凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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Divine beast

 

 

 何が起きているのだろうと、考える。

 頭が理解を拒んだ。何故って、リッカちゃんがそんなことをする筈がなかったから。

 ここは僕の夢の中。であれば、実はエヴァネスとリッカちゃんがそこに飛び込んだのではなく、これも僕の夢でしかないのだろうか、と困惑する。

 

「……っ、駄目、です、リッカちゃん……きたない、ですから」

「知ってる」

「あぅ……」

 

 ああ、リッカちゃんだ。間違いない。

 気を遣うとかは一切ない。では……一体どうして、リッカちゃんはこんなことをしているのだろう。

 今の僕の置かれた状況は、リッカちゃんにとってもトラウマに繋がるもの。

 本当は、見ていることすら気持ち悪いに決まっているのに。

 

「じゃ……じゃあ、離してくださいっ。こんなの、リッカちゃんらしくない、です……っ」

「私だってそう思ってる……けどそれ以上に、今のあなたがらしくない。正直、見ていられない」

 

 ……多分、リッカちゃんもエヴァネスと同じ目的なのだろうけど。

 本当に僕を立ち直らせる気があるのだろうか。激情を忘れて、僅かに冷静になってしまうほどに、リッカちゃんはズバズバと僕に言葉を突き刺してくる。

 

「見てられないなら、リッカちゃんも、出て行ってくださいっ……! リッカちゃんだって、知ってますよね――誰にだってこんなの、見られたくないって……!」

「知ってる。私も、ユーリに見られたことがある」

「え、あぁ……それは、大変でしたね……?」

 

 いや、もしかするとそうなのかなとは思っていたけれど、なんでこんなに居た堪れない気持ちにならないといけないのか。

 リッカちゃんは僕の夢から出て行くどころか、僕を離す気配すらない。

 抗おうとしても、思ったように力が出なかった。

 

「……ユーリが今、戦ってる。多分、今のままだと勝てない。あなたの力が必要」

「…………無理です」

 

 そんな僕の困惑を放置したまま、リッカちゃんは話し始める。

 分かってる――ユーリくんは魔王と戦っているのだろう。今ここにリッカちゃんがいるということは、ユーリくんは一人で戦っているのかもしれない。

 そうだとすれば、二人の外装は真の力を発揮できない。

 リッカちゃんからすれば、こんなことをしている暇はない。すぐにでも、ユーリくんを助けにいきたい筈だ。

 

「無理じゃない。手伝ってもらわないと困る。この後ならいいけど……今だけは、立ち直ってほしい」

「……それ、イリスたちに押し付けるつもりじゃないですか?」

「…………」

 

 図星のようだ。多分、僕を説き伏せられない自覚はあるのだと思う。

 かといって、僕が拒んでも、大人しく引き下がる様子もなかった。

 

「……僕は、リッカちゃんみたいに、強くないんです。この記憶(ゆめ)を、いつまで経っても、乗り越えられないんです。あんな風にいられたのは、思い出さないようにしていたからなんです」

 

 だからもう、放っておいた方がいい。

 その方が、リッカちゃんたちにとっても都合がいい。

 そう、突っ撥ねようとする。

 

「……五千四十周目」

「え……?」

「何も残らないやり直しを続けてきた。試練を一つだって終えられない旅を、ずっとずっと、続けてきた」

「……リッカ、ちゃん……?」

 

 けれど、リッカちゃんはやっぱり諦めることをしなかった。

 少しだけ僕から離れて、顔にべたついた白濁をくっつけたリッカちゃんは、少し眉根を寄せながらじっとりと僕を見据えてくる。

 

「試練を終えられたのは初めてだった。ユーリに私の全部を知られたのも初めてだった。あなたに会えたのも、初めてだった。こんな旅になるなんて、思ってもみなかった」

「……」

「……私は、もう限界。これで駄目だったら次はない。ううん――もしもあったとしても、ここまでは、二度と辿り着けないと思う」

「ッ――」

「あなたの存在は始めから、私にとって想定外でしかなかった。先代勇者が生きているだなんて、今まで、情報すら持っていなかったから」

 

 リッカちゃんにとって、ハッピーエンドを掴む最後の機会。

 数えることすら馬鹿馬鹿しくなる、膨大な繰り返しの、果ての果て。

 僕の存在はリッカちゃんにとって、今更出てきたイレギュラーでしかなかった。

 きっと、リッカちゃんはこの最後の機会で必ずハッピーエンドを迎えられるよう、万全の準備を、万全の計画を用意していたのだろう。

 その中に、僕が生きている想定をした方針なんてない。ユーリくんが勇者として選ばれたということは、それまでの勇者が生きている訳がないから。

 最初から僕を信用していなかったのは、そういう理由。

 誰を信じたらいいのか分からない疑心暗鬼の状態で、ここにきて初めて生きていると分かった僕を、信じられる筈がない。

 

