凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
高らかに歌い上げられた、リッカに対する祝辞。
それは、この世界に新しい秩序が生まれ落ちたことを意味する。
母が子の誕生を祝福するのと同じ。
本来、超常の者たちにしか許されない理を、リッカはバルハラに依らない力によって成し遂げ、そしてそれはバルハラ自身によって認められた。
ゆえに、リッカは誰に憚ることもなく、その力を振るう。
「……どうだい? ぼくたちは元より舞台装置。狂言回しもお手の物さ」
「――及第点。なかなかだった」
別に誰に言うようなことでもないのでは、と僕は思っていた。
しかし、リッカはこうして、バルハラに大々的に告げさせることを選んだのだ。
静かに流している風のリッカだが、気分が良くなっているらしい。
「冥界……だって……? リッカ、くんが……?」
「それって、この前、行った場所……みたいな……?」
「似て非なるもの、だねぇ。死者を際限なく受け入れはしない。他の冥界と同じとは、口が裂けても言えない。ただ、自分たちの幸福に向けて歩むためだけの機構……そんなことのために、一つの世界を運営するなんてねぇ」
「……出来る力があって、その力の使い方を学んだ。権利があるのなら、好きに使わせてもらう」
リッカのための、リッカの世界。あの領域は、言うなれば冥界の卵だった。
まだリッカが正しい在り方を知らなかった――忘却していたからこそ、リッカの内にある領域だけでしかなかった。
「では……リッカは、人ではないものに、なってしまったと……?」
「そんなことはないさ、ネシュアのお姫様。人のまま、この子は常識の外に踏み出した。だからこその理不尽だ。キミはこれまで通り、リッカを信じてあげておくれ」
しかし、リッカは失われていたものを取り戻した。
その中にはその領域を運営するためのノウハウもあったということ。
己の力を完全に把握したリッカによって、その領域は冥界という形へと昇華された。
ただ、復讐のために魔族を収容するだけのものではない。外部への干渉さえ叶う領域へと。
「――さて。そういう訳だけど。リッカがここまでの才を持っているのは、予想外だったみたいだねぇ――可愛いアリス?」
祝辞を終えたバルハラは、不敵な笑みを湛えたまま、アリスアドラに目を向ける。
「…………」
「キミがこの子を気に入っていたことは知っているよ。キミが気に入らない筈がない。けど、この子はとうとうキミの共感の埒外に行ってしまったんじゃないかい?」
「……そう、ねぇ」
見開いた目。それ以上の劇的な変化は、アリスアドラにはなかった。
バルハラに出会うきっかけとなったのは彼女だ。まったく無関係な存在だということはあり得ない。
しかし、アリスアドラの困惑はゆらゆらと揺れながら、収まっていく。
その異常事態を、即座に受け入れたように。
「……ええ。それが、どうしたの?」
「へぇ――?」
「私の共感を、誰に共感される必要もないわ。私の価値観は、私だけのものでいいの。誰に理解されずとも……私はすべてを理解する。だから――」
翼を大きく広げ、アリスアドラから放たれる、魔力に混じった膨大な“淫気”。
それを、リッカの領域との境界は万全に防ぎきる。
内部への影響はなく――それはじわじわとナイトラクサへと浸透するのみ。
「ええ――私は、ユーリくんとリッカちゃんに、これ以上進ませる訳にはいかないの」
「……そうかい。それなら、ぼくも忠告はしないさ。ただ、ぼくはこちらの味方、だからねぇ。ぼくもまた、ぼくの勝手にさせてもらおうか」
戦意を滾らせるアリスアドラに微笑みを向けたあと、バルハラはこちらに向き直る。
ぐるぐると何重もの輪を描く、銀の瞳。もう、それに沈められるような感覚は、なかった。
「キミたちはぼくの思う以上の成長を果たし、そして世界を変えようとしている。いいだろう、ぼくはそれに投資しよう。ようやくキミたちは、真にこの力を使うに相応しいキミたちになった」
その体がきらりと輝き、輪郭が薄れる。
バルハラの姿が解れ、その内から現れるのは、一振りの武装。
黒と銀で彩られた大斧。
それを手に取れば、吸い込まれそうな圧の向こうで、凄まじい力が駆動を始めた。
「それは『バルハリオン』。ぼくの名前をいくつか込めてある。好きに使いたまえ。きっと、色々な使い方があるだろうさ。さあ、行きなよ――トリックスター」
