凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「……実際、これって宴の場で作るようなものなの?」
「……そうでもないかも。あまり覚えてないけど」
長時間続いていた宴も大詰め。全員が心行くまで楽しんだ頃。
僕は再び、リッカの主導でもう一品、料理を作っていた。
とはいっても、肉や海鮮を焼いたりなどというものではない。残ったジュースや酒を片付けるためのデザートである。
「これも、リッカの“ぜんせ”の?」
「ん……うろ覚えで、ちょっと“伝手”から聞いたレシピだけど」
結局、前世やら、転生やらについて、少しだけホープに話したらしい。
しかし――この料理は、かれらにレシピを聞いていたようだ。あまりかれらの協力を得るタイミングとして相応しくないようにも思えるが、そのくらい気安い間柄なのだろうか。
……ところで、先ほどの料理もそうだが、リッカの前世は随分と、食に貪欲というか。
発想力が根本的に、僕たちの世界と違うように思える。これは簡単な料理ではあるが、組み合わせとしてはイリスティーラたちも初めて見るようだった。
ふんわりとした白パンの上に、買ってきたバニラアイスを山ほど乗せて、さらにその上からハチミツをたっぷりとかけたもの。
言ってしまえばそれだけのものだが、パンも大きなものを使ったことで、なかなかに“只者ではない”雰囲気を醸し出している。
そして、切り分けている間にパンの熱で少しずつアイスが溶けて、パンの中に染み込んでいく。
なるほど、これがこの料理の真髄のようだ。パンの食感が変わり切らないうちに、急いで皆の分を取り分ける。
「さあ、食べよう。アイスのお代わりはいっぱいあるし、果物もあるよ」
「いただきますっ!」
クイールとホープが同時に声を上げたことに苦笑しつつ、僕もフォークでパンの端を切り取って、口にする。
まだ温かいパンと、冷たいバニラアイスの組み合わせに少しだけ戸惑ったものの、慣れてしまえばそれもこの料理の楽しみ方の一つだと理解できる。
さらに、溶けたアイスが染み込むことで、パンは柔らかくなり、甘みがより調和するようになる。
スープを浸して食べるのとはまた異なる絶品だ。まあ、食べすぎには注意しないといけないが。
「ほぁぁ……甘い……おいしい……」
「……何故わたくしの時代に、これがなかったのでしょう。これを生み出せない美食派に存在価値はなかったのでは……?」
何か、ナディアが物騒なことを言っているが……とりあえず、気に入ってもらえたようだ。
ラフィーナとイリスティーラは料理や果物を摘まみつつ、残った酒を楽しんでいる。……ずいぶん、顔が赤くなっているが、明日は大丈夫なのだろうか。
「リッカっ。これ、別のアイスでもできる?」
「できなくはないはず。……こっち、色々買ってあるから、試してみて」
「あ――リッカ、わたくしもお願いします。戦いが終わった後、聖都の特許を取りましょう」
「特許とかあるの……?」
白パンの淡泊な味なら、色々とアイスのアレンジも利くだろう。
ホープとナディアはそれに興味津々であるようで、アイスの封を切るリッカにちょこちょこと付いていった。
「はぁ……幸せです」
一方でクイールは、アイスを多めに盛ったパンを口に含み、至福とばかりに顔をとろけさせていた。
「気に入ってもらえたみたいで良かった」
「はい。もう……何もかもがおいしくて。油断すると、これが決戦の前だってことを忘れてしまいそうになります……」
その声色だけでも、クイールが心から楽しんでくれたことは分かった。
可能であれば、ずっとこの宴が続いてほしいと言いかねないほどに――誰よりも今夜を満喫していたのがクイールだろう。
「やっぱり僕……ユーリくんと、リッカちゃんの作るごはんが好きです。二人の料理を目指して僕も試行錯誤はしているんですけど……どうして上手くいかないんでしょう」
「僕もリッカも、最初はひどかったよ。慣れだと思う。僕たちは村でいつも作っていたから」
「……卵を“あんな”にしたこと、あります?」
「……」
「やっぱり僕の才能が皆無なだけなのでは……?」
確かに……クイールの言っている“あんな”は、流石に僕も見たことがなかったが。
