凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――というわけで、今日のうちにネシュアまで行けるようになった。
そんな、朝食の場でのリッカの報告に対して、珍しくもみんなの反応は一つだった。
ぽかんとそれを受け止めて、しばらくその意味を頭の中で噛み砕いて、自分の解釈は合っているだろうかとそれぞれが顔を見合わせる。
まあ、こんな反応となるのも当然だ。
リッカがやったこととは、つまりこれだけ突拍子もないサプライズだったということである。
「……ユーリ。翻訳よろしく」
一番最初に困惑から復帰したラフィーナが、手に持っていたパンにジャムを塗る作業を再開しながら尋ねてくる。
どうやら、翻訳が必要な暗号の類だと思われているらしい。
別に冗談でもなんでもないのだが、多分、リッカがこれ以上言ってもラフィーナは戯言としか受け取らないだろう。
そのくらい、リッカが実現した魔法は、複雑な技術なのだ。
「翻訳もなにも、言葉の通りだよ。昨日のうちに完成させて、効果も実証済み……んぐ」
口にパンを突っ込まれ、言葉が途中で遮られる。
昨日の料理とはまた違う、食べ慣れたオレンジジャムの味が口いっぱいに広がった。
「こんなタイミングでそんな魔法作るんじゃないわよ。転移がどれだけ高度な技術だと思ってんの? ご都合主義にも程があるわ」
「っ……なんで僕に当たるのさ……」
パンを咀嚼し呑み込んでから、ラフィーナの理不尽な文句に返し、ミルクに手を伸ばす。
僕だって驚いた。一夜経ってみると、明かされたリッカの秘密よりもそちらの方が、今重要なことだ。
緊張感はもちろんある。
僕たちのここまでの旅の集大成であり、この先の未来を決める最後の戦いだ。
この聖都から少しずつネシュアに向かうことと、ネシュアを目と鼻の先とする場所に一跳びで辿り着くこと、どちらがこの緊張を受け入れるのに適しているかといえば、前者に決まっている。
「まったく……リッカの型破りな行動は相変わらずですわね。せめて昨晩の内に共有してもらえれば、それなりに気も張れたものを」
「まだ効果の実証も準備も終わっていなかったから……」
「リッカちゃんの偶にあるサプライズ精神ってやつですよね」
「私たちの目を覚ますには最適な情報ではあったね。否が応でも気が引き締まるというものだよ」
他のみんなも少しずつそれを呑み込めたようで、それぞれ食事に戻りながら、なんだか適当な反応を返す。
そろそろ、リッカの突飛な“やらかし”にも慣れ始めているらしい。
それはそれで複雑そうに、リッカは少しだけ眉を顰めつつ、小さく千切ったパンを口に入れた。
「じゃあ、つまり……今日の内にはロスラウドってところに突入できるかもってことですよね」
「ん……見つけられればの話だけど。ナディア、心当たりのある場所の案内は……お願いしていい?」
ナディアも戦う力を得た以上、ここで待ったを掛ける者はいない。
当然、とばかりにナディアは頷いた。
「ええ、構いませんわ、リッカ。その中に何かがあればよし。なければ……壮大な宝探しが始まることになりますね」
ネシュアの跡地とされる地帯はとにかく広い。
あの分だと、最盛期は聖都に匹敵――あるいは、それ以上の規模を持っていたのだろう。
もしもナディアの持つ情報のあてが外れれば、探すべき場所はネシュア全体にまで広がる。
どこまでも続く、ほとんど景色の変わらない廃墟から、ロスラウドの手掛かりを探し出す――それは避けたいところだ。あと一歩だというのに、立ち往生などしていられない。
「……? みんな、今日のうちに帰ってこられるの?」
「今日とか、明日とかは分かりませんけど……思ったよりは早く帰れるかもです。ホープ、ちょっとの間お留守番をお願いします」
「うん。頑張ってね、みんな」
「友達を招くのはいいが、鍵を掛けた部屋には入ろうとしないように。保険は掛けてあるが、帰ってきたら屋敷が大惨事になっていた、なんて状況はごめんだからね」
誰も、もしも戻ってくることがなかったら、などという不吉な想像はしない。
僕たちにあるのは希望だ。
魔王を倒し、勇者の使命に決着をつけて、ハッピーエンドに辿り着く。
その理想を絶対的なものだと信じているからこそ、これからの旅路を、ほんの数日の遠出として考えているのだ。
とはいえ、気を引き締めるのは忘れない。今日、すべてに決着がつく可能性だってあるのだから。
