凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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永遠にビー・ウィズ・U/今、終点の先で(17)

 

 

 今、振っている聖剣に込めた感情の正体を、しばらくの間、僕自身理解できていなかった。

 聖剣を持つ手が熱い。目の奥が熱い。喉の奥が熱い。

 息苦しい熱の中で、僕は戦っていた。

 

「やああああああぁぁぁ――!」

「焦っている……ううん、自棄になって、いるのかしら。らしく、ないわね、クイールちゃん」

「あなたがっ、僕を語らないでください!」

 

 これまで、戦う魔族に対して、こんなどうしようもないほどの怒りを感じたことなんて、あっただろうか。

 僕は勇者として戦ってきた。僕にとって、勇者とは魔族への怒りをもって戦う存在ではない。

 だからこんな気持ち、言語道断である筈なのに。

 

「このっ、このぉ!」

「逸りすぎだ、クイール! 少し落ち着きたまえ!」

 

 怒りが、憎しみが収まらない。

 どこまでも、どこまでも、激情は内から湧いてくる。

 力が入りすぎている。らしくない剣だ。そんなことは、分かっているのに。

 

「ッ、はぁ!」

「あら……ナディアちゃんまで。それじゃあ、二人の持ち味が、全然活かせないわ」

「誰のせいだと……誰の、せいだと――!」

 

 ナディアちゃんの巨大な武装から放たれる弾丸の嵐。

 それが、アリスアドラを仕留めてくれるのであれば、それでも良かった。

 きっとそれでも、ほんの少しでも僕の心は晴れる気がした。

 けれど、アリスアドラの手から零れた炎の如き魔力が、彼女に降りかかろうとした弾をすべて掻き消してしまう。

 消しきれなかった弾もアリスアドラには当たらなくて、奥で観戦していたネリネの足元を削るだけに留まった。

 

「っと、あっぶな……ちょっと、気を付けてよアリスサマぁ。こっちにまで飛んできてるんだけどー?」

「少しあなたは、危機感を覚えた方が良いわねぇ。そのくらい、自分で対処できないと……痛い目、見るわよ?」

「んー? それなら、その前にこなたの理想の世界を叶えないと。あと少し、あと少し」

 

 ――こちらを脅威とも思っていない、その余裕も、僕をとにかく苛立たせた。

 彼女の目的は、あの楔を使って、わけの分からない理想の世界を実現させること。

 それしか彼女には見えていない。自分がやる必要がないから、僕たちの対処にさえ興味がない。

 どうして――どうして、こんな魔族に、ユーリくんが。リッカちゃんが。

 どうして、こんな魔族が――僕たちの、苦しくても楽しかった旅に終止符なんて打てるのか。

 嫌だ……終わりたくない。こんな、嫌な思い出しかない街で終わるなんて、認めたくない。

 でも、リッカちゃんはもう二度と目覚めなくて。ユーリくんは、眠る顔さえ見ることが出来なくて。

 

「ッ……!」

 

 歯を食いしばって、目から溢れそうになる涙を、吐き気を堪える。

 こんなところで、泣いていたら駄目だ。

 そんなことをしていたら、ユーリくんもリッカちゃんも報われないじゃないか。

 

「ナディアちゃん!」

「ええ!」

「くっ……二人とも!」

 

 ナディアちゃんと息を合わせながら、聖剣の魔力を解放する。

 狙ったのは、魔王の楔。僕たちが破壊しなければならない、世界を変えてしまえる機構。

 いつまでも、そんなものに集中しているな。僕たちを見ろという怒りを込めて放った斬撃は、相応の威力を伴っていた筈なのに――

 

「……軽い。勇者の力とは、この程度だったのですね。こんな、こんなものに、ルメリーシャは……っ!」

 

 前に立ち塞がったヴァンパイア――ヴァージニアによって、いとも簡単に握り潰される。

 一切苦労した様子も見せないで、僕たちの怒りを涼しい顔で受け止めた。

 

「ほら、あまり怒らない怒らない。もう仇は討ったんでしょー?」

「……ええ。ですがまだ、満たされない。あの残った勇者も、その仲間も、すべて屠らないと」

「ふーん――なら好きにすれば? ああ、こなたを守ることは忘れないでね?」

 

 ……向こうが、僕たちに恨みを持つのは、理解している。

 彼女とだけは対等だと、理性では理解している。

 けれど今は、はいそうですかと受け入れることは出来ない。

 ユーリくんを手に掛けたのが彼女である以上、僕もまた、それを許すことなんて不可能だった。

 

