凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
鉄板の上に逆さにして置いていた鍋を、熱に気を付けながら外せば、もうもうと湯気が立ち上る。
中から現れるのは、丸々と太った鳥。村の近くで獲れないような大きな一羽は表面が程よく焦げてパリパリに焼き上がり、漬け込んだ調味料に火が通った匂いが漂ってくる。
調理に使った魔道具の中に注いでいた水分は完全に蒸発している。
見事な出来栄えの肉にナイフを入れて切り分ければ、期待通り、中まで程よく火の通った身が姿を現した。
「なんと……」
「へぇ……?」
「おぉー……」
「……ほへー……こんな料理もあるんですね。リッカちゃんがおかしくなっちゃったんじゃないかと思ったんですけど」
四者四様のリアクション。かくいう僕も、その調理法は結構衝撃的ではあったのだが。
これは、リッカが提案した料理だ。どうやら、ラフィーナが買った酒を見て、この料理を思い出したらしい。
僕はこれを知らないから、もしかするとリッカの前世で知っていた料理なのかもしれない。
その記憶は断片的で、リッカも進めながら、代用しても良いのかな……などと呟いたりしていたが。
「ほら、どうぞ」
「ッ、ユーリ、ありがとうっ」
「絶対美味しい……けど、手軽な料理ではないんですよねー……工程もちょっと……むむむ……あ、美味しい……」
早速とばかりにかぶりついて、はふはふと熱を逃がすホープと、その柔らかい身にフォークを刺して難しい顔で考え込むクイール。
その様子に苦笑しながら、傍にいたラフィーナとナディアの皿にも取り分けて、周囲を見渡してふと気付く。
「……? リッカとイリスティーラは?」
「先ほど、少し休憩と言って、屋敷の中に入っていきましたわ。特に詮索はしていません」
「――そっか。なら、少しすれば戻ってくるかな」
主導でこの料理を作っていたリッカがいつの間にかいなくなっていたことに面食らうが、多分、僕も詮索しない方が良いのだろう。
イリスティーラとリッカ、どちらが持ち掛けた話なのかは分からないが、きっと、大事な話のはずだ。
ナディアも気にしている様子はあるものの、すぐに興味を目の前の肉に移した。
ナイフで小さく切った、皮付きの表面の部分を、少し躊躇いがちに口にする。
「熱っ……」
「出来立てだもん。よく冷まして」
言いながら、一切れ食べる。なるほど……中まで味がしみ込んで、かつ柔らかくなっている。
手間も時間もかかるが、その甲斐はある料理だ。
「んっ……いえ、これで良いのです。料理は出来立てが一番おいしいでしょう? 冷めてしまっては台無しです」
「やけどしたら本末転倒よ」
「そのくらいは弁えていますわ。……良い料理です。柔らかい身も、パリパリに焼き上がって、少し焦げた皮も。あなたたちと出会ってから、わたくしは食事に感動してばかりですね」
ナディアと初めて食事を囲んだ時のことは覚えている。
ネシュアでの試練を終えて、改めて聖都へと足を運ぶことを決めたあの時。
作ったのは簡単な料理で、ナディアはあまり興味を持っていなかったが、一口食べて、いたく驚いていた。
あれからはクイール同様に、食事を楽しみにしてくれていたが……。
「ナディアって、なんか高貴な生まれじゃないの? もっと、ずっと良いものを食べてたんじゃ……」
「王家が“なんか高貴”と認識される時代、今も微妙に違和感がありますわね……ともかく、生前――いえ、昔は食事に感動した記憶もありません。王族の食事とは、いつだって冷たく、つまらないものですから」
家柄というものが未だにピンとこない以上、印象で考えることしか出来ない。
しかし、さぞ豪華な食事を楽しんでいたのだろうという印象は、ナディア本人によってあっさりと否定された。
「毒殺とかの対策もあるものね。こんな風に、好きなものを好き勝手食べることも出来ないでしょうし」
「ええ。談笑もなく、冷めきった料理を淡々と食べ進める。わたくしも、それを楽しもうと思う気すらありませんでした。今考えると、ぞっとしますね。あれでは栄養キットを使うのと変わりないでしょうに」
