凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――戻ってきた、と不思議な充実感を覚えていた。
勇者の使命とは外れた、長い、長い寄り道から帰還して、ナイトラクサの景色を視界に入れて。
クイールたちが危機に陥っていたのは、正直なところ想定外だった。
リッカは戻ってくるタイミングを――死んだ直後に調整したようだったが、まさかここ一番でそれを失敗するとは。
倒れているクイールたちを見たときは背筋が冷たくなったし、リッカも内心焦っていたと思う。
ギリギリで、手遅れとはならなかったとはいえ、僕たちのせいでこのようなことになっていたのだろう。
精一杯、挽回しなければ。僕たちが辿り着くべくして辿り着いた、高みの力で。
「……リッカちゃんが特別なことは、知っていた、つもりだったけれど。まさか人の魔法で、ここまでの力を実現できるなんて」
踏みしめる一歩一歩が、重かった。足を鎖で縛られているようだった。
駆け出すことはできなくて、外装のお披露目は笑ってしまうほど、思い通りにいかなかった。
「キ、ヒハ……なにそれ。虚仮脅し? まるで、その光……こなたが見ている――」
――それでも、これまでのどんな時よりも、力は溢れてくる。
慣れるのには時間がかかる。けれど、問題なく動けるようになったとき、発揮できる力は凄まじいものとなる。
何故ならば、これは――。
「ッ、そんなはずない! キミたちが、こなたよりあの空の向こうを理解できるはずがない! ヴァージニア!」
何故ならば、これは、この外装は、僕とリッカで組み上げたもの。
僕たちが必要だと思う力を話し合って、リッカに魔法を教えてもらって、役割分担して構築したもの。
魔法を習うことが出来たのは僅かな時間だった。だが、確かにこの魔法には、僕の感覚で組んだ、僕の術式が混じっている。
それが、リッカ自身の術式と結び合い、実現したこの外装は今までのどれとも異なる性質を持つ。
「ええ――命令されるまでもない。あの勇者は、何度でも私が殺す!」
これまでの外装の大半は、リッカが外装となり、僕がそれを纏うことで成立していた。
その技術が確立された時点で、必ずしもリッカ自身が外装とならなくても良くなった。
であれば、二人で一人の勇者として戦い続けるために、より適した形とは、どうなるべきか。
――外装の内側、肉体の情報が曖昧になるからこそ実現できる、人間としては異質で、それでいて僕たちの在り方の理想形。
僕たちが完全に一つになった、“究極”の状態。
「死になさい――!」
逸ったように地面を蹴って、こちらに向かってくるヴァージニア。
もう、先ほどのような失態は侵さない。その動きを注視し、リッカと意識を統一させて。
――リッカ、いける?
――ん。息を合わせて。せえ、の……っ。
「っごふ……!?」
拳を叩き込む。その瞬間の体に重みは感じず、集中していなければ意識が追い付けないほどの速度で、腕は動いた。
吹き飛んだヴァージニアは、アリスアドラとネリネを通り過ぎ、その奥に屹立していた魔王の楔に叩きつけられる。
「バッ――何してんのさヴァージニア!? これが、どれだけ大切なものか分かってんの!?」
「ぐ、ぅう……!」
そのくらいでは、あの楔は壊れない。
罅一つ入っていないあれには、まだネリネが刻み込んだ“願い”が残っている。
ネリネが動揺して、それを刻む手が止まったが、それではまだ、安心はできない。
あの楔がある限りは、タイムリミットは刻一刻と近づいているといえるのだ。
油断はしない。だけど、いけるという確信はあった。だって、今ここで戦う僕たちの状態は、僕たちのこれまでの歩みの結晶なのだから。
「ほら、いきなよ! 誰がキミを治してやったと思ってんの! その恩に、少しは報いろってば!」
「くっ、つ……い、言われずとも……っ! 人間如きに、私が……負けるはずがない!」
この外装、この状態で、万全の戦いをするために重要なことは単純明快。
リッカと極限まで意識を同調させること。
これまでの外装のように、どちらかが主体で体を動かすという独断はできない。僕たち二人が、ぴたりと同じ行動を選択する必要がある。
そして、それは――もう、難しいことではない。
これ以上ないほどに近く、強固にリッカとつながっているこの状況であれば。
「このっ、このぉ!」
注視する。その動作を細部まで見て、そのつながりから行動を読み取る。
振るわれる腕の速度を超えて動くことが、この状態ならば叶う。
首を断とうとする爪、肩を捩じ切ろうとする爪、それらを最低限の動きで回避していく。
「どうしてっ、当たらない――! それならぁ!」
苛立ちを爆発させるヴァージニアが指を大きく広げ、その爪にありったけの魔力を込めたのが分かった。
「これなら避けられない! 後ろの女たちを守りたいんでしょうっ!?」
もしも、それを躱せば、振るわれた爪に滲む魔力は背後にいるクイールたちを襲うだろう。
今のみんなは防げない、僕たちは受け止めるしかない。そんな確信を抱き、ヴァージニアは狂喜を浮かべている。
「はは、はははははは――ッ!」
「――――」
ならば、やることは一つだ。僕たちはそれを躱す手段を選べない。
動くことなく、それを受け止める――!