「今日の内にネシュアに着くってんなら、この場でおさらいしておくわよ。分かっているわよね。あんたたちの敵は、魔王様だけじゃないわ。ああ、ホープ、追い出したりしないから食べてなさい」
大切な話の雰囲気を察したのか、部屋を出ていこうとしたホープをラフィーナが引き留める。
おさらいとはいっても、そこまで重い雰囲気にはしないという気遣いがあった。
「残る四天王はリーテリヴィア様とオドマオズマ様。この二人とは、まず間違いなく戦うことになるわ。それも、これまでみたくどこかの大一番じゃない。連戦になる可能性も十分にある」
さて――魔王最大の配下たる四天王だが、打倒したのはバラルバラーズとアリスアドラだ。
リーテリヴィアとはホロゥで戦ったものの、勝敗がついた訳ではない。
リーテリヴィアに関しては、イリスティーラの望み通りの結末になれば、或いは戦わずに済むかもしれないが――オドマオズマとの戦いは避けられないだろう。
「……愚兄は必ず、己が最も優位に立てる状況を作っていることでしょう。基本的にはおおらかですが、やられたらやり返すタイプですから」
「冥界であんたと戦ったんだったわね。そんなに手ひどくやったわけ?」
「わたくしにその自覚がある程度には。何より……死霊使いが、自身の作った作品に抗われて、自尊心が傷つけられない筈がありません」
コーヒーの香りを楽しみつつ、涼しい顔で言うナディア。
彼女が外装を手に入れて初めての戦いは、他でもないオドマオズマが相手であったと聞く。
その際は勝利を収めたようだが、次は彼も油断はしないだろう。
オドマオズマとの戦いは、きっと厳しいものになる。
「……魔王と四天王だけで済めばいいが。連中には側近もいる。残っているのは……誰だ?」
「バラルバラーズ……様は側近をつけていなから無視していいとして……」
バラルバラーズ以外の四天王には、それぞれ側近がついている。
リーテリヴィアとオドマオズマには二人、そしてアリスアドラには四人。
戦いが避けられない者も、協力が得られた者もいた。だが、この先に待ち受ける者と協力を望めるとは思えない。
「まず、これまで……リーテリヴィア様の側近として、魔族間の“商売”を担っていたアデラキテラは死亡。アリスアドラ様の側近であったジル様も、風の試練で亡くなったわ」
「それから、ナイトラクサを支配していたネリネも討った。もう考慮に入れる必要はないだろう」
「そしてエヴァネス様は、しばらくメリーリデルの人間たちに掛かり切り――あれは、もうあんたたちと敵対しないっていう宣言と捉えていいと思うわ。あそこで謀るような、小さい方じゃないから」
そう考えると――残りは、水の側近が一人、火の側近が一人、土の側近が二人となる。
四天王が二人に、側近が四人。それらが、魔王のほかに戦うことになるだろう、強大な魔族となるのか。
「リーテの側近の残り一人はオリヴィエだね。私はさして関わったことはないが、いわばリーテの副官で、聖都の要職についていたはずだよ」
「オリヴィエさんですか……親切な方なんですけど」
「情は掛けるなよ、クイール。彼がいるのなら、敵と見た方がいい」
「分かってますよ。油断はしません。それで足をすくわれたら、後悔してもしきれませんから」
オリヴィエ――彼と出会ったのは三回だ。
彼とは、水の試練の最中、『勇蝕写本』の一件で共闘したこともある。
しかしホロゥで出会った彼は、明白に敵だった。どちらが彼の本性なのだろうか。
……そうだ。ホロゥといえば、オリヴィエと共にもう一人、魔族の騎士に出会った。
「ラフィーナ。ホロゥで出会った、エコーって騎士――彼も、四天王の側近なんだよね?」
「そう言っていたわね。オドマオズマ様が
怒りとも恐怖とも、悲しみとも喜びともつかない、ただ“強い”だけの感情を覚えている。
あの騎士にあったのは、それだけだった。
方向性の定まらない感情は、オドマオズマによって、そのような方向性に定められて作られたがゆえなのか。
あの騎士もまた四天王の側近であるのならば、ロスラウドで戦うことになるだろう。
どれほどの戦闘能力を持つのかは不明だが――どうあれ、全力で臨むまでだ。
「それから、魔王に同行していたことから、あの妙なポルターガイストもそうなのでしょう」
「コッペリアか……」
その名前を呼ぶだけで、口の中に苦みが広がった気がして、思わずミルクを流し込む。
先日出会ったのは二度目だが、未だに底が知れないというか、出来る限り相手をしたくない魔族だ。
