凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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最後の夜(5)

 

 

 ――こういう宴を誰かと楽しんだのは、いつ以来だろう。

 

 少なくとも、()()なってしまってからは、初めての筈だ。何しろ、他者との関わりを可能な限り断ってきたのだから。

 となると、私が悪足掻きを始める前だから……。

 ああ、そうか――私とリーテの誕生日が、最後なのかな。

 あの時のことは覚えている。彼の父も、珍しくその日に聖都に居合わせることが出来たから、余計に大きな宴になったものだ。

 ――リトラリヴィアは厳格ではあるが、公私のはっきりした方で、“私”の部分ではリーテに甘いところがあったし、私も両親に甘やかされて育ってきた。

 あの時はリーテと一緒に大喜びしていたが、今思えば、あれは彼の父と私の両親が少し羽目を外して大人げなく盛り上がった結果なのだろう。

 

 互いにプレゼントを贈り合うのが定番になっていて、あの時に貰った人形は……今、どこに置いてあるのだったか。

 ホープやクイールに譲った記憶もないが、家のどこかに飾っている訳でもない。

 多分、倉庫にしている部屋のどこかに埋まっているのだろう。かつて大切にしていて、処分していないものの大半は、あの部屋の奥底に詰め込んでいる筈だ。

 

「……ふ」

 

 思わず、乾いた笑いが零れる。我ながら、下らない感傷だった。

 それというのも、あんなことがあったせいなのだが。

 

 ――イリス、教えてくれ。あの光景は、俺が失った過去なのか。

 

 動き出した時計の針に、戸惑った。それは、私がついこの間まで待ち望んでいたことだった。

 追いついてきた過去の、その手を掴んで、同じ位置にまで引き戻す好機だった筈なのに。

 結局私はもやもやとした気持ちを抱いたままで、そしてリーテはこの場所にはいない。

 またも私は、彼を冷たく突き放すことしか出来なかった。

 ――思い出して、それでも彼が私の手を取らなかった時、耐えられそうにないから。

 

 ……まったく、本当にどうしようもない。この臆病さは、幼い頃から一向に治らない。

 種族としての禁忌には衝動的に踏み出せたくせに、こうして“もしも”を考えると、足が進まなくなるのは私の悪い癖だ。

 溜息を一つついて、串に刺さった肉の残りを口に放り込む。

 濃厚な甘辛いソースが舌を刺激する。噛み締めることで溢れる肉汁が、酒で鈍った味覚を再び活性化させる。

 かれらが料理達者なのは、旅に同行することで十分に思い知っていたが、今回のそれはまた格別だ。

 食に関心がなくなって久しい私でさえ、楽しむことが出来ている。実に見事な料理だった。

 これを知ってしまえば、レトルトに味気なさを感じてしまう者もいるだろう。現にクイールがそうである訳だし。

 こんな料理を皆で楽しむならば、酒の一つもあってほしい。ラフィーナの判断に、今更ながら感謝する。

 そう飲み慣れている訳でもないものの、こんな時くらい、こういう楽しみ方をしてみるのも悪くはない。

 

 明日、また聖都を発つ。それはクイールやユーリくんたちにとって、使命の終わりに向かう旅だ。

 魔王を討つことで、ようやく二人は日常を手に入れる。下らないこの世界の風習は終わりを告げて、その報酬にかれらは小さな幸福を得るだろう。

 割に合わない報酬だとは思うが、それはかれらが何よりも求めていたものだ。

 きっと、何世代先まで遊んで暮らしても尽きない財宝などよりも、かれらにとっては大きなものなのだろう。

 その実現を望み、協力しようという気持ちを、どこか客観的に感じながら――酒を注ぎ足そうと手を伸ばして。

 

「――少しいい?」

「……? どうしたんだい、リッカくん」

 

 珍しい相手に話しかけられた。彼女の方から話しかけてきたことなど、これまでを通しても数えるほどしかない。

 先ほどまで私はラフィーナの愚痴に付き合っていたし、リッカくんはユーリくんと料理をしつつ談笑していた。

 どちらも一区切りついたこのタイミングが、ちょうどよいと思ったのだろうか。

 

「話がしたい。静かなところで」

「なら、中にしようか。それなら話を聞かれることもない」

 

