凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
時間はまだ、昼間だった筈だ。
しかし上方に目を向ければ、満天の星空が広がっている。
月も太陽もなく、もしかしたらそれらよりも高い場所にいるのではという思考さえ浮かんでくる。
ムルゼの山のように、岩肌や草木がある訳でもない。
これこそが、この世界の果て。世界観の外にある、
オズマによって宿した星。その視点がなければ、もっと違う感想が生まれたのかもしれない。
「リッカくん、キミの転移は使えそうかい?」
「使い魔は放ってみるけど……下とパスを繋げるのにどれだけかかるか分からない」
リッカが杖を軽く振るって虫の使い魔を呼び出し、辺りに飛ばす。
転移を使えるようにするには、この下方にあるらしいネシュアとこの場所を繋げる必要がある。
使い魔がここからネシュアに辿り着くまで待っているのも策だが……ここが安全である確証もない。
今のところ辺りに気配は感じないものの、ここが辿り着くべき終着点であるのならば、戦闘は避けられないだろう。
「ふむ……調べがつくまでは闇雲に探索は控えたいところだが……そもそも、この建造物らしきものはなんだ? ナディア、キミの頃のネシュアはこんな建築様式だったのかい?」
「まさか。この材質すら、未知のものです。……魔力で発光している訳でもないのですね。ヨハンナ、何かわかりまして?」
『否定。当機にもこの材質の記録はない。だが、構造から推測は立つ』
ナディアのもとから飛び、奇妙な建物に近付いたヨハンナは、その構造を解析すべく、建物の周囲を飛び回る。
……建物だけではない。足元に広がる床も、同じように妙な光の走る謎の材質で作られている。
そして、ナディアの言う通り、この物質からは、魔力は感じられない。
強いて近いものを挙げるのであれば――魔王の楔か。あれをひたすら巨大にして、一つの都市にしてしまったような感じ。
そう考えると、魔王が指し示した場所として、納得がいくものではある。
『想像結晶技術の発展だろう。あれが現実に作り出す物質は、仮想された未知のものだ』
「リッカくんたちの外装に使われているあれか……とはいえだ。それにしては……」
『同意。規模が大きすぎる。加えて、魔力反応がない。想像結晶はあくまでも個人の魔力属性の解釈だ。如何に理論上の応用性が高くとも、このような大規模な建造物にはなり得ない』
想像結晶技術――今、ここに僕がいることができる理由。失われた体を再構築した技術だ。
あれ自体、外装を構築できるという時点で、リッカはかなり自在に扱える能力となっている。
だが、この都市はさらにその発展らしい。
「……リッカ、何かわかる?」
「……私も別に、完全に習得した訳じゃないんだけど……本来の想像結晶の性質を受け継いでいるのなら、これを構築した誰かがいるはず。術者がいない……認識していない状態で、想像結晶を維持するのはかなり困難だと思う」
「これを今も、維持している誰かがいるってことですね。普通に考えると……それが魔王だと思うんですけど」
魔王が未知なる力でこの都市を維持している。その可能性は、十分に考えられる。
だが、そうだとすると――この都市は、一体いつから存在しているのだろうか。
ネシュアが存在していた頃から、この場所があったとして、ここが本当にロスラウドだった場合、記録派に連なる者たちはこの都市を維持していた魔王の存在を認識していたことになるが……。
「っ……使い魔が、何か見つけた。辺りには何もいなさそう。来て」
ネシュアへと繋げるための個体のほかに、周囲の警戒のために放っていたリッカの使い魔による発見。
何を見つけたかは分からないが、不明だらけのこの状況における最初の手掛かりだ。
みんなで頷き合い、警戒しつつも歩みを進める。
コツ、コツ、と硬い足音がいくつも響く。石畳を歩むのともまた違う、どこか金属を打ち付ける音にも近いものだ。
「あそこ。辺りの建物……? ――の、ほとんどには入口らしいものが見られないけど、とりあえずあそこだけは、中に入れた」
