凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「……姿を見せたらどうですか。それとも、隠れて声を届けるだけが魔王の在り方とでも?」
――そう焦るな、ディアネシュアの娘。物事には段階というものがある。それに従わないのもまた一興ではあるが、話くらいは聞いておけ。後悔はさせん。
聞こえてくる――この表現は適切ではないかもしれない――伝わってくる声からは、どこか期待が感じられた。
僕の内にある力から、つながりや感情が掴める訳ではない。
単なる声色の話だが……言葉通り、この時を待ち侘びていた様子がある。
「わたくしはただのナディア。ディアネシュアの名は今を生きるわたくしには不要なものです」
――ほう。『天骸』よ、それで良いのか?
「私からは何も。妹がそう決めたのであれば、私が否定する理由はない」
「あら、そうなのですか。冥界では思い切り否定された覚えがあるのですが」
「認識はアップデートするものだよ、ナディア。認めよう、あの時は私も望まない脚本で冷静さを失っていた」
だからこそ――敵として戦う必要があるのならば容赦はしない。オドマオズマは、言外にそう告げていた。
しかし、それはナディアとしても望むところだろう。
かつての自分との、そしてネシュアとの決別。
そのためには、彼との決着は必要不可欠なのだ。
――であれば良い。千年前の死者が現代の生を選ぶ。そのような結論も、また尊いものだ。
「……お墨付きをいただけるのは結構ですが。つまり魔王であるあなたがここに出てくるつもりはないと。話をしたいのならば手短にしていただけませんか。わたくしたちは急いでいるのですが」
――急くなと言っている。これから城をさ迷い時間を浪費する気もないだろう。
やや呆れを含ませた声に、ナディアは仕方ないとばかりに口を閉じる。
それに満足したのか、魔王は再び上機嫌な雰囲気を取り戻し、語り始めた。
――お前たちにはこの城の頂、私の玉座を目指してもらう。それが叶ったのならば、この私が自ら相手をしてやろう。
「なんとも、ありきたりなセリフじゃないか。それで? 道中には罠がたんまりという寸法かい?」
――そうしたいのは山々だったのだがな。生憎、この城にいる魔族は数えるばかり。仕方あるまい、勇者がここまで辿り着くことがなかったゆえな。
「……? 何か、関係があるの?」
――大いに。だが、その責をお前たちに求めても仕方なきこと。『天骸』よ、代替となるべき
「――仰せのままに」
不満のような言葉を零して、僕たちの奥底に触れていたような気配が離れていく。
……追うことは出来なさそうだ。どうやら、僕たちには及ばない技術による業らしい。
それならば気にするべきは他にあると割り切る。魔王がそう判断した以上、ここで注意を割くべきは、目の前にいる四天王だ。
「そういう訳だ。光栄な話だよ、最終章を紡がせてもらえるなど」
「……いい加減、あなたの脚本家気取りにも飽きました。オドマオズマ――あなたとの決着、ここで付けさせてもらいます」
ナディアの物言いに、オドマオズマは肩を竦める。一呼吸あれば、詰められる間合い――だが、踏み込むのは今ではない。
リッチという、直接的な戦闘に秀でていない種とはいえ、彼は最上位の魔族だ。
闇雲な奇襲がうまくいく相手ではないだろう。
「まったく、気が早いな。キミはいつからそうなってしまったのか。未だに兄として心配してしまうよ、付き合う友人は選びたまえ」
「言われずとも、自ら選んだ相手と付き合っていますとも。どうやらわたくし、友を選ぶことに関しては、稀な才能を持っているようでして」
向けられる信頼は、僕に対してのみではない。
この場の仲間たちみんなに対しての、最大限の信頼。ナディアが選んだ、友情という道。
今の彼女が持つ、最大の誇り――であるのならば、僕たちもそのように振る舞わなければいけない。
当然、魔王を倒すことが、僕たちの最大の目標。だが、ここでナディアが決着をつけるつもりなら、僕たちも全力で協力する。
「では、その友人たちと心行くまで楽しむがいいさ。ここは天上の楽園だが、同時に死に溢れた世界になる。栄光を掴むか、死者の群れに貪られるか。見届けさせてもらおうじゃないか」
ここには、彼の操るようなアンデッドも、その素となる死体もない。