 相変わらずの、感情が読めない仏頂面。とはいえ、こちらへの警戒はほとんどなくなっている。

 随分と、彼女からの態度も変わったものだと、言葉に出さないままに感心した。

 最初の頃など、名前を呼んだだけで殺意をぶつけられていたというのに。

 

 こうして一対一で話せることが、彼女の信頼の証なのだろうと考えつつ、屋敷の中に入る。

 ナディアがこちらに気付いていたし、ユーリくんたちには適当に説明してくれるだろう。

 皆の声や炭の弾ける音から離れて静かな室内に入れば、今夜は涼しくて過ごしやすい夜だと実感する。

 リッカくんにとってもそうだったようで、ハンカチで額の汗を拭いながら、一つ息をついた。

 

「肉を焼くのもいいが、適度に休んだ方がいいよ。羽目を外して体調を崩してしまっては、幸先が悪いからね」

「ん……わかってる。無理をするつもりはない」

 

 余計なお世話、とは言わないのか――今のリッカくんには多少違和感を覚えるほどだ。

 これが、彼女なりの希望の持ち方。こちらも、そろそろ信頼されている自覚を持たなければ。

 

「それで? 一体どうしたんだい?」

「明日からのことを、確認したかった。ここから先の、決戦について」

 

 決戦――リッカくんからすれば、特別大きな意味合いのある言葉だろう。

 幾度もの失敗を通して、それでも諦めることなく、ようやくここまで辿り着いた。

 彼女からすれば、今更くだらない躓きなどしたくないに決まっている。

 

「――あなたにとって水の四天王って、なに?」

 

 だからこそ――こんな問いにもなるのだろう。

 それは最早、私個人の話ではない。私の感情次第で、リッカくんの躓きにもつながる話なのだ。

 

「……察されていたのか。まさかキミに、彼との関係を尋ねられる日が来るなんてね」

「大事な話。この先、魔王に至るまでに、必ず水の四天王とも戦うことになる。その時、あなたはどうしたいの?」

 

 もちろん、リーテと戦うことは避けられないだろう。理解している。

 聞いた話では先日のホロゥでの出来事でも一戦交えたというが、次は確実に、決着がつくまで戦うことになる。

 リッカくんの確認の意図は分かる。

 彼女と、ユーリくんの戦うすべ。それによって決着に至れば、彼がどうなるか。

 私のことを理解しているからこそ、彼女は今、私に機会を与えているのだ。

 

「……ついてきてくれ」

「……」

 

 これが、運命の分岐点であることくらい、どれだけ鈍い私でも分かる。

 クイールの使命が無事に終わって、彼女がホープと暮らせるようになる。それが、私のハッピーエンドの条件ではあるが。

 もう一つだけ――仮に、もう一つだけ求めるのならば、手を伸ばしたいものがある。

 くだらない妄執だ。捨てるべき過去だ。だから、どうあれ私はそれを忘れようとした。

 けれど、どうしても、そんなことは出来なかった。

 

「……ここに自ら人を招くのは、いつ以来だろうね。いやまあ、勝手に入ってくる者はいたが」

 

 リッカくんを招いたのは、私の部屋だ。普段、眠ることにしか使っていない、殺風景な部屋。

 ベッドと、他の部屋に置かれたものよりは幾分小さな本棚と、何も置かれていないテーブルがあるくらい。

 本棚にある本は数冊だけ。しかし、一緒に詰め込まれた紙の山が残ったスペースを埋め尽くしている。

 その紙の山の奥から、小物入れを引っ張り出す。そういえば……何故これだけ、この部屋に置きっぱなしにしていたのだったか。

 ……まあ、いいか。ともあれ目的のそれを手に取って、魔力を通して開錠を始める。

 

「……随分、厳重な仕掛け」

「秘密というものは自分にできる限りの手段で守っておきたいものだろう? 同じ家で世話をしている者がいるなら、なおさらさ」

 

 クイールにもホープにも、そういったものには手を出すなとは言っているが。

 クイールはその辺り、好奇心を自制する子供だったが……最近はホープの気質が、より好奇心に傾きつつある。

 いつぞやの件で懲りたのか、今のところ危険なものに手を出してはいないが……。

 数年後を不安に感じつつも、小物入れの開錠を終える。

 もう百年以上も開けていないものだが、案外、すぐに思い出せるものだ。

 蓋を開ければ、いくつかの小物の一番上に、それはあった。一度私が、完全に折れた時に、仕舞い込んだものだ。

 

