凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
翼が引っ込んだ腕を振りながら、少女は歩いてくる。
もう片方の手には、何やら取っ手のついた魔道具。
注射器に似た筒状のそれは、どうにもこの場で持つには不相応に見えるものだった。
「今の翼って……? あと、どうしてここに……」
「翼……? ああ、ハーピー由来のものを借りただけさ。そしてここに来たのは知識欲だ。ネクリナは……先のアラクネは関係ないし、虫たちが追ってくることもない」
端的に説明される。ハーピー由来とやらだけではまるで分からない。
借り物ということから、彼女が元々持っている翼ではないようだが……。
「知識欲?」
「そうだよ。なんだい、それ。さっきと姿も違うし。魔族をベースにした防護スーツ? にしたって人体を変換して纏うなんて思いついてもやらないだろう。やらない……うん、面白いとは思うが、あの密度の術式を体に刻むのは狂気の沙汰だ。そして魔法の成立に必要な魔力も彼女やキミが持っているとは思えない。遠方からの瞬間的な魔力供与? 収納魔法で魔石か何かでも貯め込んでいるのかい?」
「……」
だんだんと早口になっていく少女の勢いに、思わずたじろいだ。
多弁ではあったが、これまでとは様子が違う。
金の瞳は純粋な興味に輝いている。――ずっと昔のリッカの、未知を見た時の目。カルラを連れてきた時や、魔法を学ぶ時のリッカの目に、よく似ていた。
……それはそれとして、僕たちの危機と察したのか、この魔法に備わった自動攻撃の機能が働き始めている。
世話になった手前、この場で攻撃するのもなんだが、彼女の忠告に沿うならば機能の発動を抑えないのが正解な気がする。
どうしたものかと思いながら、機能が早まらないように少女との距離を保っていると、忘れていたものを思い出させる事態が起きる。
「――――――――ッ!」
「っ、今のは……」
「……ああ。そういえばキミら、あれに叩き落とされたんだっけ」
その咆哮に、少女も回答させる気がないような追及を止める。
地面を貫いて外に出てきたのだ。この山道の主が感知しない筈がない。
作戦を再開しないと――あのオークがやってくる前に、ここを離れるのだ。
「それじゃあ念願のリベンジな訳だ」
「いや、逃げる。元々、会っても逃げるつもりだったんだ――キミも逃げた方が」
「待て。待ちたまえよ」
走り出そうとした僕を、少女は引っ掴んだ。
僕を、というより正確には鎧として纏っていた触手の一本を、だが。
「うわ感触気持ち悪っ……触手纏う発想もたいがい気持ち悪いけど、ここまで再現する必要あるかい? 失礼かもだけど、キミ本当に勇者?」
「よ、余計なお世話だよ。それより、何? このまま逃げて山道を抜けたいんだけど」
べたついた手に眉を顰め、着ていた作業着で拭いつつ少女は言葉の刃を突き刺してくる。
『残響』の時のエルフもそうだが、そこまで受け入れられないだろうか。
いや……うん。客観的に見て、その触手の性質はどうだろうかと思わなくもない。思わなくもないが。
だけどリッカが変わったスーツなのだ。こうも言われると複雑な気分にもなる。
「勇者だろう? 倒したまえよあのくらい」
「え……?」
平然と、少女は言った。
何をおかしなことを、という視線を互いに向ける状況で、少女は首を傾げる。
「いやだから。あのくらい片付けてしまえって。オークなんて力押ししか能のない魔族じゃないか」
「その力押しで裂け目に落とされた訳なんだけど」
「大方それの防御力を過信して真正面から受け止めようとしたんだろう? 相手の本領で戦う必要なんてないんだよ。魔族は誰であれ自分を人間より上だと思ってるんだから。策を弄することを責めるなんて出来やしない。その魔法も発展性があるな。究極的に人間らしい手段と言えなくもない。誰かとは大違いだ」
この状況で、長々と話を聞くことが愚かなことだとは分かっていた。
だが、彼女なりの魔族と人間の関係性、価値観が誰によって齎されたかを把握してしまった脳が、足を動かそうとしない。
その“誰か”はたとえ力が上の相手でも、真正面から打ち破るスタンスだったのだろう。
「命あっての物種は否定しないが、一歩踏み込む度胸が勇者の資質だ。……その点で言えば、さっきの啖呵は“らしかった”よ。そして勇者であるなら、案外もう一歩踏み込んでも何とかなったりする」
そこが曖昧なのは不安だが……勇者らしさ、か。
さほど興味がある訳ではない。リッカのためという指針は固め直した訳だし、評価は二の次でも構わない。