「……三人とも。逃げる方が、良いんじゃないかしら?」

「――は……?」

 

 負けていられないと、聖剣を構え直した時、そんなふざけたことを、アリスアドラは口にした。

 

「……今、なんと?」

「ふぁ……、だって……今の、自棄になったあなたたちじゃあ、私たちには勝てないもの。冷静に、なりなさいな」

 

 眠気を隠さず、あくびをしつつも、彼女はそんな分かり切った正論を言ってくる。

 ああ、分かっている。分かっているのだ。こうして戦っていても、勝ち目なんてないのだと。

 ネリネと、ヴァージニアだけならまだどうにかなるかもしれない。けれど、今ここには四天王の一人がいる。

 きっとその強さは、風の四天王(バラルバラーズ)ほどではない。

 それでも、ユーリくんたちを欠いた今の僕たちには脅威に過ぎる。

 

「……クイール」

「……イリス。それでも、僕は……」

 

 ただ一人、冷静なイリスも、そちらの方が良いと思っている。

 どんなことがあろうとも、命より重いものなどないと。

 それも分かっている。ここで生きることを選べば、まだ何か出来ることがあるかもしれない。

 このまま戦っても僕たちに碌な末路はない。

 イリスも、ナディアちゃんも、僕の選択を尊重してくれる。それはつまり、このままこうして戦っていれば、最悪よりも最悪な結末は決まり切っているということ。

 ――ああ、それでも。それでも――アリスアドラの忠告が、善意から来るものであったとしても。

 

「――僕は――ッ!」

 

『ファイナライズ! スタンバイ!』

 

 この熱を吐き出さずに、この街を去ることなんてできなかった。

 聖剣を輝かせる。今の僕には、その輝きは重く感じたけれど、振り抜くことは不可能ではない。

 

「わたくしも、同じです。友を殺されて、黙って逃げ帰れるものですか!」

 

『2 - 1 - 8 >> [Accept] >> [DECODE]』

 

 ここからの僕たち、なんて難しいことを考えていられるほど、今の僕たちには余裕はない。

 駄目だと分かっていても、僕たちは止まれなかった。

 

「……その憎悪。ええ、共感は出来るけれど……がっかりね」

 

 共感なんて、求めていない。好きに落胆すればいい。

 その代わり、僕たちのこの激情を、受け止めてくれるのであれば。

 ああ――勇者らしくない。どこまでも勇者らしく在るって、誓ったのに。

 そんな迷いを噛み締めながら、聖剣にありったけの力を込めて、一気に――――!

 

「はぁ……また、微睡みに落ちてしまいそう。本当に、残念」

 

 そんな、心からの退屈を隠さない言葉と共に、ふらりとアリスアドラの体が揺れる。

 その素振りは知っている筈なのに、咄嗟に動くことが出来なかった。

 聖剣を振り抜くよりも、ナディアちゃんが大振りの刃を振り下ろすよりも早く、アリスアドラが手元に灯した魔力を僕たちに向けてきて。

 

「ッ、二人とも――!」

 

 聖剣を振り抜くことは間に合わず、その瞬間に理解したのは、イリスが僕たちの前に出てきたということだけ。

 イリスは外套を盾にして、火の如き魔力の奔流を防ごうとして。

 拮抗出来ていたのは、一秒にも満たない時間。

 次の瞬間には、イリスはその攻撃に巻き込まれて、魔力は僕たちをも蹂躙した。

 

「う――ぐ、ぁぁぁああああああ――――ッ!」

「きゃああああああああああっ!」

 

 感じていた怒りの熱さをあっという間に超える熱が、全身を灼いていく。

 アリスアドラはサキュバスだ――他の上位の魔族に比べて、一般的に高い戦闘能力を持っている種族ではない。

 それでも、彼女は四天王の一角。例外であって当然だ。

 

 体の内側までもを熱が引き裂いていく。外装なんてなかったかのように、限界を超えた痛みが襲い、喉が張り裂けんばかりの叫びで喉が瞬時に枯れていく。

 痛い、痛い、痛い――思ったように言葉は出なくて、頭がおかしくなりそうだった。

 けれど、永遠に続くかと思ったその痛みは途中でぷつりと切れる。

 力は入らない。体が自由になったという錯覚は一瞬だった。

 

「っ、く、ぁ……」

 

