凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「クイールに、何をした……!」
『収穫だ。勇者の旅路――その記録を提供することは、勇者の義務なのだよ』
外装の解けたクイールを庇うように割り込んで、大斧を振るう。
障壁に弾かれながらも、魔王を後退させるが、既にその目的は果たされていたらしい。
『
「……私が“巻き戻る”前に、死んでいなかったから」
『その通り。ここしばらくはキミを主軸に記録を進めていた。ゆえに――実に新鮮な記録だ』
リッカが失敗した、いくつもの結末。
僕たちがクイールと出会わなかった可能性では、クイールはどうなっていたのだろう。
聖剣の試練を終えて戻ってきて――その時点で、僕たちはもう死んでいたのかもしれない。
どうあれ、死んでいない以上クイールが歩んだ旅路を、これまで魔王は知らなかった。
「……勇者が死ぬまでの記録を集めるのなら、今のクイールから取り出すのは不完全じゃないの?」
『それも正しい。とはいえせっかくの機会だ。未完の旅路でも、
クイールはその場に膝をついて、起き上がる様子を見せない。
まるでその様子は、またもこの迷宮が生み出す一時の夢の中に落ちてしまっているようだった。
いや――事実、そのような状態になっているのだろう。
魔王が行ったのはクイールの記録の“収穫”。つまり、これまでクイールが経験したことを、強制的に呼び起こしたのだ。
『人の可能性とは万能だ。その種はあらゆる魔族に根付き、その胎はあらゆる魔族を受け入れる。そして、魔族たちもこれを利用する本能――あるいは知恵を有している。実に、実に都合のいい存在だといえるだろう』
「っ……」
『“そのように”終わる勇者は何人もいた。キミたちが知る通り、ありふれた結末に過ぎない。だが――極めて希少だ。それを末路とせず、立ち上がり、勇者として在り続けるというケースは』
感情を動かすことなく、しかし魔王はクイールの在り方を称賛していた。
“サンプル”としての価値を見出したこと。それは、当事者ではない僕にとっても、極めて不快なことだった。
斧に魔力を込め、力いっぱい叩きつけることで障壁に罅を入れ、その奥にまで押し込むも、魔王の手によって刃は止められる。
即座に斧を弓の形態へと変化させ、矢を放とうとするが――新たに出力された障壁によって弾き飛ばされ、彼方へと飛んでいく。
『しかしそれは乗り越えたのではなく忘れただけ。それだけで、勇者としての自分を維持できるというのは素晴らしい才能だ』
「それをっ……クイールに思い出させたのかっ!」
浮いた体を、斧を床に突き刺すことで押しとどめ、それを蹴って再度距離を詰める。
もう一度取り出した魔剣を振るうが、またも障壁に受け止められた。
『確かに、早計ではあった。これで立ち直れなくなるというのなら、惜しいがそれまでということだろう』
「――この……ッ!」
悪びれる、という感情のない目の前の元凶に、たまらなく苛立ちが沸き上がる。
リッカの苦しみも、クイールの苦しみも、魔王にとっては嫌悪にも快楽にもならない。
魔王にとって価値があるのは、その旅路を経たという記録だけなのだ。
「クイール! しっかりっ!」
「――――――――」
障壁に斬撃を叩き込み、その衝撃でクイールのもとまで後退して、彼女を揺さぶるも、やはり反応はない。
意識は動かず、内側に向いたまま――再び乗り越えられないほどの悪夢を、今のクイールは追体験している。
見ている過去が一体いつのものなのかは分からない。
けれど、僕たちはクイールの過去について、一つどうにもならないトラウマを知っている。
乗り越えたものだと思っていた。だが、魔王の言う通り――ただその時の苦痛を、恐怖を、勇者であるために忘れていただけなのだとすれば。
『その点、キミたちはやはり素晴らしい。これまで数多の凄惨な過去を経て、そのすべてを乗り越えてここにいる。キミたちこそ、
その経緯を手にした以上、クイールにはもう用はないとでも言うようだった。
既に、勇者としての彼女の役割は終わったかのようだった。
――そんな筈はない。クイールはいなくてはならない存在だ。僕たちは――共にハッピーエンドを迎えると誓った仲間なのだ。
こんなところで終わるなど、認められない。
『キミたちの怒りは理解する。だが、キミたちに出来ることはあるまい。勇者ユーリが勇者クイールを連れ戻そうにも――どうやら状況はそれを許さないようだ』
「ッ!」
――その衝撃の接近に気付いたのは、魔王の方が先だった。
咄嗟にクイールを抱え、その場を飛び退く。
次の瞬間、魔力の奔流が立っていた場所を呑み込み、削り取っていった。
周囲の本が灰になり、本棚さえもが吹き飛ぶ凄まじい威力。その攻撃には覚えがあった。
