凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
熱いお風呂にじっくりと浸かった後、あまり髪を乾かさないままに、ベッドに倒れ込む。
致命傷なんてものを超えていたほどの傷はリッカちゃんにきれいさっぱり治してもらい、お風呂でも痛むなんてことはなかった。
けれど体の怪我とは別に、ちくちくとした痛みが、胸の真ん中から響いていた。
「……はぁ」
――もう、気持ちがめちゃくちゃだ。こんなの、平常心でいられるわけがない。
今日一日……一晩で色々なことが起きすぎた。気持ちに整理をつけろという方が無理な話だ。
ベッドの側に立てかけてある、ブレダリオンに目を向ける。
その輝きは相変わらず、僕のために在ってくれる。けれど、今の僕がそれに相応しい勇者であるかと自問自答すれば、自信を持って答えを出すことが出来ない。
自分は本当にこれでいいのかと、嫌な疑問が思考を曇らせる。
勇者らしく在り続けた。イリスに否を突き付けられても、僕は最終的にそれを貫くことにした。
ユーリくんが認めてくれた在り方だから、最後までやり通さないと失礼だ。
僕は王道らしい勇者でなければならないと。
けれど、僕の選択は――本当に勇者らしいと言えるものだっただろうか。
ユーリくんとリッカちゃんが死んでしまって、初めての喪失感の中に叩き落されて。
まともに前も見えなくなった状態で、僕はそれでも勇者らしく在ろうと、そういう道を選んだ。
あの楔を壊すこと。二人を殺した魔族たちを倒すこと。それを果たしてこその勇者だと。そのくらい出来なければ、先輩だなんて言えないだろう。
……自殺同然の行動であると、あの時僕は、薄々でも気付いていたんだっけ。
あんな精神状態の僕たちが、アリスアドラたちに勝てる筈もないというのに、それでもなお戦うことを選んだのは……きっと、もう楽になりたいという気持ちがあったから。
イリスはきっと、気付いていた。気付いていたうえで、僕の選択を否定しなかった。
もうおしまいだと、イリスは分かっていたのだろう。ユーリくんとリッカちゃんが死んでしまった時点で、僕たちの命運は尽きたのだと。
結果として、僕たちは当たり前のように敗北した。まるで歯が立たなかった。
それだけではない。僕は無我夢中になるあまり忘れていたことを、アリスアドラに指摘された。
僕が捨て鉢になってはいけない理由。必ずやることを成し遂げて聖都に戻るという約束。
こうして、ようやく冷静になれると、ホープのことを忘れていたという事実が重くのしかかってくる。
紛れもなくあの子は、僕の戦う理由の一つであるはずなのに。
イリスに指摘されたあの時と同じ迷いが、まだ僕の中には残っていた。
勇者としての自分、ホープのママとしての自分。僕はどちらも捨てたくはない。
それを貫き通すには、僕は決して負けてはいけない。自棄になるなんてもってのほかだ。
なのに僕は間違えた。それを、イリスは今回、指摘しなかった。
愛想を尽かされてしまっただろうか。いや、イリスに限ってそんなことはない、とどうにか安心しようとする。
こんな不安を抱いていては、みんなも不安にさせてしまう。
それはいけない――僕はみんなに頼られる存在でなくては。迷いは、僕の中で完結しないと。
そもそも、ホープのことは僕の問題なのだ。僕とホープの関係で、ユーリくんたちを不安にさせてしまってはいけないのだ。
「んー……ぎゃっ!?」
もやもやを振り払うように目を瞑り、ぐるぐるとベッドを転がって――勢いをつけすぎてそのまま転がり落ちる。
頭とか膝とか、せっかくリッカちゃんに怪我を治してもらったというのに、また鈍い痛みに見舞われた。
「ぅ、うぅ……」
誰にも見られていない自分の部屋でよかった。
こんなの、ユーリくんに見られたら先輩の面目丸潰れというものだ。明日の朝、みんなの前に出ていけなくなる。
そんな、くだらないけど個人的に大切な一線というものを考えながら、暫し悶絶する。
まったく……本当に、らしくない。
……やっぱり僕は、勇者としての自分を捨てられない。もちろん、ホープのママとしての自分も。
まだ、ホープとやりたいことなんて山ほどあるのだ。この旅を、道半ばで終えるつもりなんて、微塵もない。
あと――本当に、少し。
楔をもう一つ壊せば、とうとう最後の地、ロスラウドへ向かうことになる。
