凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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幕間:月の楽園の憂鬱

 

 

「ん、んん……っ」

 

 どうやらまた、暫くの間意識を失っていたらしい。

 背筋を伸ばせば、体中がパキパキと乾いた音を立てる。

 我ながら、呆れ返るほどの不健康。健康なんて概念、この世界にはもう既に存在しないも同然だが……健全な食生活、健全な運動、健全な睡眠時間、健全な使命、健全な好奇心……そんな当たり前で構築される当たり前の健康を謳歌していた“一つ前”までとは比較にならない自堕落ぶりを、時々顧みては自己嫌悪に陥る。

 

 いや、本当……“次”に差し障るったらない。元に戻れるだろうか、これ。

 病さえ遠のいてしまったこの世界では、早死にすることも一苦労だ。

 

 転生を数回繰り返し、世界を救うことにも慣れてきた中堅転生者が何よりも苦心することが、その世界でやることを終えて隠居した後の余生の過ごし方である。

 穏やかに過ごすにしても、“次”がどうしてもちらつく、言うなれば次の案件を任されるまでのインターバル。

 最初の頃は、次はどんな世界だろうと楽しみにしていた連中も、二回、三回と繰り返せばその途方もなく長い仕事に辟易する。

 そうしている中で倫理観を失い、愉悦を求めるようになり、ありがちな逆張り思考によってより外れた方向へと加速していくのが、一般的な転生者。

 まあ、そうなってしまったらその内、生きているという実感さえなくなるわけで。

 だからこそメリハリが必要なのだ。さすがに、人間性を失いたくなんてない。

 

 だというのに、この世界の惨状はなんたることか。自分がこういう決断をしたとはいえ、そうしなければ詰んでいたというのが性質が悪い。

 おかげで不健康まっしぐら。寝るも起きるも境目が判然とせず、最後に食事をしたのは遥か昔。

 これでは生前――我々転生者にとっては、転生領域に拉致される前の最初の人生を生前と呼ぶ――の方が、まだまともに生きているというものではないか。

 いやまあ……何一つ成し遂げられず、家族や使用人に迷惑を掛け続けていた生前を、まともと言い張るつもりはないのだけれど。

 

 こんな、コミュニティすら極限まで縮小された世界で、満足に生きるのは不可能だ。

 あと五十年か六十年か。寿命を迎えるまで、自堕落に、発展もなく過ごすなど許容できない。

 とはいえ、何をする必要もなくなってしまった以上、“外”に目を向けるしかなく、最近ではすっかりそちらの方が、好奇心を向ける先になってしまっている。

 これまでさほど積極的に見ないようにしてきた。何故って、偏見とかがあったから。

 一度、世間知らずだった頃に手酷く騙されて以来、基本的には眺めるだけ(ROM専)に徹してきた。

 今ではもう廃れて久しい文化だが、『一生ROMれ』の格言が示す通り、倫理観の破綻した転生者どもと対等に渡り合うのは難しいというか、むしろ疲れる。

 そんなわけで、割とこの掲示板に馴染み始めたのは最近の話であるのだが――だからだろうか。

 ここまで、別世界の出来事に注目してしまうというのは。

 

「…………」

 

 目の前に並ぶ、無数のディスプレイ。その一つ一つに、同輩たちが好き勝手に騒ぐスレ(スレッド)が映されている。

 別に、こうして可視化する必要なんてない。思考を並列化させてその中のいくつかでアクセスすれば、近しいことは可能だ。

 とはいえ、環境があるのであれば、「なんとなくこちらの方が掲示板っぽい」という理由でディスプレイを用意している者も多いだろう。我々が持つ、数少ない郷愁というものだ。情緒もあったものではないな。

 

 今日も今日とて――世界によって時間の流れが異なる以上、すべてが一概に“今日”とは言えないが――転生者たちが他者に娯楽を提供するため、あるいは自身が楽しむために馬鹿をやる。

 大体破滅へまっしぐらだが、その超高難易度にあえて挑む安価スレ。どちらかというと現地民の困惑こそが主体になっているRTA。

 そういう気狂いどもが人気を博する中で、およそ一年前、自分の興味を惹いたスレッドがあった。

 掲示板を眺めればごまんとある実況スレの類。

 たいてい、その手のスレは転生者どもの興味を惹けずに乗っ取られて雑談スレと化すものだ。

 しかし、基本的に雑談の場となりつつも、実況の体は崩していないそのスレが、興味の行き先。

 

