凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「勇者の……秘密?」
「勇者の使命が百代続いた理由の一つです。必ずしもあなた方が知るべきものではありませんが……」
それでも――すべてを終わらせるつもりなのであれば、知っておいた方が良いこと。
イルミナは、そう判断しているらしい。
「理由の一つってことは……それだけではないってこと?」
「はい。あなた方の使命が繰り返された理由はいくつかあり、すべては一つの目的に向けた
……知るべきなのだろう。魔王の企てを終わらせる側として、その秘密は知っておかなければならない。
イルミナが僕たちを謀っている様子はない。
それは、僕たちに対する善意ではあるのだろうが――具体的に何が待っているかをこの場で話すつもりはないようだ。
「けど、イリスは……」
クイールもまた、そこに赴くことに反対はしない。
だが、気にしているのはイリスティーラの判断。
何が待っているかも分からないこの城において単独行動は極めて危険だ。ナディアだけでなく、イリスティーラまでその選択をするというのであれば、止めたくもなる。
好ましいのは、イリスティーラにはひとまず僕たちに同行してもらい、その後リーテリヴィアへの問題に、全員で向き合うこと。
それが、最も安全で、可能性のある道だということは明らかだったが――イリスティーラは苦笑した後、首を横に振った。
「悪いね、クイール。流石にここまで来ると、私にも欲が出てきたんだ。少しばかり、過ぎた希望を持ちたいってね」
「それは、けど……っ、僕たちも協力すれば良い話じゃないですか! 僕たちだって、僕たちの事情にイリスを巻き込んでいるんです。だから……」
「ああ、そうだね。だから私もキミたちに頼るのが筋だとは思う。思うのだが……」
別にイリスティーラも、イルミナの言葉をすべて信じている訳ではないのだろう。
罠がある可能性は、百も承知。だが、リーテリヴィアが最後の最後に待ち構えているという情報は、信頼できる。
何故ならば――彼はそれほどまでに強大な力を持っている魔族なのだから。
「……私がどうにかしたいんだよ。こればかりは、私だけの事情にしておきたいと、そう思っているんだ」
「っ……イリス――」
「言っただろう? リーテについての行動で、私が何をするにせよ、止めないでほしいって。本当は、ナディアのようにキミたちを先に行かせるつもりだったんだがね。この先に待っているというのなら仕方ない」
彼女の纏う外装の、暗く輝く眼が、手に持った魔道具に向けられる。
銃身と並行になるように、色彩を変化させながら輝く刃が取り付けられている。
あれは……リッカが少し手を貸したと聞いていた。きっと、リッカなりの――イリスティーラに対する支援なのだろう。
きっと、今のイリスティーラは、リッカが思う限り最もハッピーエンドに近い状態。
あとは彼女の頑張り次第。そこに僕たちも力を貸せればと思っていたが……どうしても、そればかりは自ら掴み取りたいというのが、イリスティーラの“我儘”なのだとすれば。
「……クイール」
「……分かってます、ユーリくん。イリスがずっと、叶えたかったことですもんね。僕たちが生まれる前から、ずっと。けど、それでも、危ないじゃないですか……っ」
「今更だよ、クイール。私たちはとっくに死地に飛び込んでいるだろう? それに、なにも死に急ごうと思っている訳じゃない」
イリスティーラが、何百年と焦がれていた望み。その成就に対する確証があるかは、分からない。
それでも、イリスティーラは手を伸ばさずにはいられない。
僕たちが魔王と決着をつけて、使命を終わらせようというのならば、これがイリスティーラにとっても最後の機会となってしまうのだから。
「さっさと終わらせて待っているよ。キミたちが追い付いたら、話を聞かせてくれ」
「イリス……!」
返事を聞くつもりはないと、イリスティーラは踵を返し、そのまま示された扉へと歩いていく。
それを真っ直ぐ目で追っているイルミナだが――やはり、最後まで悪意のようなものは見えなかった。
まるで、本当にイリスティーラの幸福を願っているように。扉が閉じられるまでを見届けて、僕たちに向き直る。
「……本当に、何もせずに行かせるんだね」
「それが、彼女の幸福につながるのでしょう。そして、恐らくはリーテリヴィア様の幸福にも。ならば、これが最善の選択です。あとは彼女自身が努力するほかないですが」
……これまで出会った、アリスアドラの側近たるサキュバス、その全員に言えることだが……変わり者だ。
この城で待ち構えていながら、望んでいるのは他者の幸福なのだと。
それをよもや、本心で思っていようとは。
『イルミナ様……何故、彼女の幸福を望んでくださるのですか?』
「彼女の、ではなくあなたたちもですよ、ラフィーナ。一人でも多くが、自らが望む幸福を掴む、素晴らしいことではないですか。……まあ、見境なしである自覚はありますがね」
誰彼を構わず、その幸福を望む。つまるところ、彼女はそういう性質なのか。
我ながら妙な性質だと、イルミナは自嘲するように微かな笑みを浮かべた。
「昔から、ひどい不感症なのですよ。身も、心も」
『え……?』
「快楽も幸福も、自らのものを感じられない異常者。それが私です。だからこそ、他者の幸福を求めるのですよ。自らに無いものだから、誰かに得てもらう。そんな、些細な欲求の表れです」
幸せを感じたことがない。さしたる感慨も持たず、イルミナは言った。
彼女にとって当たり前のことなのだろうが、僕たちからすれば、何故なのかと思わずにはいられない性質。
いや――だからこそ、アリスアドラは彼女を見出したのだろう。
その特異性はきっと、ジルたち他のサキュバスにも並ぶものなのだ。
