凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
岸壁の如き巨大な亡骸の頭部を上り、その城門の前にまで辿り着いてみれば、さらなる威圧感を覚えた。
聖都の大聖堂でさえ、これほどの巨大ではなかった。
まさしく城。初めて見る、おとぎ話のような光景にしばし目を奪われる。
――これが、終天城ワールドコア。
無限にさえ感じられる星空を背負う、魔王の居城か。
「まったく……これまでも不思議な光景など多く見てきましたが、これは最たるものですね」
星空がすぐ間近にまで迫っているかのような錯覚さえ感じられる光景は、これまでの旅で見てきたどんな光景とも異なる神秘的な雰囲気に満ちていた。
先ほどまでのロスラウドの景色とは、また方向性の異なる“理解不能”がそこにある。
「座標は相変わらず、ネシュア上空を指している。辺りに障壁は見えないが、あの内部であることは間違いないようだね」
「……というか、障壁は消えている。多分、あの『世界門』を通ったことが、トリガーなんだと思う」
ロスラウドの中心部……この城は、あのファイアウォールで隠されていたのか。
周囲にロスラウドの建物は見られない。恐らくあそこよりももう少しだけ高い位置にあるのだろう。
誰もいない街を見下ろす、天を背負う城。如何にも、魔王が座すに相応しい場所だ。
「それで、どうします? 門を開けてもらうか、それとも城壁を乗り越えるか」
「後者も難しくはないが……ふむ、それが果たして許されるかどうか」
近付いてみても、門が開かれる様子はない。僕たちが準備を終えるのを待っているのか、そもそも、向こうから開くつもりがないのか。
今の僕たちであれば、城壁を超えて内部に踏み込むこともできる。むしろ、門のことを考えるよりも、そちらの方が手っ取り早い。
しかし、そのあまりに簡単な選択肢に疑いを持つなという方が無理な話だ。
イリスティーラが足元に落ちていた小さな石ころを拾い上げ、城壁の向こうに放り投げると――城が背負っていた星の一つが強く輝き、光の柱となって落ちてくる。
光の柱は正確に石ころを捉え、一瞬で消し去ってしまった。
「……わぁ」
「止めはしないが、挑戦してみるかい? どうやら魔王は、キミたちに正面から入ることを望んでいるらしいが」
ぶんぶんと、クイールは首を振って拒否した。
彼女の外装の規格外の速度であれば、あれを躱して中に入ることも不可能ではないかもしれないが、危ない橋は渡らないに越したことはない。
「とはいえ、門が開く様子はなし。破壊する手段は……いえ、ありますね、たくさん」
ともなれば、僕たちの道は必然的に一つとなる。
開く様子のない門。これを突破するしかないのであれば、その手段は僕たちの誰もが持っている。
ある意味では何よりもスマートに僕たちの意思をぶつける手段――強行突破という方法が。
『ユーリ、リッカ。遠慮なくやりなさい。準備運動みたいなものよ』
「――そういうことなら」
魔剣を突き立てて、代わりに大斧を出現させて握り込む。
これから先に、どれだけの戦いが待っているか分からない。可能な限り、力は温存しておきたい。
外装そのものに流す魔力を使わないならば、この大斧が最適だ。
事前に魔力を貯め込んだことで、既に大斧は全力を引き出せるようになっている。
『ファイナライズ! エクストラ!』
カートリッジに貯め込まれた魔力を、広い刃に流し込んでいく。
圧縮された純粋な力は、ただの一撃に込めるには余りある。扱い方を誤れば、僕たちも巻き込まれるほどの威力だ。
それを振り上げて、躊躇いなくぶつける。これが、僕たちのハッピーエンドに向けた意思だと。
『バルハライズ・スーパーノヴァ!』
弓の形態による銀矢よりも、さらに一点に全力を尽くした一撃を叩き込む。
返ってきた衝撃、門そのものから発された守りを、外装の膂力でもって力尽くで押し退ける。
大斧を振り切れば、巨大な門は周囲の城壁もろとも爆散し、無数の瓦礫となって好き放題に飛び散っていった。
「お見事。このパーティに破城槌はいりませんね。これから先で戦争が起きても、わたくしたちだけで鎮圧できるでしょう」
