凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
ナディアと別れ、しばらくが経った。
相変わらず、想像していたほどの苛烈さはない。
時折、エコーと呼ばれていた騎士の分身や、人形たち――そしてどういう意図で置いているのか分からない、騎士の像などが襲い掛かってくるが、四天王などの魔族と比べれば戦える。
それ以上に強力な魔族と会うことはなく、ひたすらに広く、長い城の廊下を僕たちは駆け回っていた。
ヒントとして持っているのは、城の頂に魔王がいるということのみ。
だが、単純に駆けあがるということは当然出来ず、リッカの使い魔も利用しつつ正解の道を探し回る。
「これ……ナディアちゃんが僕たちに合流できなくないですか?」
縦横にとにかく広く複雑な迷宮で、ようやく見つけた一際大きく重要そうな扉を前に、ふとクイールが零す。
闇雲に走ってきた僕たちも、リッカの使い魔がいなければここに来るまでもっと時間を要していただろう。
ナディア一人では、それも難しいのではと今更思い至る――が、すぐにリッカは否定した。
「大丈夫。ナディアのところにも使い魔は置いてきた。ここまで来る道中にもちゃんと残してきているから、迷わないはず」
「そんなことしてたの……?」
「おとぎ話のパンくずみたいな扱いだな……」
そういえばリッカは、回顧の迷宮でもそんなことをしていたような。
自身との魔力の繋がりで異常がないかもわかるし、些細な問題には対処できる最低限の力もあって、都合が良いのかもしれない。
まあ、使い魔たちの案内があれば、ナディアもこちらに合流できるだろう。
ならば僕たちは、それまでに一つでも先に進むべきだ。
「とりあえず、行けるだけ進みましょうか。なんならナディアちゃんが追い付くまでに、魔王まで辿り着いちゃいましょうよ」
「出来るかどうかはともかく、その心意気で行くのが良さそうだね」
冗談半分の言葉に笑い合ってから、その扉を開く。
吹き込んでくる冷たい風――外に繋がっているのだろうか。
「これは……」
「中庭……? バルコニー、っていうんですかね?」
そこにあったのは、広い庭園だった。
ロビーやいくつか見てきた部屋よりもずっと大きく、見たこともない花を植えた花壇が隅に並んでいる。
あまり、美しさを重視している訳ではないらしい。色合いもバラバラで、申し訳程度に並べただけ、という印象だ。
屋根はなく、見上げれば幻想的な文様の浮かぶ星空が、より近くに広がっている。
しかし、魔族の姿はない。これだけ広ければドラゴンでさえ十全に戦闘が出来るだろうが、その広さを活かすような存在は皆無だった。
「魔王の人材不足も深刻なようだね。これだけの広場があるのに、相応しい魔族の用意がないとは」
「僕たちからすれば助かる話だけど……」
ドラゴンにしろ、この広場を埋め尽くすほどの大群にしろ、一筋縄ではいかないだろう。
そんな敵と戦うのであれば、不審だろうとこうして誰もいない場所を通過する方が、消耗もなく切り抜けられる分良い。
結局、反対側までまっすぐ歩くのに、妨害もなければ罠も仕掛けられていないようだった。
「なんか拍子抜けですね。このまま何事もなく、一番上まで辿り着けるといいんですけど」
「まあ……流石にそこまではないとは思うけどね。ここまで、戦ったのはオドマオズマの手勢だけだ」
彼自身に加えて、エコーと、コッペリアが操っているのだろう人形たち。
この城にいると思われるのは当然かれらだけではない。あとどれだけの道のりなのかは知らないが、かれら以外と戦わないということはないだろう。
「まだ私たちが本気になるべき場所はいくつか想定できるってことさ。さて、この先には何があるか――」
辿り着いた反対側の廊下に見つけた、大きな扉。
ひとまず、その他の普通の扉よりは手掛かりになるものがあるだろうと、開いてみる。
――ずいぶんと広い部屋だ。先の庭園とも遜色のない大部屋は、長テーブルが何列かに並んでいる。
部屋全体を照らすために、狭い間隔で設置された魔道具によって、部屋全体が昼間のように明るい。
テーブルに備えられた椅子は、少なくとも百を超えている。
それだけの人数が優に集まれるこの大広間は……食堂、なのだろうか。
