。

 

「……キミがくれた、これのおかげで、見つけられた。僕たちの可能性を」

「むげんのむこうを あなたが みたんだよ。 こなたは ほしをいるもの。 さあ きぼうをかかげて。 わたしは そのきぼうを かたちにする」

 

 相変わらずその言葉は、未知の言語を聞いているかのように頭に入ってこない。

 それでも、意味を紐解いて――そこでようやく、違和感を思い出す。今の僕は、真の意味での僕ではないと。

 

「――リッカ。僕の力、返して」

「……忘れてた。ん……これで、またユーリはつながりを感じられるはず」

 

 失っていたものは、リッカの一存であっという間に取り戻すことができた。

 つながりの輝きが再び、内に灯る。

 これは僕にとっての力であり、安心。一度自覚してしまえば、誰とのつながりもなくなってしまうのは、ひどく不安になるものだ。

 

 今ならば感じられる。リッカとのつながりも、彼とのつながりも。

 ()()なのだ。どちらもあたたかくて、優しく僕を支えようとしてくれている。

 心を閉ざしていても、彼とてハッピーエンドを目指す気持ちは存在している。

 ならば、それは叶えられるべきだ。彼もまた、リッカと共に苦痛の旅路を歩み続けたのだから。

 

「……それで。結局、どうするんだよ」

「絆を、希望を束ねる。みんなから受け取った、個々の属性が乗った魔力による想像結晶で、一度だけ、勇者の肉体は再構成できる」

 

 純白の輝きによって自覚した、世界に許された設計図(レシピ)、その深奥。

 如何なる失敗も、喪失も、すべてをなかったことにして体を取り戻すなんて都合の良い手段、普通は存在する筈もない。

 勇者にしか許されないというのならば、これもまた、魔王によって用意されたものかもしれない。

 ――今はそれでもいい。これが希望となるのなら。

 

「みんな。僕に――僕たちに、希望(ちから)を貸してほしい」




【リッカ】
まだまだ、苦しみは続くかもしれない。ここから希望なんて見えない。
けれど、ユーリを諦めさせるよりは……まあ、マシかもしれない。
魔族をけしかけてユーリをボコボコにしていた点はほとぼりが冷めた頃に気にし始めると思う。

【アンニャ】
ムルゼ霊山の冥界跡地、ネルガルの冥界で出会ったスフィンクス。
冥界からリヒトとトーカを脱出させた後、ひっそりとリッカの空間の中に入り込んでいた。
ここに、今のところ自分にしかなせない役割があると悟り、本当に仕方なく。

想像結晶(エレメント)
魔力属性を自己の解釈で結晶化する技術。
自然の魔力が凝固して形成される魔石とはまったく別のもの。
自己の解釈という点が特徴であり、属性が持つ意味合いさえ理解していれば、それを自在に改変し、仮想属性を形成することさえ可能。
ゲーム的には好感度次第で一キャラから一つだけ貰えるレアアイテム。

【希望躯体】
その者の最善の状態を再現する肉体。
鋳造(クラフト)するには、以前の肉体が再生不可能な状態となっている必要がある。
如何なる選択による後悔も、失敗による喪失も、肉体だけは元通りとなる。
それは死からのやり直しも同義。使用は一人の勇者につき一度だけ。
必要素材:異なる属性の想像結晶9個
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