凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
気配はなかった。敵意も、害意も、魔王からは感じ取ることが出来ない。
ただ、わざとらしく響く足音を、こちらに隠すつもりもなかった。
「……リーテさんたちとは逸れたんですか? 護衛も無しだなんて、魔王らしくないじゃないですか。どうして出てきたんですか?」
『空間の揺らぎに巻き込まれるのは
リッカの傍に寄り、魔法の準備を整える。
クイールも聖剣を構え、油断なく魔王と向かい合った。
「そんなことをする前に、僕たちがあなたを倒す可能性もあるんですよ。そうしたら、僕たちの使命もおしまいでは?」
『これまでキミたちは三つの楔を破壊した。ならば既に知っている筈ではないか?
――冥界で最後に戦った怪物。あれもまた、魔王の“記録”だと聞いた。
魔王そのものではあるものの、あくまでもバックアップとして埋め込まれた機能から出力された存在。
目の前にいる魔王も、そうして象られる姿の一つなのだろう。
『キミたちが破壊せんとしてる楔に刻まれているのは、世界を形を定め、世界の支配を実行する魔王の解釈。四つの楔は四つの解釈を持ち、それぞれ異なる側面を際立たせた端末を出力する。
「……確かに、冥界のあれは喋ることも出来なさそうでしたけど」
『それは世界を枯らせる怪物としての魔王。暴虐を振るい、力をもって世界を圧し潰す厄災。放置していれば、それは冥界の外まで這い上がり、地上のすべてを食らい尽くしていただろう』
あの姿に抱く印象は、今目の前にいる魔王とはまったく違うものだった。
同じ点を挙げるとすれば、僕の力でつながりを……感情の向きを感じ取ることが出来ないという一点のみ。
そう――あの怪物が持っていた滅びの性質は、少なくとも目の前に立つ人型には存在しない。
『尽きぬ魔族による蹂躙を司る、魔本の性質。人も魔族も、あらゆる生命をも侵す魔病の性質。これらはキミたちの尽力により、出力が行われる前に楔を破壊された。
恐らくは、一つの楔に一つの魔王のかたちが当てはめられているのだろう。
残っているのはあの人型の魔王のみ。ホロゥの楔を破壊すれば、ついに魔王に手が届く。
『キミたちの活躍は実に見事だ。
「……あの楔は、願いを叶える力があるって聞いた。本当なのか? なんのために、そんなことを?」
『なるほど――願いを叶える、か。確かにそれは、楔によって齎される結論の一つではある。四天王が有する願いは、
向こうが対話をしてくるのであれば、疑問を解消しようと思った。
結局のところ、アリスアドラが言っていた楔の力は本当なのか。魔王は、一体何をしようとしているのか。
しかし、魔王はそこで言葉を止めた。
『それは辿り着くべきロスラウドで知るべき事柄。キミたちはあの場所で真実を知るだろう』
――あえて隠しているのか。あるいは、そもそもこの魔王には、それを出力する機能を有していないのかもしれない。
それならばいい。どうあれ僕たちはここで立ち止まる気はない。すべてを知る機会があるというのなら、僕はそこに辿り着き、踏み越えていく。
「……それなら、早くロスラウドにいかないと、ですね。すみませんが、あと一つの楔も壊させてもらいます」
『できるのならば、成し遂げてみせるがいい。キミたちであれば、不可能ではない筈だ』
「ええ、何も不可能なんてありません。僕たちは勇者ですから! ユーリくん、リッカちゃん!」
「うん――!」
まずは、目の前の端末を打ち倒す。
魔王の言葉が正しければ、楔が健在である以上、あの端末は代えが利く。
だとしても構わない。何度でも撃破すればいいだけの話だ。
『
『パーフェクトユニゾン! ビー・ウィズ・U-リッカ!』
同時に外装を身にまとう。クイールの勇気と同調し、そして高め合うように、出力を高めていく。
それと向き合う魔王は――戦闘態勢を取ることもしない。
『……やはり、異常だな。そのような鎧は
「……? 何を言っているんですか? 聖剣は、魔王が用意したんでしょう?」
僕たちの外装が異常だというのは分かる。リッカも、運用を始めたのは“今回”からなのだから。
リッカが少しずつこれの構築を進めていたのならば、繰り返しの原因である魔王が知らなくても無理はない。
だが――魔王の疑問は、クイールにも向けられていた。
クイールの聖剣は、魔王が用意したものだと、初めてナイトラクサを訪れたとき、ルメリーシャたちから聞いたのだが。
『然り。それは
「え……?」
自分が用意したことは肯定しつつも、あの外装が持つ最大の謎について、魔王は否定した。
迷宮で聖剣を手にして、脱出するまでの間にクイールはあの機能を使いこなしていた。
では……あの機能は。僕たちの力と似たあの機能は、一体どこから出てきたのか。
『今回現れたその技術は、あまりにも場違いだ。ここまで
「……」
リッカは答えない。魔王はリッカの秘密を、完全に知っている訳ではない。
転生者、こことはまったく違う世界で生きていた人間。
リッカの外装の発想がどこから来たものなのかは僕にも分からないけれど、その
だが、そうだとすれば、クイールの聖剣が外装を構築できることに説明がつかない。