「本当は、これだけの席が埋まるくらいの魔族が集まっている想定だったんですかね」
「そうだったら、さぞ面倒だったろうね……動きづらくなっているところを一掃したいところだが」
あまり想像したくない仮定を話すクイールたちと共に、広い部屋を見渡して――ようやく気付く。
そこにいると認識しなければ見逃してしまうほどの“か細さ”だったというのに、一度気が付けば、どうして気付けなかったのか不思議なほどの存在感がある。
矛盾した雰囲気を纏わせた魔族は、テーブルの一つの席に座り、明らかにこちらに気付いていながら何をする様子もなく、一人で食事を味わっていた。
『あ――』
ラフィーナが、小さく声を零す、
それが誰なのか、確証はない、だが、この城に存在しているサキュバス――思い当たる者は、ただ一人だ。
警戒しながら、近付いていけば、食器の音も立てずに食べ進めていた彼女は、小さく溜息をつくと、食器を置いて口元を拭った。
「……あの頃に戻ってみようとしましたが、やはり一度嗜好の変わった舌はそう容易く直せないもの。何もかもを元通りにするなど不可能ということですね」
何かを自嘲するように嘆息した後、半分ほど残っていた料理をそのままに、魔族は立ち上がる。
鮮やかな青い長髪が揺れる。畳まれた翼、細い尾と真っ直ぐな角が、彼女の種族を物語っている。
「――まあ、それも私らしい。私らしく勇者と相対できるのであれば、望外の喜びを感じるべきなのでしょう」
僅かに青い色味がついただけの瞳が、こちらに向けられる。
なんだろう――この感覚は。
確かに意識はこちらに向いているのだが、一切の感情が外へと出ていない。
抱くべき喜びはあるというのに、それがどこへ向くのでもなく、ただ己の内側で完結している。まるで、僕たちを見ていながら、認識していないかのようだった。
「初めまして、勇者ユーリ。勇者クイール。それから、人の少女と、エルフ、でしょうか」
「……分かるの?」
「ええ。奇妙な鎧を纏っているようですが……他者を認識するのに、あまり目を使うことがなく……。ゆえに個々をよく感じられるのですよ。私の、魔族としての特異性のようなものです」
外装を纏っている状態だというのに、彼女は僕たちのことを正確に把握している。
イリスティーラの種族も、そして一つになっている僕とリッカのことも。
視力ではない、別の何かで僕たちを見ているのか。僕が他者とのつながりを感じ取ることと、同じように。
「もしかすると、私のことは存じているかもしれませんね。エヴァネスたちとは出会っているようですし、それに、ラフィーナは私のようなものを慕ってくれていましたから」
そう言いながら、彼女が目を閉じつつ、顔を向けたのは――僕が持っている、魔剣。
……まさかとは思うが、そこまで分かっているのか。
「久しぶりですね、ラフィーナ。こうして再会できること、とても嬉しく思います」
『……はい。お久しぶりです、イルミナ様』
名を呼ばれ、知覚されていることを確信したラフィーナが、魔剣から言葉を返す。
アリスアドラへの畏怖とはまた違う、強い尊敬と恩義。そして逃れ得ぬ敵対への複雑な想い。
それを感じ取ったように、彼女――イルミナは微笑んだ。
「強くなったあなたと再会すること、それを私は望んでいました。少しだけ、予想した未来とは異なるかたちでしたが」
『それは……すみません。私は強くなってもいなければ、イルミナ様への恩義も――』
「ふふ」
ラフィーナらしい罪悪感からの謝罪を、イルミナは小さく笑みを零すだけで制する。
「強くなったのです、あなたは。私には得られない強さを、あなたは手に入れたのです。それに、あなたはあなたの選択で、道を見つけ出した」
『……イルミナ様』
「アリスアドラ様も認めたのでしょう? ならば、私もあなたの選択を尊重します」
その言葉を紡ぐために、虚偽や欺瞞は表れなかった。
いや、相変わらず、意識は外へ向けられていないが――彼女がラフィーナを想っていることは、少なくとも彼女の認識の中では確かなようだ。
「さて……私はイルミナ。アリスアドラ様に代わり、この場で皆様をお待ちしておりました」
「代わり……? ここにはアリスアドラがいる予定だったのかい?」
