凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
解き放たれた光が、徐々に散っていく。
明け方の薄暗さが戻ってきて、衝撃で吹き上がった無数の砂も、少しずつ落ち着き始める。
その、あまりに荘厳な様子に誰も口を開くことが出来なかった。
静寂の中で、状況だけはしっかりと把握する。
僕たちが最初に出会った魔王である、この楔から出力された人型は跡形もなかった。
そして、魔王のバックアップとして機能する最後の楔もまた、完全に破壊した。
これで僕たちが、ロスラウドに向かう前に行うべき事柄はすべて済んだと言えるだろう。
「……はは、ハハハハハハハハッ!」
不気味なほどに続いていた静寂を破ったのは、やはりというべきか、我慢ならないとばかりに笑い始めたエヴァネスだった。
「なんたる圧倒的な輝き! まさかボクさえ見惚れずにはいられないものがこの世にあったとは! 最高だクイール、キミは今この瞬間、ボクよりも輝いていたことを認めようじゃないか!」
「え……は、はぁ……ありがとうございます……?」
「生涯誇りたまえ! これもまた絶対的な偉業に他ならないのだからね!」
どうやら、クイールのその眩しいまでの黄金は、エヴァネスにひどく“刺さった”ようだ。
彼女の感性は独特だが、その美に対する基準は非常に高いらしい。
手放しの称賛にクイールは困惑――というよりも、少し引いていたが、エヴァネスは気にした様子はなかった。
「ところで、コッペリアは――」
「――――――――」
「死んでいますわね」
「ポルターガイストだからね」
正直、認識したくなくて視界から外していたのだが、コッペリアはクイールの最後の攻撃を見届けるか否かというタイミングで、糸が切れたようにその場に落ちた。
なんの未練もなく生を終えたように、その表情は満たされている。
だというのに、どうして消えたりしないのだろう。
ポルターガイストはゴーストの一種であるようだが、未練とは縁の遠い存在なのかもしれない。
「……ともかく。ありがとうございました、ブレダリオン。そして、ゼクセリオン。これからも、僕たちと一緒に戦ってください」
聖剣からゼクセリオンを取り外せば、クイールが纏っていた外装は魔力となって解けていく。
聖剣の光も収まっていき――素顔を現したクイールは、途端に力が抜けて体をふらつかせた。
「わ、わわ……っ」
「っと――」
持っていた聖剣の重さに耐えられなくなったように崩れたその体を咄嗟に支える。
「ぁ……え、えっと、すみませんユーリくん。なんか、これまでよりもずっと疲れちゃって」
「限界を超えた力なら当然だよ。お疲れ様、クイール」
「はい――ちょっとだけ、このままでいさせてください……えへへ」
元々、クイールの外装は、体力を極端に使うものだった。
その性質をさらに強化して、自身の限界を踏み越えるようになったあの姿が、負担の軽い力であるはずがない。
この場でやるべきことは終わった。休息をとっても問題ないだろう。
「…………」
「……先ほど自分で許可してしまったのでしょう。今は受け入れなさいな、リッカ」
「……別に何も言ってない。ユーリは誰のものでもないんだし、好きにすればいい」
「はいはい」
……何を話しているのか知らないが、どうもリッカとナディアから向けられている感情にむず痒さを感じる。
不満ではないが、どこか生温かい複雑なそれ――いや、気にしないでおこう。
ナディアはともかく、こういう時のリッカは指摘すると厄介なことになりやすいし。
「……? あれは……?」
ふと、ナディアが何かに気付く。
その視線の先は、先ほどまで魔王が立っていた場所――そこから少し離れた場所に、砂に半分ほど埋もれた何かが二つ、落ちていた。
注目してみれば異様な魔力を感じる、様々な色にきらめく石のような塊。
魔王がバルハラから奪った、力の源たる半透明なかけらは、クイールの攻撃を受けた影響か、真っ二つに割れていた。
『バルハラの持つ、混沌の力。先の聖剣の光で砕けたか』
「混沌の……? バルハラに返しておいた方が良いものでしょうか」
『不要と判断する。混沌はあれの根源。今ある力を抜き出したところで、眠っていれば再び満ちるものでしかない』
ヨハンナの言葉の通りであれば、あれを奪われたことはバルハラにとって、痛手ではあるもののそれほど気にすることでもない、ということだろうか。