ナディアが有する武装の魔力砲。それが、こちらに害意を持って放たれたということは。
「あら、外れちゃった。いえ、避けられるに決まっているわよね。だってあなたたちは勇者なんだもの!」
「コッペリア……!」
巨大な魔力砲を右腕で抱えるヨハンナと、その肩にしなだれかかるように取り憑いたコッペリア。
先ほどまでの操り方とは違う、あれはポルターガイストとしての、本来の物質への憑依なのだろう。
「この子、流石は勇者のオリジナルだわ。さっき糸が切れた時に、もう対策が進んじゃっていたの。この憑き方はコッペのやり方とはちょっと違うんだけど……こっちの方があなたたちの本気がもぉっと見られるかしら」
――どうするべきか。
異常が発生し、どこに出口があるか分からない迷宮の中では撤退することもままならない。
魔王は積極的にこちらを害する様子はないが、ヨハンナを操るコッペリアは違う。
僕たちの“本気”を見るためならば、何をしてもおかしくはない。
だが――それでも、打開の余地はある。ヨハンナが現時点で戦闘態勢を取っていたということは、つまりそれが必要な状況であったということ。
「待ちなさいっ……あの程度で、わたくしたちに勝ったと思っているのですか――!」
「ナディアっ!」
背中に取り付けた装置から魔力を噴き出し、ヨハンナの背後から突っ込んできたナディア。
そのナイフは素手で受け止められるものの、勢いそのままで放たれた蹴りが、僅かにヨハンナを後退させた。
「ユーリ! リッカ! 無事ですわね!?」
「僕たちは大丈夫――けど、クイールが……っ」
ナディアの外装にはところどころ罅が浮かび、それを修復させながら駆け寄ってくる。
それまで、ヨハンナと戦っていたのだろう。戦闘の最中、いつの間にか僕たちの戦っていた場所と近付いていたらしい。
「クイール――何があったのですか!?」
「魔王に夢を見せられているんだ。過去の……辛い記憶を」
「っ、なんて悪辣な……」
『どのような過去であれ、勇者はそれを明け渡すことは義務だ。
「黙りなさい。あなたの見解など不要です。わたくしの友に関わる以上、あなたたちの為すことはすべて悪であると心得なさい」
魔王の言葉を途中で遮り、ナディアは断固として告げる。
そうだ。魔王に悪意があろうがなかろうがどうでもいい――そもそも、そうした感情など感じられない存在なのだから。
その行いによって、クイールが悪夢に囚われている。今、重要なのはその一点だ。
「――ハハハハハッ! なんと豪胆なお姫様だ! そんな基準で善悪を論じるなど、キミの方がよほど魔王らしい!」
ナディアの暴論ともいえる宣告で、少しだけ気力を取り戻す。
直後、魔王とヨハンナを巻き込むように床が割れ、土を固めたような巨大な槍が飛び出してきた。
同時に噴き上がるマグマが、まるで花火のように弾けながら、弾丸となって魔王たちに降り注ぐ。
それほどまでに派手な攻撃を好む者など、今この領域にたった一人しかいない。
「遅いですよ、エヴァネス。それと、わたくしに不名誉な称号を与えないでください」
「いや、キミがボクを置いていったんだろうに!? ボク、結構重傷なのだが!?」
「すぐに治して合流するから先に行けと言ったのはあなたでしょう。見たところ再生していないようですが、その状態で戦えるのですか?」
「まあ……どうあれここで隠れているのは性に合わないからね。とはいえ、血化粧も悪くないだろう? 完璧であるボクは、鮮血さえも美しいのさ」
それまで、ナディアと共にヨハンナと戦っていたのだろう。
周囲を眩しいほどに照らして舞い降りたのは、満身創痍にさえ見えるエヴァネスだった。
ヨハンナの魔力弾に穿たれたと一目でわかる傷痕が無数に刻まれ、盾にしたのか、左腕がズタズタになった壮絶な姿。
そんな自分の容態を気にした様子はなく、ヨハンナに警戒を向けつつも、ナディアに相変わらずの軽口を返していた。
『なるほど。『狂冠』のエヴァネス。キミはあくまでも、己の信じる美をこそ、絶対の価値観とするか』
「ええ。何故ならば、ボクはそういう生命なのだから」
ヨハンナがすぐに襲い掛かってこないと判断してか――口元から零れる血を指で拭い、エヴァネスは魔王の言葉に答える。
耐久に優れたサキュバスでなければ死んでいても決して不思議ではない傷。
しかし、この時エヴァネスは、それを誇っていた。
壮絶な傷でさえ、彼女にとっては自身を彩る装飾でしかない。
信じがたい価値観だが――今となっては、エヴァネスであれば不思議ではないと思えるほどに、彼女の異常性は受け入れられた。
「魔王よ。我らの頂点よ。ボクが一番好まない、この世で最も嫌悪する事柄をご存じでしょうか」
『ふむ、知らないな。それはさほど重要な記録にはならないが……良いだろう。キミの言葉で教えたまえ』
「であれば遠慮なく。ボクは、誰かの美を損なおうとする輩を何よりも醜悪に思うのですよ」
