凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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苦い記憶(とき)も、甘い瞬間(とき)も(7)

 

 

 自分の生き様が決定的に変わるような“転機”というものを、意識したことはなかった。

 

 自分の美に気付いたとき。

 あえて自覚という表現をするまでもなかった。

 きっと、強く意識するまでもなく、そういうものだと受け入れていたのだろう。

 

 アリスアドラ様に仕えると決めたとき。

 なんらきっかけがあった訳ではない。あの方のカリスマは絶対的で、ボクも例外なく、それを感じ取った。

 他の三人のように、あの方との出会いが運命的であったということもない。

 

 ――ネリネは、その誰にも見えていない星の輝きを共感された。

 アリスアドラ様が、彼女の瞳の奥にある異質な光景を同じく目にしていたかは分からない。

 しかし、それは少なくとも、言葉だけの浅はかな同情ではなかった。

 

 ――ジルは、突如として自らの生き方を壊された悲劇に共感された。

 彼女が元々、ムルゼ霊山に住まう種族で、その千変万化の性質をネリネに注目された哀れな存在だということは知っている。

 意図せず中途半端なサキュバスとなってしまったジルの飢餓を満たさんと、アリスアドラ様は自らの皮膜ある翼を譲り渡した。

 

 ――イルミナは、飽くなき情動を満たすための数多の凶行を共感された。

 アリスアドラ様と出会うまでの彼女は、ボクも噂には聞いていた。ある意味、誰よりも“サキュバスらしさ”を極めた存在だと、大笑いしたのを覚えている。

 あのままであれば、第二の国枯らしを果たしたか、或いはリーテリヴィア様にでも討ち取られたか。

 どうあれ、共に血に塗れながらも、アリスアドラ様がイルミナに寄り添うことを選んだのは、運命だったのだろう。

 

 ボク以外の三人にとって、アリスアドラ様とは救済であり、奇跡だった。

 それぞれが自身の抱えた絶望を、僅かであれ――その時、忘れた。

 アリスアドラ様が持つカリスマ以上に、心酔する理由があった。

 一方ボクはどうだろう。ボクにとってアリスアドラ様は、偉大な方ではあるが、恩義ある存在ではなかった。

 

 大人になるまで、まさに順風満帆であった。

 ボクの美しさは絶対で、当たり前のように大きな力を持ち、当たり前に成り上がって、こうして立場を得た。

 万全にして盤石。ここまでも、この先も、ボクの生き様には瑕疵と認識できるものなど生まれない。

 それはボクの完全さの証明ではあったが――まあ……いささかばかり、平凡だと感じるのは、否定できない。

 多少の想定外はボクという存在を際立たせる装飾にしかならず、少し手を煩わせるだけで容易く収まってしまう。

 あの、オルト・ノーマの平定でさえそうだった。

 流石に骨の折れる事業ではあったが……ボクに対処できないほどの混乱はついぞ起きることはなかった。

 あまりにも、ボクは完璧に過ぎた。才能に恵まれ、美しさに恵まれ、そしてそれらを磨く土壌にも恵まれていた。

 いずれこのままアリスアドラ様を超えて、ボクはサキュバスの頂点に立つのだろう。あまりにも見え透いた、既定路線だったのだけれど。

 

「……ふふ」

「……何がおかしいの」

「ああ、すまないね。キミたちといると退屈しないな、と思ったんだ」

 

 これまでも、決して退屈をしていた訳ではない。

 だが、刺激があるかと問われれば、それも否だ。決まりきった美食はボクの五感を楽しませても、新鮮には感じさせない。

 嗜むべき当然のものに、驚きなどあってはならない。

 その点、今回の体験はどうだ。

 かれらは一体、何度ボクを驚かせれば気が済むのだろう。

 

「……まだ一晩にも満たない筈だけど」

「それだけ、鮮烈な思い出になりそうだということだよ。誇ると良い、長く生きる魔族の心を躍らせるというのは偉業なのさ」

 