あの規格外の存在のことだ。バルハラにとっての“眠る”が一体どれほどの期間なのかは想像できない。
しかし、ヨハンナの様子を見る限り、もう重要なものではないようだ。
『今すぐ何かに使えるものでもないだろうが、持っておくといい。或いは、お前たちの使命が終わった後、時間をかけて使い道を探せば良いだろう』
「……リッカ。隠居した後の道楽にでもどうです?」
「……年寄り扱いしないで」
ナディアの軽口に、リッカがげんなりとした様子で不満を返す。
とはいえ、何かに使えるかもしれないと判断したのか、溜息をついて、その片方のもとまで歩きかけらを拾い上げた。
そして、もう片方に目を向ければ――
「悪いが、キミたちに渡せるのは片方だけだ。俺にも、請け負った命があるのでな」
「ッ、リーテリヴィア……!」
一帯に空いた亀裂を通り、バルハラの領域を脱出したらしい、リーテリヴィアが残ったかけらを手に取っていた。
構えようとするが――彼に戦意はない。
むしろ、その感情は内側に向いており、あまり僕たちへ意識を向けていないようだった。
もちろんその状態でも、彼であれば十全に戦えるだろうが、一体何があったのだろうか。
「――やあ、戻ったよ。どうやら出遅れてしまったようだが……あの魔王は片付いたのかい?」
「イリス!」
そして、リーテリヴィアに続いて、イリスティーラも亀裂の向こうから歩いてくる。
普段通りを装っているようだが、彼女もまた、何か様子がおかしかった。
魔王との戦いの間、合流することのなかった二人。同時に出てきたが、戦っていたようには見られない。
「辺りの噎せ返るほどの魔力は、クイールのものかい? また、無茶をしたみたいだね」
「むっ、お説教は間に合ってます。というか、イリスは何をしていたんですか。せっかく僕が大活躍だったっていうのに」
「何って、迷っていたんだよ。迷宮で迷うのは不思議なことでもないだろう。……まあ、その言いぶりだとキミが楔を壊したんだね。それを見られなかったのは残念だ」
「……えへへ、そうでしょう? そうやって素直になればいいんですよ」
「ちょろい」
「リッカちゃん今なんて言いました!?」
わいわいと、途端に騒がしくなる。いつも通りの空気に、安心感を覚える。
イリスティーラは少し無理をしているように見えるが――今、指摘することでもないのかもしれない。
「さて、どうなさいますか、リーテリヴィア様。あなたと彼女に何があったかは存じませんが、最早ここで戦う理由もないのでは?」
「ああ、その通りだ。この場の勝利はかれらに譲ろう。決着は、ロスラウドでつけることが望ましい」
エヴァネスの問いに、リーテリヴィアは意識を内に向けたまま答えた。
僕もまだ傷が癒え切っている訳ではないし、クイールも動けそうにない。
この状態でリーテリヴィアと戦うとなると厳しいだろう。はっきり言って、その提案はありがたかった。
「キミたちにとっても、大きな試練だっただろう。ゆっくりと休み、英気を養ってからロスラウドに来るがいい。それが、キミたちと我々の最後の戦いになる。……俺から言うべきことは、それだけだ」
「……」
リーテリヴィアはそう、僕たちに告げてから、イリスティーラに目を向けた。
しかし、何を言うこともなくすぐに視線を外すと、倒れ伏していたコッペリアのもとまで歩いていく。
「起きているのだろう、コッペリア。戻るぞ」
「あ、はぁい」
……気を失っていたのではないのだろうか。
リーテリヴィアが言葉を掛けるとコッペリアは即座に反応し、起き上がった。
「それじゃあ、コッペもここでのお役目は終わったし、行くわ。今回も素敵なショーを見せてくれてありがとう」
ふわりと浮き上がり、コッペリアは僕たちに礼を告げてくる。
その感謝に一切の偽りはなかった。
先ほどまで敵対していた相手であっても柔らかい笑みを向けてくるのは、彼女の性質らしい。
「多分、あなたたちとはもう一回会うことになるわ。きっとその時、大きな秘密を知ることになる。それは、もしかすると辛いことかもしれないけれど、知るべき必要なことよ。あなたたちなら受け止められるはず。だって、あなたたちはこんなにも輝いているんだから」
そんな予言を残して、コッペリアは一つの魔法を実行する。
半透明な糸が彼女とリーテリヴィアを覆い、糸玉を作ったかと思えば、それが解れた時には二人の姿は消えていた。
