凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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導く翼(後編)

 

 

「それで、一体ここで何が起きているんだい? 只事ではないことは分かるが」

 

 ベガに対して、クイールたちが簡単に自己紹介を済ませた後、早々にイリスティーラは切り出した。

 この迷宮に――あるいは、あの楔にどんな異常が発生しているのか。

 それを問えば、ベガは難しい顔で頷いた。

 

「今から約十二時間前、この領域は襲撃されました。侵入者のうち一人は、あなたたちが“魔王”と呼んだ存在です」

「――――!?」

 

 魔王が……ここにいる?

 いや――不思議ではない。残る楔はもう、ホロゥにある一つだけだ。

 これを壊せば、魔王という存在のバックアップはなくなる――それを知っているからこそ、直接動いたのだろうか。

 

「魔王……目的は?」

「バルハラ様を狙っています。先ほどまで、ヨハンナ様――ヨハンナ様の本体が、どうにか襲撃を押しとどめていたのですが……」

『ふむ。当機の本体の戦闘機能はバルハラに特化したもの。他の魔族と戦うことは想定していないが』

「……私は結果を見届けていません。外に逃げるように、とバルハラ様に命じられました。しかし、外に到達する前に領域のバランスが変質し、それから先の秘翅の使徒(SHAN)のような、主の使い魔である存在が私を襲ってくるなどの異常事態が発生しています」

 

 あの虫たちも、バルハラの使い魔だったのか。

 味方である筈のそれらがベガを襲う状況――考えられるのはバルハラの統制から外れ、乗っ取られた可能性。

 バルハラは規格外の存在ではあるが、今は本来の力を失っている状態であることは明らかだ。

 だが、魔王がバルハラを討つことを決定したとして、何故その判断をしたのか。これまで封印するだけだったものを、この局面で討伐すると決めた理由は、なんなのか。

 ……考えていても仕方ない。ここで立ち往生していては、時間を無駄にするだけだ。

 

「――行こう、みんな」

「はい! それでこそユーリくんです! 僕も賛成です、まだちょっと状況掴めてませんけど……!」

 

 待ってましたとばかりに、クイールは聖剣を担ぎ上げる。

 僕が勇者らしい勇者であれているかは分からない。僕はどこまでも、リッカのための勇者だから。

 だが、魔王がこのタイミングで行動を起こしたということは、きっと放置していれば僕たちの不利につながることだ。

 ならば阻止する。いや――ここで魔王を倒すつもりで立ち向かう。

 

「……待ってください。私はあなたたちに、主を救ってほしいとは言いません。この領域を出た後は、曖昧であるうちに外とのつながりを断ちます。そうすれば主の力があなたたちの世界に流出することもなく、内部の侵入者も封印できる。あなたたちにとって、ここでこれ以上介入する理由はないでしょう」

「そうかもしれない。けど、バルハラには助言を受けたし、力にもなってもらった。それに、魔王がここで何かを企んでいるのなら、僕たちが阻止しないと。ここに封印したからって、その後にキミたちがどうにかできる見込みがなさそうなんでしょ?」

「それは、そうですが……少なくともこの領域は千年は閉じたままとなるでしょう。侵入者をバルハラ様たちがどうにかできなかったとして、問題が起きるのはあなたたちの生が終わった遥か後のことです。なのに、どうしてそこまで……」

「僕たちは勇者だから。魔王の支配を終わらせるのは、僕たちの使命だよ。ね、クイール」

「もちろん! ここでズルして使命を終わったつもりになって、十年後に別の勇者が任命されてしまっても困りますもんね」

 

 勇者だから――うん、これはクイールの受け売りだが。

 僕たちのハッピーエンドは、勇者としての使命を果たした先にある。こんなところで、辿り着くべきゴールがなくなるなんて認められない。

 何が起きたとしても、僕たちはもう生きていない……そんなことは関係ない。

 消化不良な結末は、求めないと決めたのだ。そのために、すべての憂いを断ったうえで、魔王を倒す。

 

「本当に、キミたちは……」

「ですが確かに、その方が勇者のパーティらしい。『ハッピーエンド同盟』が至る結末は、完璧なものでなくては」

 

 呆気にとられるベガへの宣言に、待ったを掛ける者はいない。

 ただ、それは僕たちの勝手な決意で――申し訳ないという意思を込めてリッカを見れば、呆れたように溜息を吐かれた。

 