 気付けば、立っていた場所から吹き飛ばされて、地面に転がされていた。

 外装を維持していられる筈がなかった。

 まだ、死んでいない。けれど、生きていられることが奇跡なほどの重傷だということは、自分が一番理解できた。

 歯を食い縛って、力を入れていないと、今にも意識が飛んでしまいそうで、それでもイリスとナディアちゃんが心配でどうにか目を開けば――またも、認めたくない光景が広がっていた。

 

「……ぃ……ぁ……」

「く、そ……ふたり、とも……死んで、ない、ね……?」

 

 ボロボロなんてレベルではない。怪我なのか、服が焦げたのかも分からないほどに、ぐしゃぐしゃだった。

 もしかしたら、僕も同じ状態なのかもしれない。自分の姿なんて、見ている余裕はなかった。

 

「……復讐なんて、衝動でするものでも、ないのに。リッカちゃんには、遠く及ばないわね。あなたたちのそれは」

 

 先の場所から動かないまま、僕たちを見下ろしてくるアリスアドラ。

 その評価も、腹立たしかった。彼女の共感は、どこまでも認められなかった。

 なのに……文句も言えない。言葉に出来るほどの、気力も体力も、今の僕には残っていない。

 悔しかった。勇者なのに、ユーリくんとリッカちゃんの仇さえ討てない自分が、情けなかった。

 

「にしても……クイールちゃんがこんな道を、選ぶなんてねぇ。私、少しだけ怒っているのよ……?」

「っ……なに、を……」

 

 また、勝手な共感かと、そう言おうとして。

 

「……だって――ホープちゃんのことも考えずに、死にに来たわけ、でしょ?」

「――――ぁ」

 

 ――くしゃり、と、自分の奥底の大事なものが、軽い音を立てて崩れた気がした。

 壊さなければならない楔を譲ってでも、守らなければならないものを、疎かにしていたこと。

 それに今になって、アリスアドラに指摘されないと、気付くことさえ出来なかった。

 勇者の使命とホープと、どちらが大切なのか。いつかイリスに問われたことがある。

 二つとも大切だった。だからこそ、僕は最後まで勇者らしさを全うすると、そう決意して。

 最後の最後に、選んだのは復讐の道。

 

「かわいそうに。きっと今日も、あの子はあなたを応援して、帰りを待っているのに」

「……ぅ……ぁ、あ……っ」

 

 それじゃあ、僕は勇者失格で。ホープのママとしても失格で。

 何もかも中途半端なまま、ここで終わるのか。

 

「まあ……これもよくある結末、かしら――ネリネ、あとどれくらい掛かるの?」

「んー? あと五分くらいじゃないかな。そいつらはもうそのままでいいよ。何も出来ないだろうし、せめて最後に、こなたの星を一緒に見ようよ」

「……あら、そう。ふぁぁ……あなたがそれでいいなら、私は構わないわぁ」

 

 もう、誰が何を言っているのか、判別することも出来なかった。

 ごめんなさい、ホープ、と――言葉に出せずとも、謝罪し続けるしか、僕には許されていなかった。

 せめて幸せになってほしい、なんて、烏滸がましくて祈れなくて。

 最悪な心地のまま、僕もまた、二人に続いて――――

 

 

 

 

 

 

「――――リッカ、回復を」

 

「分かってる。三人とも、抵抗しないで」

 

 

 

 

 

 

 薄れゆく意識が、急にはっきりとして、全身の痛覚が蘇った。

 ――と思えば、その痛みもすぐに小さくなる。致命傷だったものが、ほんの数秒で、治せる程度のものにまで格下げされた。

 

「…………え?」

 

 一体何が起きているのか。

 あの魔族たちが、僕たちへの嫌がらせのために傷を塞いだのか。そんな考えすら浮かんできて。

 熱を取り戻した思考で――――ようやくその二つの声を、認識した。

 

「――ひとまずはここまで。あとはここを片付けてから、集中して治す」

「分かった。ありがとう、リッカ。それじゃあ僕たちは、三人を守りながら戦えばいいんだね」

「ん。出来る……よね? ユーリが急かすせいで、結局一回も試運転は出来ていない。ぶっつけ本番になるけど」

「やってみせる、でしょ? ぶっつけ本番なんて、いつものこと。僕は――リッカを信じて、全力を尽くすだけだよ」

 

 ――ほんの一時間前まで、当たり前に聞いていて。

 それでも、ひどく懐かしく感じる二人の会話が、聞こえてきた。

 そんな筈はないと、理性が訴える。聞こえた気がするのなら、それは幻聴に過ぎないと。

 当たり前だ。もう、二度とあの二人と、話すことなんて出来ない。認めたくなくても、受け入れるしかなかった。

 ……けれど、いつの間にかまた閉じていた目を、開きたくなった。そうすれば、目の前で奇跡が起きているような、そんな気がして。

 