そこで、魔王との最終決戦、ということになるのだろう。
それに、四天王はあと二人。リーテさんと、ナディアちゃんのお兄さんであるオドマオズマ。
あの二人が魔王までの道のりで立ち塞がらないはずがない。
オドマオズマとは、ナディアちゃんが力を手に入れた時に戦ったらしい。
その時は、彼が途中で逃げ出したらしいのだが……そもそも彼は死者を操るリッチだ。
直接戦うことが彼の真骨頂ではない以上、まだ勝てる存在であると油断をすることはできないだろう。
リーテさんと直接戦ったのは、試練の時の一度だけ。
僕としては一年ほど前の話でしかないが、他のみんなにとっては十年以上前の話。
あの試練でのリーテさんは、はっきり言って遊びのレベルだったと思う。
ただの人間でしかない勇者の心を折るための、圧倒的な壁ではあるものの、多くの制限を課された状態。
『王剣』としてのリーテさんは、あんなものじゃない。次に戦う時は全力で、僕たちを倒すために剣を振るうだろう。
何百年も鍛えられた剣術だ。実践仕込みの我流剣術で追い縋れるとは思えない。
だからこそ、このままではいけない。
全員で協力し、激戦の中で打ち倒したバラルバラーズとは違い、アリスアドラをユーリくんたちは圧勝ともいえる戦況で倒してみせた。
もう、二人の力は僕を引き離した場所にある。
僕だって、そんな風に強くなりたい。先輩らしくないといけない。僕も、勇者として――はっきりと何かを成し遂げたい。
「……むぅ」
そんなことを、床に寝転がりながら考えたところで、僕自身が成長する訳でもなく。
次第に不毛さを感じ始めて、のそのそとベッドに這い上がる。
正直、もう寝てしまいたかったけれど、そんな日に限って眠気がやってくるのが遅い。
考え込むと眠れなくなるのは、もう癖だろうか。寝たくない、寝たくないと、毎晩強く思っていた、一人旅の頃からの。
「……」
――思い出して、怖気が走りそうになって、思考を引き上げる。
ユーリくんたちが、そしてどこにいるのかも分からないウサギの彼が、せっかく僕の中の悪夢を消し去ってくれたのに。
もうあの悪夢に脅かされることはないけれど、あれを思い出すことはできる。できてしまう。
いつまで経っても、その不快感は記憶から消えてくれることはない。
あの、硬く冷たい質感は、ホープのそれとはまったく違う。ただ、誰かに不快感を与えるためだけの冷たさ。
それが肌を這い回り、鋭い爪が食い込む感覚の悍ましさは、今も記憶に残っている。
……吐き気は起きなかった。そのくらいには、僕にとって過去のことにはなっていて、肌をくすぐる不快感だけが刻まれている。
これはもう、一生ついて回ることなのだろう。
何もかもを放り出すほどのトラウマとしては残らない、それでも度々思い出す不快感。
イリスならば、これさえ忘れてしまうような薬、作れるだろうか。もしも作れたとして、それに頼って良いのだろうか。
そんな、嫌な思考から――当然のように行き着くのは、僕以上に苦しんできたリッカちゃんのことだった。
「……さすがに、そんなことまで、思い至らなかったなぁ」
ついさっき、リッカちゃんがこれまで隠してきた秘密を打ち明けられた。
リッカちゃんにとって、ユーリくんに付いていく旅路は、これが最初ではなかった。
失敗して、失敗して、何度も何度も失敗して――そのたびに、想像を絶するほどの苦痛を、死ぬまで受けてきた。
魔族の子をいくら産んでも許されることはなくて、体に限界がきて息絶えるまでそれが続き、目を閉じたと思えば旅の始まりに戻っている。
それだけではない。ユーリくんの死を、そのたびに見せられた。
リッカちゃんが目当てであれば、つまりユーリくんに用事はないということだから。
その繰り返し。苦しんで、苦しんで、それでも諦めることなく、ユーリくんのために万全の道を探し続けた。
……はっきり言って、僕には出来そうにない。きっとどこかで壊れて、何もできなくなってしまうと思う。
僕が受けた苦痛を超えて、苦しんで、とっくの昔に諦めても、誰も責めないはずなのに。
リッカちゃんは立ち上がった。チャンスがあるのならと、歩み続けた。
その旅の果てで完成させたのが、今の戦い方。
ユーリくんとリッカちゃんが一つになって、魔族と戦い得る外装を身に纏う。
