凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「…………」
しばらくの間、脳の処理が追い付かず、停止していた。
夢である、夢だろう、夢に違いないと念じても、一向に目の前の光景は変わらない。
表情の変化は乏しいものの、相当驚いているようで目を瞬かせているリッカと、彼女に引っ付いているユーリ。
この数秒で不安はさらに大きくなったようで、すっかり縮こまって頭を抱えて震えているイリスティーラ。
そして好奇心のままに、煌びやかな夜の町に歩み寄ろうとするクイール。
いずれも、かっこ仮であるが、状況からしてまず間違いなく――
「って、ちょっと待ちなさいっ! クイール!」
「……? おねーちゃん、なんでわたしの名前知ってるの?」
少なくとも、この状況で目を離してはいけないと呼び止めれば、金髪の子は振り返って首を傾げてくる。
名前に反応した――やはり、クイールなのか。
「ええ……と。あなた、確かに……クイールなのですね?」
「うん。そうだよ。おねーちゃん、パパとママのお友達なの?」
「いえ、そういう訳ではないのですが……」
明らかに栄養が足りていない痩せ細った体は、幼少のクイールであるとは信じたくないほどのものだった。
この状況の原因さえ分かっていない以上、これが過去の姿であるとも限らないのだが――今のユーリを、リッカがすぐに認識できたことから、そうである可能性が高い。
「……わたくしたちは、あなたと一緒に、この場に来てしまったようです。あなたもここがどこか知らないでしょう?」
「えっと……わたしね、さっきまで……あれ? 何してたんだっけ。大聖堂の近くで、遊んでたと思うんだけど」
「そうですか……ともかく、共に聖都に戻らないと、ですね。しばらくは、わたくしたちと行動した方が良いと思うのですが、どうでしょう?」
「うん。わかった」
……この年齢だから、仕方ないとは思うが、いささか純粋過ぎやしないだろうか。
騙されているのではと疑う気持ちなどこれっぽっちもないと、ユーリのような力もないわたくしでも分かってしまう。
いくら聖都が安全な都市であるとはいえ、見知らぬ相手の……それも、アンデッドをこうも簡単に信じてしまうとは。
両親は一体何を教えているのだろうか。
「わたしね、わたし、クイール。おねーちゃんは?」
「ナディアと申します。よろしくお願いしますね、クイール」
「うん、ナディアおねーちゃん、だね!」
――――――――。
……はっ。いや、待て、落ち着けわたくし。一瞬何か、冷たい体が熱くなったと錯覚してしまった。
今はそんな感情を抱いている場合ではない。
戦う力を失っていると思しきこの子たちは、わたくしが守らなければならないのだ。
「ね、ね。あなたは? 聖都のエルフ、だよね?」
「ひぃっ……! 私、そ、その……ぁ、う……っ、り、リーテ、どこ……?」
そんな風に、わたくしが自制している間に、クイールは見知った種族であるだろうエルフの子に対して近付いていく。
にこにこと笑い、恐れられることなどまるで考えていない様子のクイールは人間であり、エルフが恐れる存在ではない。
だが、イリスティーラなのだろう少女は、怯えを隠さず、クイールから飛び退いて尻餅をついてしまった。
クイールはなおも諦めず、しゃがんで視線を合わせて話しかける。
……クイールに任せた方が良いだろう。
さきほどの様子からして、わたくしが行ってはクイール以上に恐れさせてしまう。
ならば、後の二人に歩み寄る。ユーリはともかく、リッカの目にはわたくしへの警戒はなかった。
「リッカ、あなたは……」
「……ん。覚えてる」
それは少なからず、わたくしを安心させる一言だった。
子供の頃の姿に戻ってしまっていれど、リッカの記憶は他の三人のように失われていなかったのだ。
「良かったです、リッカだけでも覚えていてくれて。……一体これは、どういうことなのでしょう」
「この辺り一帯、かなり広範囲の空気中に、極小の術式が無数に散布されている。備えなく踏み入った者の年齢を後退させて固定する……理屈は私が使っている魔法と近いもの」
リッカは早くも、この現象の原因を突き止めたらしい。
流石、と思ったものの、それ以上に驚いたのはリッカの示した、この地の仕掛け。
「それは……きわめて高度な魔法では? 術式を目に見えない大きさにまで圧縮し、何かに刻むでもなく散布させて効果を発揮させるなど……」