 それは、栞。魔力に反応する特殊な紙と結晶樹の押し花で作ったもの。

 その上から、風と水の、“二人分の魔力”によって施された刺繍で、日付が書かれている。

 これだけではない。数こそ少ないが、どれもこれも、私と彼が二人で作った品だ。

 陳腐で粗雑な、子供の工作と言ってしまえばそれだけのもの。しかし――今の私にとって、何よりもあの頃を思い出せるものだった。

 

「……今の彼には、この頃の記憶はない。色々と試しはしたんだ。私との記憶のすべてが失われた状態から、知り合いにまで戻り、悪足掻きを続けて」

「……」

「色々とやったが結局、彼にとっての私は、変わり者の知人にしかならなかった。限界を悟ったよ。塗り潰された記憶は戻らない。私はもう、二度と彼と元の関係には戻れないってね」

「……今のあなたの状態は、それで自棄になった結果?」

「ああ。元は“記憶の改変”の実験から発展したものに過ぎないんだがね。それなりの年月、迷走を繰り返したよ。記憶をなくそうとしたり、人間になろうとしたときもあった。とにかく、私は私をぐしゃぐしゃにしたかった」

 

 エルフとしての禁忌に足を踏み入れたきっかけは、きっと、どこかで救いを求めていたのだと思う。

 どうあっても忘れられない記憶は、ふとした時に手を伸ばして懐かしさに浸るものではなく、在るだけで苦しいものに変わった。

 それを忘れようとする。自分ではない何かになろうとする。魔族を冒涜するナニカになろうとする。好奇心に嫌悪をくべて、かすかな希望に変える。

 後は……存在をぐしゃぐしゃにすれば、心配した彼が何かを思い出してくれるのではと、そう考えたこともあったっけ。

 そう、何よりも強かった動機は――過去を取り戻したかった。その手段を、どうにかして手に入れたかった。

 また、リーテと笑い合いたかったのだ。

 

「私にあるのは、それだけ。――ああ、それが全部だ」

 

 私の過去を、リッカくんに話せるだけ話す。

 初めての経験だった。クイールにさえ、これを話してはいなかった。

 口を開けば出てくるものだ。そして、言葉にするたびに、未練というものは強くなる。

 取り戻したい。私も――私だって。

 

「リッカくん――――私も、ハッピーエンド同盟の一員であるのなら。望む権利はあるのかい?」

 

 我ながら、こんな縋る思いで言葉を紡げるのかと驚いた。

 きっと、声の震えは抑えられたと思う。けれど、紡いだ言葉だけで、私の想いは伝わってしまっただろう。

 リッカくんは無表情のまま。私をじっと見据えて――やがて、こちらに手を差し出してきた。

 

「……あなたの、いつもの魔道具を貸して」

「……これ、かい?」

 

 訴えを無視したかのような、脈絡のない要望。

 それに少しだけ困惑しつつも、懐からスティーライザを取り出し、彼女の手に置いた。

 私の中の因子を管理、調整するための、非常にデリケートな魔道具だ。本来、誰の手に触れさせる気もなかったが――いつの間にか、私はそうしていた。

 

「……なるほど」

 

 僅かに、リッカくんから魔力が零れる。一瞬だけ、何かしらの魔法を使ったのだと察した。

 何をした、と問う前に、リッカくんは腰に巻いていたポーチを開けて、そこに片手を突っ込む。

 

「……今更だけど、あなたに一つ謝っておく。『勇蝕写本』について。水の試練を攻略するために、私はあなたたちを利用した」

「――――――――」

 

 唐突に受けた謝罪に、数秒、思考が止まった。

 かれらと出会って間もない頃、聖都で発生した大事件。勇気喰いの災厄が聖都を襲い、そして今度こそ完全に討伐されたあの事件。

 あれの発生源は、ホープが開いた魔本で、それはリッカくんが唆したことは察しがついている。

 今では誰も咎めようのない、完全犯罪だ。

 あの時私は、リッカくんの秘密に何パターンかの推測をつけて、それはある程度当たっていた訳だが。

 正直……リッカくんからあれを言及される日が来るとは思わなかった。

 