だがそんなこと、彼も当然認識している筈だ。その上で、彼が笑みを絶やしていないということは、勝算があるということ。
――そうだ。ここは巨大な亡骸の上。規格外の“操り人形”がここにはある。
「アトラス――!」
「はは、知っていたか――だが、それでは五十点しかやれないな、勇者ユーリ!」
その結論に行き着いた驚愕で、判断が遅れる。
オドマオズマが杖を床に叩きつけた途端、足元がなくなり、突然の浮遊感に見舞われた。
床が消失した――それを認識したのは、下方に視線を向けてから。
亡骸の内とは思えない、脈動する赤黒い奈落が、そこにあった。
「ッ、みんな……!」
「ユーリくん! 僕は大丈夫です! イリスとナディアちゃんを!」
咄嗟に飛行することが出来るのは、この中でクイールだけ。
魔力を集積させて足場を作り、そこに着地するも――既にそこは城の“地下”。
ごう、ごうと音を立てる、怪物の体内だった。
「……アトラス。かつて世界を混沌と共に支えた礎の一柱。深い知恵と穏やかな心を持った、優しき魔獣。世界が世界として成り立った後、彼女は自分の役目を終えて命を終えた。しかし、彼女の内に、生を育む土壌は残り続ける。一万年経とうと尽きることない、巨大な生産工場さ」
上方を見上げれば、開いた床は肉塊が覆って閉じられていく。
視界は完全に塞がれることはない。肉のところどころかを突き破って伸びる鉱石が光を放ち、仄暗いだけに留まっていた。
「少し方向性を示してやるだけで、この母胎はいくらでも生命を産み続ける。つい先日、ここに私は一つの方向性を組み込んだ」
脈動する肉塊は、あちこちが足場にできるほどに突き出ている。
それらの内から這い出てくるのは――アトラスが本来生み出すことのできた、生者ではない。
伸ばされた手は、もうその瞬間から腐っている。宿るべき生はなく、はじめから死者として、“出力”される。
「そう――“死者を産め”と。死者でも生きることが出来るのだ。生きる死者を母なるものが産み出すことが出来ても、何も不思議ではない」
「ッ……!」
――今でも馬鹿馬鹿しいと、オドマオズマはナディアの決意を笑う。
十、二十、五十と増え続けるのは、初めから魂の備わっていない死者の群れ。
ただ肉体だけが死者として出力されて、オドマオズマによって操られるだけの、人形ですらない存在。
それを、彼はナディアと同じものだと嘲った。
「新鮮なインスピレーションだった。かれらもその志に続き、生きたいと願うだろう。共にいつまでも生きてあげてくれ。何せかれらの素体は、我らの時代のネシュアの民なのだからね」
「――オドマオズマァ!」
果たして――どれほどまでに歪めば、そんな手段を実行できるだろうとさえ感じられる、オドマオズマの発想。
聞いているだけで怒りが湧いてくるその言葉に、ナディアは激昂し、右手に出現させた魔力砲を構え、巨大な砲弾を撃ち出した。
砲弾は過たずオドマオズマを捉えるが、巻き起こった爆発で彼の気配が消えることはない。
むしろ、その魔力は膨れ上がった。芯まで凍るような冷たい気配――膨大な死を纏って、彼は爆発の向こうから姿を現す。
「死に急ぐのであれば止めはしない。投げ捨てた生に群がって、矜持を無残に喰い散らかすのが屍だ」
骨と黒衣を纏い、黒煙で己を飾り、山羊の頭蓋で面を覆う、死を極めた先の姿。
それは、ナディアたちから聞かされていた。冥界で彼が見せた、リッチとしての力を解放した戦闘形態。
黒炭の如き手に携えた杖は白骨を伸ばし、磨いたような鎌へと姿を変え、広い刃にさえ無数の魂の残骸が纏わりつく。
頭蓋の奥底、土気色の灯が僕たちを捉える。内にある勇気の熱さを薄れさせるほどの寒気が肌を刺す。
「ここにあるのは無数の死。かれらにとってキミたちの命は至高の輝き――精々奪われないように気を付けたまえ! 魔王のもとへ至りたいのであれば!」
「ッ!」
振り抜かれた鎌から、膨大な呪詛が放たれる。
触れても外装に傷がつくことはない。しかしあれは、傍にいるだけで生命を脅かし、次第に弱らせる病の類。
それを迎撃はしない。リッカが力を行使すると、半透明な箱が現れて、呪詛をすべて収容した。
リッカの冥界――自身の世界を構築する力の応用。あの箱の内部と外部は完全に隔たれて、破壊されない限りあれが外に出ることはない。
そして、あの呪詛に直接的な攻撃力がない以上、あの箱が壊されることはない。
リッカが箱を冥界に収容し、最初の力のぶつけ合いを開戦と見た周囲の亡者たちの叫びで、空間が震える。