それでも、先程の一件が“勇者らしい”と言われるのは嬉しかった。
少なからず、僕なりに――それならばという気分になるくらいには。
「――手伝ってくれるよね、キミも」
「む?」
「僕を……僕たちを前の勇者と重ねられても困るよ。キミの言う通り策を使って生き残る。勇者らしくよりも、人間らしくよりも、僕たちらしく」
魔族の力をもとに使い魔を作り、それを魔法に組み込んだリッカのように。
真正面からでなくても良いのなら、使えるものはなんでも使う。
この場であのオークと再戦するのは厳しいと思う自分がいるのだから、それでも、勝つために。
「……なるほどね。まあ、そりゃそうだ。焚き付けた責任は取らないと」
少女は肩を竦める。
仕方なく――だがその表情は、気のせいだろうか、少し嬉しそうに見えた気がした。
「いいよ。信用せずとも信頼するといい。私も力でオークと張り合えはしないからね。この場でキミを背中から撃ったりしないともさ」
手に持った不思議な形状の魔道具で肩をとんとんと叩きつつ、少女は巨体が迫ってくる音の方向に目を向ける。
見えた――凄まじい勢いで転がってくる鈍色の塊。
少女に何が出来るかは知らない。だが、その自信は消えることがない。
「私は勝手に躱す。キミもそうしたまえ」
「っ――!」
あの初撃は知っている。想定していれば、対応することは難しくない。
無理に受け止めたりはしない。落ち着いてその場から飛び退けば、それまでいた場所を岩と見紛う塊が通り抜けていった。
少女も反対側に跳んで事なきを得たらしい。
躱されたとみるや、急ブレーキをかけて砂煙を上げながら、巨大オークは起き上がる。
まだ距離は開いているが、それは気を抜く理由にならない。何故ならばあのオークには、遠距離攻撃の手段がある。
「――――!」
大口を開けて放たれる、火の塊。改めて視認してみればそれもまた大した速度ではない。
あの時は、それも分からないくらい焦っていたということか。
「え、何それ知らない。火吹くオークとかどんな魔改造したんだ?」
直後、そんな素の声が聞こえた。どうやら普通はオークと戦うにおいてブレスの警戒をする必要はないらしい。
何が起きているか……いや、それを僕が考えても仕方ない。
魔族の知識に乏しい僕では素っ頓狂な答えしか出てこないだろう。
「……まあ考えるのは後だ。触手纏う人間もいるんだから火を吹くオークもいてもいい」
「……」
そこで比較対象にされるのはおかしいというのは何となく分かる。
まだ片腕から翼を生やすエルフの方が異質だと思う。絶対にそうだ。
オークの首がぐりんと異様な勢いで少女の方を向く。今度の狙いは向こうらしい。
「おっと、こっちかい? いいともさ。お手本を見せてあげよう」
なんのお手本を、そして誰に見せるのかという僕の疑問を他所に、少女は魔道具を操作した。
魔道具から飛び出した半透明な薄い板をなぞるように指を動かすと、その板はすぐに引っ込む。
『ドラゴンコード、レディ』
そして、無機質な魔法音声。
魔法音声としては正常らしいが逆に聞きなれない、感情の乗らない声が流れたことは何かの魔法が進行したことを意味する。
気にせずオークは火炎を吐き出す。
少女に避けようとする様子はない。思わず体が動きかけて――その魔道具を火の塊に向けて突き出した少女を見て、止まった。
「ほら、これが本物のブレスというヤツさ」
「――――!?」
魔道具の先端から放たれた、炎の“光線”。
灼熱と呼ぶに相応しい輝きは周囲にその熱をまき散らしながらもオークの火炎とぶつかり、僅かな拮抗も無しに呑み込んだ。
そのまま光は勢いを弱めずオークに突き刺さる。
焼き焦がす、というレベルでは済まない威力に見えたそれを、腹のど真ん中に受けたオークは、なおも生きている。
重傷なのは間違いないだろうが、肌も溶けきっていない。
「頑丈だな。火に強いだけか?」
「今の、一体……っ」
「ドラゴン由来のブレスだよ。ふむ。やはり火への耐性は万全らしい」
光線の正体を聞きながらも、学習しないのかもう一度火を吐こうとしたオークに触手を伸ばす。
力比べならまだしも、油断を突いて足首を引っ張るくらいなら叶う。
その場で転倒したオーク。肺の空気が抜けたように口から火炎が零れ、顔を巻き込んで爆発するが、やはりさほどダメージを負った様子はない。
であれば火以外の武器を使うしかないし、元より僕には火を使えないのだから変わりない。
『U-リッカ――リヴィアッ!』
姿を変え、液体を弾丸にして放つ。
