凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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勇気の終点

 

 

 コッペリアの話を聞き終えて、僕は――僕たちは無意識のうちに、工房を見渡した。

 見覚えなんて当然ないし、懐かしさだって感じない。故郷に辿り着いたという感慨も、ほんの少しも生まれない。

 だって、“作られた場所”だと言われても、この場所はあまりにも無機質で、生命という概念とつながりようがないように思えたから。

 

「……僕がママから産まれる前……もっと始まりは、ここだったってことですか……? いや、僕だけじゃなくて……」

「ええ。勇者ユーリもそうよ。あなたの先代も、そのまた先代も。バルハラとヨハンナの伝説になぞらえて定義された勇者は、全員この場所で作られたわ」

 

 絶望とか恐怖のような、致命的な感情よりも、困惑の方が強かった。

 命のはじまり、生命として成立する前の概念のイメージが掴めないこともそうだが、何よりもそれは――僕が、自身のルーツにそれほどの関心を抱いていないからか。

 

「ううん……勇者クイールはともかく、あなたはそこまで心を動かしてくれなかったようね。ゆりかごに思うところはない?」

「もちろん、驚きはしたけど……それで僕の何かが変わる訳でもないよ。魔王を倒して、ハッピーエンドを掴み取る。その目的は失われない、でしょ?」

 

 そう、どこで作られた存在なのだとしても、その一点が健在であれば、それでいい。

 むしろそれが失われてもいないのに、戦意を喪失する訳にもいかないのだ。

 毅然と告げれば、コッペリアは目を細め、ぶるりと震える。その霊体を構成するものが、わずかにほつれた気がした。

 

「っ……ええ、そう。その通りよ。この場所から旅立ったあなたたちが、この場所に郷愁を感じる必要はない。だって、あなたたちの今までが否定されたんじゃないんだもの」

 

 コッペリアは特段、その秘密を明かすことで僕たちを混乱させようとしている訳ではない。

 あくまでも、僕たちの出生に自分たちが関与しているという事実を、義務として語っただけ。

 戦いをやめてほしいとも、戻ってきてほしいとも、彼女は思っていない。

 そこで自分たちの運命が、はじめから魔王の手のひらの中にあると思うのか、ここまで生きてきた“自分”は自分自身で選んだ道だと思うのかは、僕たち次第であるということだ。

 

「それなら、いいよ。生まれが決めつけられたものだとしても、ここまでの道は僕が決めた。そこが否定されていないのなら、僕は僕のままなんだ」

「……そうですよね。ちょっとびっくりしちゃいましたけど……今からやることも、それから先でやりたいことも、変わりません」

 

 クイールと頷きあう。ここが僕たちのルーツであることは否定できなくとも、そこは、僕たちが振り返るべき過去ではない。

 それを聞いて、コッペリアは穏やかに笑っていた。

 

「……やっぱり、伝えて良かったわ。あなたたちはこの秘密を知ったくらいじゃ立ち止まったりしない。あなたたちの勇気は少しも解れないの、流石よ」

「……勇気はともかく、あなたが解れているんですけど」

「ぁぁ、気にしないで。これは癖だから」

 

 時折……というかたびたび存在を消失しかけているが、それは癖といって良いものなのか。

 間違っても母だとは思わないものの、誕生に深く関わっているとなると、なんだか、話を聞いた後だと彼女への見方が変わるというか。

 ……いや、追及をしたいわけではない。触れないでおこう。

 それよりも、僕たちがここで向き合わなければならないのは、それぞれの表情で不安や興味を向けてきている、二人の子供たちだ。

 

「……キミたちが、“次”の勇者……?」

「……うん。そうだよ。えっと……ユーリさんに、クイールさん、だよね」

 

