凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「ユーリ、今……っ」
「分かった……!」
辺りの亡者たちを一掃し、次が這い出てくるまでのほんのわずかな時間。
それが、ヒュドラに集中できる猶予だった。
『オズマリンク! イグニッション!』
左手の指輪から、力を引き出す。リッカの扱う使い魔の力を、外装の性質に浸透させる。
自身の腕から先が人間ではない別のかたちに変わっていく感覚は言いようのない不安を生むものの――悪い変化ではないのだと受け入れる。
何故ならば、これは勝利に向けた一手であるのだから。
――変化した肉体、その一本一本を、手と意識する。
無数のそれを、目標に向けて伸ばすイメージ。細かい制動は、リッカに託す。
星色の輝きをまばらに宿す触手が、ヒュドラの首へと巻き付いていく。
一本では敵わない。ならば二本、三本と、すべての首に対して組み付き、この戦場の支配を奪い取る。
数で凌駕する戦法は、使い魔を有するリッカにとっても十八番といえる。残る触手が辺りを薙ぎ払うことで、亡者たちの攻撃も寄せ付けない。
「ふむ。まさか数で私が押される日が来るとは……。しかし、いささか品に欠けるな。その姿を見て、誰も勇者とは思うまい」
オドマオズマの言葉を聞き流し、それぞれの触手に力を込める。
締め付けて、へし折ることも出来ようが、それではまた再生されるだけ。
僕たちがすべきは、九つの首の動きを止めることだ。
拘束した首の数々が大暴れするが、それを可能な限り押さえつける。動きを制限していれば、その分みんながヒュドラを警戒せず、自由に動くことができる。
「く、っ……!」
狂ったように暴れる首の一つが大口を開き、触手に噛みつく。
触手に対して効果は薄くとも、放置しておけばやがて浸透し全身に回る毒だ。回ってくる前に切り離し、別の触手での拘束に切り替える。
口を押さえ込み、首を締め上げる形で――このヒュドラはアンデッドだ。こうしても窒息することはなく、単なる拘束にしかならない。
だが、それが望ましい。息絶えれば即座に再生するこの魔族に対しては、可能であれば動きを封じ続けることが得策だ。
「そら――これでどうだい!」
『スフィンクスコード、レディ』
イリスティーラの放った魔弾は拡散し、亡者の群れを撃ち抜いていく。
さらに、周囲の肉塊にまで降り掛かるが――それ以上の効果はないようだった。
「ダメか……冥界の力に屈さないアンデッドなど冗談にもならないぞ」
「耐性を持たせるだけなら造作もないさ。冥界については、少し前に気分の悪い出来事があったからね。こうして対策を取っておくのは当然のことだろう?」
スフィンクス由来の冥界の属性は本来、死に属するアンデッドへの最たる有効打だ。
死の先にある冥界において、亡者が無法を働ける筈もない。事実、この前の冥界の一件でも、オドマオズマはネルガルに従っていたらしい。
しかし、その経験からすぐさま彼は対策を打った。今の彼に、冥界の力は有効に働かないのだろう。
「……っ」
リッカが小さく舌打ちする。
オドマオズマとの戦いにおいて、どうにかしてリッカの冥界に取り込むことは、本命ともいえる手段だった。
死者を管理する世界として機能している訳ではないにしても、リッカの最新の冥界もまた、アンデッドの天敵たる領域。
しかし、これでは彼を取り込めたとしても、完全な無力化はできない。
「ですが、これは――!」
目の前に迫っていた大男の亡者に対して、ナディアが巨大な籠手のような魔道具を突き付ける。
それを起動すると、先から凄まじい勢いで飛び出した杭が、亡者を貫く。
どうやらあの武装にも、強力な祝福が込められているらしい。
それはアンデッドにとって第二の天敵。教会に近付くことさえ出来ないアンデッドに、直接祝福を叩き込めばどうなるか。たちまち亡者は崩れ去り、灰になった。
「有効なようですわね。あなたといえど、こちらの弱点は克服できなかったようで」