そんな言葉を最後に、バルハラの意識は消えていく。
ここまで付いてきていたバルハラは、あの迷宮で出会った存在の分体。
その本来のかたちは、この武装だったということだろう。
「――ユーリ、くん……リッカちゃん……っ」
「もう少し待っていて、クイール。ここは、僕たちがどうにかする」
初めて持つ武器。とはいえ、使い方は伝わってくる。
その重みを、その力を感じながら、リッカが形成した領域の外へと踏み出していく。
「……勝手に共感されても迷惑。私の幸せは、私の道は、私の信じた者だけが知っていてくれればそれでいい」
「ふ、ふ……変わったわねぇ、リッカちゃん。初めて出会った、不信だらけのあの頃から。私、嬉しいわぁ」
「……話、通じない。まあいいか。これ以上話す意味もない」
アリスアドラはどこまでも、リッカに共感を向けようとする。
しかし、もうそれは必要ない。どこかで、それを受け入れる選択肢があったのだとしても、少なくとも今は違う。
リッカはそんなものに依存せずとも、前に向かって歩くことが出来る。
――共に、歩いて行ける。
「さっさと片付けて、クイールたちの傷を治す。やるよ、ユーリ」
「うん――全力で、ハッピーエンドへの道をこじ開ける」
斧を構えたと同時、アリスアドラが眼前に迫る。
胸元に叩き込まれた拳は、違う外装であれば無視できない衝撃だっただろう。
だからこそ、受け止めた。もうこれ以上、魔族の好き勝手に振り回されたりはしないという意思を込めて。
それに対して、アリスアドラの動揺は少ない。
即座に引っ込められようとした腕を、逃がすまいと絡め取る。
――外装に開いた孔から伸ばされる、無数の星のきらめく触手によって。
「これは……、づ――――ッ!」
動けないアリスアドラに向けて、力任せに振るった斧。
刃に纏わせた、金色と銀色の交じり合った魔力が、その破壊力を解放した。
飛び散る淫気に満ちた血は、吹き荒ぶ熱風によって瞬時に蒸発する。圧倒的な威力が周囲の瓦礫も、建物も吹き飛ばす。
アリスアドラから断たれた腕は、落ちるより前にパラパラと消えていく。
腕を断つだけに留まらない。アリスアドラを斜めに裂くように刻まれた切り傷は、耐久に優れない魔族であれば一撃で致命傷となり得るものだった。
「か、はっ……!」
「っ――どきなさいっ!」
立て直そうとするアリスアドラ。
しかし、その脇腹を殴りつけて退かし、奥からヴァージニアが駆けてくる。
血走った目。紅潮した顔色。その様子が、正気ではないことは明らかだった。
「どんな小細工を弄そうとも――私は負けられない! そうでなければ、誰がルメリーシャの無念を晴らせるのか!」
鋭く伸びた爪が、幾度も振るわれる。
ヴァージニアの怒り、その復讐心はリッカのものとはまた違う、しかし純粋なもの。
何をもってしても復讐を果たそうとするその意思を、僕は否定することは出来ない。
けれど、屈する訳にもいかない。
僕たちの決意が、この外装を造っている。ヴァージニアの怒りに劣っていると認めるなど、出来る筈もないのだ。
「――負けられないのは、僕たちも同じだよ」
「私の憎悪と、同列に語るな! 何も失ったことのない人間風情が!」
ヴァージニアはこちらを蹴りつけ、反動で距離を離す。
何をする気なのかと動きを注視していれば――彼女はネリネの首を掴んで自分のもとに引き寄せる。
咄嗟のことで対処できなかったのだろう。長い尾で掴んでいた植木鉢が落ち、呆気なく砕けて、内から伸びていた触手が力なくその場に転がった。
「がっ……! な、なにさヴァージニア!?」
「もっと力を寄越しなさい。ルメリーシャの毒を。まだあるのでしょうっ!?」
「ば、バカじゃないの? あんな毒、これ以上打ったら……ぐっ、が……ぃぎ……!?」
ギリギリと首を締め上げられるネリネは、どうにかヴァージニアの手を引き剥がそうとする。
しかし、力の差は歴然で、それを分かり切っているのかネリネの表情には恐怖が浮かんでいる。
「寄越せと言っているのです! それともここで、私に縊り殺されますか! あなたの血でも飲み干せば、少しは糧になる!」
「ひっ、ぃ……!? わ、わわ、分かったよぉ! これ! これを……っあ!?」
どこからか手元に転移させた注射器を奪い取り、ヴァージニアはネリネをその場に転がす。
「ッ、くそ……負け犬のくせに……っ、ああ!? ま、待って、星が……こなたの星の子が!?」
力をなくし、枯れてしまったような、星の触手。