リッカは今でこそ普通に料理を作ったり、前世の知識を活かしてレシピを示してくれているが、昔はもう酷いものだった。
なんでもかんでも、妙に挑戦的なアレンジをしなければ気が済まない性質で、僕とカルラがその始末を丁重に断ったことも一度や二度ではない。
いや、まあ、カルラはカルラで、時々そのアレンジに便乗することも多かったのだが。
むしろ、僕がまともに料理出来るようになったのは、二人の軌道修正をするためというのが大きな動機の一つだったりする。
「今度、僕と挑戦してみよう。一度コツを掴んでみれば、きっと作れるようになるからさ」
「……! 本当ですか……っ! ぼ、僕、教えてほしい料理がたくさんあるんです! 僕も作れるようになれば、きっとホープも驚いてくれますよねっ」
「うん――きっと」
リッカの影響で、村の外では見られないような特徴を持った料理もいくつか知っている。
今回の宴で作った料理もそうだが、これはホープにとっても物珍しいものだろう。
「……本当に、あと一歩、なんですね」
「……そうだね。旅に出る前は、こんな風に希望を持つなんて、出来なかったけど……」
「僕は、逆です。最初は、自分の力をまるで疑ってなかった。自分は勇者だから何でもできるって、そんな特別感に満ちていました」
旅に出る前から水の試練を突破した、極めて異例な勇者。それがクイールだ。
その頃の彼女に、絶望はなかったのだろう。勇者としての自己肯定感は、自身を前に進ませるための、大きな原動力だった。
「一度、僕は希望なんて見なくなって。でも今は、希望を持てています」
初めて出会った時の、希望に満ち溢れたあの様子は、心を覆う暗い影をごまかすためだけではない、元来のもの。
だからこそ――希望が見えた今も、クイールは笑顔でいられている。
「僕だけじゃない――ユーリくんとリッカちゃんが目指すハッピーエンドに、みんなが希望を持ったんです。今更、やっぱり辿り着けませんでした、なんて認められません」
「もちろん。みんなで掴み取ろう。百点満点のハッピーエンドを」
「はいっ!」
ロスラウドで何が待っていようが関係ない。
それを乗り越えて、僕たち全員で、最高のハッピーエンドに辿り着くのだ。
クイールと笑い合って、決意を新たにする。誰かが欠けるなど、僕たちは望んでいない。
最善を掴み取るためのハッピーエンド同盟だ。ここまで来て、中途半端に終わるなんてありえない。
「……でも」
「どうしたの?」
少し溶け始めたアイスを慌ててすくって舐めてから、クイールはふと思い出したように、切り出した。
「料理を教わるのは、あまり頻繁にって訳にもいかなくなっちゃいますね。ユーリくんとリッカちゃんは、村に戻るんですよね?」
「……そうだね。確かに……聖都に来るのは難しくないけど、毎日って訳にもいかないし」
旅の終わりは、つまるところ僕たちが常に共にいる訳ではなくなることを意味する。
僕とリッカとカルラの居場所はあの村で、クイールたちが暮らすのは聖都だ。
ゼクセリオンを使えば一日も掛からない距離ではあるけれど、旅の中で当たり前になった日常のようにはならないだろう。
「……正直なことを言うと、ユーリくんもリッカちゃんもカルラちゃんも、聖都で暮らしてほしいなって思うんです。この屋敷でって訳じゃなくても、すぐに会えるようなところで」
「それは……」
「えへへ……分かってます。流石にこれは、我儘が過ぎるって。ただ……ホープがいて、イリスがいて、そしてユーリくんたちがいる。僕の幸せを考えた時……思い浮かぶのはそういう景色なんです」
幸せな光景、か……。
僕たちが手に入れようとしていた日常は、かつて過ごしていた“当たり前”だ。
けれど、考えてみれば――多くの経験をしてきた、この旅の終盤で、一番の幸せが完全な“元通り”かというと、少し違うかもしれない。
だってそれは、クイールやイリスティーラ、ラフィーナやナディア――紡いできた数々の絆を知らない頃だから。
「……確かに、僕も。みんなと一緒にいるのが、楽しいって思う。全部が終わった後、それが新しい日常になるのなら、これ以上ない幸せかもしれない」