「どれだけ数が多くても関係ありませんっ! あなたを倒して、外に出るだけです!」
地続きではない、宙に浮かべた足場にいる以上、アンデッドたちの攻撃がすぐに届くことはない。
それは、数で圧倒される状況において希少な好機。最初にオドマオズマに飛び込んだのは、クイールだった。
「実に単純明快な答えだ! だが、果たせない宣言をしたところでなんの意味もない!」
オドマオズマの鎌が聖剣と拮抗できたのは、ほんの一瞬のこと。
クイールが鎌を弾き、神速でもって彼の背後に移動し、その体を両断した。
――――いや、仕留め切れていない。パラパラと灰になって散ったかと思えば、その冷たい気配は空間中に浸透していった。
「やむを得ない……、ユーリっ」
「分かった――!」
魔剣を銃砲へと変えて、構える。複製した魔剣、先端に魔力を灯らせた杖、大斧が形を変えた冥弓が、副腕に支えられて一点を狙う。
この、アトラスの亡骸そのものを破壊することで、城にどれだけの影響が起きるかは分からない。
だが、戦いを引き延ばすのはアンデッドが何よりも得意とすること。
このまま空間を埋め尽くすほどに増えてしまえば、振りは覆せなくなる。
「行け――――!」
一斉射――放たれた砲撃と魔法、矢が肉塊を削ぎ、貫いていく。
辺りの肉にまで爆発の連鎖が及び、そこに集まっていたアンデッドもろとも吹き飛ばしていく。
「大した火力だ。あと千回繰り返せば、穴が開くかもしれない。その前にキミたちが限界を迎え、押しつぶされなければの話だが」
――足りない。肉塊は思いのほか分厚くなっていて、さらに再生能力まで持っているらしい。
死してなお、今の状態を維持し続けるのは、アトラスという存在の超常的な力の一つなのだろう。
その再生速度を超えて一点を突き続ける。あるいは、再生もままならないほど強力な一撃をぶつける。それが出来なければ、いずれ増え続けるアンデッドを前に、体力が尽きるだろう。
これが――オドマオズマの、アンデッドマスターとしての真髄。
「っ……だが、所詮は死者の群れ。手の施しようはいくらでも――」
「そういうと思って、こんなものも用意している。飽きの来ない舞台には、出し惜しみしないことが肝要なのさ」
――そして、彼がとことんまで拘る“脚本家”である以上、それだけで終わる筈もない。
「ッ!」
殺意はなく、しかし確実に迫る死の気配を察知して、咄嗟にその場を離れる。
肉の壁を突き破り、内から出てきた腐肉の巨大蛇。
その鋭くも、ボロボロに罅割れた牙の裂け目からは、一目で猛毒と分かる粘液が滴り落ちる。
飛び出した首は一つではない。周囲のあちこちから首が飛び出し、その場にいた死者たちの体を粉砕しながら、這い出ようとする。
「これは……っ!」
「くそっ、この上なく厄介なものを手駒に置いているじゃないか!」
油断せずに首元まで迫り、魔剣の一振りでそれを切り落とす。
しかし、噴き零れた粘液がたちまち固まり、新たな首を形成した。
ナイトラクサのヴァンパイアたちにも劣らない、凄まじい再生速度だ。
「ヒュドラ――ドラゴンさえ死に至らしめる猛毒を持つ魔族だ!」
その名はリッカから、出会うことはないだろうが極めて強大な魔族として、名前を聞かされていた存在。
九つの首を持つ、毒蛇の頂点。全身に猛毒が満ちており、近付くだけでことごとくを殺すとされる、最上位の魔族。
これはその亡骸だ。腐肉をアンデッドとして操ることで崩壊を防ぎ、僕たちを襲う不死の怪物となっているのだ。
「イリスっ、ヒュドラ毒持ってましたよね! なんか無いんですか、解毒剤とか血清とか!」
「そんなもん作れたら慌てていないよ! 私はどうにかできるが、キミたちは受けたら諦めたまえ! 抗う間もなく死ぬぞ!」
焦るクイールに叫んで返しながら、イリスティーラは魔道具にコマンドを打ち込み、自身の因子を変質させる。
ヒュドラの毒は、彼女も利用していた。
自身の因子を調整することで存在をヒュドラに近くし、毒への耐性を獲得したのか。
「さあ、生きたいと願う者たちよ! この逃れ得ぬ死の檻で、死ぬまで死から逃げたまえ! ハハハハハハハ――!」
喉から出たとは思えない哄笑が響く。
自身が最も優位に立てる状況――ナディアの言う通りだ。
四方八方を死に囲まれた赤黒い肉塊の檻。死を操るリッチたる彼が、何よりも得意な領域なのだろう。