凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「ふむ……興味深いね」
アデラキテラの亡骸を見下ろしていたエヴァネスは、それにもう危険がないと判断してから、イリスティーラに目を向ける。
「この魔法は記憶さえ過去で塗り潰す代物の筈だ。勇者くんは魔法そのものが解除されたから分かるとして、キミはどうやってその体のまま記憶を取り戻したんだい?」
「見知らぬサキュバスに教える道理もないのだが……見たところ、今は協力者ということでいいのかい?」
「いいとも。彼女たちは約束を果たした。ならばボクも果たす。それが成されるまで、ボクはキミたちを、アリスアドラ様よりも優先するさ」
結局のところ、エヴァネスとの協力関係はどういう経緯で結ばれたのか……その疑問に回答が提示されたのは突然だった。
僕の意識にふと刻まれたような――いや、これは、外装の内で“一つになっている”からこそできる、認識の共有か。
どうやら僕たちは、今のリッカやイリスティーラと同じように、この町に仕掛けられた魔法で子供の姿になり、そして記憶さえも失っていた。
しかしリッカにとって、幼少期とは遥か繰り返しの向こうの話。戻るべき過去があまりにも離れすぎていて、魔法の効果が及ばなかったのだろう。
体そのものの時間が停止しているナディアと共に、リッカはこの町でエヴァネスと出会い、取引を持ち掛けられた。
この町を支配するアデラキテラを倒すために協力してくれれば、礼にホロゥへのポータルへ案内する、と。
「……先にそこまで教えてよ、リッカ」
「……ごめん」
最初に状況について話してくれれば、エヴァネスへの警戒もある程度抜けて、もっと戦いやすかったのではないか。
いや……これ以上は言うまい。リッカもきっと、ナディアを守るために急いでいた。
あまり余裕がなかっただろうから。
「それで? イリスティーラ、一体どういうことなのです? まだ魔法は解けていないようですが」
「ああ――私は慎重派だからね。リッカくんではないが、私も体に色々と仕込んでいる。たとえば、私の制御から外れて一定時間経てば、それを錯乱状態だと見なして“私の精神状態を規定値に戻す”魔法とかね」
「その手のイカれた魔法、流行っているのかい? 自分の体は術式を刻むスクロールじゃないよ?」
エヴァネスの突っ込みは至極真っ当なものだった。
自身の体に、魔道具の如く術式を刻む。自身の魔力を即座に運用できることから、“その魔法を発動する”という一点においては効率の良いものだという。
しかし、まともな手段でないことは言うまでもない。そうした倫理観が、エヴァネスにあることに驚く。
ああ見えて常識的なのだろうか。もしかすると、サキュバスの中にはそういう者が一定数いるのかもしれない。
最たる例がラフィーナである。彼女は最近、非常識に染まってきているような気もするが。
『なんか今、物凄く遺憾な評価を下された気がするんだけど』
「気のせいだよ」
『ユーリ。あんた割と良い性格になってきたわね』
察しも良くなってきている気がするラフィーナに返しつつ、外装を解くべきか考える。
エヴァネスからは敵意も害意も向けられておらず、周囲にはもう魔法の気配もない。
危険はないように思えるが――未知の土地であることは念頭に置いておきたい。
「それよりも、リッカくん。解呪のノウハウを渡してくれるかい。キミや私も体をもとに戻さないとだし、クイールはまだキミの世界の中だろう?」
「……そういえば、そもそもどうやって出てきたの」
「キミのところのスフィンクスに手を借りたが」
「勝手に……」
そういえば――アンニャはあのまま、リッカの冥界のスフィンクスとして管理を始めたのだったか。
冥界にはスフィンクスがいるもの。冥界管理のための負荷は凄まじく、スフィンクスにいくらかを託すことでようやく正常に回り始めるのだとか。
事実、リッカは広げすぎた“自分の世界”の制御が楽になったと、随分と助かっているらしい。
バルハラやポラリスに次ぐ、苗床ならざる住民と言えるだろう。
そんなアンニャは、冥界の出入りを操る権限も持つらしい。イリスティーラが出てこられたのはそういう理由か。
脱出の仕組みを聞いたリッカは微妙な表情になりながら、鞄からスクロールを出して手早く術式を書き込むと、イリスティーラに手渡した。
「ふむ……やはり対象によって調整が必要な部分があるね。厄介だが、了解したよ。私の分は私で解く。クイールの分は……任せてもいいかな?」
「……ん」
この魔法の解呪に関しては、リッカやイリスティーラをして困難なものであるようだ。
それを、あと三人分行う必要がある。既に基盤を組み立てているリッカでも、それなりに手間があるのだろう。
イリスティーラは自身の分を負担し、魔道具に術式を入力し始める。
同じような魔法を受ける機会などないとは思うが、念には念を入れるのがイリスティーラのやり方だった。
「――ということがあって、ようやくこれからホロゥへ赴くところです」
「なんで僕だけ完全に蚊帳の外なんですか!?」
とりあえずエヴァネスに時間をもらい、三人の分の解呪の魔法を完成させてから。
ナディアによる説明を受けて、クイールは不満の叫びを上げた。
「いえ、わたくしとしては、そもそもユーリやリッカも含めて危険には巻き込まないつもりだったのですが……」
「リッカちゃんは記憶を失わなくて、ユーリくんはリッカちゃんが最優先で魔法を解いて、イリスは普通に自分で対策していて……それぞれ理解はできますけど! できますけどっ!」
というわけで、完全にアデラキテラとの戦いに関わることのなかったクイールは、仲間外れの気分になってしまっていた。