「本来、ポルターガイストとはそこまで力を持つ魔族ではない筈よ。どれだけ操る人形が高性能でも、所詮“ごっこ”にしかならないってのに」
「“ごっこ”の戦闘能力じゃなかったですね……それに、教会の人形たちも全部、あの子が管理しているんでしたっけ。ああ見えて、ものすごい長生きなんじゃないですか?」
「まあ、アンデッドなので生きてはいないんですけどね」
そもそも、教会はアンデッドが入り込むことも難しいほどの祝福がある。
ナディアのように対策していなければ、コッペリアはその内部にある人形を操ることも出来ないはずだ。
しかし、最初に出会った時も、彼女が祝福に苦しむどころか、抗っている様子さえなかった。
あれで強大な魔族なのは……まあ、認めるしかないのだろう。
「キミらの言っていた愉快な劇団を連れていけば戦わずに懐柔出来るんじゃないかい?」
「どうだろう……個々の意思を尊重する方針らしいし」
「そもそも今どこにいるのかも分かりませんよ。あと、リッカちゃんがとんでもなく嫌そうな顔してます」
別に嫌な思い出がある訳ではないようだが――リッカもリッカで、あのノリは苦手なのだろう。
僕個人としては、彼女たちをそこまで嫌ってはいない。あの劇は楽しかったし、妖精の一人――シェリーにも色々と、助けられた。
僕たちがやるべきことがすべて終わったら、また会いたい面々ではある。
「で、あれも側近の一人なのだとしたら、消去法でオドマオズマの側近ということになる。あと一人……アリスアドラの側近が残っているね」
「うん。確か……イルミナ、だっけ」
そして、最後の一人。その名前を聞いた途端、ラフィーナの顔が曇った。
きっと……可能であれば、敵対したくない存在なのだろう。
ラフィーナにとって、その魔族はすべてのきっかけ。恩人ともいえる存在なのだから。
「ええ――そうよ。『狂壊』のイルミナ様。私に剣を教えてくれた方。私の、サキュバスらしくない性格を、受け入れてくださった方。……私が、アリスアドラ様に匹敵するくらい、尊敬する方よ」
そのラフィーナの一言一言に、強い恩義が感じられた。
目上の相手だからというだけの敬意ではない、心からの感謝があった。
「……ラフィーナ、戦える?」
その親愛を、リッカも感じ取ったのだろう。
少しの不安を込めて尋ねると、呆れたようにラフィーナは溜息をついた。
「――やれるわよ。そういう時は、自分の心の赴くままに戦うの。あの方は、きっとそれを望む――というか、戦うのは私じゃないでしょうが。あんたたちがまともに戦える姿勢を整えておきなさい。きっと、今のあんたたちなら勝てない相手じゃないわ」
ラフィーナに迷いはなかった。
恐らくラフィーナも、イルミナの全力を見たことがある訳ではないのだろう。
だから、これは希望。四天王に追い縋れる力を得ているのだから、イルミナに勝つことも不可能ではないと。
ラフィーナが躊躇わないのならば、僕たちも躊躇いなく戦うまでだ。
「けど――四天王と側近、合わせて六人残っていて、それ以外の魔族と戦う可能性だって十分にある。その上で、魔王を倒して、全員生き残った上であんたたちが使命を終える。常識的に考えて、奇跡に何度助けられても実現できない内容よ。分かってるわね?」
状況を並べれば、あまりにも絶望的な戦力差。
では、それで怖じる者がいるだろうか――否だ。誰一人、ここに諦める者はいない。
「……数えきれないほどの奇跡を拾って、ようやくここまで辿り着けた」
ラフィーナにそう返したのはリッカ。
リッカが“今回”の始まりに立てていた計画は、もう跡形も残っていないだろう。
想定外が想定外を呼んで、誰も想像のつかない流れを辿って僕たちは今、ここにいる。
「なら、もう少しだけ奇跡が続いてもいい。それに、奇跡が起きなくても、諦めなければ……私たちなら、やり遂げられる」
「……そうね。なら、諦めずに、信じましょうか。私たち全員で、ハッピーエンドを迎えるって」
確信を持ったリッカの物言いに、ラフィーナは柔らかい笑みを見せる。
そう――全員が同じ気持ちだ。
諦めなければ、やり遂げられる。ここにいるのは、それを信じて突き進める者たちなのだ。
【四天王】
リーテリヴィア、オドマオズマ、バラルバラーズ、アリスアドラ
【側近】
水:オリヴィエ、アデラキテラ
土:エコー、コッペリア
風:なし(名目上、“日輪”と“雷”のミツカイを側近と定めていた)
火:エヴァネス、イルミナ、ジル、ネリネ