「あなたがあの件で私のことを恨むのならそれでいい。けれど、ここまで来た以上は、あなたとの関係も壊したくない。だから――これは、そのお詫び」

 

 これから先、どれだけの付き合いがあろうとも、リッカくんから一生聞くことのないだろう言葉。

 それにまた思考が止まりかけるも、続いての彼女の行動を、どうにか捉えることが出来た。

 ポーチから取り出されたのは、虹の輝きを持つ、何かの結晶の破片のようなもの。

 深奥まで認識してはならないと本能が告げるような危険な代物。

 それをリッカくんはスティーライザに押し当てて――結晶を術式に変換し、組み込んだ。

 スティーライザの上部に、虹色に輝く刃が装着される。

 完全にスティーライザを解析しなければ行えないような芸当を、ほんの数秒で、リッカくんはやってのけた。

 

「……リッカくん、今のは――」

「この世界における混沌の極致。バルハラから抜き出された欠片。その力を、あなたが使った因子の暴走コードに紐づけた。これを使えば、あなたはこの混沌を、全能性に近い力として発揮することが出来る」

 

 ――アデラキテラを殺した時に使ったコード。あの性質まで、彼女は読み取ったのか。

 その上で、あれが私の“希望”になると判断したのだ。

 バルハラの欠片などという、すべてを引っ繰り返す切り札になり得るものを、私の望みのために使ったのだ。

 

「ただし、それは生命の限界を超える力。クイールみたく、限界を超える才能がなければ、自由に使えるものじゃない。それを使って、水の四天王の記憶が戻る保障はないし、下手に使えばあなた自身も耐えられない。外装なんかに使おうとすれば何が起きるかは、私にも未知数になる」

「――――――――」

 

 ……あるいは、体のいい厄介払いか。そんな危険な代物を、悪用されずに有効活用する手段として。

 リッカくんの言葉に偽りはないのだろう。彼女なりの十全な調整を施した上で、なおも使い方を誤るようであれば、それまでなのだと。

 

「これが、私にできる最大の援助。クイールたちのためじゃなくて――あなたは、あなた自身のハッピーエンドのために命を懸けられる?」

 

 だが――つまるところ、私の望みはそれほど遠いものなのだろう。

 失ったものを取り戻すことの難しさを、リッカくんは良く知っている。だから、今度こそ何も失わないように努めた。

 私がやろうとしていることは、リッカくんには成し遂げられなかったものだ。その実現には、命を懸ける覚悟が大前提となる。

 ……いいともさ。これが私に与えられた、救いの手。

 最悪な救いもあったものだが……混沌の果てで、なおも求めた救いに伸ばされる手があるだけ、幸運なのだろう。

 

「……私だけが足並みを揃えないのでは、筋が通らないか」

 

 スティーライザを受け取る。これまでよりやや重くなったそれは、より手に馴染む気がした。

 最悪だが――最高の加護だ。これをどうするかは、私次第ということだ。

 あとは……まあ、私の方からも、あの時の清算くらいは、しておこうか。

 

「私個人からキミに対しての恨みなどないよ。ただ、そうだな――ホープを唆した分、ちゃんと面倒を見てやってくれ。あの子がお転婆になり過ぎないようにね」

「……素質がある感じ?」

「それはもう、大いに」

 

 ほんの一言ずつだが、初めての、彼女との雑談だった。

 複雑そうな顔になったリッカくんを見て、心からの笑みが零れた。

 彼女なりに心境の変化があったようで、今回の宴でもよくホープの面倒を見ていたが――彼女やナディアが師についてくれるならば、ホープは良い魔法使いになるだろう。




【スティーライザ(カオス)
イリスティーラが因子の調整に使用する魔道具を、リッカがバルハラの欠片(バルハラユニット)を用いて改修したもの。
銃身の上部に折り畳まれた状態の刃が取り付けられており、これを引き出すことで近接戦闘も行えるようになる。
取り込んだ因子の自滅機構である『カオスコード』の使用により、バルハラの力の一端を振るうことが出来る。

DXバルハラユニット】
ゼクセリオンと規格が同じなので聖剣ブレダリオンにも挿せる。没音声も鳴る。
魔剣ラフィーナや冥斧バルハリオンに挿せるかは不明。
ちなみにゼクセリオンの方は、翼かなにかが干渉するのでスティーライザには素で挿すことはできない。
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