リッカが指さした、背の高い建物の陰に隠れていた、小屋程度のサイズの建物。
ちょうどこの床から地続きで、扉が開かれたように四角い穴があって、内部に入れるようになっていた。
「中に入っても大丈夫?」
「状態は、今立っているこの場所と同じ。“入れる”ように作られている以上、入っただけで悪影響は出ないみたい」
……中から悪意などが向けられてくることもない。
リッカの言うように、悪影響が起きないのであれば、ひとまずは問題ないか。
開けっ放しで不用心な様子が否めないが……閉める扉も見当たらない。そもそも、文化が異なるようで戸惑う構造だ。
「……あまり落ち着ける感じではないですね」
入ってみても、とてもではないが室内という感覚はなかった。
上に見えた唯一の自然であった星空さえ見えなくなり、四方八方が奇妙な物質で囲まれた状態。
それらの発光以上の何かがあるのか、黒い物質に覆われているにも関わらず、視界に支障はなかった。
そして――そんな“室内”に置かれていたなにか。
「これは……?」
「分からない。魔石を加工したようにも見えるけど、相変わらず魔力の反応はなし」
置かれていた、というより落ちていた、と表現するべきか。
床にある、片手で持てるほどの大きさの塊。三角形が八つで構成された八面体の、白い結晶。
「……見たことがなさすぎて、触って良いのかすら不明だね。もう少し、理解できるような場所であってほしかったんだが」
「記録派なのか、魔王なのか、どちらが元凶なのかは知りませんが……わたくしも同感です」
イリスティーラとナディアが呆れ顔で言う中で、その結晶をじっと見下ろしていたリッカが、それを杖でつつく。
こうして見ていても変化はなく、埒が明かないと判断したか。
すると、結晶が淡く光を放ち、ふわりと浮き上がった。
「ッ、リッカ!」
「さっきまで使い魔に齧らせていたけど反応はなかった。私たちに害を加える類のものじゃない」
「そういうの、ちゃんと調べてからにしようよ……!」
「相変わらずだな、彼女の行動力は……」
いつでも外装を展開できる準備をして、何が起こるかを待ち構える。
すると、発光していた結晶がノイズに覆われて――人型を作り上げた。
髪の長い、性別の判然としない何者か。体はノイズと影に覆われているように、細部や色合いがはっきりと見えず、少し目を離せば消えてしまいそうなほどに、存在感がない。
「なっ、なななななんですか!? ご、ゴースト……!?」
「落ち着きたまえクイール。キミ、ゴースト見たことないだろう」
なんとなくだが――目がこちらを向いていることは分かる。
それに、感情のようなものも……僅かに向けられているような気がするが、はっきりとしない。
『…………勇者の証を確認しました。初回起動に伴い、仮想人格0008を出力します』
どうしたものかとそれを見ていれば、やがてその“人影”は、無機質な声で言葉を紡いだ。
『初めまして、勇者様とそのパーティの皆様。ご質問内容をインポートしてください』
「え……?」
『初めまして、勇者様とそのパーティの皆様。ご質問内容をインポートしてください』
思わず聞き直すも、一言も変わらない、同じ言葉が返ってきた。
それ以上何かを言う様子はなく、ノイズが不規則に走る以外は一切動きを見せずに、その“人影”は待機している。
……こちらから、何かを聞けということだろうか。そうするまで、向こうが違う反応を返してくれることはなさそうだ。
「……キミは誰?」
『ワタシは秩序維持のための奉仕生命。総称を
「エー……アイ?」
『エーアイは世界の確立後、シナリオの正常な進行の補助やバグの修正を担当するメンテナンス用の生命体です。現在は世界の確立に向けて、行動パターンのシミュレーションも担当しています』
「……何言っているかわかる?」
「全然わかりません……」
同じ言語で話していることくらいは分かるものの、言葉の意味がまるで頭に入ってこない。
尋ねていることと、向こうが話していることが乖離しているというか。
まるで、僕たちが理解するには早すぎる概念をぶつけられているような感覚に陥った。