 ……いいや、少し訂正。

 興味と一言で表すのは不相応なほどにのめり込み、そして動向を不安視している。ともすれば、既にやることを終えたこの世界の行く末よりも。

 そう考えている者は、スレに常駐している者の中には割といるのではないだろうか。

 その中には、ほんの数時間前までエンターテインメントだと思っていた面々もいるはずだが、ここに来て、誰の目から見ても明らかなほどのきな臭さが出てきた。

 既に通報を考えている者もいるだろうが……恐らく管理人のヤツもここは覗いているだろうし、事態は把握しているはずだ。

 とりあえず、様子を見る判断なのだろう。あいつも入れ込んでいるスレだ。二度も強制的な介入をするとは思えない。

 介入という点なら……心配なのはもう一人いるが――

 

「呼んだ?」

「呼んでねえ。どこから湧いてきたお前」

 

 真横から聞こえてきた声に、目を向けずに返す。

 こちらが認識することでクロスオーバー疑惑が立っても困る。今の状態なら、少なくともこちらに責任はないはず。

 ……さすがに、直接やってきたわけではなく、そこらへんに転がしていた自動人形をハックしたのか。

 相変わらず、こいつの催眠能力は恐ろしい。一体どこまで規格外なのだか。

 

「いや~、それにしてもえらい急展開だね。何が待っているかって色々予想は立てたけどさ、これは予想外だわ。一体、イッチには何度驚かされたかわからんね」

「今回に限ってはイッチの行動ってわけじゃなくて、イッチが転生した世界側の問題だけどな」

 

 出ていけといっても出ていかないのだろうと諦め、雑談に付き合うことを決める。

 誰かと会話することも稀なのだ。こんなのでも話し相手にはなる。

 それに、こいつとしても少し整理をしたかったのだろう。これで頭は回るヤツだ。そこそこ、動揺しているのだと思う。

 

「んで? どう見る? これってあの世界に、イッチ以外の転生者がいるってこと?」

「……考えにくい。っつーか、それに関してはどうせ管理人が調べている。もしそんな行き違いがあったら大失態だ。今度こそ管理人の首が飛ぶぞ」

「草。ついでにクソワールドオブザイヤー(KWOTY)大賞も揺るぎなくなるな」

「違いない」

 

 ……事の発端は数時間前、イッチが起きている出来事を書き込んだレス。

 最近、いっそう油断できなくなったのか、配信の頻度は落ちているものの、可能な限りリアルタイムでレスがされるようにはなっている。

 とうとう訪れた、ラスダン一歩手前の街……らしきもの。そこでイッチは出会った何者かにより、いくつかの情報を引き出した。

 イッチとしては思いつきだったのかもしれない。しかし、決定的であった問い。

 

 

183:TS幼馴染系魔法使い

Q.転生領域へのアクセス方法教えて

A.権限ないぞ

 

 

 ――そりゃそうやろ、とか、イッチお前知ってるやんけ、とか。

 そんな風に反応しているスレ民が大半であったが、気付いている者は多いだろう。

 きな臭さを感じていても、普段のノリを欠かさないのが連中なりの気遣い。結局のところ、連中もなんだかんだ、人生経験が長いゆえに面倒見は良いのだ。

 さて……一体、何をそこまで動揺しているのか。

 言うまでもなく、イッチの世界の、イッチの周囲にいる者以外の存在が、転生領域を認識している点だ。

 

 転生領域とはあらゆる世界の隣にあって、あらゆる世界と隔絶された領域。

 その魂の素質を認められて、死後訪れるほかに認識する方法はなく、どんな手段を用いても観測することは不可能だ。

 イッチの仲間たちも、その情報は伝えられているのだろうが、それはあくまでも概要程度の情報に過ぎない。

 あの領域の存在証明に、死んで訪れる以外の方法はないのだ。

 ――――だがここに例外が存在する。勇者くんの存在である。

 

「地の文に割り込んでくるのやめてくれない?」

「いや、なんか難しく考え込んでそうだったし。正直さ、転生領域(あそこ)にアクセスした勇者くんが生きて戻った時点で、秘匿性なんてなくなってるワケじゃん? まあそれも管理人(あのアホ)の失態なんだけど」