「ん……私でも難しい。この場で解除しようとしても、触れている別の術式がすぐに効果を発揮するだけ」
「四人が、元に戻る方法は?」
「術式が散布されている一帯を出れば、私が解除できる。ただ、踏み入っても効果が出ないように対策をするのは、結構時間がいるかも」
……であれば、一刻も早くここに来た要件を済ませるのが先決か。
とはいえ、ここがそもそもどこなのかという疑問がある。
振り返っても、ポータルはない。踏み入れば子供になってしまう町に一方通行……随分と良い趣味をしている。
「ホロゥ行きのポータルを探すほかないですね。先の村の方の言葉を信じるのならば、この町のどこかにあるはずです」
「……魔族から聞いたことらしいし、あまり信じられないけど」
「しかし、それが唯一の手掛かりです」
リッカが信じられないのは当然だ。
元より、リッカは誰かを信じるということを、ユーリにほぼ一任してきた。それを託せるほどの力がユーリにあるがゆえに。
今の状況は大いに問題だ。勇者たちから戦う手段を奪い、無抵抗な状態にする。
とはいえ、不幸中の幸いは、わたくしがそのままであることと、リッカの記憶が奪われなかったこと。
恐らく、リッカはその特殊な過去から、精神だけは無事だった。わたくしは、そもそも生のないアンデッドであるから。
まだ、絶望的な状況ではない。わたくしたちであればきっと、どうにか乗り越えられる。
「ともかく、何としてでも皆を守らないと。リッカ、あなたは――」
「戦えなくはない、けど……備えはしておいた方がいいか。ユーリ、ちょっと――ちょっと手離して」
リッカはユーリを自分とわたくしの間に移動させ、左手にある、大きさの合っていない指輪に指を添える。
二人の外装の性能を極限まで高めるために作成したというデバイス。
リッカが身につけていたそれは、確か、リッカが創造した冥界の管理も行えるものだったか。
実行されたコマンドが効果を発揮する。指輪が輝き、空間に開いた孔から現れたのは、見知った姿だった。
「ラフィーナ――」
「……あれ? 私どうして……ここ、どこ? リッカ、あんた――……リッカ?」
一体どこで用意したのか。あの冥界のイメージとはあまりにも合わない、ラフな部屋着に身を包んだラフィーナ。
彼女は、リッカが全面的に信用する、数少ない魔族の一人だ。
戦える者が少なく、ここがどこか分からない以上、彼女の力も必要になると判断したのだろう。
ラフィーナはリッカをこの世のものではないものを見るような目で凝視した後、この場のそれぞれに視線を移していく。
「……この世の終わりかしら?」
「言い得て妙かもしれない」
思わず、といった様子で出てきた呟きに、さもありなんとリッカも返す。
あまりに受け入れ難い状況を前にしての現実逃避。多分、あの二人としては日常的に行っていた得意技なのだと思う。
わたくしも、まともに戦えそうなのが自分だけでなければ是非とも同調したいものだ。
「ホロゥに行くって話だったわよね。それがなんでこんなことに……待って、これ私も同じ目に遭うんじゃないでしょうね!?」
「あっ」
「リッカ! 今すぐ私を戻しなさい! 手遅れになる前に! リッカ!」
……確かに、その通りだ。わたくしも考えが及んでいなかった。
リッカが慌てて指輪にもう一度触れると、ラフィーナは消えていく。どうやら、より状況が悪化する事態は避けられたらしい。
四人はここに来てすぐに姿が変わっていたが、今のラフィーナはすぐに変わった訳ではなかった。
ラフィーナがこれまでいた冥界の性質が、多少なり彼女を守っていたのだろうか。
息をついたリッカは、ユーリの鞄を開く。ケルベロスを模した魔道具――リヒトが二人に渡したアッシュがもそりと顔を出した。
『心臓に悪いわよ……で? 一体どういう事情? ここどこなのよ』
「分からない。前のやり方でホロゥに入れなくなっていたから、フェダルナにあるポータルを使ったらここに繋がった」
『もう少し躊躇うとかしたら……? まあいいわ。ポータルは一方通行ね? なら、一刻も早くそこを出なさい。ナディア、あんたには無理してもらうかもしれないけど……』
「ええ、そのつもりです。とりあえず、クイールたちにも付いてきてもらわないと」
アッシュを通して、こちらと状況を共有してもらえているだけでもありがたい。
魔族の視点というのはこうした有事においても重要だろう。
あとは、状況を理解していないだろう三人に、どのようにして従ってもらうか。