「むしろそちらは、克服できる方がおかしいんだがね。私とて、守りを固めてようやく、聖都でほんの少し活動できる程度にしかならない。……一体どうやった? キミを加工したのは私だ。本来の構成はすべて把握している。何をすれば、聖都に適応できるようになる?」
祝福への適応。それはきっと、ナディアが初めて果たしたことだ。
どうやったかはリッカにしか分からない。もしかすると、リッカも自分で導き出したのではないのかもしれない。
「キミだろう。此度の勇者の使命で……いや、この世界の歴史で最大のイレギュラーたる少女。思えば私は、キミを捕えた時にもっと詳細に調べておくべきだったんだ。そうすれば私の舞台はもっと、もっと素晴らしいものになっていたに違いない」
山羊骨の頭がこちらを向く。土気色の灯が、悪辣に笑う。
その姿が近付くのを、ナディアが制した。杭の魔道具の先端をオドマオズマに突き付けて。
「それ以上、わたくしの友に近付くことは許しません。それとも、これを受けてみますか。亡者の親玉といえど、この杭は効くでしょう」
「キミの友人とやらがどれだけの可能性を秘めているか、分かっているのかい? きっと使いようによっては、すべての生命が死を超えることさえ可能だろう」
「できるでしょうね。だって、わたくしの友ですもの」
当然とばかりに、ナディアはオドマオズマの言葉を肯定する。
リッカがぽつりと「いや、無理……」と呟くが、どうやらナディアには届かなかったらしい。
「ただし、それを実証するとしても、力を行使する権利があるのはあなたではなく彼女自身です。他の者がその自由に手を伸ばすなど、烏滸がましいでしょう」
「誰かの見出した可能性に光を見て、発展させてきたのがネシュアだ。ならば私もそうするまでさ。彼女の力を、私が有効活用してあげよう!」
「自分でネシュアを滅ぼしておきながら、戯けたことを!」
ナディアは右腕の武装を振るい、オドマオズマを後退させてから、新たな武装を左足に装備する。
箱のようなそれが開かれ、内から発射される弾頭を、オドマオズマは亡者たちを盾にして防ぎ切った。
「滅ぶべくして滅んだんだよ、ネシュアは――あの国には野心がなかった。目指す頂に辿り着かんとする情熱ばかりだ!」
手を振り上げ、拳を握り込む。
瞬間――途端に縛り上げていた首の抵抗がなくなり、一斉に爆散した。
内側から溢れた毒液が辺りに飛び散れば、たちまち甚大な破壊をもたらしていく。
そして、束縛から逃れた状態で首が砕け散れば、当然のように再生する――それだけではない。
戦場となっている肉の檻の下層。飛び散ったものが滴り落ちて毒液溜まりになっているそこから、新たに三本の首が飛び出した。
「記録派の企てがなければ、あの国は存続したか? いいや、滅んでいたとも! 決戦派か、追想派か……ただその発端と、過程が違っただけさ!」
触手へと変わっていた腕を元に戻し、再度魔剣を手に取る。
さらに、大斧を盾の形態に変え、大口を開けていた近くの首に向けて咄嗟に突き出せば、大口は噛みついてくることなく、毒液を直接吐き出した。
「ッ――!」
予想外の攻撃で視界が塞がれるも、即座の再計算によって導き出された“最適解”に体が動く。
極限まで毒を防ぐ外装と盾には支障はないが、それが目晦ましにもなると理解しているヒュドラは、その隙に別の首を突っ込ませてきた。
体を捻って突撃を回避し、魔剣で首を断つことで時間を稼ぎ、戦場の上方でみんなと合流する。
一歩遅れて接近してきたオドマオズマの鎌をクイールが受け止めた。
「むしろ――ネシュアの民には感謝してほしいな。私のおかげで、苦痛なく逝くことができたのだから!」
「正気で言っているのですか、オドマオズマ!」
「これが今の私にとっての正気なんだろうさ! 『天骸』のオドマオズマが生まれたあの日からのね!」
「ッ、この……!」
隙だらけの状態を維持する筈もない。
僕たちが追撃するよりも前に、オドマオズマは全身から呪詛に満ちた瘴気を放つ。
瘴気には複数の魔法が詰め込まれているようで、それらが干渉するようにあちこちで爆発を引き起こす。
