凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
右手に魔剣、左手にリッカの杖を握り込む。
変則的な形ではあるが、多数との相手であるのならば、こちらも手数を重視するのが有効だ。
そして、僕たちのみで用意できる手数はこれで終わりではない。
二本、三本と複製される魔剣を握る
手数を増やし、僕たちの可能性を大幅に広げるこの力であれば、騎士たちに数で追いつくことさえ不可能ではない。
「それそれそれっ! まだまだっ、行きますよ!」
「あまり突出するな、クイールっ! いや、キミはさして考えずそれでいいのかもしれないが!」
「なんか嬉しくない信頼ありがとうございます!」
空と速度、それはクイールが持つ明確な強みだ。
翼を広げ誰よりも速く飛ぶ。その速度は、敵が単独でなくとも大きなアドバンテージとなる。
集中しなければ姿を視認することさえ難しいその速度で駆けるクイールに対して軽口を投げながらも、イリスティーラは手堅く騎士たちを撃破していく。
魔道具から放つ多種多様な魔弾や、自身の性質を変化させる力は、前線で強敵と戦うには相当の苦労を伴うだろう。
イリスティーラの外装の真価は支援にある。状況に応じた手札を引き出せるのは非常に頼りになる。
「ユーリ、リッカ! 一気に打ち上げます! 一網打尽になさいっ!」
「了解っ、タイミングを合わせて、ナディア! せえ――のっ!」
僕たちが大きく跳び上がると同時、ナディアが右手に握り込んだ大型のハンマーを振り下ろす。
すると周囲に魔力を伴った衝撃が広がり、世界が引っ繰り返ったかのように、辺りにいた騎士たちが跳ね上がった。
騎士たちは飛行能力を持たず、不意に打ち上げられれば防御も覚束なくなる。
四方八方に浮く騎士たちを一斉に打ち倒すのは難しいが――決して不可能ではない。
杖を消失させて手放し、空いた左手に魔剣の複製を持つ。それぞれの剣に纏わせるのは、土の魔力。
『オズマ・エクスラッシュ!』
剣を振るうことで刀身が触手の如く撓り、伸びていく。
空中に魔力で足場を作り、その上で両手の剣を振り回せば、周囲を舞う長大な刀身は、たちまち騎士たちを切り裂いていく。
「流石にやる……だが!」
「っ!」
その刃の嵐を躱しながら、魔力を噴き出して推進力とし、こちらに向けて接近してきた騎士。
寸前で振るった斬撃を盾で弾き、突き出された剣を、咄嗟に僕も魔剣で受け止める。
「お前たちを先に進ませる訳にはいかない。お前たちには、ここで立ち止まってもらう」
「いいや、立ち止まらないっ、僕たちは、誰にも負けない!」
巨大な感情がぶつけられる。しかし、それは確たる決意の表れではなかった。
方向性の定まっていない感情を向けられても怖くはない。
己の内側が混沌としすぎているのか、或いは、自身の感情が分からないほどに“壊れて”いるのか。
どちらにせよ、僕たちは乗り越えていくだけだ。僕たちが手にしてきた力と、紡いできた絆で。
「何……!?」
拡散しようとした魔力ともども、リッカの力によって形成された“箱”に閉じ込める。
外界とのつながりが遮断された内部から魔力は零れず、新たな騎士が増えることはない。
そして箱に向けて銃口を向けた魔剣を複製――同時に引き金を引けば、放たれた魔砲が箱を呑み込み、消し飛ばした。
「これでっ、終わりです――!」
直後、クイールも振るった聖剣が放つ光によって、地上に残っていた騎士たちを一掃する。
周囲に敵の気配はない――ひとまず、終わったようだ。
「呆気ない……とは言わないでおこうか。キミらがそれほど強くなったということだしね」
「油断はしないように。分身だか分裂だか知りませんが、ああいった能力を持つ魔族です。残った個体がどこかに隠れ潜んでいても不思議ではありません」
これで片付いていれば良いのだが……どうにも、手応えがなかった。
騎士たちを斬る時も、まるで中身が空っぽの器を叩き割っているような感覚。
そして、どうやらそれは間違いではなかったようで、リッカが小さく舌打ちした。
「……