……どうしよう、とリッカと思考が一致する。僕も、解呪の前にクイールを関わらせる訳にはいかないというのは賛成ではあるが、まさかこうなるとは。
半泣きの状態でナディアの外装に掴みかかり、ぐわんぐわんと体を揺らすクイール。
ナディアは視線をうろつかせつつ、言葉を選んでクイールを諭そうとする。
「リッカも、ほら、解呪に手間をかけるでしょうから……敵を倒してから治した方が効率も良いですもの。ね、リッカ?」
「……まあ」
「あぅぅ……僕、勇者なのに……ユーリくんと同じ、勇者なのに……この扱いの差は……」
「はいはい。泣かない泣かない。適材適所です、クイールにしか出来ないこともあるのですから、このくらいで意気消沈しないでくださいな」
ナディアの様子はまるで母親のようだった。クイールも満更ではないのか、されるがままになっている。
とりあえず……このままある程度不満を吐き出せば、元に戻るだろうか。
「まったく。クイール、あまり我儘を言うな。このパーティの切り込み役はキミなんだ。役割が失われた訳でもないだろうに」
「分かってますよぅ……けど、あるじゃないですか……こう、悔しい気持ち。ただでさえ、ユーリくんとリッカちゃんはさらに強くなったのに、なんか置いていかれた気が……」
「いや、全然そんなことないんだけど……」
僕としては、クイールは常に僕たちの一歩前にいる存在だ。
彼女の戦闘センスに、僕は追い付けていない。外装の力や、ラフィーナの存在でそれに追いつけている状態。
たとえば、先ほどのアデラキテラへの不意打ちも、クイールであればもっと無駄なく、確実に決めることが出来たかもしれない。
「……僕、先輩としてちゃんとできてます? 先輩らしく、いられてます?」
「…………うん」
「なんですか今の間!?」
“先輩らしさ”が威厳の有無であるのならば、どうだろう……と今の様子を見て思っただけである。
「いや……まあ。クイールのことを頼りにしているのは本当だから……元気を出してくれると助かるんだけど」
「む、むぅ……いえ、僕も無茶な我儘ってことは自覚してるので……」
どこか釈然としない様子で、クイールは立ち直る。
立ち直った、のだろうか。自身の行動を即座に省みたように、恥ずかし気に俯いた。
「お待たせ――おや。どうやら全員、元に戻ったみたいだね」
そんな、微妙な空気を吹き飛ばしたのは、エヴァネスだった。
彼女はこの町に連れられてきた子供たちの様子を見に行っていた。
リッカが用意したスクロールの中身は、渋々ながらエヴァネスに渡されている。あれを用いれば、エヴァネスも子供たちの解呪は可能になるだろう。
「久しぶりだね、先代……九十九代目の勇者ちゃん。ボクのことは覚えているかな?」
「あー……はい。正直、あまり深く覚えている訳ではないんですが。あの時、ホープを助けてくれたサキュバスですよね?」
「なに、花は愛でる性質というだけさ。あの子は元気かい?」
「はい――今はお留守番ですけど」
聖都でのあの事件で、クイールとエヴァネスは面識がある。
会話があったかどうかは不明だが――互いに存在を覚えていたようだ。
「そちらは終わったのですか?」
「魔法の行使はまだだけどね。ひとまず子供たちを一か所に集めた。今は夢の中さ。キミたちを送り届けてから、ゆっくりと解呪に勤しむとするよ」
「その後は?」
「どこから来たのか覚えている者はそこに帰す。覚えていない者は……聖都にでも連れていくか。あそこなら悪い扱いにはならないだろう」
……どうやら、エヴァネスは魔法を解いた後のことまで考えているようだ。
意外だ。約束を正直に果たすこともそうだが、ここまで面倒見が良い魔族だったとは。
「聖都か……まあ、難民を受け入れることにはある程度寛容な場所ではあるが」
「だろう? ああ、キミたちも聖都を拠点にしていると聞いているが、キミたちに搬送を任せようとは思っていないから安心したまえ。どちらかというとこれはボクたちの事情だからね。責任を持って、万全のまま送り届けるとも」
「……どうしてそこまで? 今後関わる訳でもない人間の世話をするなど、魔族の価値観からすればあり得ないのでは?」
「おや、まだキミたちには伝わっていないかい? ボクは普通じゃない。美しい者は責任を放り出したりはしないのさ」
エヴァネス独特の、“美”という価値観。正直理解は出来ないが、彼女がそれを心底から信じているということは伝わってくる。
彼女は自身の美しさを確信し、そしてそれに恥じない振る舞いを徹底している。
なるほど――彼女もまた、サキュバスにおける“変わり者”ということだ。
アリスアドラの側近として在るのは、そういう事情なのだろう。
「さて、付いてきたまえ。ボクからの約束を果たすとしよう。アデラキテラの支配が解けたことで、あの場所にも入りやすくなる」
話は纏まったと、エヴァネスは先導して歩き始める。
少し不安は残るが……彼女がなんら誤魔化しをしていないのは確実だ。それに、僕たちもホロゥへ向かわなければならない。
今は彼女に付いていくのが先決だろう。
「あの場所ですか?」
「そうさ。あそこはアデラキテラが根城にしていた場所でね。下手に踏み入れば、体の頑丈さに定評のあるボクらですらただでは済まない防備が敷かれていた」
「……大丈夫なんだろうね?」
「さっき見に行ったよ。魔法がすべて壊れていることは確認済みだ。安心して踏み込んでやればいい。元は魔法使いの工房でもなんでもない、古い時計塔に過ぎなかったのだから」
この奇妙な町の中で、ひときわ高い背丈を持つ時計塔。
元々、整備も行き届いていなかったようだ。古ぼけつつも、しかしこの町のシンボルだったのだろう。
月の光に照らされて青く輝く花畑に囲まれる形で、それは屹立していた。