 ――荒れ狂う灰色の風の中を、ボクたちは飛んでいた。

 旅の道連れ――リッカは、ボクがエスコートしているとはいえ、このノイズにまみれた嵐の中で、迷うことなく付いてきている。

 サキュバスが手を引いていても、夢へと潜ることは人間にとって決して簡単なことではない。

 人間の精神とは脆い。それでいて感受性が強いものだから、他者の精神に飛び込むようなことをすれば、容易く自己を消失してしまう。

 この小さな少女が、それで壊れてしまえば不幸なことだと断じるつもりだったが……まさか、こうして雑談に興じる余裕さえあるとは。

 チラと様子を窺ってみても、この精神を直接冷やすような風に晒されて負担を感じている様子はない。

 どちらかといえば、彼女のストレスはボクと共にいることか。

 

 魔族を恐れる少女。その恐怖のかたちは、ただ人間を凌駕する種族だからというだけで形成されたものではない。

 彼女は、魔族の手に堕ちた後の結末を知っている。それも、知識だけではない、実感として。

 奇妙な話だ。幸運にも未だ純潔であるはずの少女が、何故こんなにも魔族の恐ろしさを知っているのか。

 

「あなたの享楽のためにやっていることじゃない。遊び気分で付き合っているのなら、今すぐ出て行って」

「いや、今出て行ったらキミは取り残されるわこの子は起きないわで最悪な状況になると思うよ。ボクの言葉が不快なら戯言だと流したまえ。幸福でいたいのなら、そういう余裕を持った方がいい」

 

 一体彼女にどういう過去があるのかなど、夢を覗いてみなければ分からないし、それをするほど野暮でもない。

 だが――そうであるのならば、本来自分のことで精いっぱいなはず。

 なのに彼女はこうして、他者を夢から目覚めさせるために動くために行動している。

 クイールに寄り添えるのは自分だと、言っていた。

 彼女もまた勇者の使命という世界の機構の餌食になった被害者で、その過去から目を背けず乗り越えている。

 大したものだ。そしてなんとも、気が狂っている。彼女と比べれば、クイールの方がよほど健常と言えるだろう。

 

「……今のあなた自身に余裕がなさそうだけど。喋っている暇があったら再生を優先したら?」

「ふむ……確かに。否定のしようもないほど重傷ではあるね」

 

 見苦しい姿であるとは思わない。

 ボクの体は血の一滴、肉の一片さえ宝石に勝る芸術だ。今の姿にも至上の価値がある。

 とはいえ、ここまで死に近付いたのもまた事実。いやはや、驚いた。

 伝説に名高き聖女ヨハンナ。人の身でバルハラを目指した偉人の中の偉人。

 彼女は真に、人間の究極を謳うに相応しい存在だった。

 並の魔族では相手になるまい。まさかこのボクが人間との戦いで死にかけるなど、ほんの数時間前までは思ってもみなかった――いやまあ、あれがまだ人間と称するべき存在であるかは置いておくとして、だ。

 

「ボクの容態は気にしなくていい。知っているんじゃないかい? サキュバスとは極めて頑丈な種族だ。死にかけても死なないのが当たり前さ」

「……厄介な種族」

 

 彼女からすればそう言うほかないだろう。

 ネリネにアリスアドラ様、二人を手に掛けたのならば、サキュバスの耐久力を知らない筈もない。

 サキュバスとはその本質が精神的なもの。肉体の方は損壊に強く、異常なほどの無茶をしたとしても再生は叶う。

 再生の速度に関しては月の光を浴びるヴァンパイアには劣るのだが、ともかくこれくらいであれば、ボクもまだまだ死ぬことはない。

 

「まあ、今はその厄介な種族に身を委ねておきたまえよ。この子――クイールの深奥はまだ先だ。これほど潜るに険しい夢というのは、初めてだね」

 

 ほんのわずかに道を外れただけで、黒い嵐はたちまち濃くなり、前も後ろも分からなくなる。

 あまりにも深い闇だ。隠しておきたい秘密、忘れておきたいトラウマ、どう受け止めたら良いか分からない困惑。

 ありふれたそれら一つ一つが極めて大きい。だからこそ、他者を拒む風が砦の如く道を塞いでいる。

 いやはや……なんとも、厄介なものだ。

 深奥に触れずとも、この性質を読み解くだけで、クイールが陥っている泥沼の正体はある程度見当がつく。

 

「……まったく、身内の恥だ」

 