「さすがに使命が終わった後でそんな未来、来てほしくないよ……」
相変わらず、どこか本気で言っているようにさえ聞こえるナディアの冗談に返しつつ、破壊した門の先を見る。
城壁の向こうの庭。城の入口に、敵が集まっているということはなかった。
「ふむ……てっきり踏み込んだ途端に襲撃されると思っていたのだが」
上空を警戒しながら入ってみても、魔族が襲ってくることも、光の柱が降ってくることもない。
「こちらにとってはありがたい限りですが、拍子抜けな気持ちはありますね――いえ、想定外がないに越したことはないのですが」
瓦礫だらけになった、静かな庭を歩き、城に向けて歩く。
内部に入るための扉は、城門とは異なり開け放たれていた。
「うわぁ……お城って感じです」
「月並みな感想にもほどがあるぞ、クイール……」
「ナディア、キミの時代って、こういう建築はあったの?」
「末期のネシュアで流行していた様式ではありませんね。ただ、そこまで珍しくはなかったかと思います」
静けさに耐えかねて雑談をしながら、なんの生地かも分からない、赤いカーペットの敷かれた城のロビーに踏み込む。
あちこちに金色の炎の灯る燭台が飾られながらも、それを光源とはしない明かりで空間は照らされている。
やはり、雰囲気で錯覚しているのではなく――城の建材そのものが淡く発光しているようだ。
眩しさは感じない、しかし優しさやあたたかさもまた感じられない、冷たい光。
朝も夜もなくそんな明かりで照らされている空間は、立っているだけで方向感覚を見失ってしまいそうになる。
「さて……ここでも案内なしとなると、私たちも不作法に攻めざるを得なくなるのだが」
左右の通路や、二階へ上がる階段など、このロビーにもいくつか通路は見られるが、どこへ行けば良いのかは指し示られていない。
イリスティーラの言う通り、やろうと思うが、先ほどの城門のように“道を無理やり作る”という選択肢も存在する。
さすがに、迷った末の最終手段としたいところだが……。
「――思っていても、口には出さないでほしいものだね。この城は城門よりも遥かに強固だ。今更、キミたちの迷走など見ていたくもないからね」
その時――またも反響するような声が聞こえてくる。
いつの間にそこにいたのか……壁際に立ち燭台を弄るオドマオズマは、僕たちの発言を本気であると捉えたのか、苦笑を浮かべていた。
「……あなたは、暇なのですか?」
「手厳しいな、ナディア。私としても大一番なんだ、期待も高まれば、やる気も出るというものさ」
しかし、この場に現れておきながら、やはりオドマオズマに戦意はない。
むしろ両手を広げ、僕たちを歓迎した。
「さて、これを勇者に言う日をずっと楽しみにしていた――ようこそ、終天城ワールドコアへ。この世界の方向性が定まり千年。初めてここを訪れた勇者がキミたちであることを嬉しく思うよ」
「……この城は千年前からあったの?」
「もちろん。我らの魔王が、キミたちの使命の終点として定めた場所だ」
……どうやら今回は、僕たちと対話する意思があるようだ。
その問いを意外に思う様子も見られない。もしかすると、ここまで辿り着けば僕たちに教えると、あらかじめ定めていたのかもしれない。
であればと、ナディアが前に出る。何よりも、彼に問いたいことがあるのは他でもないナディアだろう。
「……ここを、そしてロスラウドを造り上げたのは誰なのです。ネシュア末期の記録派ですか?」
「そうとも言えるし、そうではないとも言える。……そうだね、ようやくここまで来られたんだ。キミたちにはそこを知る権利がある。いいだろう、少しだけ教えてあげようじゃないか」
僕たちの使命の核心、それをやはり、彼は知っているらしい。
話したくて仕方がなかったと、オドマオズマの高揚が伝わってきた。
「勇者の使命がこの世界に存在している元凶は、かれら記録派だ。かれらはこの世界のすべてを観測し、記録することを命題とした。ロスラウドはその記録を集積するための都市型データベースだ。それこそ、黎明から終末までを記録するに足る膨大な容量を持った記録都市として、かれらはここを建造した」
この街が……まるごと、すべてを記録するための機構?