転移を可能とする、高度な魔法――コッペリアという魔族が、人形の扱い以外も優れている証左だった。
……僕たちが知るべきこと。
魔王の正体を含めて、まだ勇者として知らなければならないことは存在している。
僕たちの最終決戦の場――ロスラウドには、何が待っているのだろうか。
「――ナチュラルに置いていかれましたね、あなた」
「ついていくつもりもなかったからね。今回はキミたちの側にいたのだから」
そうこうしている内に、ようやく再生したらしい左腕を揺らしながら、エヴァネスは肩を竦めて笑う。
結局彼女は、最後まで僕たちに協力してくれた。
彼女らしい義理堅さだ――ここまで付き合えば、それがエヴァネスの性質だと理解できた。
「さて、そろそろボクも……おや?」
翼を広げたエヴァネスだが、しかし修復しかけていた空間の亀裂から出てきた者を見て、飛行を中止する。
焦ったように駆けてきたのは、ベガだった。
「良かった……もう発ってしまったのかと」
「そのつもりだったけど……バルハラは大丈夫なの?」
「はい。しかし主はお休みになられました。此度はどれだけ長い眠りになるか分かりませんが……これ以上あなたがたの助けになることも、障害になることもないでしょう」
――恐らくは、魔王にとっても、僕たちの勇者の試練にとっても、最大級の不確定要素。
本来、バルハラは人間の味方ではない。むしろ、どちらかといえば敵対する存在だ。
しかし、少なくとも今回、リッカの出自から、あの存在は僕たちの力となってくれた。
恐らくは、二度と会うことはないのだろう。可能なら、あの大斧について、礼を言いたかったのだが。
『『導蝕教本』、当機の本体をバルハラのもとへ。内部の回路をポルターガイストに改竄されているゆえ、自動修復にも時間がかかるだろう』
「承りました。責任をもって、主のもとへお連れいたします」
ベガはヨハンナの頼みに応じ、倒れていたヨハンナの本体を抱える。
そうして亀裂の前まで戻り、再度僕たちに向き直った。
「あなたがたが来なければ、魔王たちは主を討つことさえ可能だったでしょう。何も返せるものはありませんが、主を守ってくださり、感謝します」
「ううん。むしろ、バルハラに礼を言っておいてほしい。バルハラから貰った力は、大きな助けになっているから」
「必ず伝えましょう。……私はもう戻ります。この亀裂も、間もなく閉じるでしょう。……あなたがたの悲願まで、あと少しと聞きます。どうか無事に、その使命を終えられることを祈ります」
本当に、言葉を届けるためだけに、来てくれたようだ。
本心からの激励を残して、ベガは再び亀裂の向こうの闇へと溶けていった。
「律儀だね、彼女も。……出るとしようか。この砂地はもはや、魔王にとっても無価値なものだ。もうフェダルナから生贄が出ることもない」
「……それなら、良かった……エヴァネス、キミは――」
「まずはメリーリデルに残してきた人々に掛けられた魔法を解除して、フェダルナに返す。そこから先は……さて、どうしたものか」
フェダルナへの方向は分かっているようで、軽く翼を揺らして浮いたエヴァネスは、先行するようにふわりと飛び始める。
「キミの懸念は分かっているさ。ボクと戦うことになるのでは、ということだろう?」
「……うん」
「まあ、ボクも魔王に従うべき身だからね。その役割を全うするのならば、キミたちと戦うべきなのだろう。キミたちを苦しめられる自負はあるが、及ばず敗れる――そんなところかな」
アリスアドラの側近、つまりは魔王の配下である以上、やがてエヴァネスは僕たちと戦うことになる。
しかし、甘いと言われようとも、そうなってほしくはない。
そんな心情を察してか、エヴァネスはくつくつと喉を鳴らして笑った。
「言った通り、ボクはしばらく、アデラキテラの後始末に掛かり切りだ。数日で終わるような話でもあるまいさ。その間に、キミたちがすべて終わらせてしまえば良いんだよ」
「……それで良いんですか? なんかこう、逆らえない勅命みたいな……」
「その時はその時さ。ボクとしては、キミたちとは今後も良い関係を築いていきたいものだよ。何せ、みんなボク好みの強い信念の持ち主だからね!」
――積極的に敵対はしない。エヴァネスが確約できることとしては、それが精いっぱいなのだろう。