それを必死で搔き集めるネリネには、先ほど初めて出会った時のような、こちらを見下す余裕さは残っていなかった。
「そ、そんな! そんなぁ!? どうして――うそ、嘘だ!? こ、こなたの……っ!」
干物のようになってしまった触手を手の中に集め、くっつけようとしているらしい。
しかしそれにまったく意味はなく、むしろ、力を込めたことで余計に損壊が進み、崩れ落ちてしまう。
その様子を一瞥もせず、ヴァージニアは受け取った注射器を首元に突き刺した。
「あぁ……ルメリーシャを、中に感じる……! あ、はは……っ、私に、力をくれる。勝ってって……仇を取ってって!」
空っぽになった注射器を握り潰し、破片が投げ捨てられる。
そして、真っ赤になって、見開かれた目がこちらへ向く。口から血を溢しつつ、堕ち切った笑みが満ちる。
「こほっ、ごぷっ……! く、苦しい、けど――、今の私は、強い!」
血を撒き散らし、突っ込んでくるヴァージニア。
受けて立つ――それが、リッカと共通の意見だった。
横から叩き込まれる蹴りの威力を殺しつつ、その勢いに乗って半壊した建物の壁に“着地”する。
問題なく、外装の機能は働いている。そこに立とうと思えるのなら、僕たちは自在にそれを叶えられる。
一跳びで迫るヴァージニアの二撃目を真正面から受け止める。
僕たちを残して建物は吹き飛ぶ――それなら、新しい足場を定義するまで。
リッカが足元に、自分の領域を創造する。小さな、小さな足場。それだけで十分。
一方で落ちていく筈のヴァージニアも、片腕にコウモリの翼をいくつも生やして羽ばたかせ、僕たちと離れることはない。
「死ね……死ねぇ!」
もう、正気ではないことは明らかだった。
叫びながらもう一度殴りつけようとしてくるヴァージニアが振りかぶり――その隙があれば、反撃には十分。
「死――――がはっ……!?」
僕たちとヴァージニアの間に開けられた新たな孔から飛び出てきたのは、僕にとってどんな時でも最適たる武器。
ヴァージニアの腹に突き刺さった魔剣を手に取り、そのまま銃砲形態へと切り替えて、引き金を引く。
「う、ぐあぁぁ――――!」
放たれた砲撃がヴァージニアを吹き飛ばし、地面に叩きつける。
追撃すべく足場を蹴る。
腹の大穴を素早く治癒させつつ、飛び退いて僕たちの斬撃を躱し――僕たちはそれに対して、次の一手を打った。
左手に出現させたリッカの杖を掴み取り、槍の如く先端に伸びる魔力の刃を、ヴァージニアに突き刺した。
「な、に……!?」
『いいわよ、ユーリ! リッカ!』
ヴァージニアごと槍を引き寄せ、右手に持つ魔剣の斬撃を浴びせる。
無茶だと、ラフィーナに言われていた戦い方だった。
魔剣を片手で使うこと。二つの武器を両手に持って戦うこと。どちらも、慣れない身でやることでは断じてないと。
――だから、慣らした。最低限ではあるが、使えるように。
リッカが外装を完成させるまでの間、リッカの領域でラフィーナに鍛錬を受けた。
外装を纏った状態限定で、それをやってもいいと。
「ばか、な……手も、足も、出ない……? これでも……っ?」
「やるよ、ユーリ」
「わかった、リッカ!」
両腕を広げ、ヴァージニアの周囲にいくつもの領域の孔を構築していく。
ヴァージニアは体の治癒が追い付いておらず、立ち上がることもままならない。
今度は、倒し切ると――それがリッカの選択だった。
孔に囲まれつつも、ヴァージニアは憎悪の目をこちらに向けてくる。まだ自分は負けてはいないと。
だから油断はしない。この場の誰が動こうとも対処できるよう、周囲にも注意を向けながら、左手の中指にはまった指輪に手を置いて術式を起動する。
『オズマリンク! イグニッション!』
使い魔たちの力を効率的に使用するために、リッカが構築した指輪。
僕に預けられた指輪と対となる、銀色の輝きが強まり、呼び起こした力が発現する。
「こんな、ところで……私は、私は……!」
孔をこじ開けるように無数に飛び出してくる、星のきらめきを持つ触手の群れ。
リッカにとってはじまりの使い魔。それは、同じ名を持つ未定義領域の協力者によって強化され、他の使い魔たちよりも強大な力を有している。
四方八方から襲い来る、雪崩の如き触手の奔流。
もはや、ヴァージニアにそれを防ぐ手立ては残っていない。
「私は――――!」
圧倒的な質量に飲み込まれたヴァージニアの痕跡は、触手たちが孔の内へ戻っていく時には、欠片も残っていなかった。