「――――は……?」
内側にまで響く衝撃。しかしそれは、僕たちを傷つけるには到底及ばない。
叩き込まれた魔力を霧散させ、威力のすべては外装の守りに溶けていく。
――リッカが外装を作るうえで重要としていたのが、防御力。
僕たち人間は魔族を前にすれば、簡単に死んでしまうのだから、戦いで傷つくことがないように――。
そのコンセプトは、当然この外装にも備わっている。僕たちの集大成である外装の強固さは、これまでの外装とは比較にならない。
「なんで――なんで、効かない……!?」
困惑と共に、二、三と爪が振るわれるが、威力は極限まで殺され、外装には傷もつかない。
――このくらいでいい、とリッカの判断。
自棄になったように拳が握られ、胸のど真ん中に伸びてきたそれを、手で受け止める。
そして、リッカの意思に沿うように膝を振り上げ拳を弾いて――こちらも拳を作り、左、右とヴァージニアに叩き込む。
「ぐっ、あ――!」
たたらを踏む彼女に再接近し、手元に集めた魔力を解放。
放たれた波動はヴァージニアを吹き飛ばし、烈風に乗って灰がばらばらと舞っていく。
――慣れた戦い方ではない。これは、リッカが主体となった動き。
どういう経緯で身につけたのかは分からないが――その格闘戦の技術は、前世で得たものなのだろう。
今のリッカは、それを試したくてたまらないという様子があった。
「な……にを。な、なんでこんなことになってんのさ!?」
倒れ込むヴァージニアを見下ろして、ネリネもまた、困惑を見せた。
その星のきらめく瞳を揺らし、癇癪をぶつけてくる。
「そんな力があるとか、聞いてないし! ふざけるなよ! さっきの情けない死にざま、なんなのさ!? 死んだふりだったの!?」
「……確かに、あの時、死んだよ。この力も、それから今までで完成させたものだ」
「一時間も経ってないじゃないか! こんな短時間で蘇って、強くなる? そんな都合のいいこと、あるわけないだろ! バカみたいなどんでん返しで大逆転なんて、現実であって堪るかよ!」
そう――たった一時間でなんとかできるわけがない。
リッカの深奥に辿り着くまでだって、果たしてどれほど掛かっていたか。
それだけではない。リッカはここぞとばかりに、時の力を利用した。
リッカの内部の空間であれば、より自由が利く。時を止めることも、逆行も、あまり負担は大きくならない。
それを良いことに、リッカの悪巧みは実行された。
「ん……短い時間じゃなかった。私の感覚では、一瞬でもあるけど――どのくらいだろう。一、二ヶ月くらいは、掛かったんじゃない?」
外装の構築が終わるまでの時間を、あの領域で過ごした。
そうして、準備が万全になったところで、外の時間を調整して目覚める――。
旅をし始めてから今までには及ばないが、一つの場所に留まるのには長い時間だった。
「意味の、分かんないことを……! 早く立ちなよヴァージニア! アリスサマも、なにを突っ立ってるのさ! あんな奴、さっさと倒しちゃってってば!」
「……出来るかしらねぇ」
ネリネの懇願に、アリスアドラはぽつりと呟く。
目を薄く開きながら、こちらを見つめるその姿は自然体で、一切隙がないが――。
今の僕たちならば、決して劣らない。
そしてアリスアドラの方も、僕たちを“対等以上”の相手だと認識している。
「な……っ、へ、変なこと言わないでよアリスサマ! それじゃあ――こなたの願いは!? 今更叶いませんとか、そんなの無いじゃん!」
「……そうね。そんなの、あり得ないわ。なら、私も……頑張らないと、いけないわねぇ」
それでも、彼女が退くことはない。楔を守るためではなく、ネリネの願いを守るために。
ネリネに強い感情を抱いているわけではない。そこにあるのは、アリスアドラの性質ともいえる共感。
その望みに、その恐怖に共感し、それを守るためならば命を懸けられる、と。
「譲れないものって、あるわよね。それを通すことが、どれほどの困難か、分かっていても。それは、人間も、魔族も変わりないわぁ」
「……そうだね。僕たちもまた、諦められないから戦っている。ここでその楔を、譲ることはできない」
「それならお互い、全力を尽くしましょうか。今日ばかりは……眠いとか、言っていられないわね」