「……ユー、リ、くん……リッカ、ちゃ、ん……」

「キミ、たち……本当に……?」

「ふたり、とも、どうして――」

 

 目を開くのに、どれだけ力を尽くしただろう。どれだけ勇気を振り絞っただろう。

 それで、二人がいなければ、今度こそ全部諦めてしまおうと心に決めて。

 ――広がっていた、明るい夜の景色には、もう見られないはずの二つの背中があった。

 

「遅れてごめん。それに、きっと心配をかけたと思う」

 

 魔族たちに隙を見せないように、振り向かないまま、僕に掛けてくれた言葉は、この上なく安心感をもたらした。

 やっぱり、ユーリくんに、リッカちゃんに、あんな最期は似合わない。

 こうして二人は、いつだって僕たちを驚かせて(安心させて)くれるのだ。

 

「けど、ここからは僕たちに任せて。絶対に、三人を守ってみせる」

「ぁ……っ」

 

 その、ユーリくんの言葉は、何よりも勇者らしかった。

 視界が涙でぐちゃぐちゃになる。邪魔だ――これじゃあ、見られないじゃないか。

 きっと今からあの二人は、これまでのいつよりも、凄いことを仕出かしてくれるのに。

 

「はぁ……? なんで生きてんのさ? キミたち、本当に人間?」

「人間だよ。キミたちに抗って、ハッピーエンドを目指す人間だ」

「……キッヒヒ。笑わせてくれるじゃん。――ま、なんでもいいや。アリスサマ、ヴァージニア、またよろしくねー」

「まったく――でも、確かに不思議。ユーリくん、リッカちゃん……一体、あなたたちに、何があったのかしら……?」

 

 目元を擦って、前を向く。

 首をおかしなほどに傾げて問いかけるアリスアドラに、ユーリくんは毅然と告げた。

 

「たくさんの協力者に助けられた。まだ僕たちは、諦めるわけにはいかなかったから」

「……そう。まだ、あなたたちは、諦めることを認められないのね。それは、とても、あなたたちらしいこと――だ、けれど……」

 

 ――アリスアドラが、皮膜のない翼を大きく広げる。

 今の僕では耐えられないほどの圧を、二人は真正面から受け止める。

 

「――あぁ……それは、いけないわ。ようやく辿り着けた結末……それに抗ってしまえば、立ち止まる終点さえ、分からなくなってしまうもの」

「立ち止まるべき場所は、僕たちが決める。ここが終点だっていうのなら、僕たちは満足する気はない。終点の先まで、走り切ってみせる」

「……それじゃあ、ここは何としてでも、生き残らないといけないわね。あなたたちの、ハッピーエンドのために」

 

 ……どこまでもあの四天王は、誰の視点に立っているのかわからない。

 けれど理解できたことは、彼女がユーリくんたちと戦うことを決めたということ。

 そして、ユーリくんたちに逃げるつもりはない。迎え撃つという覚悟が、その背中から感じられた。

 

「……あなたに言われるまでもない。やるよ、ユーリ――!」

「うん、一緒に行こう! リッカ――!」

 

 同時に掲げられる片腕。ユーリくんは右、リッカちゃんは左。

 その手の中指には、見慣れない“何か”が輝いていた。

 勇気の色と、冥界の色。中央にそれぞれの輝きを灯す、純白の指輪。

 そこから感じられる力は、聖剣に近くて――それでいて、まったく方向性の異なる強大なものだった。

 

「――どこまでも世界が、私たちの幸せを否定するのなら、私たちは最後まで抗い続ける。そのために、私は――くだらない自分の在り方だって許容する――!」

 

 あの力は、知っている。覚えている。少し前、その出力を試すために、二人に協力した。

 ここぞとばかりにそれを解放したということの意味。考えられるのは、たった一つだけ。

 だとすれば、見届けないと。二人の意思の結晶が、一体どれだけ素晴らしいのかを。

 

『インフィニティリンク!』

 

『エタニティリンク!』

 

 二人が触れた指輪が、それぞれ強い魔力を放ち、その輝きが一層増した。

 ああ――欲を言うのなら、あの二人の前に立ちたい。

 真正面こそが、二人の最高の瞬間を見るための特等席なのだから――!