「……まあ、な。魔王の目的に、勇者の経験の収穫がある以上、ユーリからの収穫が既に行われていれば、あそこに関する情報を魔王が手に入れてもおかしくねえ」

「やっぱ勇者くんの名前呼んでるのマウント取られてるみたいでムカつくわ」

「急に敵意向けてくるじゃん」

 

 知らんわ、そんなん。こいつが勝手に“勇者くん”呼ばわりしているだけだろうに。

 名前を呼んだところで、あいつが感知することでもなし。呼びたければ勝手に呼べばいい。一方的に名前を知っているストーカーの完成だ。

 その点、俺はしっかり自己紹介を交わしたのだ。名前を呼んで何が悪い。

 名前を呼ばれてもいるぞ。今生の名前ドンピシャって訳でもなく、久しく呼ばれていなかった名前だが。

 

「恋する乙女かよお前、ウキウキやんけ。キモいし殺そうかな」

「情緒が不安定すぎるだろ」

「今のお前にだけは言われたくねえよ」

 

 敵意が殺意に変わる。冗談だと分かるが、こいつこの調子で当たり前のように人を殺してもおかしくない凄味がある。

 

「そもそも今更そんなんなるか。人生何周目だと思ってやがる」

「いーや、なるね。お前悪ぶってるけど生前の反動でピュアを引き摺ってるタイプだろ」

 

 ――閑話休題(そんなこんな)

 

「っつーかさ。イッチの世界の根本設定にそんなんあるなら、ワイらの世界にもなんか厄ネタ眠ってんじゃねーの?」

「念のため後で調べてみるが……多分こっちにはねえな」

 

 自分の世界の心配……ではないのだろう。

 あわよくば、イッチに有効なアドバイスが出来れば、と思っている声色だ。

 とはいえ望み薄。というのも、こちらはこちらで調査済み。ただでさえ狭くなった世界だ。調べ尽くすのは容易い。

 

「ま、ワイの世界にそんなんあったら、ああなる前に介入してるか。イッチの世界特有なのかねぇ」

「……というか、お前気付いてたのか?」

「んあ? あー、ワイらの世界とイッチの世界がどっかから分岐したほとんど同一の世界って話?」

 

 嘘のような話だが、無限の並行世界を管理する転生領域の性質からすれば、あり得なくはないことだ。

 ユーリの特異性もあるとはいえ、あいつがこちらとの遭遇を縁にすることが出来たのは、そういう理由もあるのだろう。

 とはいえ、お互いイッチに対して、有効なアドバイスが出来る訳でもない。

 近似世界とはいえ、分岐は遥か昔。魔王やら勇者やら、そんなものは存在しないのだから。

 

「んんー……何か一つ間違えば、魔王になっていたかもしれない輩はこっちにもいたけどなぁ」

「誰だ?」

「ワイ」

「納得だわ」

 

 これ、冗談でもなんでもないんだろうな。

 察するにこいつは憑依転生。でもって、憑依先はイッチの世界における有力な魔族なわけだし。

 それがどうしてこうなったかは知らん。ふざけた転生者が憑依した時点で、元の人物のバックボーンなんて白紙になったも同然なのだ。

 

「……ともかく、見守るしかねえか。どの道、俺らには積極的な手助けも出来ねえ」

「せやな。それにラスダンまで来て今更介入するとかそれこそ解釈違い。クロスオーバーはまたの機会ってことで」

「そういうところは分別あるのな」

 

 ネシュア、記録派、ロスラウド。

 ……知らない筈もない。遥か三千年以上前、この世界の方向性を決定した出来事に関連する名称だ。

 イッチの世界とは、かれらが成し遂げたことはまったく異なるのだろう。その裔である俺からすれば気になりはする。

 だが、そんな知識欲以上に――今の俺は、イッチが、そしてユーリが心配だった。

 一体あいつらは何に巻き込まれているのか。転生領域の何が、あの世界に関わっているのか。

 

 言葉を借りる訳ではないが、理不尽だ。

 ――推しのハッピーエンドとは、かくも遠いものなのか。




【辞書&ネキ】
「しかし……アズの村、ねえ」
「あーね。ワイもなんかすっげえ嫌な予感するんだけど」
「転生者の嫌な予感ってのは当たるもんだよな」
「……はぁ」
「……はぁ」
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