転倒し、自分の火炎で怯んでいたオークにそれを避けることは出来ない。
とはいえこれもまた、ダメージを期待している訳ではない。別の意図で、有効だと判断したのだ。
液体はオークの顔を覆う。通常の水とは違い、表面で滞留し、生物ならば必要となる機能を著しく制限する。
「……キミ、意外とえげつない戦法を取るね」
「気持ちのいい手段じゃないのは百も承知だよ、隙を作るだけ――」
呼吸を封じるのは決して良い戦法とは言えまい。
生まれる罪悪感は、すぐに上書きされた。
その状態のままオークは起き上がり、こちらに突っ込んできたのだ。
薙ぐように振るわれる両腕。
対処は受け止めるのではなく、受け流すように。
誰の真似ですらない、半ば弾き飛ばされるような形だったが、勢いを空ぶらせることには成功したのかオークはバランスを崩して倒れ込む。
オークを相手に並の攻撃では無意味に等しい。
ではどうするか。決まっている――オークにも効くような攻撃を、思いっきり叩き込むだけ。
『U-リッカ――オズマッ!』
再度姿を変化させる。攻撃力ならばこちらの姿だ。
「っ……ゆー、り……?」
その時聞こえてきた、リッカの声。
目が覚めたのだ。込み上げる喜びを呑み込んで、今はこの好機を逃さないことを優先する。
「ごめんリッカ、決めるよっ」
「え……えっ?」
『ファイナライズ! アクセプション!』
状況を把握できていないリッカからすれば、あまりに突然の事態だろう。
申し訳程度の謝罪と共に、必殺技を実行する。
膨大な魔力をもって周囲に展開された触手の群れ。少女がドン引きした表情で離れていく。
……やはり、許容できないほどに気味が悪いのだろうかと考えつつも、倒れたオークにその奔流を叩き込む。
『オズマ・エクスタシー!』
地面を抉り、オークのいた場所を蹂躙して駆け抜けていく黒い群れ。
――正直なところ、あれが敵に何を齎していくかは、僕は分かっていない。
通り抜けて、必殺技が完了した跡には何も残っていないのだ。
殺していないというリッカの言葉は受け止める。ただ――それが僕のための嘘である可能性についても、覚悟はしておく必要がある。
そこで嘘をついていたとしても、僕はリッカを責めることはない。
リッカが用意した生き残るための手段を使っているのは、僕自身なのだから。
「うん。やっぱキミらおかしいよ」
「……」
――とはいえ、思い切りやった手前、今度は少女の言葉を否定出来なかった。
『オレブ』
【属性】火
【攻撃力】■■■■■■■
【防御力】■■■■■■
【素早さ】■■■■■
【魔 力】■
【精神力】■
【種族】オーク種
巨体に見合った剛力を持つオークは同時に縄張り意識が強く、外敵の気配を察知すると積極的に襲い掛かる。
猪に似た頭部からイメージできる通り嗅覚が発達しており、オークに気付かれず縄張りに踏み込むというのは困難をきわめる。
その気になれば岩をも砕くほどの太い腕で一度でも殴られればただでは済まず、意外な機敏さも相まって人間では太刀打ちできない魔族の筆頭である。
個体によって食性や行動する時間帯の差が激しく、地域が違えばまったく異なる生態を有する。
中には他種族と共生し、縄張りに踏み込んだ外敵を追い払う用心棒のような役割を持った個体さえいる。
同じオークだからといって同じ対処法が通用すると思い込んでいると、その認識を後悔することすら出来ないだろう。
【『巨岩獣』オレブ】
カルエテの町南東にあるオレブ山道は、長年巨大なオークが居座っている。
いつしか山道の名で呼ばれることになったこの個体は昼行性であり、この道を通ろうとした者を容赦せず叩きのめす。
一説ではこの山の生態系を一体で変えたとされ、他の種族の警戒心が高くなった要因であるとも。
山を下りて近隣の町を襲ったこともあり、人々からは非常に恐れられている災害の如き存在。
魔族とはいえ無暗に人間の生存圏を襲撃することは禁忌のため、聖都より魔王軍の使者が警告に向かったこともあるがそれさえ蹴散らしたという噂もある。
ここ暫くは比較的おとなしく、山を下りることもなくなったとされているが理由は不明。
また、行商人の間では山道でもこの個体との遭遇を避けられるルートが共有されているが、そこにこの個体が近付かない理由も明らかになっていない。
一説では地割れの多い道筋のため落下を恐れているとも。
【ユーリの評価】
「相手の本領で戦う必要はない、か……うん。その通り、なのかな」
【リッカの評価】
「……起き抜けに……オークの処理は……キツい……」