 中性的で柔らかい、しかし細くも確かな芯のある声。

 今にも世界に溶けてしまいそうな、儚げな姿ながら、その存在を形作るすべてが奇跡的に組み合わさって、決して崩れ去ることはない。

 まだ、どんな色も付いていない無垢な人のかたち。

 人のつくり、勇者のつくりなど詳しくない。だというのに、僕は目の前にいる二人を、何よりも“完全”だと認識していた。

 

「キリカ……っ」

「イヴ、大丈夫。僕たちの中の勇者の証が、この人たちが勇者であると告げている。だから、疑う必要なんてないよ」

 

 震えた声で縋る少女の手を握りながら、少年は僕たちを見上げる。

 勇者の証――きっとそれは、僕たちと同じもの。しかし、まだ個々のかたちに覚醒している訳ではない。

 旅に出たときの僕と同じ。まだどんなかたちになるかも分からない“たまご”の状態なのだろう。

 

「えっと……これ、外装解いた方が良いんでしょうか。僕たち、これだと顔が隠れたままですし」

「駄目。魔族がいるし――この二人も私たちに何もしないとは限らない」

 

 微妙な空気にもどかしくなったように、戸惑いがちにクイールが言うが、即座にリッカが制する。

 イルミナとコッペリア……二人が味方だと決まってはいないし、どれだけ敵意がなく、戦う力すらないように見えても、この子供たちを警戒しない選択肢はない。

 リッカの警戒は当然だ。まだ歩み寄るには、かれらのことを知らなさすぎる。

 

「……コッペリア。キミは……僕たちを、この子たちに引き合わせるつもりがあったの?」

「ええ。あなたたちの理想がこの城で潰えて、何もかも無になってしまうのなら、その必要はなかった。けれど――あなたたちの勝利を、ハッピーエンドを信じるからこそ、コッペはあなたたちを、この二人に会わせたかったの」

「……それは、なんのために?」

「――ふふ」

 

 その問いに、コッペリアはすぐに答えることはしなかった。

 ふわりと舞うように、二人の傍に寄って、その頬に手を伸ばし、撫でる。

 彼女はポルターガイスト。肉体をとうに失った霊体だ。

 しかし二人は、確かに撫でられているかのように、その手を受け入れる。些細な時間を過ごしただけでは絶対に芽生えない絆が、そこにはあった。

 微笑むコッペリアは、その儚い表情をそのままに、こちらに向けてきた。

 

「……あなたたちがその使命を終えたら、この子たちを任せたいの」

「え……?」

 

 その頼みを、彼女は当たり前のように躊躇いなく口にする。

 惜しい気持ちも、悲しいとも思わない。何故ならば、彼女はずっと前から、それを心に決めていたから。

 そしてまた、二人もその言葉に動揺は見せない。

 はじめから、そうなることを聞かせられていたかのように。

 

「……どういうこと?」

「勇者の使命が終われば、それ以降勇者は生まれないわ。あなたたちの代で“完成”しなかった場合に任じられる筈だった次の勇者も、それを自覚せずに生きることになる。あなたたちが、この風習が続くことを望まない限り、ね」

 

 そんなもの、望む筈がない。

 僕たちが魔王を倒す。それで、千年続いた戦いは終わりを告げる。

 だから、きっとこの世界のどこかにいる、“次の勇者”となるべき誰かは勇者にはならないし、目の前にいる二人もまた同じだ。

 

「そうなれば、最後の勇者となるこの子たちの存在意義も、必然的になくなるわ」

「っ、そんなこと……」

「ええ。だからといって生きていたら駄目? いいえ、いいえ、そんなことはないわ。生きていていいの。生まれた以上は、生きていてほしいの」

 

 かれらに求められている役割が具体的になんなのか。

 僕たちという犠牲を積み重ねた先で、魔王は結局何をしようとしているのか。

 それは分からないまでも、その目的を果たさせるつもりはない。

 しかし、そうなった時、使命そのものが失われたかれらは生きていてはいけないのか――いいや。かれらの生を、僕たちが否定する理由はないのだ。

 

