凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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ハッピーエンド同盟

 

 

 翌朝、僕とリッカはいつも通り、台所に立って朝食を作っていた。

 あれだけのことがあっても、朝にやることに変化はない。

 とはいえ、その当たり前の朝だからこそ心地が良い。

 命の危険のない、のんびりとした時間がなければ、たちまち気も滅入ってしまうだろう。

 旅を始めた頃はこんな時でも不安があったし、リッカはずっと気を張っていた。

 今は違う――信頼する仲間と過ごす、まったりとした時間。リッカも余裕を持って、気を抜くことが出来ている様子だ。

 こうした時間をずっと続けていたい、そんな望みは、きっともう少しすれば叶う。

 勇者としての使命を終えてからのことなんて、ほとんど決めてないけれど――この場にカルラもいたら、きっと楽しいに違いないと思う。

 

「なんというか……ここまで穏やかな朝を迎えられるなんてね」

「ええ、本当に。まだ日常を感じるのには早いのは分かっていますが……今朝ばかりは良いでしょう」

 

 既に目を覚ましているイリスティーラとナディアも、程よくリラックスできているようだった。

 それぞれ、手に取っているカップの中身を用意するのは初めてで、少し緊張があったが、少なくとも飲めもしない出来ではないようだ。

 

「それ、どう? 淹れ方なんて、リッカから雑な説明を聞いただけなんだけど」

「ああ、悪くない……毛嫌いしていたが、私が淹れる紅茶よりも遥かにまともじゃないか」

「あなたの紅茶はなんというか……いえ、なんでも。ユーリ、わたくしも気に入りました。備蓄に余裕があるのであれば、毎朝お願いしたいほどに」

 

 ナディアはそう言ってくれたが、あまり多く買っていたものではない。

 聖都を出る前の買い物で、どこか大陸の外から仕入れたという珍しい豆を粉にして作る、リッカいわくコーヒーなるお茶。

 豆を見つけた時、リッカはかなり驚いた様子だった。今思えば、これは前世で馴染みのあるものだったのだろう。

 一口飲んでみて、極めて強い苦みからすぐに僕には合わないと思ったが……二人にも、もちろんリッカにも好評なようだった。

 ……元来好みの激しい飲み物であり、僕が子供舌ということではない、と思いたいが。

 

「今度聖都に戻ったら、また買っておこうか。とはいっても、多分その後はあまりこうする時間もないかもだけど」

 

 次に聖都に戻るのは、もう一つの楔を壊した後。

 ネシュアへと赴く前の最後の準備にして、気を抜くことが出来る最後の機会となるだろう。

 そうして魔王を倒し、僕たちの使命を――リッカの長い戦いを終えて、その後で。

 僕たちは村に戻るつもりではあるが、クイールたちとの交流は続けていきたいと思っている。

 

「そうですね――ですが、その戦いもきっと、あと少しで終わります。わたくしは信じていますわ。これが当たり前になる日は、きっともうすぐだと」

「まあ、ネガティブに考えるよりはその方がよほどマシだろうさ。使命から解放された後のことを考えれば、余計にやる気も沸くだろう?」

「うん。あと少し、か」

 

 絶望感はない。もう、僕たちであれば何も恐れる必要はないという思いがあった。

 であれば、こうした日常で怖がることもない。心穏やかに、みんなで朝食を楽しむ時間でいい。

 リッカも顔には出さないながら、そう思っているようだ。

 無意識だろうか。焼いているベーコンも、いつもの均一な厚さよりも少しだけ厚く切られていた。

 思わず苦笑しつつ、熱して油を敷いた浅い鍋に卵を割って落としていく。

 焼き加減の好みは、クイールとイリスティーラは、片面だけを焼いた半熟。僕とリッカ、そしてナディアはしっかり火を通した両面焼き。

 好みが分かれすぎていないのは、用意する上で都合が良い。

 

 それに、何よりこのゼクセリオンの設備の良さだ。

 リッカがカスタマイズした台所の設備は村にいた頃や、まだこれを手に入れる前の魔道具に頼っていた頃とは大違いで、僕としても文句のつけようがない。

 これだけの設備を用意されれば、やる気も出るというものだ。いや、僕にはそこまで凝ったものは作れないし、持て余し気味ではあるのだが。

 ――とその時、廊下の方から物音が聞こえた。どうやらクイールも目を覚ましたらしい。

 

「おや、起きたのかいクイール。今日は随分と遅――」

 

 何故だかイリスティーラが押し黙り、どうしたのかと振り向けば。

 

「……クイール?」

「お……オハヨウゴザイマス」

 

