凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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アズの村

 

 

「リッカの秘密……?」

「ん……正確には、私もそれを知らなかったんだけど……」

 

 これまで、旅の中でいくつも、リッカが隠していた秘密に直面した。

 それらはやむを得ずリッカの深奥に触れる出来事だったが――どうも今回は、それとは違う。

 リッカの方から切り出してきたものの、しかし確証がないように、曖昧な物言いだった。

 

「無意識下で、私は生きるためにこれをしていた。それに、ユーリもカルラも当たり前のように巻き込んで……そうだって気付いたのは、ついさっき。私の力を整理していて、もしかしたらと思った」

 

 要領を得ないが……リッカは知らないうちに、僕やカルラに何らかの干渉をしていたということだろうか。

 多分、リッカ自身も当たり前だと思っていたこと。自分の力について振り返らなければ、気付かなかっただろうこと。

 であれば――僕が考えても仕方ない。

 きっと、リッカが無意識下で行っていたことは、僕では違和感すら持てていないことなのだ。

 

「――言ってくれて大丈夫だよ。リッカがそこまで言うからには、きっと大きな秘密なんだろうけど……ここまで一緒に来たんだ。何を言われても、受け入れられると思う」

「……そう。ユーリなら、多分そういうと思った」

「そもそも、繰り返しや転生のことよりも大きな秘密なんて、残ってないでしょ」

 

 正直、リッカに驚かされるのも慣れたというか。

 リッカが明かそうとしていることは、旅の終わりへと向かう前に片付けておきたい、不和の種となりかねないものだということは、なんとなくわかる。

 であれば、僕がすべきは、何を言い出そうと受け入れる心の準備だ。

 今からリッカは、僕が“当たり前”だと信じていた何かを覆すのだから。

 

「それは、そうだけど……これからを考えると、大事なことだから」

 

 リッカは手元に杖を呼び出し、握り込む。

 ……いつからあんなこと、出来るようになったのだろう。

 もしかするとこれまでもやっていたのかもしれないが、あまりあの杖に注目していなかった。

 

「その魔法は?」

「さっき新しく構築させ……構築した魔法。もっと早くに出来ていれば、この旅もずっと楽になったんだろうけど」

「――フミナに頼んだの?」

「待って、なんでそれを……そっか。あの時世話をしたとか、スレに書いていたような……」

 

 そういえば、彼に力を借りたことは、リッカに伝えてはいなかった気がする。

 結局、かれらとリッカがどういう方法でやり取りしているのかは不明だが、あの後、彼からことの顛末は聞いたようだ。

 彼はクイールの薬の改良だけでなく、今回リッカの魔法の構築についても助力してくれたらしい。

 この分だと、知らないところでもっとたくさん、彼には助けられているのかもしれない。

 

「でも、あの人の構築した魔法なら、信用できるね。僕たちを応援してくれていたから」

「なんで誑し込まれてるの……? 一体何を話したわけ……?」

「色々と……?」

 

 かれらの――要は、転生者の実態とか。

 他の世界の転生者と交流するなんらかの手段を持っていて、それを通して、他の転生者が苦悩するさまを見届ける、いささか以上に変わった者たち。

 だが、そんなかれらを、リッカは頼りにした。

 “今回”が始まってからだから――多分、リッカもその交流を始めてから、一年程度しか経っていないのだろう。

 きっとかれらは、僕が右も左も分からなかった頃のリッカが歩むための支えだった。

 会ったこともない者を、嗜好はどうあれ助けようとする性質。なんだかんだ、かれらはお人好しの集まりなのだと思う。

 

「……まあ、仕方ないか。ユーリがあそこに行ったのは、多分私のせいなんだし。ともかく……」

 

 どうも、フミナとの交流はリッカからするとあまり都合が良くないようで、複雑そうに眉を顰めながらも、杖を軽く動かして魔法を紡ぎ上げる。

 その緻密な術式の構築に迷いはなく、ある程度コツを掴んでいることが伺えた。

 既に試験運用を何度か行い、問題ないことを確認済みであるのだろう。

 

「これは、転移の魔法」

「転移……?」

「座標を術式に組み込むことで、指定した場所にまで飛んでいく。これを使えば、明日にでもネシュアに着く」

「……それは……急な話だね」

 

 明日からネシュアに向けて旅立つことは決定していた。

 しかし、海を渡ることもあって、ゼクセリオンを使うにしても数日掛けることを予定していた。

 それが一日さえ掛からなくなるというのはすごい魔法だが――それはそれで戸惑うものだ。

 

