凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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『黒翼商』/魔法使いの箱庭(1)

 

 

 涼しい夜風がやさしく吹く中、わたくしたちは中央に枯れた噴水のある町の広場にやってきた。

 誰一人、外を出歩いてはいない。

 それもそうだ。どういう経緯があれ、今のここは子供たちの町。

 夜はかれらも当然寝静まっている。こんな広場を出歩くような子供はいないのだろう。

 その辺りは、あの魔族も正しく“管理”をしている、ということか。

 

「さて。見ての通りここには誰もいない。周りの建物にも、だね。向こうの通りの家にはそこそこ詰め込まれているのだろう」

「多くは、無人の家ということですね」

「その通り。あまり傷つけたくないというのが本音だが……まあ、これなら多少暴れたところで巻き込むこともあるまいさ」

 

 この場所を彼女と戦う場にするということ、だろうか。

 辺りを見渡し、問題がないと頷いたエヴァネスは、杖をくるくると回しつつ、広場の中央にまで歩いていく。

 一体何をするのか、と見ていれば。

 

「――そらっ!」

「えっ」

 

 軽く杖を振るい、放った魔力は過剰なほどの輝きを打ち上げる。

 バチバチと空気中の術式と反応し、花火のように弾けながら、上っていく魔力の塊。

 その光はほんの数秒、広場を昼間と見紛うほどに強く照らした。

 

「なに、を……何をしているのですか?」

「ん? 宣戦布告だが? ボクたちはここにいる。今、この町に敷いた無粋な法を打ち崩そうとしているぞ、とね」

 

 ……ここまでは必要ないとは思うが。エヴァネスの好む演出ということだろう。

 辺りの術式に干渉し、弾けさせる。そんなことをすれば、この町を支配する魔法使いに伝わらない筈がない。

 一発では満足しなかったのか、二、三と魔力は放たれる。

 広場は眩しく照らされ続け、辺りの術式はけたたましい音を立てて破壊されていく。

 

「そら、何をしているんだい『黒翼商』! このままだと自慢の領域がボクのものになってしまうよ! 魔法使いですらないボクに荒らされて我慢が出来るのかいっ!」

「なんて野蛮な……」

「ハハハハハッ! 野蛮結構! サキュバスとは無遠慮に他者の庭を踏み荒らす者! 優雅に、誇り高く、それでいて野蛮に在るのさ!」

 

 ――眉を顰める。話が通じる方ではあるものの、この自我の強さは、目の前にいてひどく疲れる。

 ラフィーナは本当に、奇跡のような性格なのだ。

 自分が主役とばかりに静けさを破り、アピールをするエヴァネス。

 これだけ目立てば……この領域の主が出てこない筈もないだろう。そして――こちらの状況を既に見ているのであれば。

 

『――ナディアッ』

「っ!」

 

 そう――狙ってくるのはサキュバスではなく、力がないと思われているだろうわたくしたちの筈だ。

 わたくしが羽織っていた外套の内に潜んでいたヨハンナの警告。

 パチリ、と流された電気が体を動かし、手に持ったナイフが不意打ちを対処する。

 

「チィッ……動けるじゃないか、屍娘。あんたが持っている力、どう考えてもこれに対応できるほどじゃないんだけどねぇ……!」

 

 いつの間にかわたくしの背後に迫っていた黒ずくめの仮面姿。

 手袋の指先からは血色の鋭いかぎ爪が飛び出ており、それがわたくしを襲ったのか。

 ……魔法を得意としているようだが、今の瞬間の彼女はまるで暗殺者のようだった。

 やはり魔族。身体能力でも、容易くわたくしたちを凌駕する。とはいえ、恐怖を見せる訳にはいかない。

 

「ええ、それは間違いではありません。ですが、いつも剣を抜きっ放しにしている剣士もいないでしょう?」

「ああ、嫌だ嫌だ。よほど性格の悪い術者によって加工されたんだね、お前さんは」

「それも正解ですわ。わたくしをアンデッドとした者は、この世界で最も下種で性根が悪い存在だと断言できます」

 

 ネシュアを裏切り、この世界を変えるための重要な一手を担った愚兄……彼の悪口であればいくらでも出てくる。

 まあ、敵対する魔族に同情してほしい訳でもないのだが。

 

「やれやれ。無力だと思っている相手に不意打ちなど、ずいぶんと卑怯になったものだ。魔族の誇りはどこに行ったんだい?」

「誇りなんざ、銅貨一枚にもなりゃしないよ。あたしは商人だ。不意を打って面倒を払えるのなら万々歳さ」

「そうかい。なら、そんな無粋な魔族にメリーリデルの町は似合わない。即刻退去願いたいんだがね」

「はっ、千年も無人だった町に似合うも何もないよ。こんな町の風情で金は取れない。ならあたしの町となるのが有益ってもんさね! ――それで? 三人ほど少ないようだが、もう貪ったのかい?」