堂々と、なんの躊躇いもなく、エヴァネスは宣言した。
ああ……その在り方は理解できる。彼女は僕たちと同じように、譲れないものを芯としている。
どのような苦境に立たされても、それを捨てることはない。その芯――自らの誇りのためであれば、相手が誰であろうと否を唱えられる。
たとえアリスアドラを前にしても、エヴァネスはこう言うのだろう。
「自ら美を捨てるというのならば愚かなだけ。ですが、他者の美に手を掛けるというのは許しがたい悪逆だ。ボクが認めた者の美であるのならば、なおさら」
『そうか、キミはそこまで彼女を買っていたのか。であれば、悪いことをしたようだ』
「謝罪は結構。感情のない言葉ほど無価値なものはありません。そしてそれしか紡げないのであれば、あなたもまた同様です。ここにいる者たちの中で、あなただけがひどく無価値だ」
どれだけ立場が上であっても、それが事実である以上、言わずにはいられない。
今の魔王は自身の信念を脅かしているのだから。――エヴァネスは、そういう人格の持ち主だった。
「真っ直ぐな者ばかりなのですよ。魔王、あなたはそれを学ぶべきです。かれらがどれほど素晴らしい存在であるか」
そう言って、くるりと踵を返し、エヴァネスは僕たちに向き直る。
「これまであまり役に立てていなかったからね。ここいらで面目躍如といこうじゃないか」
「……何か、出来るの?」
「ああ。クイールを目覚めさせる一助を担おう」
――それを本当になせるのであれば、何よりもこの状況を変える提案だった。
血に濡れたエヴァネスの顔は、しかし相変わらずの自信に満ちている。
「そんなことが……っ! って、そうでした――あなた、サキュバスでしたね」
「忘れていたのかい!? いや、それらしいことも大してやっていないが……っ、まあいいさ。ともかくだ」
「ッ!」
言葉を紡ぎ終える前に、唯一といっても良い希望である彼女の背後に回る。
コッペリアを背負ったまま接近してきたヨハンナの籠手を受け止める――エヴァネスは“そうなるだろう”と察していて、しかし動くことをしなかった。
まだ、出会って間もない魔族ではある。本来は敵になってもおかしくない立場だ。
それでも、これほど信頼しているのだから、そちらも信頼を置けという意思表示だった。
「ボクは今から、クイールの夢に飛び込む。キミたちの役目は、彼女が目覚めるまでの間、彼女の体を守り続けること。それから――」
放電を始めた籠手を魔剣で弾き、周囲に展開した触手の群れでヨハンナを後退させる。
魔王は動く気配を見せない――その様子は、僕たちの判断を吟味しているようだった。
「彼女を夢から覚ますのならば、ボクではない誰かがいた方がいいだろう。彼女の手を引いて連れ出せるような、現実の希望がね」
「それは――――」
クイールが過去の絶望に浸っているのであれば、手を差し伸べる希望は必要不可欠だ。
だが、それはこの場において、ヨハンナと魔王を前にして、クイールを守りながら戦うための戦力を削ぐことを意味する。
迷っている暇はない。僕か、あるいはナディアか――
「……ユーリ。少しの間、術式をユーリに預けておくね」
「リッカ……リッカが?」
――その決断を理解するのに、少し時間を要した。
エヴァネスに同行するということは、彼女を信じるということ。
夢の中とはサキュバスが絶対的な力を持つ領域だ。
彼女が裏切らないという確信を持てるのは、そのつながりを意識することが出来る僕だけ――きっとリッカは、まだ疑心でいっぱいのはず。
「……リッカ、行けるのですね?」
「ん……多分、今の……クイールに一番寄り添えるのは、私だから」
クイールの深奥に触れたとして、そこから引っ張り上げることが出来るのは、僕でもナディアでもない。
それが出来るのは自分だけだと――リッカは考えていた。
……ほんの少しの不安を、下らない杞憂だと拭い去る。クイールのために、リッカは大敵ともいえる魔族を信じることを選んだ。
ならば、ここで僕に止める選択肢などない。リッカは希望をもってエヴァネスを信じ、そして僕を信じているのだから。
「……リッカ、お願い」
「ユーリも――気を付けて。なるべく、すぐに戻ってくるから」
『ユニゾンリンク! U-リッカ!』
僕たち二人が一つになることが必須である以上、最強の外装は使えない。
状況は厳しいけれど、好転するための唯一の手段であるのならば、成し遂げてみせる。
「話は決まったね? さあ、始めようじゃないか!」
すぐ背後のエヴァネスが離れていく。同時に、外装からリッカの意識もまた零れ落ちて、エヴァネスに連れられてクイールへと飛び込んでいく。
その言いようのない喪失感に動揺している暇はない。
武装を展開するヨハンナを前にして、僕はクイールを抱えてナディアと並び立った。