 ――出発前に聖都で買ったお菓子を入れていたものだろうか。

 紙袋を被り、顔をすっぽりと隠したクイールらしき人物がそこに立っていた。

 ……なんで? その奇妙な姿にリッカさえもが、焼き上がったベーコンを皿に移そうとしている状態で固まっていた。

 

「…………気でも狂ったのかい? それとも、寝癖が直ってないとか?」

「せめて寝癖の可能性を前に持ってきてくれませんか? ――いや、はい、うん。それでいいです。……その、ちょっとこう、顔を出しにくいというか、出せないというか」

 

 明らかに不自然に言葉を紡ぐクイールの様子は、ただ“それだけ”とは到底思えなかった。

 感情はぐるぐるとこんがらがっていて、やはりその……錯乱しているようにも見受けられるのだが。

 というか、当たり前だが視界も塞がれており、手探りで自分の席へと向かおうとしており非常に危なっかしい。

 

「えっと……クイール、大丈夫? 手貸そうか?」

「わっひゃい!? 大丈夫! 大丈夫なので!」

「わっひゃい……?」

 

 あまりにも大丈夫ではなさそうだが、クイールはぶんぶん、かさかさと首を横に振っている。

 どうにも、感情の向きがぐちゃぐちゃで、読み取ることができない。

 

「いえ、あの……なんか暑いですね、朝から」

「そうかな……?」

 

 不自然さは否めないが、クイールは追求されたくない様子だった。

 大いに違和感を覚えつつも、残ったコーヒーを淹れてクイールに差し出す。

 

「とりあえず、飲む? 聖都で買った豆を使ってみたんだ」

「い、いただきますっ。あはは……暑い、本当に暑い……」

 

 風邪でも引いているのだろうか……そうだとすれば、出発も見送った方が良いかもしれない。

 妙に暑がるクイールは紙袋を口元まで上げて、コーヒーを口にし――

 

「――ごぶふっ」

「あっつい!?」

「ユーリ!?」

 

 ――含んだそばから吹き出されたそれを思いきり手に浴びることになった。

 思わず飛び退いたところをリッカに受け止められる。

 

「に、にが……って、ああ!? ご、ごめんなさい、ユーリくん……っ!」

「い、いや、大丈夫……うん、苦いよね、それ」

 

 僕はリッカがすぐに回復を行ってくれたので、大事になることはなかった。

 どうやらあの苦みに驚いたらしい。そう感じるのが僕だけでなくて、寧ろ安心したところがあった。

 慌てて謝ってくるクイールは思わずといった様子で紙袋を外し、湯気を上げる手を取ってくる。

 

「……本当に気でも触れたのか? まさかまた妙なものに憑かれてないだろうね?」

「というより、あれはどちらかというと……」

「ナディア、何か心当たりが?」

「……いえ。言わない方が良いでしょう。クイールのためにも。そのうち、時が解決しますわ」

「……わけが分からないのだが」

 

 

 

 ――そんな騒がしい朝食を終えて。

 ようやくクイールも落ち着いたようで、僕たちはこの先の方針について話し合いを始めた。

 

「ムルゼ、冥界、ナイトラクサ……これで、壊した楔は三つ。残るは、ホロゥにある一つだけだね」

「それさえ壊せば、あとはロスラウドっていう……ネシュア跡地のどこかにある、地下都市に赴くだけ、と」

 

 今いるナイトラクサの近郊は、ネシュアからほど近い場所にある。

 ここからホロゥまでは、ブレダリオンを使えば五日と掛からないだろう。

 そこで、前に行った時に見つけた楔を破壊する。それがここからの目的となる。

 

「当然、ホロゥとやらの楔に、なんの備えもないというのは考えにくい。今回のように、四天王やその側近クラスの魔族と戦うことになる可能性も高いだろう」

「どのみち、いずれ戦うことになる相手です。今度こそ油断はしません――あなたたちの役に立って見せます」

 

 残る四天王は、リーテリヴィアとオドマオズマの二人。

 ラフィーナから聞いた話では、かれらに次ぐ実力を持つ、側近たる魔族が二人ずつ存在する。

 ――ホロゥで出会った、エコーという騎士。それからオリヴィエも、それにあたるのだろう。

 加えて、アリスアドラには四人の側近がいるという。ジルとネリネ――そしてアリスアドラ本人も既にいないものの、残る二人がどう動くのかは未知数だ。

 かれらと戦わずに使命を終えられるとは思えない。イリスティーラの言う通り、ホロゥの地でも、かれらと戦うことになる。

 

「うん――頼りにしてるよ」

 

 もちろん、今更不安など持つはずがない。

 僕たちはこの千年間の中で、最も使命の終結に近付いている。戦うことになる魔族も、旅を始めた頃には想像もつかなかったほどに強力だ。

 けれど、僕たちも力を得た。そして、信頼できる仲間を得た。

 どんな相手が待っていても、必ず生き残り、楔を壊して――使命の終わりに王手をかけよう。

 