クイールは……あまり好ましくないが、わたくしを信じてくれている。ユーリはリッカの言葉なら応じてくれるだろう。問題はイリスティーラだが……。
「わたしたちと一緒に行こう? ね?」
「わ、わかった、わかったから……! あまり、ぐいぐい来ないで……っ!」
……不安だ。
クイールは容姿はともかく、性格は今と近い好奇心の強さが見て取れる。
ただ、イリスティーラは性格も今とは全然違う。これほどまでに臆病だったとは。
これがどうしてああなったのか。その辺りの込み入った事情は聞いていないが……よほどのことがあったのだろう。
「わたし、クイール! ね、ね、あなたは?」
「ぅ、ぁ……い、い……イリ、ス……ティ――」
「イリス! イリスだね!」
「あ……う、うん……」
……名乗り切る前に、イリスティーラは勢いに押されてしまった。
手を引っ張られ、こちらに近付いてくるが――だからといってわたくしを受け入れることなどできないようで、精一杯の力でクイールごと立ち止まる。
「ま、待って……あ、あいつ、アンデッドだから……危ないよ……っ」
「……? 一緒に聖都に帰ってくれるって」
「それが、おかしい……っ、アンデッドは、聖都に入れないから……」
「そうなの?」
「せ、聖都の子なのに、そんなことも知らないの……!?」
聖都の大きな祝福の力は、アンデッドの大敵のようなものだ。
わたくしも本来であれば踏み入ることさえままならない。当たり前のように暮らすことが出来ているのは、リッカによって祝福への耐性を体に馴染ませることが出来たから。
そんな事情を知らない彼女からすれば、聖都の名を出して自分たちを騙そうとしているアンデッドとしか映るまい。
「あまり詳しく話す時間はないのですが、わたくしは諸事情で祝福への耐性を有しています。他者への害意も持っていません」
「うそ……そんな都合のいい話があるわけない……し、証明して……っ」
「証明、ですか……ふむ……あら?」
その警戒心は当然といえる。幼いながらも、それなりの知識は持っているようだ。
どうしたものかと悩んでいると――リッカがユーリの手を引きながら、イリスティーラに近付いていった。
「な、なに……? 誰……?」
「私たちも一緒にここに来た。それより、これ」
当然、幼少の頃に聖都にいなかったリッカたちを、今のイリスティーラが知っているはずもない。
警戒する彼女に、リッカは引きずっていた鞄から一つの首飾りを取り出した。
あれも、今や懐かしい。聖都にわたくしが立ち入るために、リッカが使ったものだ。
「……? 祝福に浸したペンダント……? そんなもの、どこで……」
「色々あって、貰った。聖都に入れないようなアンデッドなら、これにも耐えられない。違う?」
「そ……れは……そうだけど……え、何する気……!?」
イリスティーラが受け入れる前に、リッカは首飾りをこちらに差し出してきた。
……その不器用さに笑ってしまう。この場をひとまず丸く収めて、全員で行動できるよう、リッカなりに気を遣った結果なのだろう。
笑ったことを責めるように目を細めてくるリッカに視線で謝罪しつつ、その首飾りを受け取って、身に着ける。
その祝福に対する拒否感も、焼けるような感覚もない。
「ほら、この通り。今は聖都で暮らしている身です」
「え、えぇ……なにそれ、そっちの方が怖い……」
常識で考えれば、至極正しい反応を返してくるイリスティーラ。
とはいえ、これが真実だ。わたくしたちは既に、常識に囚われる存在ではないと、もう受け入れてしまったのだ。
「わたくしはナディアと言います。あなたも、クイールたちも、わたくしが命を懸けて守ります。付いてきてくれますか?」
「……命、無いじゃん」
「バレました?」
ふむ……失敗か。警戒心を少しでも緩めてくれればと思ったのだが。
ウケなかったのは残念だが、イリスティーラはクイールに手を引かれ、ついてくることを選んだようだ。
少なくとも、聖都に入れるアンデッドであることは、信じてもらえたらしい。
「それでは、行きましょう。リッカ……ユーリのことは――」
「ん。任せて」
イリスティーラと同様、不安が大きい様子のユーリ。
この頃はまだ、カルラにも会っていないのだろう。当たり前の魔族への恐怖が見て取れた。
であれば、わたくしが積極的に関わるよりも、リッカに任せた方がいい。そのうえで、四人をわたくしが全力で守れば良いのだと。
ひとまず二つのグループにまとまった四人を連れて、妖しげな町へと踏み出した。