そして、倒した相手をリッカちゃんの冥界――広い空間に閉じ込めて、使い魔を増やすための苗床として使い倒す。
リッカちゃんの見出した復讐の道。それを聞いて、余計に頭がごちゃごちゃになってしまったけれど――誰が否定できようか。
魔族を憎み、誰であろうと同類だと考えるようになるには、十分過ぎるほど苦しんだのだから。少なくとも、僕はそれを否定しない。
それがリッカちゃんの選んだ道で、ユーリくんが支えると誓った道なのだ。
――きっと、イリスのことも、もしかするとホープのことも、リッカちゃんはその対象と考えていたのかもしれない。
ただ、今は違うと思う。リッカちゃんはイリスにも同じことを打ち明けた。
もうリッカちゃんは、イリスを一人の信頼できる仲間として判断したということだろう。
それは――嬉しい。ようやく僕たちの“パーティ”は、一つに纏まれた気がしたから。
「そういえば、転生者とか言ってた気も……まあ、良いか。リッカちゃんは、リッカちゃんですもんね」
細かいことは気にすまい。多分、その辺りは僕が理解できる話でもない。
僕にとっては、知っているリッカちゃんは今のリッカちゃんだ。そこが真実なのであれば、それでいい。
リッカちゃんの全部は、ユーリくんが理解していれば良いことなのだから。
「…………」
僕が迷いを抱いてしまった一方で、ユーリくんはこれ以上ないほどに、自分らしい勇者として戻ってきた。
きっと、リッカちゃんの一番大きな秘密に触れて、それを受け入れて戻ってきたのだろう。
リッカちゃんは強い。そして、それを決して拒絶しなかったユーリくんも、強い。
本当に……完璧だ、あの二人は。
ずっと一緒にやってきて、魔王を倒して、そしてこれからも一緒にいる。
そんな、二人が目指すハッピーエンド――僕はそれを、応援したい。
応援したい――から。
「……はは。なんでしょうね、この気持ち」
何故だか、笑いが零れた。ぺしゃぺしゃに湿った髪を、思わず手で搔き乱す。
もう……わけが分からない。
あの二人がいつまでも一緒だっていうのは、僕ももちろん、受け入れていて、それが一番だって思っているはずなのに。
一方で、それに――――リッカちゃんに感じる、羨ましさ。
ずっと一緒。これからも……魔王を倒して、この旅が終わってからも。
それを、ほんの少しでも想像してしまって――さっきの、二人が助けに来てくれた時のような熱さが、胸に灯る。
本当に、もう。馬鹿馬鹿しいほどの、勘違い。
けれど、仕方ないじゃないか……これほど長い間、男の子と旅をして。
頼れる姿を何度も見てきたから、その信頼を、ちょっとだけ間違って解釈してしまう夜があっても。
「……――――」
この旅が終わって、自由になったらようやく、ホープと一緒に暮らすことができる。
勇者としての僕が終わって、ホープのママというだけの僕になって。
そうしたら――そうしたら……パパになってくれる人も、いてくれたら良いな、って。
あり得ない未来だけど。あり得ない妄想でしかないけれど。
あはは……本当に、なんだろうこれ。ユーリくんにも、リッカちゃんにも、顔向けができないったら。
――でも。でも。今夜だけは。
「…………んっ」
駄目だ。駄目だってのに。こんなの、絶対に良くないってのに。
どうしようもないほど体が切なくなって、手はそこに伸びてしまう。
ああ……無理だ。止まれない。
一度もまともに感じたことのない快楽を、今夜だけは、体が求めてしまっている。
「っ……ごめんなさい……リッカちゃん……ユーリく――ん、ぁ……!」
もやもやとした罪悪感を、先へ、先へと未知を求める快楽が塗り潰していく。
勘違いは、これだけ人をおかしくさせるのだ、と誰に対してでもない言い訳をしながら。
――そうして、僕は初めて、知った。
誰かを想って求める快楽が、どれほど
――それから、ひとしきり“こと”が終わってから、冷静になって気が付いた。
着ていたものが全部、そこら辺に投げ出されていたこと。
お風呂に入ったことが完全に無駄になるほど、汗だくになってしまっていたこと。
というか、ベッドまでびちゃびちゃになってしまって、自室の改装機能を初めて使う羽目になること。
そして――ただ変なことを考えるより、こんな実行に移す方が何百倍も、二人に顔向けできなくなること。
翌朝、どうやって二人に会えばいいのかと、僕は違う意味でまたしばらくの間、悶えることになるのだった。