きわめて大きなスケールの計画に、頭が混乱する。
記録派についての概要は、ナディアに聞かされていたが……かれらの手は、このような遥か空の彼方にまで及んでいたのか。
「馬鹿な……そんな技術が一派閥にある筈がありません! これほどの規模の記録装置の構築――いえ、それ以前に、都市を浮かべる手段だって、確立されていなかった筈です!」
「元は地下深くにあったんだ。かれらは優秀だったが全能ではない。記録するための装置はあれど、その手段がない。かれらの研鑽はついに何も得ることなく、潰えるはずだった」
そうであれば――今の僕たちはいなかったのだろう。
しかし、かれらの執念は、この世界の何かを変えてしまった。ネシュアを滅ぼし、その千年先にまで続くほどの過ちが、起きてしまった。
「――ある時、奇跡が起きた。すべてを求めるがゆえに何にでも手を伸ばすその性質が、何者にも認識されていなかったものに、偶然触れた」
「それは……?」
「魔王さ。その頃は当然、魔王と呼ばれる存在ではなかったが。その存在は記録派の求めに応じ、知恵を授けた。“この世界のすべてを記録する方法”をね。当然のように、その存在は記録派の崇拝対象となった」
記録派と、魔王の邂逅。それがすべてのきっかけ。
恐らくその頃、魔王とはバルハラ――ヨハンナを筆頭とする決戦派が目指す、自然の頂点を指す名だった。
それと同じように、記録派は自分たちが出会った大いなる存在を、魔王と呼ぶようになったのだ。
……いや、待て。そうだとしたら、腑に落ちない点がある。
「……記録派は今も残っているの?」
「いいや。かれらも多くのネシュアの民のように、アリスアドラによる国枯らしで滅んでいるよ」
「それじゃあ、魔王が記録派の目的を受け継いだってこと? 記録派はいなくなっても、その計画は動いているの?」
――僕たちが倒した魔王は、楔によって現れたかたちの一つだ。
あれは僕たちという存在の理解を求めていた。僕たちの旅路の蒐集――それは、記録派の目的に通ずるところがある。
では、果たして魔王の目的と、記録派の目的につながりはあるのか。
あるとすれば、その動機は。一体魔王は、何を考えているのか。
「……ふむ。当然の疑問だね。その通りだよ、魔王の千年は、記録派の壮大な計画の延長だ」
オドマオズマはこちらに感心を覚えつつも、僕の問いに肯定してきた。
では、それが勇者の使命とどうつながるのか――さらに問う前に、その場に変化が起きる。
――そこまでにせよ、『天骸』のオドマオズマ。貴様の口は、いささか回りすぎる。
「……ッ!」
「今のは……!」
耳から聞こえるのではなく、体の内側に直接響くような声。
男性とも女性ともつかない声が心臓を震わせ、そして脳を揺らす。
「……ふむ。どうやら私が話せるのはここまでのようだ」
気に食わないことが起きても、満足するまで話し続けそうな彼が、即座に切り上げる。
それほどの相手、従わざるを得ない存在。であれば――その声の主が誰かなど、その答えには自ずと辿り着く。
「魔王――――!」
――然り。ようこそ、我が城へ……とは、この者が先に告げていたか? ともあれ歓迎しよう、勇者ユーリ、勇者クイール。お前たちはようやく、ここまで到達した。
この城に座す、楔から出力されたものではない、真の魔王。
僕たちが討つべき存在から投げかけられる――初めての言葉だった。