凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
ホロゥとはまた異なる、砂の地帯。
生命力を失い、風化しつつある文明の名残。
かつて、ネシュアという都市のあったそこは、極めて広大だ。
土の試練で赴いたのはそのごく一部。隅々まで歩き回ろうと思えば、一体何日掛かるだろうか。
元はナイトラクサのように、相当背の高いだろう建物が並んでいたと見えるが、それが廃墟となることで、どこに行っても特徴のない景色となる。
――そんな砂の都市の地下に、僕たちはいた。
「ちなみに……候補はあといくつあったの?」
「有力だと考えていた施設はあと六つです。わたくしが可能性が高いと断じた順に案内するつもりだったので、一つ目で地下へと続く通路が見つからなかったのは少し予想外でしたが」
「ナディアの記憶能力が少し怖くなってきた……」
ナディアの案内で訪れた、二つ目の廃墟。
そこは他と変わらない、元がなんの施設であったかさえ分からないほどに風化した建物だった。
探しても何も見つからないと思っていたが――ヨハンナが地下に空洞があることを見抜き、ナディアが許可を出したことで床を粉砕。
その結果、見つけたのがこの、地下へと続く階段だった。
籠った空間で反響する会話と、石造りの階段を踏みしめる音が淡々と響く。
時折曲がり、さらに深くへ下っていくその階段は、砂埃が被っていれど決して粗雑なつくりではなく、歩きやすいように手すりもついて舗装されている。
壁にはところどころに魔石が埋め込まれており、淡く発光しているため、足元にも不安はなかった。
少人数が極秘の研究を行うために作った場所へと続く急造の通路とは、とても思えない。
「ネシュアって、今の時代よりもすごい技術を持っていたんですよね。こんなの、偉い人に隠し通せるものなんですか?」
「お父様などは知っていたかもしれませんわね。とはいえ、ネシュアの民も、自分たちの足元に大穴を開けられて気付かぬほど愚かではありません。あ、いえ、愚かさでいうと……ちょっとまあ……」
言い淀むナディアだが、確かに――この計画が自分たちの住居の地下にまで及んでいれば、誰であれ気付くだろう。
それで大きな騒ぎになればナディアの耳にも届くだろうし、恐らくはさほど深く、広く掘られているものではないと思うが……。
「とはいえ、以前言った通り、素直に地下を掘るだけで連中のいう地下都市が造られよう筈もありません。あくまでもそれは、記録派の極秘。であれば、この先に何かがあるとしても、同士以外の目につかぬよう、隠している筈ですわ」
「もう千年も前の話だろう? 私でさえ生まれる前だ。それだけの間、整備もなしに維持される仕掛けなんてあったのかい?」
「それは流石に、ネシュアでも難しい技術でしょうが……千年維持するのに、そう高度な技術が必要なわけではないのです」
魔法を長期間維持するのであれば、魔力の供給だけでなく、術式やそれを刻んだ物体そのものが、経年によって劣化することへの対策が必要となる。
術式に綻びが生じてしまえば魔法は期待通りの効果を発揮しない。
たとえ魔力の供給がどうにかなったとしても、千年もの間、何もせずに術式を維持するのは到底不可能だ。
「――ここですわね」
階段を下り切った先にあったのは、ほんの小さな部屋だった。
村にあった倉庫のような、人が一人暮らすにも不便な小さな部屋。
階段と同じように、ここも外ほどの劣化は免れたようだが、置いてあるものといえば部屋の隅の、作業に使っていたと思しき小さな机と椅子くらい。
加えて、部屋の正面にある、魔法にそこまで詳しくない僕でさえ分かるほど、緻密な術式が全体に張り巡らされた扉。
「まあ……あれでしょうね」
「あれだろうね――」
思わず、クイールと共に知った風な言葉を零してしまう。
あれで何もなければ嘘だ。記録派とかいう面々が、ここまで来た者たちを騙すジョーク精神の持ち主でない限り、あれが秘密に繋がっていない筈がない。
「……術式が修復された痕跡がある。それも、一回じゃない。不定期だけど、何度も何度も……」
「ええ、その通りですリッカ。放置していれば劣化するのであれば、メンテナンスを欠かさなければ良いだけの話。術式を解析するだけの腕があれば、たとえ記録派に席を持っていない者であっても、後から操作することは可能でしょう」