「もちろん、自由にどこにでも行けるわけじゃない。指定した座標の付近に、私自身の魔力で目印を打っておく必要がある」

「それじゃあ、まだネシュアにはそれをしていないから行けないんじゃ……」

「ん。だから昼間のうちに使い魔を飛ばした。速度に秀でたやつ。今は船の船倉で休ませているけど、明日には向こうの大陸につく。そうしたら、そこから光翼を使えば、昼過ぎにはネシュアにつくはず」

「リッカ、“使い魔使い”が荒いってよく言われない?」

「ラフィーナからよく言われる」

 

 多分……リッカの使い魔でも、空を飛べる虫の類だろうか。

 強行軍にもほどがあるというか、この魔法の性質から、よくそんな発想が出てくるなと思う。

 普通はこの魔法を会得した状態で、各地を回ってこそ真価が発揮できるものなのだろう。

 リッカのことだから、既にその目印とやらは聖都には打たれている筈だ。外で何かがあっても、この魔法を使えば聖都まではすぐに戻ってこられるということ。

 しかし、使い魔に先行させることでその“現地に赴く”手順すら省略するとは――いや、まあ、そういった雑用が、本来の使い魔の正しい用法なのかもしれないが。

 

「あまり目印を打った場所が多くなっても煩わしいけど、ひとまず、今の段階で二か所に目印を打ってある。一つはこの聖都。そしてもう一つは――私たちの、始まりの場所」

「……村?」

 

 リッカは頷いて、魔法を発動させると、弾けた術式が僕たちを囲んでいく。

 どうやらリッカはあらかじめ、僕たちの村に向けても使い魔を飛ばしていたようだ。

 つまり今からこの魔法を用いて移動しようとしているのは僕たちの生まれ育った村で、そこになんらかの、リッカの秘密があるということ。

 

「今から見るものは、きっとユーリには信じられないと思う。けど、混乱しないで。ちゃんと、私が知っていることは全部説明するから」

 

 光が強まって、視界に映っていた景色が切り替わる。

 一瞬、思い切りジャンプしたような強い浮遊感に見舞われた後、再び踏みしめたのは、慣れ親しんだ草の柔らかさ。

 着地すると同時に、辺りに小さなウサギの形をした魔力が跳ねるように散っていく。

 リッカが魔法にあんな装飾をする筈がないし、あれはフミナが構築したものだろう。多分、リッカも不要と思いつつも、あの性質を取り外すのが難しいのだと思う。

 そんな小さな魔力塊を追うように、顔を前方に向けていくと――

 

「……?」

 

 そこにあったのは、広い空地だった。

 森の木々の間にある、不自然なほど開けた場所。

 ――思考ははっきりしていた。リッカがここに僕を連れてきた理由を、僕はすぐに理解できた。

 理解、できてしまった。

 

「……そもそものきっかけは分からない。私が、何もない筈のここで生まれたのは何故なのか。誰かがここに捨てたのかもしれない。転生者で、バルハラのかけらである存在の生まれなんてそんなものなのかもしれない。そこはもう、掘り下げるつもりもない」

 

 不思議と、芯まで凍るような寒気を覚えることはなかった。

 リッカが先導するように歩き出して、草木を凪ぐ涼やかな風を受けながらそれについていく。

 様変わりしているけれど、広場の大きさと目立つ木の位置から、ある程度、何があった場所かはあたりがつく。

 あの、背の高い木の傍が村長の家。広場の真ん中には祭りの時しか使わない焚き木の跡があって、細長く開けている向こうがおじさんたちの家。

 それから、その向かい側が――

 

「けれど、間違いないのは、ここに一人でいた時から私は、生きるために自分の力を使っていた。違和感を覚えないように周りを作り替えて、外から行商を誘導して――そして自分を育てるための庇護者たちを用意した」

 

 そんな、僕たちにとっての“当たり前”が、今のこの場所にはない。

 いや――違う。

 

「私の転生特典は、自分の領域を創ること。今ある冥界とは違う、私が生きて、育つために、無意識で創造した領域。それが私たちの、アズの村」

 

 僕たちが生まれ育った村は、そもそもこの世界に存在などしていなかった。

 いつからかここにいたリッカが、自らが生きるために創った小さな世界。

 そこに――たとえば使い魔のように、都合のいい人々(キャラクター)を用意して、外から物資持った行商の人たちを招いた。

 僕という存在が生まれたのは、まったくのイレギュラーだったのだろう。

 魔王が勇者として用意した生命。どういう理屈かは未だに分からないものの、僕は親もなく、この地に“配置”された。

 はじめから、ここにあった村は――リッカと僕しかいなかったのだ。

 

「私のための領域であったあの村は、私が認めた対象しか認識できないし、私が認めないと踏み入れない。もしかすると、風の試練が終わった後――クイールたちも、ここを認識できていなかったのかも」