ほんの少しの、静寂。互いに、相手の戦意を確かめるための睨み合い。
静かな拮抗が崩れたのは、ヴァージニアが立ち上がろうと爪に力を込め、地面を削った音に僅か意識が向いた瞬間。
「ふっ――――」
意識が動くと同時、反射的に突き出した拳が、アリスアドラのそれを弾く。
その様子を視認したものの、拳の先に衝撃は感じず、煙でも殴ったかのように手応えはない。
だが、だからといって疑問は抱いていられない。
そこに空いた思考の空白は、アリスアドラにとって絶好の隙となる。
こちらの懐に飛び込んでいた彼女の拳を受け止め、距離を開ける。対して、アリスアドラは追ってくることなく、握っていた拳を開いた。
まるで、手の内に隠していたものを明かすように。
放たれた強烈な光。
ナイトラクサの大通りを昼間のように照らす輝きが、目の前で解放された。
目的は単純、目晦ましだ。それ以外に、この光は僕たちに悪影響を与える効果を持っていない。
しかし、アリスアドラほどの魔族であれば、一瞬であってもその姿が見えなくなること自体が脅威になる。
相手の不意を捉え、瞬時に攻め込むその圧倒的な格闘の技量。それは多少鍛えたところで追いつけるものではない。
この不意で彼女はどう動くか。僕たちの背後を狙うか、あえて真正面から攻めてくるか、はたまたクイールたちを襲い人質にするか。
彼女がどれを選ぶにしても、僕たちの選択は変わらない。
体勢を低くし、滑るように迫るアリスアドラを捉え続け――その背後に立つ。
「――なんで……っ」
「見えていたから」
暗闇も、その逆の明るすぎる世界でも、この目は潰されない。
これは、どのような相手であっても、それを上回り、決して前に進むことを阻まれないための力なのだから。
「っ……」
振るわれた尾を躱し、反撃。
深く入ってはいない。咄嗟に飛び退いて衝撃を最小限にしたアリスアドラはそのまま翼を大きく広げ、その手元に火を伴った魔弾を生成する。
「あまりこういうのは好きじゃないのだけど……そこまであなたたちが強くなっているのなら、試してみたくも、なるわよね?」
その魔弾を浮き上がらせ、アリスアドラはそれを殴りつける。
込められた力が一気に増大し、巨大化した魔弾が押し寄せてきた。
――焦ることはない。そういう攻め方をしてくるのであれば、利用するだけ。
「リッカ」
「ん――大丈夫、いける」
触れればその威力が解放されるだろう魔弾を“捕える”。
半透明な箱に包まれながらも、こちらに接近してくる巨大な魔弾。そこにもはや、僕たちに対する脅威はない。
迫った箱を蹴り返す。しかしアリスアドラもまた、反撃を黙って受け入れることはなく、空高く蹴り上げた。
上方で大爆発を引き起こし、辺り一帯の建物にその衝撃が降りかかった。
瓦礫や割れた窓が、アリスアドラたちも、僕たちも関係なく切り裂き、押し潰そうと降り注ぐ。
「――――――――」
それに対する僕たちの選択は、リッカが持つ“時”を僅かに使っての、時間感覚の引き延ばし。
集中するための時間を確保し、対処のために動く。
瓦礫の雨をすべて吹き飛ばすとか、そんな力押しでは間に合わない。
二秒後に襲い来るそれらから、クイールたちを守る方法――それを、リッカは持っていた。
一つになっている僕は、リッカに合わせ、一つ、呼吸をするのみ。
こればかりは、この外装を纏っていても――リッカに任せるしかないことだから。
ゆらり、と空間が揺れて。
引き延ばされた時間感覚が元に戻り、瓦礫の山が落ちてくる。
何も策を講じていなければ、人であれば簡単に押し潰されてしまうし、魔族であっても無事ではいられないだろう。
そんな中で、どうして僕たちは冷静でいられたのか。
「生ある者、死せる者。意思がある限り誰しも、自分の世界を持っている。拒絶し、受容し、自分のすべてを受け入れる理想の世界を」
濛々と立ち上る土煙。
しかし、衝撃は一切ない。轟音は壁を隔てた向こうから聞こえているようだった。
「誰とも共有できないからこその自分の世界。その前提を崩してしまえば、この世界に意味がなくなる。自分の世界とは、自分以外に意味があってはいけないんだ」
「っ……僕、たち……生きて……?」
もちろん、クイールたちも無事だ。そもそも、彼女たちを傷つけないために、リッカは“それ”を使ったのだから。