 小さく呟く。理解に苦しむ、とはこのことか。

 サキュバス、インキュバス、どちらも他者を支配する種族である。

 しかし、その支配に苦痛があってはならない。

 その者の価値観すべてを塗り替えるほどの、至上の快楽。ボクたちが分け隔てなく有する誇りは、その一点にある。

 逆に言えば、それを与えられない者は落第だ。ボクたちが抱いた相手に不満が残るなど、あってはならないのだ。

 まして苦痛など、笑い飛ばす気も起きない――今どこにいるのか知らないが、聖都で姿を見たあの時に消し飛ばしておくべきだったと今更ながら後悔する。

 ……そうしていたところで、クイールが救われるわけでもないのだが。それでも、こうして身内の恥というものを痛感するのは、キツいものがあるな。

 

「っ」

 

 おや――ノイズの向こうでもしっかりと聞こえるほどに、リッカが息を呑んだ。

 なるほど。まだ距離があるが、それでも彼女は気付いたか。

 どうやらよほど、魔族の悪意に敏感らしい。それが現実ではない、夢に過ぎないものだとしても、それを悟れるほどに。

 

「――キミはインキュバスを知っているかい?」

「……」

「かれらはボクたちと同じだ。快楽をもって他者を蕩かし、支配する存在。淫魔と揶揄されるボクたちではあるが、それでも節度というものがある」

 

 薄らと見えてきた、その光景。

 リッカには酷な光景ではあるだろうが――速度を落とすことはない。

 

「性に誇りを持つからこそ、無暗に孕むことも、孕ませることも、ボクたちにとって褒められたものではない。理性のない獣ではないからね、自分の子に愛を注ぎたいというのは、人間と変わりない」

 

 言葉を紡ぎながら近づいて。

 ツンと鼻を突く濃い臭いが漂ってくる。

 まったく……出来損ないのインキュバスは種さえ悪質なのか。こんなもの、ボクほどの美食家でなくとも舌に触れさせたくないだろう。

 

「ッ、げほっ、っぐ……!」

「……大丈夫かい?」

 

 その臭いを感じ取ったのだろう。リッカはまるで自分を守るように身を屈めて咳き込み、嗚咽を零し始めた。

 たちまち震え始めるその姿に、それまでの不愛想で謎めいた雰囲気はない。

 自身を害する可能性を持つ相手を前にした、弱々しい少女でしかなかった。

 

「ぁ……っ、別に、心配される覚えはないっ」

「無理はしない方がいいよ。ボクたちは今、精神体だ。恐怖は直に存在に響くからね」

 

 あまりこの状態で意識が揺らげば、やはり自己の喪失につながる。

 とはいえ……普通の人間であればこの先の光景を悟った時点で壊れてしまいかねないが。

 魔族に対して尋常ならざる恐怖を持っていて、こうして立つこともままならないほどに震えているというのに、彼女は自身を揺らがせることがない。

 なんともまあ、強い子だろうか。

 ユーリとはまた違う。消えかけて、なおも輝く、細い蝋燭の先に灯る火の如く、尊い強さだ。

 

「……早く、行かないと」

「そうかい。なら、一気に突っ込むよ。クイールを悪夢から覚ます時だ」

 

 目尻に涙を溜めながらも、リッカはこちらを睨んで立ち上がる。

 ……ならばボクも、これ以上は何も言うまい。

 リッカを連れて、闇の向こうへと加速する。

 

 どこぞの深い森の中。

 ざわざわ、ぐちゅり、ぐちゅりと、鬱陶しい音の数々が耳に届く。

 ……辿り着いた以上、もはやこの夢に付き合う必要もあるまい。

 所詮これは回想だ。介入したところで、過去が消える訳でも、クイールが救われる訳でもない。

 ただ純粋に、仮にもインキュバスであるあの愚物の、強姦に耽る姿が見るに堪えなかった。

 

「ふっ――!」

 

 手元に集めた魔力に破壊の意味合いを与え、クイールに組み付く汚物の頭部を掴み、直接流し込む。

 ここまで来れば夢を壊すことは容易い。虫が混じったようなインキュバスは爆散し、周囲に集っていた無数の小虫たちも消し飛ばす。

 さて……これでひとまず、悲劇のリピートは一時停止。本番はここからだ。

 

「……ぇ……ぁ……」

 

 生傷であちこちに血が滲み、一糸まとわず白濁の中で呻く、虚ろな目を震わせるクイール。

 彼女をもう一度、勇者として奮い立たせなければならないのだから。

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