「……けど、今は違う」

 

 そう言ったリッカちゃんの声色は、少し悔しげで。

 

「――クイール。あなたがいないと、ハッピーエンドには辿り着けない」

「ぁ……」

 

 それでも、それを受け入れざるを得ないという決意に満ちていた。

 

「私とユーリだけじゃ駄目。ラフィーナとナディアがいても、まだ足りない。あなたが――そして、イリスティーラがいて、やっと――手が届きかけている」

 

 きっと、リッカちゃんはその時、初めてイリスの名前を呼んだのだと思う。

 イリスが魔族である以上、どうしても、リッカちゃんはイリスを信用することが出来なかった。

 けれど、ここまで来て誰かを信じないことは、躓く要因にしかならないから。

 

「ハッピーエンド同盟……これ以上ないほど、私たちらしい名前。私は――私は、このパーティで、ハッピーエンドを迎えたい」

「――――――――」

 

 かつてここまで、リッカちゃんの希望に満ちた瞳を見たことがあっただろうか。

 いつもと表情は変わらないように見えて、決定的に違うもの。

 ユーリくんやナディアちゃんへの信頼だけではない。

 僕たちというパーティ――ハッピーエンド同盟への確かな信頼があった。

 

 ――ああ、ずるいなぁ。

 ユーリくんも、リッカちゃんも、本当にずるい。僕にどんな言葉を掛ければ良いのか熟知しているみたい。

 今のリッカちゃんの表情以上に僕が悔しくなって、言い返さずにはいられなかった。

 

「……それ、イリスにも言ってあげてください。すごく珍しい反応してくれると思います」

「絶対に言わない」

 

 僕への説得よりも力強い語調だった。

 死んでも言うまいとばかりの様子だ。イリスが生まれて初めての表情を浮かべてくれそうだったのだけど、残念。

 

「……それで。まだ駄目だっていうのなら、もう一つ説得の材料があるけど」

「…………一応、聞いておきます」

「……」

 

 たちまち、リッカちゃんが嫌そうな顔になった。

 いや……だって、聞きたいじゃないか。リッカちゃんが僕に何を言おうとしていたのか。

 多分、この夢から覚めれば、また本音を口にしてくれなくなるだろうし。

 こういう本音トークというものを、僕だってしてみたかったのだ。

 

「…………やられっぱなしでいいのかって、話をしようとしていた」

 

 僕の期待に根負けしてか。

 長い沈黙の後で、深いため息の後、リッカちゃんは話し始めた。

 

「……と、言いますと?」

「……私は、生まれた子のことを考えたことがないから、そっちについては何も言えない。けど、理不尽に苦しむ気持ちは、私も理解できる」

 

 本当の本当に、最後の説得材料だったのかもしれない。

 僕とリッカちゃんの共通点。僕のたった一回と、リッカちゃんの繰り返す苦痛。

 それをまさかリッカちゃんから言い出すなんて思わなくて、少し驚いた。

 

「それで泣き寝入りとか、私は考えられなかった。この苦しみを、魔族にも味わわせてやるって……それが、私の復讐の始まり」

「……もしかして僕、ものすごく邪悪な勧誘受けてます?」

 

 リッカちゃんが何を言わんとしているのか、悟ってしまい、少し寒気がした。

 さすがに、そっちの方面の勇気なんて持っていない。なんというか、僕の勇者としての在り方と、絶望的に交わらない気がする。

 

「……まあ、そのつもりもあったけど」

「あったんだ……」

「なにも、復讐しろとか、苗床にしろって言いたいわけじゃない。私が言いたいのは……理不尽を受けたままで、ムカつかないかっていう話」

 

 怒り……? 怒り――怒り、か。

 それは……確かに、盲点だったかもしれない。どうして僕は、そんなことを思い至らずに、理不尽を忘れてしまおうとしたのだろう。

 

「……」

 

 視線を落とす。

 ずたずたになった服。肌にはあの魔族や虫たちの爪だの甲殻だのが引っかかって付いた切り傷だらけ。

 べたついた生温かい白濁は、あの時どうやって拭ったのかも分からないほどに僕に塗りたくられている。

 なんて――ひどい理不尽だろう。どうしてこんな仕打ちに、ふざけるなと憤らずにいられたのだろう。

 