もしも戦うことになれば、運が悪かっただけだと。それもまた、彼女らしい、さっぱりとした割り切り方だった。
相変わらずの高笑いは、辺りによく響く。
それはもう、困惑や不快さを感じるものではなく、戦いが終わった達成感を強く意識させるものだった。
『エヴァネス』
【属性】土/夢
【攻撃力】■■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■■
【種族】サキュバス種
魔族が人間の上位者である所以とは基本的に単純な魔力量や体のつくりの差である。
だが、サキュバスは違う。勿論強い力を持っている事は同じだが、何より彼女たちは人間の欲望を貪ることを生きがいとする生き物だからだ。
夢から生じたサキュバスは人間の心に敏感である。
相手の欲望を刺激する段階も彼女たちにとっては大変な栄養であり、一度目を付けられれば長い時間をかけて精気を吸い取られていくだろう。
また、サキュバスは精神体に近い存在ながら肉体が非常に丈夫なことでも知られており、過度な負荷にも耐えられる。
物理攻撃が効きにくい性質も相まって、真正面から打ち倒すのは困難をきわめる魔族だ。
【『狂冠』エヴァネス】
彼女が自身の美を自覚したその瞬間は、さして特別なものではなかった。
しとしとと雨の降る昼下がり。飢えを凌ぐため、普段通り路地裏に積まれたゴミを漁ろうとして。
なんとなしに、窓ガラスに映る自分の顔を見た。
雨に濡れて髪のへばりつき、泥だらけのその顔。碌に食べ物にありつけず、痩せこけたその顔。
普通であれば見るに堪えない、汚らしい筈のその顔は、どうしようもなく美しかった。
彼女のあらゆる才能は、その瞬間に開花した。それは、美を極めるためのあらゆる才能だった。
ただ、外面だけを磨けば良いのではない。その生きざま、存在意義、すべてを磨くからこそ美の頂点に至る。
それが、彼女が構築した価値観だった。
彼女の生き方は、美に導かれるように変わった。
元から知恵の回る子供だった。方法さえ思いつけば、生き方を大きく変えることなど容易だった。
地位を得ることも、富を築くことも、魔族として力を高めることも思いのままだった。
アリスアドラに仕えることにも、強い感銘があったのではない。ただ、アリスアドラに次ぐサキュバスとしての自覚があり、それが自身の正当な立場だと定義しただけだった。
彼女――『狂冠』のエヴァネスは、それらの人生を、特別な転機だとは定義しない。
自覚も、成長も、出会いも、大きな感動をもって迎える出来事ではなかった。
当然の美に気付き、当然の才を磨き、当然の出会いを受け入れた。そこに、なんの感動があろうか。
毒血の美酒も、至高の料理も、絶世の美少年の精も、思った通りの愉しみであるだけ。
自分の思い通りにならないことなど、これまでなかった。
ゆえに、エヴァネスは無意識の中で、予測不可能な冒険に憧れていた。
自身の生きざま、美しき支配とは、なんの想定外も起きないもの。その在り方を貫く以上、絶対に得られないもの。
勇者たちと一時の共闘関係を結び、エヴァネスはその憧れを自覚し、しかしそれを一夜の夢とした。
かれらはもう完成している。そんな中に、今更自身という、美しすぎる不純物が混じってはならない。
歪で、不安定で、ゆえに固い。だからこそ、自身とは交わらぬ美しさがそこにある。
『狂冠』では決して至れない美しさ。まあ――そんなものが一つくらいあっても構わないだろう。
【クイールの評価】
「ラフィーナちゃんとはまた違う、けど、すっごく真面目なサキュバスでした。あと何回か、協力する機会があれば……もしかすると、一緒に来てくれる可能性もあったかもです」
【アリスアドラの評価】
「美しさを磨くサキュバス……そういう子もいるんだって、感心したのを、覚えているわ。一目で分かった――この子は私の助けは必要なくて、けれど私の傍にいるべきだって。その方が……サキュバスの未来は、明るくなるって」
★
次回は掲示板回、その後、本作最後の日常回のようなものが入ります。
また、終盤となった物語でお待たせするのも申し訳ないので、少しの間、火・木・日の週三回更新を予定しています。
どこまで継続できるかは不明ですが、週二以上の更新は心掛けつつ、どうにか完結まで持っていきたいと考えています。
すべてはモチベーション次第のため、どうか感想・評価・ここ好き等での応援をお願いできればと思います。