僕たちが倒していれば、魔族はリッカの領域に転送される。
しかし、あの騎士たちはいくら倒しても、そうなる気配がない、と――。
本体がいなかったことが、手応えのなさの正体か。オドマオズマの側近たる魔族である以上、あの騎士も、一筋縄ではいかないようだ。
「ここで長々と足止めを食らわずに済んだが……この先でまた絡まれるってことじゃないか」
「あの分身だか分裂だかのからくりを明かす必要がありますね。魔王と四天王だけで十分だというのに、まったく……リッカ、何か察しはつきますか?」
「……ううん、なにも。いなくなったのなら仕方ない……また出会ったら、改めて対処すればいい」
「……それもそうか。この先は何が待っていてもおかしくない、魔力の消費は不安だが、出来る限り外装は維持しておいた方がいいだろう」
「ヨハンナ、今回は魔力の補充は万全ですね」
『肯定。全力戦闘でも五時間は維持可能につき』
確かに――ここはもう、魔王の領域。どこで魔族の不意打ちを受けてもおかしくないだろう。
外装は僕たちの生命線だ。万全に戦える状態は整えておいたほうがいい。
「みんな、慎重に行こう。クイールも、まだ体力は大丈夫?」
「はい。この外装を解かない限り疲れは広がってきませんし――今回ばかりは、何があっても気合で耐えるつもりです。疲れたくらいで膝を折ってられません!」
「……よし、ほどほどに休憩しながらにしよう」
体力の残量も気にせずに頑張ったとして、重要な局面で倒れられたら目も当てられない。
出来る場所があればの話だが……この気合のクイールはあまり自己申告してくれなさそうだ。
少しだけ空気が緩くなり、いつも通りの雰囲気に近くなる。
そのやり取りに心地良さを感じながら、先へと進む。
――半透明な赤い障壁。
内と、その外側を隔てたその性質は、リッカの深奥で見たものと近かった。
触れれば芯まで焼き消える、無理やり押し通ろうとすれば、塵さえ残らないファイアウォールだ。
「これ……通れないですよね」
「間違っても挑戦しないように。これはわたくしの時代にもあった最上位の防御壁です。核となる魔道具を破壊すれば解除されますが、触れれば指がなくなりますよ」
「壊すなら遠距離攻撃だが……魔王のお膝元たる領域を守る壁だ。ともすれば真面目に進むより何倍も難しいだろうね」
これを壊すことが叶えば、それはそれで相手の虚を突くことが出来るだろう。
だが、触れれば無視できない傷を生むそれに、不用意に攻撃を仕掛けるべきではない。
これ見よがしに開いた道を進むべきなのだろう。魔族が待ち構えているのであれば、その時はその時だ。
「ひとまず、行ってみましょう。罠ならば真正面から立ち向かえば良いだけの話です」
『あんたもだいぶ染まってきたわね』
強行突破の選択肢は出ず、その道を進む。
――やはり、魔族の気配はない。
そもそも、僕たちを不意打ちする目的なのではなく、ここが正しい通り道なのだとすれば、或いは、試練をすべて終えるまで、この道はそもそも封じられているとか。
そんなことを考えつつも、狭い道を進んでしばらく。
分厚い障壁――その中心部に辿り着いた。
「これは……魔法陣?」
四つの燭台に囲まれた、金色の文様。
巨大な円の内側に複雑に刻まれたそれに、魔法的な意味合いがあるのは分かるが、大きすぎて到底読み取ることが出来ない。
「リッカ、分かる?」
「……転移の術式があるのは分かる。座標まで読み取るのは無理。それに、この魔法陣、起動してない」
魔法陣……仕組みとしては、魔道具と変わりない。
術式を何かしらの道具に刻むのではなく、その場所に刻んだもの。
単純に面積の大きい、複雑な魔法陣。それだけで、リッカほどの魔法使いであっても解析の難易度は跳ね上がる。
「……けど、この燭台……ユーリ、クイール。そこ、立ってみて」
「ここですか?」
リッカに言われるまま、魔法陣の前に立つ――外装を纏っているため、リッカを連れての状態だが。
すると、僕の内の何かに触れるような感覚の後……燭台に灯がともった。