「……! ……それなら、よかったです。僕たちといることが、ユーリくんにとっても“当たり前”になっていたことですもんね」
かつての“当たり前”は僕たちがずっと望んでいたものだったが、今こうして、みんなと共にいる“当たり前”も、決して手放したくないものだ。
だから、そのどちらも捨て去らない、新しい“当たり前”――その形を、考えてみても良いかもしれない。
「まあ……ゆっくり考えてみるよ。戦いが終われば、たっぷり時間もある筈だから」
「ですね! そうなったら、料理の勉強もしたいし、ホープとの時間もいっぱい作りたいし、それに、ユーリくんの――」
「……? なに?」
「――いえ。なんでもないです。今はあえて口にしない方が良いかなって」
「待って、気になる。言いかけていたんだから、最後まで言い切ってよ」
「嫌です。教えてあげませーん」
結局、そこでクイールが何を言おうとしていたのかは聞けず終いだったが――それでも、いいだろう。
勇者としての使命が終わった後が、本当の僕たちの人生の始まりなのだ。
まだ、僕が思い描くハッピーエンドのその先は曖昧で、具体的に何をしようというものは決まっていない。
そういうものを考えるのは、もう少し先でもいい。魔王の好き勝手から解き放たれた、自由の向こうには、いくらでも時間がある筈だ。
楽しい時間とは、あっという間に終わるもの。
デザートまで食べ終わり、慌ただしく後片付けを終えて、宴はお開きとなった。
うとうととしていたホープを連れてクイールが屋敷に戻ったのをきっかけに、それぞれが明日に向けての支度へと移る。
僕たちも屋敷の庭に設置したゼクセリオンの中で、思い思いの時間を過ごしていた。
「……」
なんとなしに部屋を見渡す。内部の空間に構築された自分の部屋も、すっかり当たり前になり、僕なりの生活の色が出ている。
とはいっても、趣味の品などほとんど置かれてはいないのだが。
この旅の中で面白そうなものはたくさん見てきたが、結局、買うまでに至ったのは少しの本くらい。それでさえ、どれもまだ読み切ってはいないものだ。
どちらかといえば、精神的な余裕が出来た頃からの、自然の風景や立ち寄った町の風習に触れることの方が楽しみになっていた。
どれもこれも、村にいたままでは知ることがなかっただろうものだった。
「まだ……聖都にも行ってないところがたくさんあるんだよね」
聖都は旅で訪れた中では、最も大きな都市だ。ナイトラクサでさえ、ここまでの規模ではなかった。
この聖都の中で主にいたのはイリスティーラの屋敷の周辺だけ。大聖堂の反対側などは、まだ行ったことがない。
こうして聖都にいれば身近に感じるものの、そんな未知は好奇心を刺激する。
勇者の使命という、生贄にも等しかった旅の中で、好奇心に動かされることは良いこととは言えない。
けれど、こうした知らないものを楽しむ自分は確かにいた。
かつては、村の外に出ることも怖かったほどだが、こんな好奇心が自分にもあったなんて。
そう考えれば、旅が終わったとしても、これから先、やってみたいことなどいくらでも見つかるだろう。
いつかは一つの生き方を決めなければならないのだろうけれど、それも含めて――この先が楽しみだった。
「――ユーリ、いる?」
「うん、いるよ」
久しぶりに本を少し読み進めてみようかと、手を伸ばした時、部屋の扉がノックされる。
まだ入浴を終えるような時間でもない。どうしたのだろうかと思ってみれば、扉が控え目に開けられ、どこか緊張した様子のリッカが入ってきた。
「リッカ、何かあったの?」
「ん……まあ、うん」
しかし、リッカは入り口から踏み込んでくるようなことはなくて、閉めた扉に寄り掛かる。
体調が悪いようにも見えないが――どこか迷いが見られる。
たとえば、何か、言いにくいことを言い淀んでいるような……。
そんなこちらの疑問を見て取ったのか、リッカは複雑そうに目を細めて、溜息をついた。
「……ユーリの前に来た時点で、察されてるか……ユーリ、これからちょっとだけ、付き合ってくれる?」
「いいけど……何をするの?」
「魔法の試験運用と……それがうまくいったら……ユーリに、教えておこうと思って」
――――私が知る中で、私がユーリに伝えていなかった……最後の秘密について。