「ええ。本来、アリスアドラ様はこの食堂で、あなたたちを迎える予定でした。そうして、四天王として、魔王に挑む資格があるかを定める。それが、この部屋が持つ役割です」
言われて、思わず周囲を見渡す。
ここは、アリスアドラとの決戦の舞台となるはずだった……ということだろうか。
部屋の広さは申し分ないものの、テーブルなどが邪魔となって、まともに戦えるとは思えないが……。
「ここに来たのであれば、庭園を通りませんでしたか? あの場所は、あなたたちが嵐と相対すべきだった場所――四天王の皆様に割り当てられた戦場が、この城にはあるということです」
「……バラルバラーズの」
「はい。とはいえ、魔王様の企ては半分が無駄になってしまったようですが。よもや私も、あなた方がここに来るまでに、バラルバラーズ様とアリスアドラ様を討つとは思いませんでした」
本来四天王は、勇者がこの城に至るまで、試練を与えるのみの想定だったのだろう。
そして、すべての試練を成し遂げ、城に辿り着くほどの力を示せば、その時初めて四天王として勇者と戦う。
しかしバラルバラーズは、試練として自身があのムルゼの山頂で戦うことを選び、アリスアドラはナイトラクサでネリネの願望に殉じる道を選んだ。
結果として、僕たちはこの城で向き合うべき戦いを二つ、終わらせていたのか。
「オドマオズマ様は……まだ、下で戦っているようですね。ネシュアの姫君と、二つがぶつかり合っているのがわかります」
「……リーテリヴィアはどこに? 彼も、魔王への道中にいるの?」
「この食堂をあちらに通り抜けるのが一番の近道です。玉座の間への大階段を、リーテリヴィア様は守っています。あなた方にとって、魔王へ至るための最後の障害となるでしょう」
「ッ――」
最後の障害。それを聞いて、イリスティーラが小さく舌打ちした。
……彼女が何よりも果たしたい悲願。そのためには、ただ倒すのみではいけないことは分かりきっている。
しかし、最後の砦となれば――リーテリヴィアもそのように振る舞うだろう。
たとえ死に瀕したといえど、彼は道を譲ったりはすまい。
「……イリス」
クイールもまた、イリスティーラが何をしようとしていたのか、悟っていたのかもしれない。
倒す以外の道を模索するのであれば、ナディアと同じように、僕たちを先に行かせるべきだと、彼女が考えていたことくらい察しが付く。
その提案をし難い状況を見て取ったのか――イルミナは微笑みを浮かべたまま、手で促した。
「行くのならば、どうぞ。一人先に行かせるくらいであれば、止めはしません」
「……何を企んでいるんだい?」
――驚くべきことに、イルミナの提案は、イリスティーラへの善意だった。
相変わらず、内側で完結している彼女の意識は読み取りづらいものの、悪意がないことだけは明らかで。
だからこそ、イリスティーラにとっては疑念が勝る。
「企み、ですか……強いて言うならば、私は……多くの幸せを望んでいるのですよ」
「……幸せ?」
「ええ。あなたはこの先に行くことで、幸せに至る道がある。そうでしょう?」
……嘘ではない。
すべてを見透かしているような、色彩の薄い瞳は、本当にイリスティーラを捉えているかは分からない。
しかし、イルミナの笑みはどこまでも、本心から浮かべているものだった。
「……一人だけ、ということは……僕たち全員が先に行くのはダメってことですか?」
「まあ、それでも良いのですが……」
イルミナはそこで、言葉を一度止める。
アリスアドラの代わりにここにいるということは、彼女にはここで僕たちと戦う役割を持っているのだろう。
そう思っていたのだが、イルミナには戦意がない。
武器を取り出すことも魔力を高めることもなく、先ほど促した扉とは別の、部屋の隅にある扉に視線を向ける。
「勇者のお二人には、先にあの向こうにあるものを見てほしいのです」
「……何があるの?」
投げた問いに、イルミナは少しだけ、笑みを深めた。
おかしなものを思い浮かべるような、まだ大して語らっていないまでも、“彼女らしくない”と思わせるような反応の後、問いに返してくる。
「あなたたち勇者にまつわる、大きな秘密。それを管理している場所が、あの先にあるのですよ」
すみません。恐らく次の更新も木曜日くらいとなります。