そうか……大事が起きることの許されない立場である以上、無警戒に食事をとる訳にもいかないのだ。
ネシュアは今普及しているものよりも高い技術を持っていた。
毒を検知する技術も高かっただろうが、その分、毒そのものも進歩したものが使われていたのかもしれない。
料理が完成してもすぐにナディアたちのもとに運ばれることはなく、散々確認した結果、冷めきった状態が普通だったのか。
「初めてだったのですよ。あたたかい料理も、賑やかな食事も。友と囲む食事……なんと得難い経験でしょうか」
「……ナディアが望むのなら、それはこれから先も当たり前になるよ」
「ええ。もちろん、こうした楽しい暮らしがいつまでも続くのなら、生きる決意を固めた甲斐もあったというものです」
ナディアはかつてネシュアで生きた『ナディア・ディアネシュア』ではなく、ただのナディアとして今の時代を生きることを選んだ。
誰も、それを否定することはしない。
たとえ一度死を迎えようとも、そこから生きる選択肢を掴む権利は存在する。
自身の本来の時代の遥か先で、友と生きる。それはナディアにとって、自ら選んだ最も大きな自由だろう。
「そんな大げさな話でもないでしょ……」
「いいえ、大げさな話なのです。だってわたくし、ようやく自分の意思で生きているんですから」
付け合わせに作った、野菜をたっぷり入れて煮込んだスープに口をつけて、ナディアは顔を綻ばせる。
「――わたくしは、己が価値を何かに見出すよりも前に、生きる意味を定められた王女でした」
「え……?」
それで喉を温めて、決心がついたように。
ぽつりとナディアは呟いた。少し離れて料理を楽しむクイールたちには、聞こえないほどの声量だった。
「わたくしは元より、王家を継ぐ者として育てられた訳ではありません。王位をやがて継承するのは兄の役目。わたくしは貴い王家の血をネシュアの未来に捧げることを望まれました」
「それって――」
「追想派の研究局。あの、倫理を捨てた蒙昧どもの長は王家と近く、ネシュアの未来のためにと、王家に連なる子を欲した。……要は、連中の技術革新のための人柱になれと、お父様に生き方を示されたのです。確か、あれは……十歳の誕生日でしたか。社会勉強という名目でネシュアの技術を学ぶことを勧められ、あの頃のわたくしは疑いもなく、喜んで応じました」
今や他人事のように、退屈そうに、ナディアは――初めて生前の秘密を、僕たちに打ち明けた。
思わず、息を呑んだ。そんな素振りは、これまで一切見せていなかったから。
「追想派は、過去に万全を定義し、何があろうともそこに戻ることで、無限に至ろうとした。実証のためには、変化が必要でしょう? 大きな変化を“過去”に戻すことが出来れば、その分、大きな価値の証明になる。――馬鹿馬鹿しい見栄の犠牲になる側のことも、考えてほしかったものです」
呆れの溜息をつきながら、ナディアは右腕の肘から先、魔道具たる義手を揺らす。
……一つの推測に辿り着くのは簡単だった。
けれど、それはあまりにも、信じがたかった。
「……オドマオズマにやられたんじゃ、ないの?」
「そうだったらあの日、目覚めた時に驚いている筈でしょう? 生前からですわ。この腕も、縫い痕も。“巻き戻し”に失敗した結果です」
「な……何よそれ。家族は何をしてたの!? オドマオズマ様はともかく、あんたの両親は!?」
「進歩のためなら犠牲も止む無しと供されたんですもの。むしろ、あの頃は兄が唯一の心の支えでした。このありさまを心から心配し、お父様たちに直談判してくれたこともあったのですよ」
その、かつての思い出を回想して、ナディアは苦笑を零す。
てっきりあの腕も、縫われた傷跡も、オドマオズマによるものだと思っていた。
ネシュアの人間によるものだなどと、少しも考えていなかった。
あれは、すぐに元に戻るからと奪われて、ついに戻ることはなかった、過去へと立ち戻らんとする実験の失敗の痕。
そんな悍ましい実験は、ナディアにとって日常茶飯事。彼女がネシュアで生きていた頃――オドマオズマは、確かに信じるべき兄だったのだ。
