凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
『聖女ヨハンナ――かつて、ネシュアの決戦派と呼ばれる派閥を束ねた、偉人にして狂人。バルハラを人間の至るべき到達点と定め、それに挑み続けた、はじまりの勇者。
――僕たちの運命の発端。ヨハンナはバルハラを魔王と定め、同志を集め、人間の限界に挑んだ。
決戦派と呼ばれる、当時のネシュアにおいて大きな力を持っていた派閥。
かれらはネシュアに大きな発展を齎したが、その目標、その視点は、まったく異なる場所にあった。
ヨハンナという存在に、自分たちの技術の粋を集め、バルハラに届かせること。
彼女には――バルハラに手を伸ばさんとする、決戦派の狂気のすべてが込められている。
『――リミッターを外されているな。当機の全機能は対バルハラに特化したものである筈だが』
ナディアの懐から顔を出した、魔道具に焼き付けられた人格のヨハンナが、自身の本体を分析する。
並みの狂気では、バルハラには決して届かない。ゆえに決戦派は、ヨハンナの機能をバルハラと戦うためだけのものに特化させた。
他の存在との戦いでは、その真価は発揮できない――筈だったが、今、目の前にいる彼女から感じられる、黒く蝕まれた戦意は――強大な魔族のような、完全な“上位者”から感じ取れるものと大差がない。
「ええ、ちょっと苦労したわ。何かに特化する強みは失われたけど、魔族さえも凌駕する万能の勇者……うん、それが今のヨハンナよ。ここまで“人形っぽく”なると、コッペの好みからも外れちゃうけど」
「……キミが、ヨハンナを操っているのか」
「ッ、あはっ、はぁあ……! 向けられてる……っ、勇者ユーリの新鮮な感情――!」
「……」
警戒を込めて尋ねただけなのだが。
不快感、とは違うかもしれない、寒気のような何かが肌をつうっと撫でていく。
本能的に、一歩後退した。なんというか、ここはもっと真面目な場面だというのに。
……リーテリヴィアでも魔王でもいいから何か言ってほしかった。何を黙り込んでいるのか。
「おっと……シリアスシリアス……。聞かなかったことにしてくれると嬉しいわ。コッペ、キミたちとの関係を悪くする気はないから」
「…………それなら、ヨハンナを解放してほしいんだけど。それなら、僕たちも関わらなくて済むし」
「うぅん……それは難しいかも。コッペは今、劇団の一人じゃなくて、魔王様の命令で動いているわ。それに、コッペは見てみたいの。世界を変えようとしている勇者が、一体どれだけ強くなったのか!」
ふわりと浮き上がり、コッペリアは宙で舞う。
すると指先から魔力の糸が伸び――ヨハンナの周囲に、光沢のある球体関節人形が何体も現れた。
「ねえ、ねえ、魔王様。戦っていいのよね?」
『その想定ではなかったが――これも良い機会だな』
現れた人形たちは、手先から刃を伸ばしており、既に臨戦態勢が整っていた。
魔王に尋ねてこそいるが、コッペリアの選択肢は最初から決まっている。
自身が操る人形をもって、僕たちを試したい――と。
『戯れだ。ここに新たな試練を与えよう。キミたちの力を、
「あははっ、そういうことだから、少しだけ付き合って。大丈夫――今のあなたたちなら、きっと乗り越えられる試練だからっ!」
さして長い思考を挟まずに出された許可に、歓喜の表情を浮かべて、コッペリアは指先を広げ、大きく両腕を振り上げた。
ガシャリ、ガシャリと一斉に人形たちが金属の軋む音を上げて迫る。
そして、それを押しのけるように、凄まじい速度で接近してきたもう一つの人形。
殺気はない。その出方を窺い、対処をするために魔剣を構える。戦闘に使用してくる武装は、ナディアが外装で使うそれと同じものだと考えて――
「ッ――――!?」
次の瞬間、腹部に鈍い衝撃が走る。懐にヨハンナが入り込んだと気付いたのは、既に彼女がそこから離れ、僕の背後に回ってからだった。
「速い……! 違う、これは……っ!」
「外装の演算能力の、上を行っている……!」
振るわれた円状の刃。ヨハンナの小さな体躯からすれば大きすぎる武装を回避したかと思えば、踏み出したその先に飛んできた弾が巻き起こした爆発が外装を揺らす。
追撃を止めようとするクイールに、ヨハンナは目を向けることもしない。クイールと自身の間に落ちてきた、回転する円盤は、床に反射すると同時に二つに分裂し、ナディアとイリスティーラに襲い掛かる。
彼女の体の性能は、僕たちの外装にも、先ほどまで戦っていたリーテリヴィアにも及んでいない。