「でも、一体誰が?」
「いるでしょう? わたくしと同じく、ネシュアの秘密に至ることのできる者が」
――オドマオズマ。彼ならば、ナディア同様に記録派の秘密を知っていてもおかしくない。
それに、かつてネシュアであったこの一帯を根城にしていた以上、ここに訪れるのも容易だろう。
加えて、彼がこの術式の修復をたびたび実施していたというのならば、つまりこの先にはそれに足る何かがあるということだ。
「解析は……流石に、時間が掛かりそう」
「必要ありません。せっかく使える鍵があるのですから。もう捨てた肩書ですが、それはそれ。こういう時くらい使っておかないと」
「鍵……?」
リッカを制して、ナディアが扉の前に立つ。
そうして、手元に魔力を集め、編み上げていくその形を――覚えている。
土の試練で出会ったばかりのナディアから教えてもらった浄化の魔法に含まれていた構造の一端。
つまりそれは、ネシュアの最高位の証――。
「――これなるは、ディアネシュアの証明術式! ナディア・オッドマキナ・ディアネシュアが命じます! 扉を開き、その秘密を明かしなさい!」
その家の格を示す証明術式。ともすれば、それこそがかつてのネシュアにおいては秘中の秘だったのかもしれない。
今を生きるナディアは、それをホープたちに伝えることを選んだが、千年以上前のネシュアでこの扉が作られたのであれば、その権威は未だに効果を発揮する。
つまり――勅命を受ければ、その秘密を明かさざるを得ない。
ナディアの命令を受けて術式が変質する。次の瞬間――この扉の奥で何か変化が起きたことを悟った。
「……封印が解かれるまで、この扉の先は何もない、張りぼても同然のものでした。ですが今、この先にあるのは魔法的に拡張された空間でしょう」
「ユーリくん、何か敵意なり殺意なり、感じるかい?」
「ううん――向こうからは何も。多分誰もいないと思う」
意識を集中させてみるが、こちらに向けられる緊張のようなものはない。
扉がつながった以上、誰かがいるのであれば向こうにも伝わり、僕たちに向けた反応が返ってきてもおかしくない。
少なくとも、この先に飛び込んですぐ、魔族から襲撃を受けるということはなさそうだ。
「よし……私が開こう。みんな、くれぐれも注意するように」
イリスティーラが慎重に扉を開けば――
「……っ」
――広がっていたのは、それまでとは打って変わって、砂埃のまるでない広い空間だった。
警戒しながら、その先へと歩みを進める。
真っ白い石畳と、壁に沿って何本も設置された、高い天井まで届く柱。
壁には僕たちが通ってきた扉と同じような扉がいくつもあった。恐らくは、あれ以外にもここへ通じる入口が、ネシュアの各所に隠されているのだろう。
「……どこでしょう、ここ?」
「座標確認のための計器は持ってきているが……止まっているな。魔法的に拡張された空間、という推測は間違っていなさそうだね」
「私の、転移魔法も外とのパスが切れた。この中から、外に出ることは出来なさそう」
「ここは……かつてのネシュアの建築様式に近しくはあります。記録派によって作られた空間なのでしょうが……ともかく、気にするべきは一つでしょう」
僕たちのほかには誰もいない、静かな空間。
その中央に、ナディアの言う通り、異彩を放つものがあった。
――門の縁だけを切り取ってその場に置いたような、奇妙なアーチ。
殺風景な空間だったが、異様な雰囲気を有するそれらが不気味さを際立たせている。
「……あれ自体に魔力はない。ただのオブジェとしか結論付けられないけど……」
「まあ、まさかそれだけな訳がありませんよね。行ってみましょう、ユーリくん」
クイールと共に近付いてみれば、変化はすぐに訪れた。
アーチの向こう側が歪み、僕たちと同じ――勇気の色を灯した光が現れる。
勇者にのみ反応する仕掛け、という訳ではないのだろう。だが、これを起動するための条件の一つが、僕たちの中にある勇者の証なのだ。
「……」
その光はあたたかく、それでいてどこか冷たい。
光の向こうに踏み込めるという訳でもなさそうだ。恐る恐る、その光に手を伸ばしてみれば――パチリと刺激が返ってきて、光の粒子が空間中に飛び散った。
「ッ、これは……」