「――まあ、関係ないです。大事なのは、この形でブレダリオンが僕に力を貸してくれているということですから」
『そういう訳にもいかない。
「やりたければどうぞ。僕は、ブレダリオンを手放す気はありませんが――!」
クイールが戦意を膨らませ、それに合わせて共に踏み込む。
それが、魔王の事情であるのならば、僕たちが考慮する必要はない。クイールが聖剣の謎を明かす必要がないと感じているのなら、そこで話は終わりだ。
『ふむ――』
同時に振り下ろされた、魔剣と聖剣。二振りの斬撃を魔王は自らの手で受け止めることはしない。
魔王を守るように現れた障壁。
色彩の調和を気にせず、様々な絵具を好き勝手にぶちまけたような、魔力の障壁。
それを突破しようと更なる力を込めるも、まるで水に包まれたかのように、勢いは急速に失われる。
『キミたちがどれほど望まなくとも、その旅路を収穫することは
魔剣の威力を高め、障壁を破ろうとするも、引き出されたと同時に威力はたちまち霧散していく。
ならば、と障壁に向けて魔剣を突き立て、銃砲形態へと切り替えて引き金を引くが、放たれた砲撃は障壁を通り抜けるまでに無害な魔力の粒子に分解された。
「このぉ――!」
クイールが一気に聖剣の魔力を解放し、ごり押しで障壁を粉砕しようとする。そのタイミングに合わせ、僕たちも動いた。
時間の流れをせき止める。完全に停止させることは出来なくとも、一秒を僕たちにとっての十秒、百秒に引き延ばす。
魔王の無防備な背後に回り、魔剣を振るうには十分な時間のはずだった。
「ッ……!?」
「なんで――っ」
振るった魔剣が、魔王の背後を覆うほどの障壁に受け止められる。
ほんの一瞬の時間だった。魔王と言えども、認識できるとは思えないほどの。
今の攻撃は、直撃するという確信があった。外装が持つ、常軌を逸した演算能力で導き出された結論の筈だった。
「まずい……!」
障壁の表面に波紋が浮き、直後の被弾を察知して体を捻る。
次の瞬間、障壁が盛り上がり、槍のように突き出てきた。
その一本を蹴って距離を取るが、床に足を付ける前に、周囲に色鮮やかな球体が浮き上がり、次なる脅威の接近を悟る。
リッカに出来る限界、停止に限りなく近いほどにまで時間の流れを鈍らせて、クイールを連れて咄嗟に離れれば――直後、浮いた球体は次々と爆発した。
「っ、二人とも……っ!?」
せき止めていた時間の流れが元に戻る。
クイールの認識としては、障壁を破ろうと聖剣に力を込めていたら、突如距離を離されたも同然。
しかし、目の前で巻き起こった爆発を見て即座に状況を把握して、聖剣を構え直した。
『
状況をまるで気にせず、語り続ける魔王。
意識は別のところに向いている――そのように出力されているにも関わらず、僕たちへの対処は万全だった。
追撃の様子はない。今、僕たちが改めて攻め込む様子がないから。
先ほどのヨハンナと同じだ。
――魔王は僕たちと同じ……いや、それ以上に、“最適解を選ぶ”ことに特化している。
演算能力においてリッカのそれを凌駕し、僕たちの行動を予測して、たとえ速度を捉えることが出来ずとも前もっての対処を可能としているのだ。
「それにしたって、この障壁は……っ」
『
先読み出来たとして、この障壁の性質はおかしい――そんな疑問を口にしようとして、ようやく魔王から返答らしき言葉を返してくる。
攻撃することさえ無意味と思わせるほどの、受けた衝撃を分解する障壁。
それは、バルハラから奪い取った力によるもの――そうであるのなら、一つの突破口を思いつく。
もう一度踏み込んで、手に取るのは、黒と銀で彩られた大斧。
バルハラから受け取ったこの武装は魔王が使っている力と同等なもの。あの不可思議な障壁にも、負けはしない――!
『ほう。それもまた、
勇気と冥界、二つの属性が嵐のように荒れ狂い、絵具のような障壁に罅を入れる。
いける、という確信と共に大斧を押し込めば、硝子が割れたかのように色彩が飛び散っていき、魔王との間にある隔たりを失くす。
もう一撃。魔王の体に攻撃を届かせる前に、魔王は初めて動きを見せた。
『とはいえ、それは後だ。優先すべき記録対象は、キミなのだから』
「ッあ――!?」
背後にいたクイールから上がった悲鳴。
咄嗟に振り返れば、魔王のものと同じ手が――クイールの頭を鷲掴みにしていた。
『
「何を……!?」
「っ、クイールを離せ!」
独立した手を魔剣で切り裂こうとするも、クイールを守るように現れた障壁が弾き返す。
大斧の威力では障壁どころか、クイールまで巻き込んでしまうだろう。
――手段を考える時間が惜しかった。もう一度時間をせき止めて、クイールを覆う障壁の隙間へと飛び込んで、掴む手から引きはがす。
しかし――時間の速度が戻ると同時、クイールの外装が解けた。
「クイール!?」
「――――――――」
倒れかけたクイールを支える。
目を見開いてふらつくクイールに、それまでの戦意は一切残っていなかった。
『なるほど。受け入れ、乗り越えたのではなく、忘れ、薄れるように努めた。やはり、キミもまた得難い生涯を歩んできたということか』
まるで、この迷宮の本による試練がまた始まったかのように――“思い出したくない記憶”を、記憶の底から拾い上げられたかのように。