「だから、使命を終えた先のあなたたちの人生に、この子たちも連れて行ってほしい。真っ白なこの子たちの人生に、色をつけてあげてほしいのよ」

 

 それは、創造者として、母として、友として――コッペリアが二人に向ける慈愛。

 そして、自分のもとから旅立って、幸せを知ってほしいという願いだった。

 

「……キミは? この子たちと一緒にいないってこと?」

「ええ。勇者を育てる、コッペのお役目はこれでおしまいよ」

 

 寂しいと思う気持ちは、ほんの少しだけ。

 それ以上に、ここが自身の使命の終点であると、コッペリアは割り切っていた。

 

「もしも勇者の使命が終わったら、勇者ではなく人として生きる。これは、ずぅっと前から、二人に言い聞かせてきたことよ。ね、イヴ、キリカ」

「うん。ユーリさんたちが魔王を討って、その使命を終わらせるのなら、僕たちが次の勇者となることもなくなる」

「そ、そうなったら……私たちは、自由だって……コッペは、言ってたから……」

 

 二人もまた、それを当然のように受け入れている。

 親しい相手と、それほど簡単に別れることを選べるのか。

 ……僕には無理だ。ここまで一緒に来たみんなとも、カルラとも――別れる判断など出来よう筈もない。

 そんな感慨を抱くほど、成熟していないのだろう。勇者の証だけではなく、その感情もまた、小さく幼いのだ。

 

「えっと……見て見ぬふりは出来ないですが、いきなり言われても……」

「そうね、分かってる。あなたたちにも家族や、日常がある。きっとあなたたちは、そこに帰るために頑張ってきたのよね」

 

 流石に、その嘆願は唐突で、すぐには頷けないものだった。

 クイールとも視線を交わすが、仮面の向こうの困惑した表情は、見なくても分かった。

 

「別に強要はしないわ。けれど、この子たちはきっと、あなたたちの人生も彩ってくれる。ええ、身勝手な頼みだってのは分かっている。それでも――」

 

 コッペリアたちの言葉に裏はなく、本心からの頼みであるとは理解できる。

 しかし、どうするべきかと考えて――答えを出す前に、その足音を聞いた。

 僕たちが下りてきた階段の途中から。突然実体が現れたかのように響き始める、金属交じりの足音。

 一歩一歩を踏みしめる音は、その存在らしからぬ焦りを感じさせた。

 

「――――」

 

 半透明な髑髏の如き面を持つ騎士、エコー。

 先ほどこの城に入る前に戦ったが、やはりあの時、倒し切ってはいなかったようだ。

 剣を構えつつも、髑髏の内、炎のように揺らめく目が――二人の子供たちに向けられた気がした。

 

「おや……エコー」

「――――その子たちから離れろ、勇者」

「ッ」

 

 イルミナが声をかけるも、一瞬たりともそちらに意識を移すことなく、騎士は斬りかかってくる。

 辺りを巻き込まないように魔剣で受け止め、弾き返すも、即座に体勢を立て直し、再度踏み込んできた。

 クイールが間に入ろうとするが……戦うにはこの部屋が狭すぎる。

 

「ちょ、ちょっと、こんな狭いところで……っ!」

「クイールっ、その子たちを守って!」

「は、はいっ――!」

 

 どうあれ、かれらを戦いに巻き込む訳にはいかない。

 騎士もまた、その意思はあるようだが……言動が一致していない。

 激しく打ち込んでくる剣は、受け止め方を誤れば辺りをすべて吹き飛ばしてしまうだろう。

 

「まずは、ここから追い出すよ、リッカ……!」

「ん――わかった」

 

 これでは戦おうにも制限が多い。

 まずは戦いやすい場所まで騎士を誘導する必要があるだろう。

 上の食堂ならば申し分ない。そこが――この騎士との決戦の場だ。




次回はイリス視点となります。
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