「……ふふ、あはは……いや、うん。確かに、そうですね。考えてみたら、ムカつくかもしれません」

「……ん。それが普通。全部吐き出したって、誰も文句を言う権利はない」

 

 勇者らしいかと言われれば、これも否だろう。

 けれど、理不尽に怒る権利は、僕にだってある。

 勇者ではなく、人として。そうだ――勇者である以上に僕は人なのだから。

 人間らしい動機だって、少しくらい持っていたって良い筈だ。

 

「……ホープのことは、愛しています。ホープを生んだことを、僕は後悔なんてしていません。けれど……それとこれとは、話が別です。なんで――なんであんなのが、ホープの“パパ”なんですかっ」

 

 ああ――自覚してみれば、不満は次々と飛び出してくる。

 それが、なんだか嬉しかった。勇者らしくない、それでいて、人間らしい感情が溢れたみたいで。

 それで構わない。だって僕は、勇者である前に、一人の人間なのだから。

 

「なんでこんなのが、僕の初めてなんですか! 気持ち悪い!」

「ん……え?」

「気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い! 何度だって言ってやります! 気持ち悪い! 僕だって、初めては好きな人としたかった! ユーリくんとだったら、きっと幸せな思い出になったのに!」

「ちょっと、落ち着い――――今なんて?」

 

 膨れ上がる嫌悪感も、初めて怒りに変わった気がした。

 勇者らしい勇者――もちろんそれは僕の在り方だけれど、気持ちを惜しみなく吐き出すことの、なんと清々しいことだろう。

 

「こんな理不尽、僕は認めません! 僕だけじゃない、何人もの人を苦しめてきた勇者の使命を、完膚無きまでに終わらせてやらないと気が済まない!」

 

 だから、そうだ。あの時の怒りも正しかったんだ。

 ユーリくんとリッカちゃんが死んでしまった時、あれは、怒りのぶつけ方を知らなかっただけ。

 こうして受け入れてしまえば、なんのことはない。この時僕は、大きな一歩を踏み出すことが出来た。

 リッカちゃんの手を取って、立ち上がる。体は重く、怠かったけど、胸の内で燃えるような熱さに身を任せれば、動かせた。

 

「心配かけました! リッカちゃん、ありがとうございます!」

「ん、うん……いや、さっきの……」

「僕ならもう大丈夫です! こんな記憶(ゆめ)を、僕の結末になんかさせません! 勇者クイールの終わりは、もっとずっと、ずっと先です!」

「……」

 

 宣言すれば、体中に力が戻る。熱が全身に渡っていく。

 なんでもできるほど全能ではないけれど、なんでもできる気がする。

 僕はそんな、自意識過剰なくらいがちょうどいい。だって僕は勇者だから――そして、それ以前に、人間だから。

 

「――なんとまあ、大した啖呵じゃないか。立ち直れたみたいだね」

「はい、おかげ様で――――どうしたんですかその怪我!?」

「今気付いたのかい!? いやまあ……ボクのことは気にしないでくれたまえ。サキュバスにとっては、放っておけば治る傷だからね」

 

 僕たちの様子を見守っていたらしいエヴァネスが歩いてくる。

 何があったのか、その体はボロボロだった。人間だったら、生きていられるとは思えないくらい。

 いや……これは、つまり今、そうなるほどの状況ということか。

 ユーリくんは今も戦っていると言っていた。だとすれば、こんなふざけた記憶(ゆめ)の中にいつまでもいる訳にはいかない。

 

「それなら良いですけど……って、こうしてはいられませんね。行きましょう、二人とも! とにかく今の僕は、立ち止まりたくないんです!」

「……彼女、普段あんななのかい?」

「……否定はできない」

 

 さあ――悪夢に浸っている時間は終わりだ。

 こんな過去、振り切ればいい。いつまでも追いかけてくるというのなら、追い付けないほど、全力で走り続けるだけ。

 今の僕にはそれが出来る。結局のところ、嫌な過去の正しい受け入れ方なんて、それしかないのだ。

 どこまでも走り続ける。そのために、自分を燃やす。燃やし尽くしてもまだ足りないほどに、勇気を滾らせる。

 ようやく理解できた――これが、この高鳴る胸の鼓動が――僕の、勇者としての本質なのだと。




【クイール】
無意識なので気付いていない。

【リッカ】
聞かなかったことにした。

【エヴァネス】
色々聞いてはいけないことを聞いた気がしたので聞かなかったことにした。
普段空気を読む気がないだけで読むことは出来るのである。
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