『……』
「私の身の上話は良いでしょう。それよりも、あなたたちのことです。とはいえ、ここで送り出しては、私が彼女を追いかけて闇討ちするのではと疑われましょう。案内しますよ」
少なくとも、その性質は恥に感じているものであるらしい。
しかし、やはりそれを外側に、明確な形で出力することはなく、イルミナは歩き始める。
……僕たちも続こう。
この先に、僕たちが知るべき何かがあるのならば、どうあれ僕たちはそれに向き合わなければ。
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まったく、情けないなと、どうしようもない自嘲が湧いてくる。
この中で最年長――リッカくんの繰り返しはともかく――なくせして、この局面で我儘に走るなどと。
ユーリくんたちと別れることなく、出来ればナディアの合流を待ってから先へ進む。
そうした方が良いというのは、どんな子供にだって分かること。私の行動は、まったくもって支離滅裂だ。
だが、そんな理性的な判断を放棄して、私は感情で動いていた。
ユーリくんやクイールは、必ずハッピーエンドに辿り着ける。狂った使命を終わらせて、日常へと戻ることが出来る。それはいい。そのために、ずっと苦しんできたのだから、報われるのは当然だ。
私もきっと、その光景に満足できる。
それ以上を求めることなく、後はかれらの穏やかな日常を見守るだけでよいのだろう。
けれど……けれど。
「……」
やはり私は、手を伸ばした先で何も掴めないことを認められなかった。
これまでずっと藻掻いてきた。暗闇の中を這いずって、その先に何もないことが許せなかった。
ああ――かれらのことだ。私がそうしたいと言えば。この本心を打ち明ければ、全力で手を貸してくれるだろう。
そのための『ハッピーエンド同盟』だ。全員の理想的な未来のために邁進するのが私たちのパーティだ。
だというのに、私はエゴのままに、たった一人で走っていた。
戻れ。今すぐ戻れと、理性が訴える。
皆は私の望みにも寄り添ってくれる。だから、下らない拘りなんて捨てた方が良い。
分かっている。分かっている。全部分かっている――それでも、私は、自分自身の手で、取り戻したかったのだ。
「……ここか」
早く、出来るだけ早くと、足を動かし、辿り着いたのは馬鹿みたいに長い階段。
なんのためにと思わずにはいられない。上方の扉にまで続く階段を見上げられるつくりになった大部屋。
訳が分からない。一体、何人が横に連なって上り下りする想定なのか。
魔王の意図が見えないものの、ともかくここが、城の中心となる部屋だということは分かる。
あのサキュバス――イルミナの言う通り、この階段が、城の頂……玉座の間に通じているのだろう。
疑う余地はない。そうでなければ……彼がここにいる理由がないのだから。
「……キミだけか」
「先行してきたのさ。キミが待ち構えていると聞いてね。今回ばかりは、私の我儘を通させてもらった」
階段の中頃に立ち、こちらを見下ろしている、聖都の長。
こんな場所にあっても整った金髪と、青い瞳。かつては私も当然のようにお揃いだった、エルフの特徴。
しかし、何百、何千回と交わしたその目は、熱を持たずにじっとこちらを見下ろしている。
感情がない訳ではない。だが、冷たい瞳。
……ああ――その目が、私は嫌いなんだ。見ているだけでどうしようもなく苛立ってくる。
彼はそんな目をする男じゃなかった。もっと優しくて、私をいつも思いやる、あたたかい目をしていた筈なのに。
「……理解に苦しむ。キミたちが協力すれば、俺に勝つことは決して不可能ではないだろう。そして、キミも当然、それを理解している」
「ああ、そうだろうね。そのくらい、かれらは強くなった。もう私たちに、障害らしい障害はない」
「では、何故だ。俺には、キミが錯乱したようにしか思えない」
……声色は淡々としながらも、心配の色が浮かんでいた。
腹立たしい――その感情だって、かつてはもっと、深いものだった。
今のものだって彼の本心であることは間違いない。だが、いつかのものとは、丸っきり違うもの。
その仮初を、その偽物を、一体どれだけ耐えてきただろう。
耐え難いものを、それでも耐えるしかなくて、すっかりその絶望に慣れてしまった。
「知っているだろう? 私はもう、ずっと前から錯乱しているんだよ。そうでなければ、自己の改変になんの躊躇いも持たない筈がないじゃないか」
私はあの時狂ってしまった。たった一つ以外の何もかもが、どうでもよくなってしまったのだ。
自分の存在にさしたる執着などない。
だからエルフの禁忌の向こうへも、大した感慨もなく踏み出せてしまった。
「……キミがその選択をするに至った理由を、俺はまだ聞かされていない。だが、関係があるのか。俺が失っている、キミとの記憶に」
……そうか。思い至るか。
当たり前だ、あの記憶に触れたのならば、察しもつくだろう。
だが、それでも。
「――そうだと言ったら、キミはすべてを思い出してくれるのかい?」
「……いいや。やはり、駄目だな。キミとの最初の記憶は、聖都で俺を迎えてくれたあの日からだ」
「そうか――わかっていたさ」
たったそれだけで思い出していたら、私は最初から苦労なんてしていない。
自分の力で、とはいうものの、取り掛かりは結局頼るしかないのだ。
奇跡と、悪辣極まる祝福に。
「戦うことなく掴み取れるとは思っていない。けれど、諦める気もない――今から始めるのは、ユーリくんのためでも、クイールのためでもなく……」
「……」
剣を手にとらず、自然体。しかし油断なくこちらを見下ろす幼馴染を真っ向から睨み返す。
スティーライザの刃を起こし、宣戦布告と共に、突きつける。
「――私自身のための、決戦だ」