凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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最後の夜(4)

 

 

 それを作るときは、火力が命である。そう教わった。

 熱された広い鉄板の上で具材を満遍なく踊らせるため、手を忙しなく動かし続ける。

 この料理を村に普及させたのはリッカである。今回、これを作ると決めた時に、ふと思い出して尋ねたが――やはりこれは、リッカの前世の料理らしい。

 まだ繰り返しが始まる前、リッカが前世の記憶を残していた、子供の頃。

 その始まりは覚えている。

 村にやってきた行商人が持ってきてくれた食材の中で、村の誰も知らなかったものに、リッカが過剰に反応した。

 わがままで買うことを認められて、リッカが作ったその料理に村のみんなが感銘を受けて、それから祭りの定番になった。

 行商人も驚いていた。外ではこの食材は、こんな風に調理するようなものではないから。

 つまりこれは、この世界においては、僕たちの村独特の、郷土料理というべきものである。

 

「なるほど……ソースの焼けた香りが、なんとも……」

「お、ぉ、ぉ……!」

 

 具材が跳ねるたびに無意識に声を零すクイールがなんだか面白かった。

 買い過ぎた食材は、やはり到底消費しきれなかったが、この場で作りたいものはこれで一通り作ることが出来た。

 あとの食材も、保存しつつ少しずつ食べていけば良いだろう。なんなら、すべてが終わった後、もう一度宴を催すことだってしてもいい。

 満足のいく出来になったところで、完成したそれを空いた大皿に盛りつけた。

 

「これが、ユーリくんたちの村の郷土料理……っ!」

「もっと正確に言うと、リッカの前世の料理みたいだけどね」

 

 まあ、ソースのレシピは村とここでは手に入る野菜も香辛料も違いがあり、いくつか代用しているうえに、短時間で作ったものではあるが。

 思えばリッカは、ソースの再現にかなりの執念を見せ、ああでもない、こうでもないと唸っていた覚えがある。

 これの元になったものは、リッカの前世ではもっとありふれたもので、拘りがあったのかもしれない。

 ともかく、熱した鉄板の上で麺と野菜をそれぞれ炒めて、ソースで和えながら混ぜ合わせたのが、この焼きそばである。

 麺は聖都で庶民にも広まっているパスタ用ではなく、適したものを探す必要があったが、行商人が卸せるほどのものだ。探してみれば見つからないものでもなかった。

 思い思いに小皿に取っていくみんなに続いて、僕も少しだけ小皿に盛る。

 もうかなり満足な状態ではあったが、久しぶりの焼きそばは魅力的だ。食の細いリッカですら、少し多めに取り分けていた。

 

「ほう、これは中々……この麺の食感は初めてだ」

「麺もですが、このソースは……どこか庶民的なのに、深い味わいで。二人とも、レシピを公開すればそれなりの価値になるのでは?」

 

 これを商売にする考えなどまるでなかったが……いたく感心した様子のナディアは、どうやら冗談を言っている様子もなかった。

 リッカもいまいちピンと来ていないようで、小さく口を動かしつつも、首を傾げている。

 

「……ん……前世の知識で儲ける気はない。少なくとも、今の私には」

「うーん……残念です。リッカちゃんだけが知っている知識を使えば、もっともっと世界を変えられそうなのに」

「前世の知識でチヤホヤされて無双するのは確かにテンプレだけど」

「リッカちゃんの元の世界、そんなに転生者ってありふれてる存在なんですか!?」

 

 ……ありふれているのだろうか。

 僕たちの知っているかれらや、他にもいるらしいリッカの協力者たち。

 少なくとも、知り合いが複数人いることは間違いないようだが、どうにも、転生者という存在のイメージは固まらない。

 あの時、リッカの深奥で目にした記憶。

 僕の知らない光景で見た人々は、特にそんな様子も見られない、普通の人間に見えたのだが。

 

「そういえば、あんたの前世って一体どんなんなわけ? 私もそこまで詳しく聞いていないんだけど」

「そこまで詳しく覚えていないってだけ……」

「覚えている範囲で聞かせなさいよ。せっかく宴の場なんだし、その方が盛り上がるわ」

「……面倒な絡み方……」

 