青い灯。黄の灯。赤い灯。緑の灯。試練に通ずる属性が象徴する四つの色――それらの光に囲まれた魔法陣の金色が輝く。
燭台から供給された四つの魔力が流れていき、程なくして魔法陣が起動した。
そして、魔法陣の中心に、半透明な門が現れる。
扉は開け放たれ、その向こうからは、馴染みのあるあたたかい魔力が零れてきていた。
「これがもしかして……『世界門』?」
「僕たちが試練を終わらせて、辿り着くべき場所……魔王のいる場所への入口の一つですね」
僕たちの内にある勇者の証が、何よりも雄弁に、この先に進むべきだと告げている。
ここを起動することが、四つの試練を終わらせる理由。
勇者の使命の行き着く先が、この場所なのだ。
「……ようやく、ここまで」
ぽつりと、リッカが零す。
ハッピーエンドに辿り着くための、途方もない繰り返し。
その中で示されていた目的地こそが『世界門』だった。
ようやくリッカはここに至った。僕は――リッカと共に、ここに来ることができたのだ。
「……リッカちゃん」
「――感慨に耽るのはまだ早いですわよ、リッカ」
「……わかってる。この先が、魔王の城……」
全員で顔を見合わせ、頷き合う。
もはや躊躇いはない。どこへ繋がっているにしろ、その場所が僕たちの使命の終着点。
誰からともなく、門に向けて歩き出す。
その門は、僕たちが横に並んで通っても余りある。もしかすると、勇者がパーティを組んでここを訪れることが想定されているのかもしれない。
本来、人間が魔族に立ち向かうことは不可能だ。ここに至るためには、誰かの力を借りるほかないのだから。
「――――――――」
光の向こうへ、一歩踏み出す。
あたたかい輝きに包まれて、外装によって強化された視力をもってしても、一瞬、何も見えなくなり――
――次の瞬間、目の前には岩肌が広がっていた。
あちこちに金色の鉱石がこびり付く岩肌。
辺りを見渡しても、他に何もなく、自然と視界は上へと向いていく。
「……」
「……」
「……」
「……」
『……えぇ?』
僕たちを代表して、ラフィーナが呆けた声を零す。
数十メートル、あるいは百メートルほどもある、黒と金の崖。
その中腹ほどには、横に長い亀裂が広がる。
それはまるで――口のような。
「こ、これ……もしかして、魔族……?」
「……イリス、何か知りませんか? な、何百メートルもある魔族の情報」
「知る訳ないだろう、そんなの……ナディア、ネシュアでその手の巨大魔族を飼っていたという話は?」
「聞いたこともありませんわ。というか、いくらネシュアでもそこまで土地に余裕がないです」
――信じがたいが、それは魔族だった。
岩肌のような鱗を持った、極めて巨大な……ドラゴン、なのだろうか。
正面に長く伸びた白い角や、裂け目から覗く牙など、特徴はそれに近いものだが……ここまでくると、ドラゴンという括りですらないような気もする。
しかし、その魔族は既に息をしておらず、開かれた巨大な鉱石の如き瞳にも、光は灯っていない。
「……しかし、ここまで大きな魔族は他にいないでしょうね。まるで“アトラス”です」
「創世物語かい? まあ、それならここまで大きくても不思議ではないが」
ナディアが出した名前は、憶えのない名前だった。
「アトラスって?」
「かつて、世界の黎明に、大いなる混沌と共に世界を創造した存在の一つ……厳密にいえば魔族でさえない超常――地を均し、空を支える、世界樹と同一視されることもある存在です」
「……もし、そのアトラスだったとして……どうしてこんなところに……」
「分かりませんけど……魔王はよほど自己顕示欲が強いんですね」
クイールの視線を追うように、空を見上げる。
満天にまたたく無数の星は、確かにこの存在の背中に向けて集束していた。
そして、渦のように集束する星々を囲むように浮く、いくつもの黄金の円環。先の魔法陣とも異なる文様が空に描かれる、どこか神秘的な光景の下――星々が集束する先。
息絶えた巨獣の背中にそびえる、その存在に勝るとも劣らない規模の、白亜の城。
所業とは裏腹に、少しの邪悪さも感じられない、荘厳な輝きが、そこにあった。