「四天王でも、魔王でも、心配いりません。僕たち五人は、最強のパーティなんですから!」

「調子が戻ってきたね、クイール。キミはそのくらいの加減でいてくれた方がやりやすい」

「蒸し返さないでください、イリス。僕が正気でいるためにも」

 

 立ち上がって宣言したクイールは、イリスティーラの軽口を受けて再びすごすごと座り込み、白が多分に混じったコーヒーを口に含む。

 淹れたコーヒーは砂糖とミルクをたっぷり追加したことで、ようやく僕やクイールでも飲めるものとなった。

 リッカ曰く、こういう飲み方も一般的であるらしい。先に教えてほしかった。

 

「とにかくっ。ユーリくんたちの最強の外装も完成して、今の僕たちなら無敵です。ですよね、ユーリくん」

「そうだね。負けるつもりはないよ。たとえ四天王でも魔王でも、僕たちなら勝てる」

 

 確信という訳ではないけれど、それは絶対的な自信だった。

 その強い笑みがクイールの勇者としての在り方だというのなら、それに倣っても良いかもしれない。

 

「ふむ……しかし、パーティと称するのも、少しありきたりですわね」

 

 クイールの言葉を受けて、ナディアがぽつりと呟く。

 

「ありきたり、とは?」

「いえ……ふと、考えてしまいまして。世界の在り方を変えんとする者たちが、いつまでも無名のパーティのままだというのは、どうなのかと」

「そういうものなの……?」

「本心はどうあれ、歴史に名を刻むのですから、通りの良い名称はあった方が良いでしょう? わたくしたちにとって、なんら意味のない名前であっても、未来でだれかの希望になるかもしれませんよ」

 

 ――未来、か。僕の思い描いている未来は、そうはっきりとしたものでもない。

 そこにあるのは、僕とリッカとカルラ、三人の当たり前の日常だ。

 世界がどうなるかなんて、考えている余裕はなかった。どうなろうとも、目指すのは僕たちのハッピーエンドだった。

 とはいえ――ナディアの言う通りだ。僕たちの行いで世界が変わる――九十九代目勇者と、百代目勇者がしきたりを終わらせたというのならば、そこに、ともに戦った仲間の名前がないのはおかしい。

 僕たちをまとめた一つの名前があればというのは、道理ではあるのだが。

 

「まあ……それは建前ですが――本当は、それらしいつながりが欲しかったのです。ホープたちに渡した証明術式のように、わたくしたちの確かなつながり……象徴となるような名称(もの)が」

 

 苦笑するナディアが零した本音は、彼女に確たる立場があった頃、表には出来なかった憧れなのかもしれない。

 仲間としての証明。僕たちの象徴ともなる、パーティの名称。

 どこか期待する表情のナディアにリッカも頷いた。

 

「悪くない。これまで……そんな機会はなかったから」

「ええ――ええ! ならば、是非とも。“今度こそ”……すべてを終わらせるための、同胞として」

 

 ナディアの喜びように、イリスティーラも肩を竦めた。

 僕たちも異論はない。一つこれというものを定めておいた方が、結束も強まるかもしれない。

 それぞれが何となく高揚した気持ちで話し合いを始め――

 

 

 ――最終的に全員が納得する結論が出たのは、一時間後のことだった。




【ユーリ】
感情の向きが分かるだけで心を読めるわけではないので相手が混乱していると感じ取れなくなる。

【リッカ】
クイールが壊れた理由は分からないけどなんとなく面白くない。

【イリスティーラ】
寝ている時に頭でも打ったのだろうか。

【ナディア】
何となく察した。

【クイール】
わっひゃい。

【ハッピーエンド同盟】
ナイトラクサでの戦いの後、ゼクセリオン内で決定されたユーリたちのパーティ名。
ゲーム的には多分、チームメンバーが五人になったタイミングでそういうイベントが発生し、任意の命名が可能なやつ。
今回のそれはデフォルト名。何をつけても特段、シナリオに変化が起きる訳ではないが、要所でこの名前が使われる。
「仮面なんとか部」だの「滅亡なんたら.net」みたいな名前を付けようとするとリッカの「何かに怒られそうな気がする……」みたいな葛藤が挟まって名前を付け直しになる。

ユーリとクイールの勇者としての使命を終わらせ、それぞれのハッピーエンドに辿り着くことを目的とした、奇怪な外装で戦うパーティ。
発案が誰なのかは不明だがリッカではないことは確か。とはいえリッカもそのシンプルさが気に入ったらしい。
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