 だいぶ酔いが回ってきたようで、始まって間もない頃とは異なり、ラフィーナの頬は明確に朱く染まっていた。

 というか、リッカが先ほどの僕とまったく同じ苦言を呈している。

 リッカが視線で助けを求めてくるが、今のラフィーナに絡まれたくない一心で視線を外す。

 

「ママ、リッカの“ぜんせ”って?」

「あ、そうですね。そこからですよね。リッカちゃん、ホープにも教えてあげてくれませんか?」

「そっちの前提も広めるつもりないんだけど……っ」

 

 ……そういえば、ホープは前世について聞いていなかった。

 とはいえ、その秘密を聞いたところでリッカへの態度を変えるホープではないだろう。

 むしろ、リッカにもっと特別な憧れを向けるかもしれない。ホープはそんな、純粋な子だ。

 諦めたように溜息をついて、言葉を選んでぽつぽつと話し始めるリッカ。

 それを見計らってか、イリスティーラに肩を叩かれた。

 

「――少しいいかい?」

「うん、構わないけど……」

 

 小声で尋ねられ、問題ないと頷く。

 会話の輪から少し離れて屋敷の方まで歩くと、イリスティーラは壁に背中を預けた。

 

「いい宴だね。食事をこれほど楽しんだのはいつ以来だろうか。もしかすると……生まれて初めてかもしれない」

「そうなの?」

「ああ。私は知っての通り、食事に重要性を感じていない身だったからね。楽しむことを前提にした宴というのは……どうにも、記憶にないな」

 

 イリスティーラが、“楽しみ”を演じている様子はない。

 それは本心であるようだ。彼女も楽しめていることには安心したが――どこか。

 今のイリスティーラは、この光景に、別の何かを見ているかのようだった。

 

「……リッカくんから、覚悟を問われてね。本当に私は、この先で命をかけられるか、と」

「リッカから……?」

 

 先ほど、リッカとイリスティーラが何か会話をしていたのは知っている。

 あの後リッカの様子は普段通りだったものの、イリスティーラの雰囲気に変化があったことには気付いていた。

 大きな変化ではない。些細な、本当に些細な、気の持ちようの変化。

 だが、イリスティーラにとっては、大きな意味のある会話だったらしい。

 

「言葉通りの意味じゃあない。もちろん、必要とあらば私にはその覚悟はあるとも。……ただし」

 

 そこで一つ、沈黙が生まれた。言葉を選んでいる訳ではない。それを言葉にするのに、僅かな躊躇い。

 程なくしてイリスティーラは、酒の注がれたコップを揺らしながら口を開く。

 

「私が見ている先は、キミたちと完全に同じ道じゃない。魔王を討ち、キミたちの使命を終わらせる――その他に、もう一つだけ、私にはやりたいことがある。……もしかすると、キミには気付かれていたかもしれないな」

「……」

 

 あえて言葉で肯定しなくとも、察しがついていることは、イリスティーラには伝わったらしい。

 さもありなんとばかりに苦笑したイリスティーラはコップの中身を少し口に含んだ。

 

「キミのその力は本当に……いや、それも関係ないか。私が分かりやすかっただけだ。リッカくんだって気付いていたんだからね。ああ、そうだ――リーテのことだ」

 

 その愛称は、イリスティーラにとってあまりにも呼び慣れた、自然なものだった。

 長い年月で色褪せつつも、しかし確かな愛おしさがあった。

 

「……彼とは、幼馴染でね。キミたちのように、いつも一緒というほどじゃない。幼少の頃は、私が一方的に慕って、その背中を追いかけていただけだった。まだ、彼の父が水の四天王を務めていた頃さ」

「リーテリヴィアのお父さんって、確か……」

「リトラリヴィア。優しくも芯の強い御仁だった」

 

 先代たる水の四天王、彼の名前を聞いたのは、バルハラからだった。

 その死はバルハラから見ても想定外だったらしい。

 リトラリヴィアが亡くなったことで、その息子であるリーテリヴィアが四天王の座を継ぐことになったようだが……。

 