リッカに仕損じたという不安はない。
元より、難しいことではなかった。それまで、ずっとやっていたことの幅が、ほんの少し広がっただけ。
「それが叶うからこそ、ぼくの兄妹は冥界を創った。誰しもを受け入れる、自分の
かつての自分と一つになることで、リッカはそのコツを容易く掴んだ。
まるで、かつて当たり前だったものを、取り戻したように。
「――もちろん、ぼくから零れた欠片一つで叶う筈がない。なのに、それがぼくたちに並ぶ
内と外とを隔てる、銀色の靄。この内側は、リッカが決めたリッカの領域。
リッカが拒絶するのならば、何が襲い掛かって来ようとも受け入れない。
外へは干渉できない。その代わりに、外からの干渉を認めない。引き籠れば、静かな安寧が約束される領域。
「入るは易く、出るは難し。そんな大原則もいらない。入るも出るも、主の思うがまま――何故ならその主は、こんなにも理不尽なのだから!」
「――――その、声は」
土煙が晴れていく。瓦礫の向こうで、アリスアドラがこれまでにないほど、目を見開いていた。
その困惑を受け止めるのは、いつの間にか僕の傍に立っていた存在。
いつの間に出てきたのだろう。捻じれた角も、七色の髪も、ナイトラクサの真ん中にいるには異常すぎるほど浮いていた。
「認めよう、リッカ! ぼくの名を持つキミが有するその世界! キミがその理不尽を取り戻し、目指す幸福へと歩き出したご都合主義! 他の誰にも否定はさせないとも!」
リッカには動揺はなかった。
もしかすると、リッカが許可したのだろうか。その存在が、この場所に現れることを。
「前置きが長い。やるなら、早くやって」
「いいともさ。大いなる目覚めへの
その存在は僕たちの肩に一度手を置いて、前に出てくる。
困惑するアリスアドラ。何が起きているのかわからないといった表情のネリネとヴァージニア。
そして、背後からクイールたちの困惑さえも飄々と受けながら――バルハラは大きく腕を広げた。
「静聴せよ!」
高らかに張り上げられた声は、ナイトラクサ中に響くのではと思うほどだった。
突然なんなのかと思うも、やはりリッカは冷静にそれを受け止めている。
「境界を越え、昏きバルハラの分け身として形作られ! 合わせ鏡の過去を糧に未踏の未来を切り拓いた例外の極致!」
――いや、冷静と言い切るのは、少し違うかもしれない。
バルハラの言葉に、静かに――それでいて誰よりも心を躍らせているのは、他でもないリッカなのだから。
「その名をリッカ! 遥か外界より受けた恵みを昇華させ、たった一人のための領域を創造せしめた超越者!」
誰もが困惑する中で、たった一人それを、どこか楽しそうに受け入れるリッカにとって――それは憧れの一つだったのかもしれない。
「――――祝え! 最低最悪にして、最高最善たる、第八の冥界!
【ビー・ウィズ・U-リッカ】
取り戻すべきすべてを取り戻したリッカと、リッカの深奥を理解したユーリの二人によって成立する、U-リッカの最強フォーム。
その姿はリッカの復讐の始まりである『オズマフューリー』の面影を残し、冒涜的な触手の鎧は纏っていないものの、悪魔の如き巨大な双角はかつてのそれを超える威圧感を放つ。
ユーリとリッカが思い描いたコンセプトを下地に、ユーリに発現した第三属性『狂気』と、リッカが取り戻した“理不尽”によって創造された冥界の権能を組み込んだ、二人の成長の集大成。
「これまでの外装の力、全部使えるようにするとか……いや、欲張りだとは思うんだけど」
(……なんか、今回が始まった頃に“それだけはやらない”って決意した覚えがあるけど……まあ、いいか)
――――『聖都での平穏』の頃にあった一幕。
【リッカ】
ここにいるのは、打ち倒すべき敵と、信頼する仲間。ならば取り戻したものを隠しておく必要もない。
そんな決意をちょっとした建前に、復活した記憶の中にあった“あること”をやることにした。本来のエンタメ気質の発露。
バルハラの欠片としての真名を『
バルハラの名として強い力を持った方ではあるようだが、当然ながらかれら混沌の分体と同様の冥界を創造することなど不可能。
その真名の可能性を発展させ、それを可能にしたのは――リッカが生まれたときから持っていた“
【バルハラ】
「これは……祝わねばなるまい!」