「まさか。戦えない子を巻き込んでも良くないだろう? 言葉でお引き取り願えないのなら、なおさらさ」

「あん? ……なら、そっちの嬢ちゃんと屍娘は戦えるって? このあたしと?」

「そうらしいよ。そしてボクはそれを信じた。この時限りの、メリーリデルを取り返すための共闘だよ」

 

 仮面の向こうから、掠れたような笑みが零れる。

 人間と魔族の共闘――そんなもの、成立するなどとは思っていないのだろう。

 

「仕方ない。たまには掃除を、と言っちまったのはあたしだからね。小生意気な淫魔、薄汚い屍娘、不出来な商品――まとめて掃除と行こうじゃない――かっ!」

「ッ!」

『7 - 4 - 1 >> [Accept] >> [DECODE]』

 

 またしても、不意打ち同然に放たれた、魔力を凝縮させた弾丸。

 来ることは想像していた。その兆しを、ヨハンナが察知していた。

 それに合わせて、入力したコマンドを実行する。デバイスから出力された祝福の障壁が、弾丸の衝突を防いだ。

 

「なに……?」

『[Complete] >> [D-RIKKA]』

 

 周囲で束ねられた祝福の外装が、体中に取り付けられていく。

 本来及びもつかない筈の魔族に追いつき、そして凌駕する、リッカの信念の結晶を模した姿。

 

「生憎――わたくしはただの屍娘ではないので。当然、“屍らしくない”形で戦わせていただきますが」

「……こりゃあ驚いた。屍が祝福纏うなんざ、笑い話としても落第だ。しかも、それを自己強化の鎧として成形するだって……? そんな技術があったってのかい」

「ええ。とはいえ、あなたにそれを教える道理もありません」

「結構だよ。お前さんを無力化して調べりゃあいい。悪くない儲け話に繋がりそうだ」

 

 この、驚くべき力さえ、彼女にとっては金儲けの手段でしかないということか。

 ――そうはさせない。この力は、ユーリたちと共に戦い、皆を助けるための力なのだ。

 

「――ハハ、ハハハハハハハハッ! キミもなのかい! どうやらそれが昨今の流行りと見た! 知っていたかい、アデラキテラ。この流行、乗らずにいるには惜しいと思うんだよ」

「ああそうかい。あたしにはピクリとも響かないよ。興味があるのは祝福の加工技術だけさね。うまく使えば――その娘のような屍だって商品にできそうじゃないか」

「っ……」

 

 ぎらりと仮面の奥の目が輝いたように見えた。

 どうやら――この外装は彼女に新しいインスピレーションを与えてしまったらしい。

 であれば、この町から追い出すだけでなく、完膚なきまでに倒す必要さえ出てきてしまう。

 この外装を解析され、技術が確立されてしまえば、生きている人間だけでなく――死者さえ彼女に愚弄されてしまうだろう。

 外装に込められた祝福、わたくしの体に浸された祝福は、友の軌跡だ。わたくしの内だけにあれば良いものだ。だからこそ、解析などさせない。

 

「あなたの商売の手を広げさせるのは、極めて危険だと判断しました。ここで倒すつもりで、挑ませていただきますわ」

「やってみるがいいさ、屍娘。それから淫魔、お前さんもいよいよ排除させてもらうよ」

「さて、ここはありきたりだが“ボクたちのセリフさ!”と言わせてもらおうか。この子たちには先の予定があるみたいだからね!」

 

 無駄に大振りな動きで、杖をくるくると回すエヴァネスを横目に、わたくしも手元に再びナイフを呼び起こす。

 この外装が出力可能な武装は、とにかく強大な火力を有する。

 しかし、その大した攻撃力と引き換えに、取り回しの良さや武装ごとの燃費に問題を抱えている。

 相手の出方が分からない場合には、素早く振るうことが出来て、広範な状況に対応できる軽い武装の方が良い――このナイフは、その条件に該当する唯一の武装である。

 その他はすべて、何かしら癖のある武装群だ。これほど我儘なものばかりだと、ヨハンナに栄光を見た『決戦派』の先達たちに不満の一つでも零したくなるが、それは我慢だ。

 

「そうかい。ならあたしがここでの商売を終えてから、改めて化けて出るんだね!」

 

 パチリ、とアデラキテラが指を鳴らす。瞬間、わたくしの脳に、外装からの警告と推奨される動きが流れ込んでくる。

 真正面、それからリッカに向けて斜め後方。さらに、頭上。

 空気中の術式同士がぶつかり合い、反応を起こして魔弾を生成され、こちらに向けて飛んでくる。

 