「……カルラは――」

「カルラは、私が自分から招いたでしょ? そもそもカルラがこの森にいたのは、多分、私の持っている冥界の気質にあてられたから。ここはカルラが生まれた冥界(ネルガル)の管轄だし、家出先が自然とここになったんだと思う」

 

 淡々と、リッカは説明を紡ぐ。

 隠している様子だけれど、そこには小さな恐れがあった。

 僕にその事実を打ち明けてどうなるか、分からなかったのだろう。

 怒って当然のことなのかもしれない。リッカに当たるのは理不尽でも、やり場のない感情をぶつける先は、リッカしかいないのだから。

 旅に出る前の思い出の多くが、実際は存在していない空虚なものに過ぎなかった。それは確かに、僕のこれまでの人生に疑問を持たざるを得ない秘密だ。

 

 けれど――けれど。

 どうしてか僕は、思いのほかその事実で胸の内を熱くせずに、受け止めていた。

 動揺がなかった訳ではない。痛みがなかった訳ではない。リッカに不満がなかった訳ではない。

 濁流のような衝撃ではあったけれど、その荒波は生暖かいばかりで、耐えようと思えば耐えられるもの。

 何故、これほどまでに心が動かないのか。

 

「……リッカとカルラとの思い出は、全部本物なんだよね」

「――ん。間違いない。……それに……みんなと過ごした日々も、偽物だった訳じゃない」

 

 それは――確かに村の存在は虚構だったかもしれないけれど。

 僕と、リッカと、カルラにとって、そこで生きて、育って、学んだ月日は、紛れもなく経験した“本物”だから。

 

「話してくれてありがとう、リッカ」

「……怒らないの?」

「魔王を倒した後に教えられていたら、怒っていたかも」

 

 不安そうなリッカに、少しだけの本心を混ぜて言う。

 もう二度と、おじさんやおばさん、村長、村のみんなと語らうことはない。

 それは心底から残念に思う。使命を果たしたことを、誇らしくみんなに報告したかった。

 

「僕を育ててくれたのは、リッカだったってことだよね」

「…………解釈次第では」

「なら、いいよ。これからも、リッカとカルラがいてくれるなら」

 

 僕にとって何よりも怖いのは、二人といられなくなること。

 ここに村がなくても、三人でいれば、僕たちの“当たり前”は取り戻せる。

 そこまで考えて、受けた衝撃の温度の正体を悟る。

 思っていたよりも僕は――この村における、リッカとカルラとの思い出以外を、重視していなかったのかもしれない。

 それだけ、僕は二人に依存していたのだろう。決して離れることなど出来ないほどに。

 

「……どうしようか。使命が終わった後」

「……私は、何をしてもいい。ユーリが決めたことなら、どこにでもついていく」

「カルラにはリッカが説明してよ」

「…………」

 

 何をするか決まっていないことに変わりはない。この村に戻ってくる、一番大きな選択肢はなくなってしまったけれど。

 あるいは、聖都で暮らすこと――クイールに提案されたそれも、もしかすると。

 そんなことを考えながら、吹き行く風を感じる。

 慣れ親しんだ景色はなくとも、その風は僕のよく知る、故郷のものだった。




【アズの村】
転生特典により、リッカが無意識のうちに創造した自身の領域。
転生者は生まれた瞬間から自意識が存在しているにも関わらず、それ以前の記憶は、かつてのリッカにもない。
誕生に不具合があったかは定かではない。
バルハラのかけらとしての生命であっても、親は存在する。しかし、リッカはそれを認識しておらず、自意識が芽生えた瞬間から、己が生きるために構築した村で生きてきた。
外から行商人を招いたり、使い魔にも満たない魔力の塊(村人)に生きる糧を集めてもらったりと、生きるための多くをリッカは、無意識の中で行ってきた。
そこに勇者の証を持った生命として、いつの間にか生まれ落ちたのがユーリである。

リッカが無意識の中であろうが、心から受け入れていなければこの村はそもそも認識することさえ出来ない。
風の試練が終わった後、ユーリたちはこの村に転移させられたが、クイールやイリスティーラにはこの村が見えていなかった。
なお、たとえ転生特典を自覚していなくとも、現在ほどの信頼度であれば、ハッピーエンド同盟の面々はこの村を認識できる。
それほどまでに、他者を受け入れても良いと判断したきっかけとなったのは、実は一行ではなく行商兄妹のトーカ。
冥界でのやり取りにおいては素っ気なかったものの、トーカの地雷を恐れない性質は、確かにリッカの心の扉を開けていた。
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