「ごめん、リッカ」

「……いい。こうなったユーリ()()に何を言っても意見を変えないのはよく知ってる」

 

 実感の多分に含まれた不満から、杖で頭を軽く叩かれる。

 とはいえ、それきり。リッカが反対を口にすることはなかった。

 これで、僕たちの意見は合った。問題は、この場にいるあと一人の魔族。

 

「キミはどうする? 僕たちは、今から魔王と戦うことになると思う。できればキミにも、僕たちに協力してほしい」

 

 目を閉じ、自分なりに、今起きている状況を噛み砕いていたらしいエヴァネスは、僕の言葉を聞いて目を見開く。

 その驚愕は当然だ。彼女はアリスアドラの側近。魔王に従うべき存在だ。

 事情を知る前であればともかく、話を聞いた状態で僕たちに協力する理由など、どこにもないのだから。

 

「――なるほど。今、ボクに助力を求めるのかい? なんならこのタイミングでキミたちの背後から首を掻き切っても良い立場なんだよ?」

「そうだね、分かってる。けど、付いてきてくれるって言っていたからね。キミはどちらかというと、口頭だろうとその場の約束で動くタイプだと思う」

「――――ハハ、ハハハハハハハハハハハハッ! いいね、最高だ! キミの見立ては実に的確であり、口説き文句としては百点満点だ! ボクはボクが美しいと思う生き方を貫く。なればこそ、この一時、ボクはキミたちの側に立とうじゃないか!」

 

 そう――彼女はそういう性格だ。

 もちろん、組織の中の存在としての責任はある。だが、それ以上に自分自身の価値観を優先する。

 自身の判断でもって決定したことを、後から状況が変わったからと覆すことは、決してないのだろう。

 

「キミとは自己紹介を交わしたことがなかったね。ボクはエヴァネス――『狂冠』を戴くエヴァネスだ」

「僕はユーリ。百代目の勇者……とは、あまり自分で名乗ったことがない気がするけど」

「ならば、貴重な機会だね。名乗りとは特別なものだ。適度に格好付けることを勧めるよ」

 

 今後活かす機会があるのかどうか分からない助言をもらう。

 僕自身、そこまで目立ちたいとも思っていないし、名乗るにしても最低限で十分だ。

 

「さあ、では行こう諸君! ここで世界を救うというのならそれも一興だとも!」

「あなたが仕切るんですね……まあ、別にいいですが」

 

 方針は決まった。これは寄り道ではなく、決戦のつもりで。

 頷き合ってからベガに向き直る。唖然としていたベガは、呆れたように眉根を寄せた。

 

「……現代の価値観とは、なんとも複雑怪奇です」

「奇遇だね、私もかれらに会ってから、何度そう思ったか分からないよ」

「今じゃイリスもこっち側ですけどね」

 

 クイールの軽口に、イリスティーラは言葉を返すことはしなかった。どうやら、その自覚はあるらしい。

 

「……わかりました。バルハラ様の命を違えることになりますが……現代の勇者と、その一行。力をお借りします」

 

 そう言って、ベガは僕たちに背を向け、身を屈めた。

 何をしようとしているのだろうと思えば――ベガの人型の輪郭が歪み、まるでその中心から波紋が広がるかのように大きくなる。

 

「『“導く翼”が冥きバルハラに願う。我が硝子の翼にきらめきを。まれびとを導く輝きを。あなたの玉座へ(ATHOTH)すべてを結び(AZ)あなたの玉座へ(ATHOTH)』」

 

 紡がれた願いが、ベガの姿を変えていく。

 色鮮やかな衣服は闇に溶けていき、暗い灰色の、岩のような肌が現れる。

 その代わり、広がっていく硝子の翼にその色彩が浸透し、やがてベガは翼だけが目立つ異形の巨鳥となった。

 同時に、感じられる力は跳ね上がり、強大な魔族であることは疑いようもないほどの圧を放つ。これが――ベガの魔族としての真の姿なのか。

 

「乗ってください。バルハラ様のもとまで飛びます。ただ、先のように主の眷属が操られ、襲ってくる可能性も踏まえると、私から離れて迎撃できる者もいてくださると助かりますが……」

「あ――じゃあ、それなら僕が。ちょうど僕がこれ持ってますし」

 

 クイールが懐からゼクセリオンを取り出す。

 僕たちが特別なことをせずとも、問題なく高速の空中戦が行えるようになる数少ない手段。

 あれ以外にも手段自体は存在するが、今の時点で激しい消耗をする訳にもいかないか。

 