「リッカ、しゃがんで!」

「っ……」

 

 正面の魔弾を切り払い、リッカが頭を下げたところで背後に手を伸ばし、手のひらでもう一発を受け止める。

 同時に、手元に魔力のフィールドを生成して魔弾の形を崩さないまま維持――頭上の一発に向けて射出し、相殺した。

 

「ハハッ、さすがの反応だ! やはりボクの見込んだ通りだったかな!」

 

 初撃は防いだ――ひとつ、息を吐いている間にも、エヴァネスにはその数倍の魔弾が放たれていた。

 それを、杖で魔法を紡ぐのではなく、杖の先端に灯した魔力を盾にして、的確に魔弾を受け止め防いでいる。

 そしてそれだけではない。受け止めた魔弾の魔力を支配下に置き、杖の先端のそれに流用しているのだ。

 なるほど、サキュバスの最上位の一人というだけはある。これほど器用な他者の魔力の操作、よほど“誰かを操る”ことに長けていなければ不可能だろう。

 っと――感心している場合ではない。不意打ち気味に軌道を変えて飛んできた魔弾を切り払う。

 

「ふぅん。やるじゃないか!」

 

 真下だ――リッカを抱きかかえると同時、右足にブースターを装備、魔力を放出することで加速し、石畳を粉砕して噴き上がってくる火炎の柱を回避する。

 しかし、動きが読まれていたかのように目の前に現れる氷壁。

 ブースターの推進を利用して、それを蹴り壊せば、砕けた氷塊一つ一つの内側の魔力が爆発する。

 防げない、ならば一気に加速して爆発地帯を抜け切るか――と判断した直後、周囲を星色の触手が覆った。

 見る者の正気を失わせ、瞬く間に衰弱させるほどの狂気。それを見て、むしろ安心感を覚えるのは、わたくしがそれだけ、リッカに対して信頼を抱いているからだ。

 

「ありがとうございます、リッカ」

「……ん」

 

 この触手の群れは、リッカの使い魔だ。

 最初に出会った頃を思い出す。目が覚めてみれば、ネシュアは廃墟で、わけのわからない魔族がいて――。

 あの時は、リッカはアリスアドラに魅入られて眠っていたのだったか。

 リッカの最初の使い魔たる、この触手の群れは、あの頃から性質を変化させて、より強力なものになっている。

 星色の触手は、魔力の爆発を余裕をもって防ぎ、わたくしたちを安全地帯に立たせてから、姿を消した。

 周囲の警戒を行いつつ、リッカの顔色を覗く。よかった――リッカの負担にはなっていないようだ。

 

「今の使い魔はお嬢ちゃんかい? ハッ、ただの人間じゃない訳だ。こいつは、とんでもない商品を招いちまったもんだね」

「……訂正なさい。その言い分は不愉快です。わたくしの友を“商品”などと」

「友ぉ? 人間とアンデッドの間に友情とやらが成立すると本気で思ってんのかい?」

 

 くつくつと、仮面の奥から堪えるような笑いが零れる。

 ……嘲笑されるべき妄言などということは、最初から分かっている。理解されるつもりなどない。

 友として、皆がそれを理解してくれれば良いのだ。いや、リッカが受け入れてくれているかはいまいち曖昧なのだが。

 

「ヒャハハハハハッ! これこそ傑作だ! その冗談は大衆喜劇として金が取れそうだ! ありがとうよ小娘!」

「どこまでも……侮辱をしてくれますね」

「するに決まっているだろう? 掃除すべきゴミに敬意を払うヤツがどこにいるってんだい。そっちのお嬢ちゃんは、多少は敬ってやってもいいけどねぇ――っと」

 

 苛立ちを抑えていれば、いつの間にか彼女の背後に迫っていたエヴァネス。

 首を刈り落とさんばかりの手刀を、分かっていたかのようにアデラキテラは回避する。

 そして追撃を、その姿を消し去ることで対処し――黒い魔女の如き姿は、噴水の先に降り立つ。

 

「お嬢ちゃん、今のを見りゃあわかるよ。お前さんはあたしを超える“使い手”だ。それは認めてやる。けれど、ここはあたしの領域さね。その前提だけで、有利不利はひっくり返る。分かるだろう?」

「……」

「そうさね……お前さん一人だ。お前さんが一人残れば、この町も、今この町にある商品どもも、屍娘も見逃してやる。どうだい?」

 

 ……悪辣だ。少なくともこの町において、リッカが自身に勝てないことを確信しているのだろう。

 わたくしたちを守るために、断れない選択肢――そうアデラキテラが思っているのであれば、彼女の審美眼もリッカの規格外さには及んでいないと言わざるを得ない。

 ――周囲に触手が数本現れる。それは言葉よりも分かりやすい、リッカの拒絶であった。

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