速度で劣っているにも関わらず、ヨハンナは僕たちを翻弄する動きを成立させているのは、その演算能力。
僕たちの外装は、リッカが並行増設した演算装置により、高度な行動予測を可能とするが――ヨハンナが導き出す行動パターンはそれを超えているのか。
「ユーリ、先に他の人形をっ」
「分かってる――!」
左手に杖を出力し、冥界の魔力を込める。魔力は杖の先で刃を形成し、鎌の形を成した。
込めた魔力を増大させ、一斉に襲い掛かってきた人形たちを外装の防御力で弾く。その隙に杖を振るって巻き起こった嵐でそれを切り刻んだ。
「あはっ、すごい! すごいわ! 張り切って作った人形が、まるで相手にならないっ! やっぱりあなたたちで間違いなかった!」
「くっ……ヨハンナ、何か弱点とかないんですか!?」
そうしている間にも、大型の武装を両手にそれぞれ持って振り回し、ヨハンナは捉えられない動きを持続する。
決め手を求めてナディアが、“こちら側”のヨハンナに尋ねるも、僅かに思案した後、どこか自慢げに答えを返してきた。
『バルハラに向けていた機能を汎用に切り替えたのであれば、外装とのスペック差のみが弱所と言える。しかし当機はそもそも、“格上殺し”をテーマとした機関につき。如何なる不利さえ覆すだろう。我が同胞たちの狂気は伊達ではない』
「……なんだか得意げではないですか? ヨハンナ――あなた、わたくしたちの味方なんですよね?」
『肯定。ゆえにナディアたちの勝利を願う。余談だが、バルハラを相手にした際の当機の未来予測は百分の一秒ごとに二億パターンの算出を――』
「つまりこうして考えるだけ無駄ということですわねっ!」
冗談だと思いたいが、ヨハンナが自身の機能に関して虚言を口にすることなどないと分かってしまう。
現在の出力はそこまでではないにしろ、この外装の演算機能を遥かに超えていることは確かだ。
そこから最適解を刹那の間に導き出し実行することで、自身よりも強大な相手でさえ、有利に立ち回ることが可能となる。
僕たちがどのように動いたとしても、すべてヨハンナに予測されていると。
「これでっ、どうですか!」
クイールの振るった聖剣が輝きを強め、魔力の奔流が噴き上がる。
それに巻き込まれる前に跳び上がって安全圏に逃れていたヨハンナを、ナディアが広範囲にばら撒いた弾丸で追撃する。
ヨハンナが躱し切れない状況を生み出せば、その演算機能も限界を迎える。そんな想像は、彼女を覆い隠すほどに巨大な、十字を描く盾によって否定された。
「なっ……ヨハンナ! あんな盾、わたくしの武装にはありませんが!?」
『あれは盾ではない。対死霊に特化した祝福砲の十字外殻のみを展開したもの。防御能力を持つというだけの装飾につき』
「装飾にどれだけの予算を費やしたのですか!?」
……今更ではあるが、ヨハンナの根幹にある決戦派としての価値観は、ナディアとはあまり噛み合わないのではないだろうか。
ここぞという時の思い切りの良さはともかく、普段のナディアはどちらかといえば慎重だ。
少なくとも、聞く限りの決戦派の“変人性”は、ナディアとは決して相容れない部分だと思う。
「ああもう、これだからネシュア王家は! どうして決戦派を日ごろから注意深く監視しておかなかったのですか!」
『一国家の派閥として常識的な範囲で収まっていたのであれば、後のネシュアの繁栄はなかったと断言する』
「ええ、そうでしょうね!」
「な、ナディアちゃん、冷静に……」
ヨハンナの時代とナディアの時代は異なるとはいえ、一切悪びれもせず、ヨハンナは告げた。
彼女の思想に感銘を受けて付いていった者たちの発明は、ナディアを通して僕たちに力を貸してくれているが、現在進行形で非常に厄介な壁となっている。
性質を知っている武装であればまだ対処もできるが、相手の手札はまさに無尽蔵だった。
リーテリヴィアとは異なる戦い方で僕たち全員を相手取る彼女は、操られているとはいえ、僕たちの
しかし――負ける訳にはいかない。僕たちの戦いを眺める魔王たちを、横目で視認する。
力を見せてみろ、と魔王は言った。であれば、乗り越える以外の選択肢など、存在しない。
「リッカ、あれを使うよっ!」
「ん……いつでも」
先端に槍の如き、巨大なスパイクの付いた籠手を装着し、イリスティーラに迫るヨハンナ。
僕たちはリッカの力で時間の流れを極端に鈍くし、そこに割り込むように立つ。