「なら、ボクも行こうか。せっかく自前の翼があるのだしね。無味乾燥な図書館というのもなんとも無粋だが、共に飛ぼうじゃないか、先代ちゃん?」

「え……? あ、はい。クイールです」

 

 エヴァネスが翼を広げてふわりと浮き上がり、クイールもゼクセリオンを起動して展開する。

 僕たちもまた、ベガの背の上で警戒は怠らない方が良いだろう。バルハラの領域で、何が起きるかなど分かったものではない。

 

「その魔道具は……いえ、今は良いでしょう。私の翼をしっかりと認識しておいてください。見失えば、バルハラ様のもとへは辿り着けません」

「は、はいっ!」

 

『マスターアップ! Q-クエスター!』

 

 ゼクセリオンに跨り、クイールは外装を纏う。

 僕たちもベガの背に乗れば――そこが地面であるかのように、足場が安定する感覚があった。

 ベガが大きく羽ばたいても、体が揺らぐことはない。これが、彼女の“導く翼”としての神髄か。

 

「では、行きます」

 

 ベガが羽ばたき、あっという間に本棚よりも高い位置にまで飛び上がる。

 下方を見れば、薄い銀色の霧に覆われ、本棚が不規則に並べられた迷宮が、どこまでも続いている。

 これが――あの時僕たちが挑んだ、回顧の迷宮か。

 

「……ベガ。この迷宮の上を飛んで、また試練が始まるってことはない?」

 

 移動を始めたベガに、ふと、気になった疑問を投げかける。

 記憶を掘り起こし、再度の挑戦を強要する試練――この迷宮の性質は、先を急ぐ僕たちにとってどうにも都合が悪い。

 

「ご安心を。私が翼として導いている限り、記憶を回顧するこの領域の蔵書はあなたたちに牙を剥くことはありません……しかし、侵入者はそれの影響を受けずに、まっすぐにバルハラ様のもとに辿り着きました」

「それは一体、どうやって?」

「分かりませんが……主の使い魔を支配できるほどの力を持つ存在です。この地の試練そのものを停止させることも、あるいは可能なのか……」

 

 そう考えて気が急いたのか、ベガは飛行の速度を上げた。

 再度の試練は行われない――そのことにひとまず安心するも、謎の多い領域であることは変わりない。

 相手の出方も不明な以上、警戒を怠る訳にはいかない。

 

「っ……来ました。迎撃を、お願いします」

「任せてくださいっ!」

 

 果てはないのではと思うほどの、暗闇の向こう。

 敵の到来を視認したベガの警告で、クイールが前に出る。直後、先ほどと同じ奇妙な姿の虫の群れが迫ってきた。

 

「これは、たくさん来ましたねっ!」

「そらっ! 一体一体は大したことがないが……っ、群れて脅威を生むのは虫の性質だね!」

 

 ゼクセリオンの速度を上げ、酔いそうな軌道で飛び回りながら、虫を切り裂いていくクイール。

 そして、零れた虫をエヴァネスが的確に捉え、つま先で小突いて粉砕していく。

 さらにエヴァネスが自身の角を撫でつけた指を前方に突き付ければ、空間に地割れのような亀裂が広がり、多数の虫たちを巻き込んだ。

 

「そんな力があるのなら、先ほどの戦いで使ってほしかったのですが……」

「町を巻き込む訳にもいかないだろう? 元々ボクはこういう、派手な芸の方が得意なのさ。細かい仕事というのはどうにも、肩が凝ってね」

 

 ナディアの苦言に、エヴァネスは軽口を返しつつも、杖を振るい規模の大きな魔法で虫たちの群れを失墜させていく。

 派手好きで目立ちたがり屋という性質は伝わってきていたが、得意とする戦法までそういうものだったのか。

 多数を相手取る戦いでは、それは高い効果を発揮する。

 クイールの高速の斬撃も相まって、群れの脅威は減っていくものの――しかし、その嵐の如き猛攻から逃れる個体は存在する。

 

「リッカ、僕たちも」

「ん……分かった」

 

『ユニゾンリンク! U-リッカ!』

 

 残った個体がベガに攻撃するのを防ぐのは、僕たちの役目だ。

 魔剣を手に取り、リッカが魔法を発動する。直後、迫ってきた一個体の突撃を受け止め、外装により高まった力を込めて、それを真っ二つに切り裂いた。

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