「……あの方の葬儀の日、リーテは連れ去られた。アデラキテラ……あの性悪にね」

「え……?」

 

 イリスティーラが不快げに名前を呼んだ魔族は、ほんの数日前に、イリスティーラが命を奪った相手だった。

 

「まだあの頃のリーテは四天王としては不相応だった。しかし、魔王の依頼を受けたらしい。そうして、戻ってきた時……リーテは、忘れていたんだ。私のことをね」

「っ……けど、今は……」

「今の彼との関係は、一から構築し直したものだよ。最初の数年間、“元通り”を目指した、悪足掻きの結果さ。笑ってくれ」

 

 ……笑えない。笑える筈があろうか。

 これまで積み上げたものを失ってしまう苦痛――僕にその経験はなくとも、リッカが幾度も繰り返してきた痛みだ。

 それだけではない。大切な相手に、自分のことを忘れられる。一体、どれほどの絶望だろう。

 

 自嘲の笑みを浮かべて、酒を口に含むイリスティーラ。

 ああ――ようやく、彼女の達観を理解できた。

 彼女は一度、完全に折れたのだ。もう、この世界に価値はないと、諦めた経験があったのだ。

 

「……イリスティーラ、それじゃあ……キミのやりたいことっていうのは……」

「ああ――私は、リーテの記憶を取り戻したい。かつて諦めて、まともに生きることさえ捨てた私だが……それが叶うかもしれないという希望を、キミたちと共にいることで、ようやく抱けたんだ」

 

 きっと彼女は、僕たちの旅に同行するようになってからも、その望みを抱くことはなかったのだろう。

 元々、クイールを補佐するためだった。最初の頃は、クイールの使命を終わらせることのみを、考えていたのだと思う。

 そして、その使命の終わりまであと一歩となったことで、イリスティーラは己の“最善”を意識した。

 叶うのならば、もう一つだけ、己の願望を掴み取りたいと。

 

「……イリスティーラ。その望みに協力しない人は、ここにはいないよ」

「……かもしれないね。それに付け込むようで、気が引けるが……本当に、お人好しの集まりだね、ハッピーエンド同盟は」

 

 僕たちが目指すのは、最高のハッピーエンドだ。その後の憂いなんて、ない方が良いに決まっている。

 イリスティーラのハッピーエンドの条件がそれであるのならば、僕たちが手を貸さない理由はない。

 

「実を言うとね。リッカくんの協力を得られたんだ」

「リッカの……?」

「ああ。私の妄執は、リッカくんにさえ気付かれていた。けれど、まあ……恥じる甲斐はあったよ。最新の冥界の加護を得られたんだからね」

 

 そうか――リッカもまた、その悲願を“叶うべきもの”と思ったのだ。

 ここにきて、イリスティーラの望みだけが中途半端なままとなって報われないのでは筋が通らない。

 僕やリッカだけではない。きっと、この場の誰もがそう思うだろう。

 

「……僕たちは、何をすればいい?」

「面倒ごとを頼む気はないよ。協力してくれるというのなら――リーテと出会って、私が何をするにしても、止めたりせずに受け入れてほしい」

「それは――」

「もちろん、クイールたちにも共有する。それに――」

 

 彼女の決意に、かすかに抱いた不安。

 その心配に対し、気にするなとばかりにイリスティーラは笑って、コップに残った酒を一息にあおる。

 

「別に私も、死ぬつもりはないよ。その覚悟でやっていくというだけさ。みんなでハッピーエンドを迎えるんだろう?」

「うん。誰も欠けることなく、僕とクイールは使命を終わらせる。そうしたら――またこんな風にお祝いをしよう」

「……っふふ。ああ、それは楽しみだ」

 

 イリスティーラの言葉に、偽りはない。ならば、僕は彼女との絆を信じるまでだ。

 彼女はきっと、リーテリヴィアの記憶を取り戻す。そうすれば、彼は僕たちが戦うべき敵ではなくなる。

 すべてが終わった後の宴――その時には、リーテリヴィアを招いても良いかもしれない。




次回は、この少し前にあったリッカとイリスの会話になります。
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