完全な時間の停止は出来ない。どれだけ遅くしようとも、ヨハンナの圧倒的な演算速度をもってすれば、捉えてしまうことは出来るだろう。
しかし、瞬間移動に近い速度であれば、ヨハンナの動かす体の方が行動を切り替えられない。
一度でも彼女にこの能力を認識されれば、以降はこの力も含めて対策されるだろう。だからこそ、一度きりの手段。
『リヴィアリンク! イグニッション!』
「なっ……キミたち……!?」
突き出された籠手のスパイクは、本来であれば外装の防御力を越えられず、弾かれるだけ。
しかし外装は既に変質を始めている。弾かれる筈のスパイクは沈み込み、ヨハンナを逃がすまいと浸食していく。
変化した性質を把握し、行動を切り替えるヨハンナの思考速度は凄まじいものだ。だが、彼女を捉えるための次の一手は間に合った。
「ふ、二人とも……? それ、大丈夫なんですか!?」
「うん、大丈夫――これで、逃げられないはず」
僕たちの足元から広がり、既にヨハンナの足元へと至っている、半透明な液体。
既に外装は全体がその液体へと変質している。物理攻撃に極めて強い、スライムとしての性質に。
リッカの使い魔を基にした、外装の性質変化。この外装が持つ切り札の一つ――その感覚は慣れないけれど、ヨハンナに対する不意打ちとして、これ以上ないほどに機能する。
沈み込んだスパイクは離さない。浸った足も逃がすことなく、捕らえ続ける。
どれだけの演算機能を有していても、“回避できない”状況を作り出せば問題はない――!
「っ!」
この状況で、逃れる方法があるとすれば、それは捕らえられている部位を切り離すということだけ。
両足を、右腕をガチャリと分離させ、断面から放出する魔力の推進で飛び退こうとするヨハンナへの対策は、既に整っている。
ヨハンナを覆う、水のドーム。逃げ場はない。
このドームを破って脱出しようにも、それを可能にするほどの猶予は与えない。
完全にヨハンナを包み、呑み込んだと同時、僕が使える数少ない魔法を行使する。
ナディアから教わった、異常を取り除く浄化魔法。それは、いつかヨハンナを起こした際の、ディアネシュアの証明だ。
『――――』
「あら、糸が切れちゃったわ。低級の浄化魔法でも、やっぱりコッペとは相性悪いみたい」
それはヨハンナの思考を奪い、行動指針を操っていたコッペリアの干渉を一時的にでも弾く。
ほんの一瞬だろうと、自我を取り戻せれば、ヨハンナは即座に対策を行使する。
一瞬、ヨハンナは正気に戻った様子を見せた――しかし。
「けれど、けれどね。これくらいで終わったら試練でもなんでもないわ。それにね、コッペはこれでも職人なの。操り糸のセンスだけじゃない。どれだけ凝ったからくりを仕込めるかも、人形遣いの才能よ」
「何を……っ」
「つまりね――糸が切れても動かせないと、人形遣いは成り立たないってこと!」
その意思が、またも奥底に沈み込む。手が届きかけていたつながりが、遠く離れていく。
さらに、すれ違うように、内側から高まっていく力。このままではいけないと、外装の性質を元に戻し、ヨハンナから離れる。
直後、ヨハンナの目から放たれた半透明な光線が、僕たちを掠めて――今いる領域の向こうへと突き刺さった。
その先は、僕たちがやってきた方向。つまり、回顧の迷宮。
爆発は、この領域まで伝わってこない。しかし、その光線によって起きた異変は、ここにいても認識できた。
「あら?」
『――迷宮の構造を乱したか。であれば諸君、衝撃に備えることを推奨する。この空間も含め、掻き回されるだろうからな』
ぐらり、と空間が揺れた。魔王の忠告の意味を理解するよりも早く、眼前にいたヨハンナの姿が掻き消える。
地震のような揺らぎにより、僕たちは跳ね上げられ、周囲が暗闇に覆われる。
外装は維持できている。リッカとは、離れることはない。
しかし気付けばクイールたちは周囲におらず、闇の中で舞い踊る本の群れが見えるくらい。
「リッカ、これって……」
「……空間が安定するまで、大人しくしていた方がよさそう。変なところに転がり落ちても困るから」
ある程度状況を把握したリッカに従い、揺れる空間の中で、じっと待つ。
みんなは……無事だろうか。つながりを見つけられれば、引き寄せることも出来そうだが……。
やがて、ひときわ大きな震動が起きて、硬い床に降り立つ。
倒れた無数の本棚から好き放題にばら撒かれた本の山。嵐でも飛び込んできたかのような惨状が視界に入る。
複雑に並ぶ本棚が立ち塞がっていた迷宮は、まさに“掻き回された”ようになっていた。