そんな僕たちの混乱を気にすることもなく、エーアイと名乗った彼、あるいは彼女は、再び口を閉じて黙り込んだ。
「……とりあえず、こちらが何か尋ねれば答えは返してくれるようだね。ここはロスラウドで合っているかい?」
『はい。ここはロスラウドの第二セクターです』
「ふむ……第二セクターとは? ロスラウドにはどのような区分けがされているのですか?」
『第一セクターから第四セクターが存在します。なお、各セクターは現在未完成であり、徒歩での行き来が不可能となっているためご了承ください』
「えっと……好きな食べ物はなんですか?」
『 』
「あれ?」
「何を聞いているんですか、あなたは……」
脈絡のない問いをクイールが投げた途端、エーアイはぱくぱくと口を動かしつつも、ノイズのような音しか出力しなくなってしまった。
恐らく他のみんなが尋ねているのを見て、自分も何か聞いてみたかったのだろうが……それにしても、他に何かあったと思うが……。
「対応していない質問を投げられるとバグる……つまり、他の質問は想定されていたってこと。あとは……」
リッカは推測を口にしつつ、目を細めてエーアイを観察する。
そしてしばらく沈黙した後、一歩歩み寄って、聞き始めた。
「……質問の数に制限は?」
『 』
「回答できる質問の内容を提示して」
『 』
「メタ的な質問は駄目、と……魔王の正体は?」
『閲覧権限がありません。本記録にアクセスするための権限を提示してください』
「……ここが出来たのはいつのこと?」
『閲覧権限がありません。本記録にアクセスするための権限を提示してください』
「ここに来た勇者はユーリたちが初めて?」
『はい。今ここにいる二名が、初めてロスラウドを訪れた勇者です』
「今以上のアクセス権限を手に入れる方法は?」
『 』
「勇者の使命の詳細について教えて」
『閲覧権限がありません。本記録にアクセスするための権限を提示してください』
次から次へと、リッカは質問を投げかける。
ノイズを返してきても止めることなく、次の質問に移っていく。
「……転生領域へのアクセス方法は?」
『閲覧権限がありません。本記録にアクセスするための権限を提示してください』
「……」
やがて、リッカは一つ、たった今思いついたような質問を投げた。
当たり前のように即答が返ってくる。相変わらず、“権限”なるものが必要という形で。
……いや、待て。今の回答は、何かがおかしい。
「……なんで」
「ユーリ、気付いた? 一体、なんの記録なのか知らないけど……転生領域についての記録がある」
「転生領域……キミの転生の根幹となっている場所だったか。……こちらから認識できるものでもないんだろう?」
「普通は、転生者の候補として死んだあとにその存在を知るはず。ここにその記録があるってことは……」
「転生領域の関係者、ないし転生者が、リッカのほかにこの世界にいると……?」
――それまでとは異なる緊張感が、僕たちを包む。
僕がかれらに対して知っていることは少ない。だが、いずれも共通しているのは、僕たちの理解が及ばない異質な存在だということ。
もしも、ここに関わる存在に、かれらと同じものがいるのであれば……挑む“未知”の方向性が変わる。
「……こうして考えていても仕方ない。今得られる答えを得ることを考えた方がいい」
暫く考え込んでいたリッカは、首を横に振って事態を保留した。
ここで悩んでいても答えが出ることはない。であれば、聞ける情報を優先した方が良いのは当然か。
リッカは再度、エーアイに向き直る。
こちらが悩んでいる間にも、じっとそこで待機していたそれに対して、また一つ、核心に踏み込んだ。
「……四つの試練を終えてここに来た勇者は、これからどこに行けばいい?」
僕たちの使命を終わらせるために、何をすれば良いのか。
ここに勇者が来て、問いを受けることが予期されたものであるのならば、その回答が用意されていないはずもない。
エーアイはリッカの問いに対して、少しの待機時間もなく、口を開いた。
『本セクターの北端にある祭壇に向かってください。『世界門』が皆様を魔王様の居城『終天城ワールドコア』へとお連れいたします』