「また、地下に……潜っているんでしょうか?」
弾けた光に反応したように空間が揺れると、それまで見ていた部屋の壁が上へ、上へとせり上がっていく。
僕たちが入ってきた扉も、あっという間に天井の向こうへと消えてしまった。
「階段の次は、エレベーター……? 何この、迂遠な仕掛け……」
エレベーター……バルハラの迷宮にあった、小部屋ごと入った者を別の場所へと運ぶ仕掛けだ。
しかし、意識してみなければ、下へと潜っていることすら分からなくなるほど、揺れの向きはバラバラだ。
今、どの辺りにいるのだろう。先の扉の仕掛けも考えると、ネシュアの地下という確信さえなくなってしまう。
せめて、外が見える窓なりがあれば良いのだが……。
「……」
この場で僕たちにできることは、この揺れが収まるまで待つことだけだ。
もしも、これが単なる罠だとしたら、リッカの転移魔法でさえ脱出できない場所に、軽率に足を踏み入れたことになる。
どこかで“当たり”であるという確証を抱きながらも、あまりにも変化がなさ過ぎて、そんな不安がふと生まれた。
かつてのエレベーターとは比較にならない移動は、五分経っても終わらない。
時折、ひときわ強く揺れることはあっても、それが到着とはならずに、振動はひたすら続いた。
「……まさかこのまま一年、なんてことはないだろうね?」
「十分あり得ますわね。ネシュアでもほんの一握りの変人たちの巣窟ですもの――冗談ですわ、だから壊そうとしないように。恐らくは、これで非常に繊細な仕掛けなんですから」
焦れた中でのそんな一幕がありつつも、さすがにここを壊す判断は誰にも出来なかった。
さらに時間が経って、クイールが冗談交じりに、「ゼクセリオンの中で待ちましょうか」と提案した頃、ようやく、空間に変化が現れた。
「また、扉……?」
下の方からせり上がってきた扉。つまるところ、この部屋が下へ下へと潜っていたという認識は正しかったようだ。
扉の下の方までが空間の中に収まると、もう一度大きく揺れた後、振動は止まる。
それ以降、動く様子は見られない。アーチの中の光も収まって、完全に機能が停止したらしい。
「……行ってみよう」
もはや躊躇いはない。僕たちの勇気に反応した機構の先にある扉である以上、勇者の使命に関わるものであることは疑いようもない。
イリスティーラが扉に手をかけ、ゆっくりと押す。
――その向こうから、ひんやりとした空気が流れてきた。
村の冬、いや、それ以上の冷たさ。しかし森の木々の匂いはしない。
「……もしかして、ここが……」
一歩、外へ踏み出す。感じていた肌を刺すような冷たさが、
零れる吐息は白い。ここにいる僕たちの状態だけが、ここでの活動に支障がないものになっているようだ。
「なんか……目が痛くなってきますね。どれもこれも、あまり直視していたくないんですけど……」
そこに広がっていたのは、多分――都市だった。
聖都やナイトラクサを思わせる、背の高い建物がいくつも並ぶ、都市のようなもの。
何故、断定できないのか。
並んでいるそれらが、あまりにも常軌を逸していたからだ。
波紋か、あるいはノイズのようなものが絶えず走り続ける黒い箱。
ノイズの上に、不規則に灯る色鮮やかな光。
目を凝らして見てみれば、それらには窓のような窪みも見えるが――建物だと認識するよりも前に拒絶反応が出るほど、この世界にある物体として異質だった。
それらから視線を外そうとして自然と目に入るのは、真正面にある、高く聳える真っ赤な光の柱。
どこまで続くのかと、その柱を追ってさらに視線を上にやって――
「……計器が復活した……? ――待て、これは……この場所は……っ」
「イリスティーラ、どうしました? ここがどこなのか、分かったのですか?」
「……ああ。地下都市ロスラウド、か。悪い冗談だよ。ここは地下なんかじゃない」
――――上に広がっていたのは、満天の星空。
じっと見ていれば、常に視界のどこかに流星がきらめいている。
雲一つない、これほどはっきりとした星空など、どこに行っても見られる気がしない。
「――――空。雲よりも、ムルゼの山頂よりも、さらに上。ネシュアの遥か上空に浮く、天空都市だ」
しかしここは、紛れもなく世界の一部。
遥か空を見上げた先にある、一つの“世界の果て”だった。