「狂った思想、狂った倫理を持っていれど、最初は連中もわたくしの立場を重視してくれていたのですが。最初の傷が残った時など、自分たちの首も落ちるのではと、顔を今のわたくしよりも青くしていたものです。……ジョークですから、笑ってほしいのですが」
「……今の流れで笑えると思ってるなら、ナディアのセンスだいぶズレているよ」
「それは残念――あの時、ネシュアの技術の礎になるならと、許してしまったことが失敗なのでしょうね。かれらがわたくしを使い、“遊ぶ”方向にシフトしたのは、すぐに理解できました。そして、そこに苦痛も感じなくなった頃、追想派の努力は実を結んだ。ほんの短時間ながら、人の体さえ、過去に状態を立ち戻らせるすべを確立させたのです。連中の、晩年の最後の功績ですね」
……だが、その結果は、あまりにも遅すぎた。
失敗を積み上げた過去は、確立した技術からすれば遠かったのだろう。ナディアの腕も、傷痕も、元に戻ることはなかった。
「……、……ネシュアは、そういう者たちの集まりです。常識を捨てて、常軌を逸した技術に辿り着くことで、成長していった国です」
少し、言葉を選んでいるような素振りを見せながらスープを口にした後、ナディアは眉根を寄せながら言った。
「……あなたたちの使命も、それによる苦痛も……その発端は、ネシュアにあるのでしょう。我が国の、無数の過ち――その一つが、今の世界の悍ましい風習を作ったのでしょう」
ナディアの言葉には――感じなくてもいい、罪悪感が込められていた。
ネシュアによって築かれた理。それが今の勇者の運命を定めているのであれば、すなわちそれは、自身の責任だと。
――そんなことはない。ナディアだって、ネシュアの被害者だというのに。
「だからこそ、改めて――ユーリ。わたくしも、最後まで戦うことを、ここに誓いましょう。ロスラウドへの道を見つけ出してそれで終わりなどと、今更、言いませんよね?」
「……それは、僕たちの方から頼みたい。けど、ナディア。たとえネシュアが発端だったとしても、ナディアが責任を感じる必要はないよ」
「けじめというものですわ。あの国の過ちは、誰かが背負わないとならない。それが出来るのは、
ナディアの意思は、固かった。
それで、大きく何かが変わる訳ではない。ナディアの心持ちとして、逃げることが出来なくなるというだけ。
元よりナディアはそのつもりだったのだろうが、改めてここで宣言することは、ナディアにとって大きな意味があった。
「まったく……どいつもこいつも、変な覚悟決めちゃって。なんでこう、頭がおかしいのばかり集まったのよ」
「当然でしょう? だって、こんな世界で、ハッピーエンドを目指しているのですから」
ナディアはどこか得意げに笑う。
確かに――これが僕たちだ。ラフィーナに言われるのは少し心外だが、きっと僕たちの誰もが、“まとも”ではないのだろう。
だからこそ、諦めずにいられた。誰もが諦めることなく、ここにいることが出来ている。
「それにわたくしはまだ、皆との日常を堪能しきっていないのです――必ず勝ちますよ。全員で、誰も欠けることなく」
「うん、もちろん」
この先に何が待っているのかは分からない。
だが、そこを超えた先で――日常を手に入れたい想いは確かだから。
誰も欠けてはいけないなど当たり前だ。それがどれだけ望みの薄いことであっても――最善ではないハッピーエンドを求めても仕方がない。
ようやくここまで来たのだ。
最高にして、最善のハッピーエンドを、僕たち全員の力で掴み取ろう。
【ナディア】
この際すべて話しておこうと思ったが、ギリギリで踏み止まった。
リッカならまだしも、ユーリに話すのは少々ハードルの高い秘密もあるのだ。
【ビア缶チキン】
知らない人は是非ググってほしい。
ビールの代わりにブイヨンなんかを使ってあげても美味しい。
多分バーベキューのくだりでスレの誰かが名前を出して、リッカが思い出しつつ再現したとかそういうの。
この辺りの構想を考えていた時にちょうど食べたかったバーベキューレシピなだけであって、ブラックジョークの意図は決してない。ないったらない。