しかし――まだその爆風の向こうに、オドマオズマの姿は見えている。
ならば、と爆発の中に飛び込む。ナディアもまったく同じ考えだったようで、まったく同じタイミングでオドマオズマへと接近した。
「そのまま行け、三人ともっ!」
『シムルグコード、レディ』
追撃とばかりに放たれる瘴気の嵐に、対策を取ったのは僕たちでもナディアでもない。
イリスティーラが後方から撃ってきた魔弾が僕たちの外装の表面を覆う。
あらゆる病への特効薬になる羽を持つという魔族の因子が発現し、ごく僅かな間ながら、オドマオズマの瘴気を撥ね退ける障壁となる。
「キミたちこそ、正気を失ったようだね――!」
彼からすれば、被弾を覚悟で突っ込んできただけ。
そして、それは決定的な隙になる。勝負を付けにきた僕たちを陥れる秘策があっても、何も不思議ではない。
オドマオズマの胸元が大きく開き、内から飛び出す、大蛇の首。
開かれた大口を前に、突撃を続けることは出来ない――本来であれば。
「させませんっ!」
「ッ……!?」
動きが見えていた訳ではないが、誰もがクイールの支援を確信していた。
千々に切り裂かれた大蛇の首。さらに、大鎌を持っていた右腕も、聖剣が切り落とす。
「しまっ――――」
「今だっ、ナディア!」
「ええっ!」
ようやく晒した大きな隙。同時に伸ばした足先が、オドマオズマに突き刺さる。
それだけでは、彼を倒すに至らない。
死したがゆえの不死性を持つのはリッチも同じ。ただあの体を破壊するだけでは、その魂まで仕留めることは出来ないだろう。
何よりも有効なのは冥界と、祝福の力。だが――それ以外の弱点を、彼は自身でこの空間に広げている。
「ぐっ……!」
ヒュドラの毒は、不死を殺す力はない。
しかし、不死さえ手放したくなる苦痛を生むという。
僕たちが彼を叩き落とした先には、十分なほどのヒュドラの毒液溜まりが出来ている。
体勢を立て直すことは出来ない。この状況を脱しようと思えば、取れる手立てはただ一つ。
「ッ、おのれ!」
山羊骨の奥、土気色の灯が一層強く輝く。
瞬間、空間が大きく揺れ、少しずつ増していた毒液溜まりの嵩が一気に下がっていく。
毒液を消失させた訳ではない――あれは、底が抜けたのか。
肉壁の腐食を急激に進ませ、空間に限界を迎えさせた。それを証明するように、周囲の壁も腐り落ちていく。
オドマオズマは咄嗟に、自身のアドバンテージを捨て去ることを選んだのだ。
魔獣の体の外、記録都市に毒液が溢れていく。周囲にいた亡者たちもろとも、空間に空いた裂け目から外へと流れていく。
そして――見えた。毒液に沈んでいた、ヒュドラの首の根――核となる胴体を。
「そこです――――!」
直後、ナディアが優先したのはオドマオズマよりヒュドラの方だった。
杭の武装を核に向けて突き付け、接近することなく、その最終機能を発動させる。
杭だけではない――武装そのものがナディアの腕から外れ、凄まじい勢いで突撃していく。
それは言うなれば、膨大な祝福を湛えた爆弾。
たとえ、本来のヒュドラが、胴体を破壊したところで討てないとしても、アンデッドであれば話は別だ。
「 ――――――――――――――――ッ! 」
核が大爆発を引き起こした瞬間、甲高い、金切り声のような絶叫を上げて、ヒュドラの首すべてが爆散した。
周囲に障壁を展開し、最後に降り注ぐ毒液を防ぎきる。
空間を放棄したことで、アトラスの肉体はアンデッドを生み出す土壌ではなくなり、あちこちに裂け目が出来ている。
そして、上方。僕たちが落ちてきた後、塞がれた天井も肉が解れている。
みんなで視線を交わし合い、一斉に攻撃し、天井を切り開く。
ここに長居する必要もない。大きく開いた穴へと一気に跳び上がって、城のロビーに戻ってくる。
「油断はしないように。まだオドマオズマを討った訳じゃないぞ」
彼が用意していた切り札は攻略した。
だが、イリスティーラの言う通り、彼はまだ健在だ。ここで油断する訳にはいかない。
安堵したところへの不意打ちなど、彼の得意技だろう――そう、警戒を強めた直後、またも足元が、強い振動に見舞われた。