 

「……先ほどから、ごちゃごちゃと。死んでも死なないのなら、死ぬまで殺すだけですッ!」

 

 ――そんな二人の邪魔をするために、アリスアドラを押しのけて、前に出てくるヴァージニア。

 空気を読まず、憤怒の形相で、もう一度二人を殺すために、彼女は血の色に染まった巨大な杭を投げつけてきた。

 本当なら、僕が止めないといけないのに、まだ体は動かない。

 けれど、ユーリくんもリッカちゃんも、それを気にしない。自分たちに突き刺さるよりも前に、やるべきことを終えるだけ。

 

「トランスコード! U-リッカ!」

 

 ユーリくんとリッカちゃんが拳を合わせ、指輪を重ねる。

 

『トランスコード! イグニッション!』

 

 二つの色が、二つの魔力が一つになって、奇跡の扉を開く。

 

「なっ……!?」

 

 輝きの中から、爆発するように飛び出した、新しい灯。

 赤、青、黄、緑……重なった指輪が放つ鮮やかな色彩。

 それらは二人を守るように前に出てきて、血色の杭は二人から逸れ、左右の建物に突き刺さって大爆発を起こした。

 爆発の中で、二人は健在。九つの色彩が二人の周囲を舞い踊り、無粋な妨害を寄せ付けない。

 そして、その輝きたちがもう一度、二人に収束して――!

 

『オールリンク!』

 

 輝きが最高潮に達し、二人を完全に覆い隠す。

 

「ッ、ピカピカと、鬱陶しい……っ!」

 

 それをまた、ヴァージニアが邪魔をしたらしい。

 今度こそとばかりに近付いてから振るわれた爪は、輝きを引き裂いて――そこには、既に二人の姿はなかった。

 復讐に染まった目を見開いたヴァージニア。

 辺りを見渡す彼女に続いて、僕もまた、二人がどこに行ったのかと左右を見て、その姿がないことで、自然と後ろを向き――。

 

 ――――新たな輝きを見る。

 

 何か物体に刻まれるのではなく、空間に広がっていく、格子状の光。

 その色は、ナイトラクサの夜を塗り替えるような純白。

 なんだろう、と思っている内にパラパラと、まるでパズルのように、分かたれた空間が零れ落ちていって。

 まるで内側にいた誰かが焦れたように、残った破片が外側に弾き飛ばされた。

 

 砕け散った破片が辺りへと散らされる。冬の粉雪のように、或いは、これでもかと集めたラメの粉を撒き散らしたように。

 あまりあの二人らしくない演出過多に、思わず笑いそうになってしまった。

 けれどすぐに、その気持ちは上書きされる。おかしさを超えた、感動に。

 

 ――光の向こう側から、ゆっくりとした歩みで出てくる、見たことのない姿。

 その純白の中でよく映える、黒い外装。

 しかし、純黒でありながら、先ほど纏っていた色彩が夜空の星のようにきらきらときらめいて、己の色も忘れるなと主張する。

 全身に走る、魔力を通すためのラインは、勇気と冥界の二色が交じり合って輝き、二人の力を巡らせる。

 少しだけ不安になる軽装。それでも、雑な仕事をリッカちゃんがする筈がない。これまでのどの外装も比較にならない、圧倒的な防御力を持っていることなど、容易に想像できた。

 

 頭部から左右に伸びる、大きな双角は威圧的だけど、小洒落た軽装と不思議なまでに調和している。

 そして、星空の外装も、輝く魔力のラインも知らないとばかりに、全身に不規則に張り付く、白く細い蔦のような紋様。

 それは、二人の自由を奪うように絡みついているようにも、むしろ二人がそれを完全に制御して守りに利用しているようにも見える。

 口元の紋様は双角にまで伸びていて、その姿はまるで、おとぎ話に出てくる、目の前の相手を嘲笑する“悪魔”のようで――。

 ――ああ、わかった。

 道化師だ。あれは、自分たちを認めないあらゆる不条理を嗤い、そして世界を遊び行く道化師を模した外装なのだ。

 

 ユーリくんの、固く、鋭く、貫く意思。リッカちゃんの、理不尽に抗う反逆の心。

 それらが完全に一つとなった、自由にして自在の象徴――。

 

『パーフェクトユニゾン! ビー・ウィズ・U-リッカ!』

 

 ――敵わないなぁ。

 

 そんな、諦めにも近い悔しさのようなものを覚えつつも、胸が熱くどくどくと高鳴る感動は、抑えることが出来なかった。

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