凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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カオスの先の未来へ/1

 

 

 望んだものほど、手に入れるのは難しい。

 それは、私たちのパーティの誰もが嫌というほど思い知っていた。

 聖都の民が当たり前のように享受する平凡な日常さえ、一度望んでしまえば、実現はいくつもの難行の先へと離れてしまう。

 かれらが手に入れたい日常。帰りたい当たり前。それに比べれば、私の悲願など大したものではないと、そう自分を安心させようと言い聞かせている節はあった。

 その認識自体は、間違いないかもしれない。私の終着点に辿り着くために、必ずしも魔王を討たなければならないとは限らないのだから。

 

 けれど――やはり、悲願だと思ってしまえば、遠いものだと。

 手を伸ばせば伸ばすほど、離れてしまうものだと。

 私は最後の最後に、それを痛感していた。

 

『カーバンクルコード、ドラゴンコード、レディ』

 

 周囲にばら撒いた、赤い宝石状の結晶。

 宝石とは古来より魔法において優秀な触媒となる。魔石と同様、豊富に魔力を蓄えた宝石を放り投げられれば、単発ながら強力な魔法の発現を警戒するだろう。

 だが、目の前の男はそれらには目もくれない。

 ただ真っ直ぐこちらを見据え、光の剣を振るってくるのみ。

 

「ッ、ぁあ――――!」

 

 目をかっ開いて、その斬撃の起こりを全力で認識し、体を動かす。

 何も特別ではない、ただの斬撃でさえ、まともに受ければ致命傷になり得る。

 一瞬一瞬に、いくつもの“死”が存在する。その攻撃の意味をまともに考えている余裕などない。そんなことに思考を割いていれば、こちらから攻めることさえままならなくなる。

 回避し、距離を開き、いくつも合わせてようやく一秒になる隙に、因子を呼び起こすためのコードを打ち込む。

 放った熱線は、彼に掠ることもなく躱されるが――その先にあるのは、ばら撒いた結晶の粒。

 それが、熱線の火の属性を強化し、反射する。そして、さらに別の結晶に飛び込んでいく。

 

「ふっ……!」

 

 放った時よりも、もっと触れてはならないものになった筈なのに。

 しかし、彼は対処に躊躇うことはない。多数の光の剣を発生させ、自身と熱線の間に次々と突き立てることで、あまりにも雑に即興の防壁を構築する。

 ああ――わかったよ。これも通じないというのなら、次だ。

 キミと違って、手札の枚数には自信があるんだ。

 

『モスコード、サラマンダーコード、レディ』

 

 広範囲に散布された、毒の鱗粉。

 並の量ではない。さながらそれは霧のように視界を薄っすらと覆っていく。

 彼が新たに、両手に剣を生成する。あの斬撃に振り払われてしまえば、あっという間にこの霧も吹き飛ばされてしまうだろう。

 だが、それよりも前に、一手打たせてもらう。

 引き金を再度引く。銃口から放つ息吹は、先ほどの熱線ほどの威力はなく、しかし燃え広がることに特化した炎だ。

 火球によって着火した魔蛾の鱗粉は、隣の粉に、また隣の粉にと、凄まじい勢いで熱を広げていく。

 

「ッ!」

 

 大部屋に満ちる爆発。

 その火炎の向こうに消えていく彼の姿を、しかし視力を強化して目で追い続ける。

 ただこの爆発に巻き込んで終わり、では駄目だ。もとよりこの程度、彼にとって大したダメージにはならない。

 そもそも……傷ついてほしいとも思っていない。私の目的は、もっと別のところにある。

 

「そこだ……!」

 

 外套に火鼠の力を浸透させ、火への耐性を付けた上で、爆発の内に飛び込む。

 熱さも衝撃も感じない。その向こうで手にしたいものを思えば――このくらい、なんでもない。

 辺りに光の障壁を構築して爆発を防いでいる彼を見据え、混沌にきらめく刃を引き出す。

 触れているだけで、自分が吞み込まれてしまいそうなほどに深い、混沌の海。

 ああ、望むところだ――使いこなして見せようじゃないか。

 

「リーテ――!」

 

 振り抜いた刃は、深く斬りつけることは出来なかった。

 しかし、その肌を浅く傷つける。私の執念、私の悲願を注ぎ込む。

 

 ――過去は薄れ行くもの。それでも、出会いは色褪せることなく、覚えている。

 

 取り立てて特別でもないはじまりだった。

 親同士で繋がりがあったのだ。たった一代の“やらかし”で今では見る影もないものの、私もかつてはそこそこの家格の令嬢だった。

 同じ年に生まれたエルフということで、当たり前のように私たちは引き合わされた。

 あの頃の私は人見知りで、家族以外の誰と喋ることもままならない小娘だった。

 そんな私の手を、彼は引いてくれたのだ。自己紹介だって済ませていないというのに、まるで親しい友のように。

 その時から、すべてが始まった。

 最初から彼にあらゆる信頼を向けていた訳ではない。警戒……というよりも不安から距離を置こうとする私に、彼は諦めずに付き合い続けてくれた。

 何故なのか、なんて知らない。今も私は、人付き合いは苦手だ。彼がどんな思いだったのかなんて、分かる筈もない。

 

「今のは……っ」

 

 甘く、苦い過去に浸ることも、今の状況では許されない。

 爆風に乗って軌道を変え、再度彼に接近するも、彼は反射的に剣を振るい、私の追撃を防ぐ。

 困惑や混乱は彼にとってそれほどの障害にはならない。如何な精神状態であろうとも、振るうべき剣に迷いは込められず、だからこそ完全無欠な『王剣』として在り続ける。

 ならば私は、それを崩す。変わってしまってから先のすべてを忘れてしまうことになっても、そこから前のすべてを思い出してもらうために。

 

「これは、俺の過去……? っ、待て、イリス! キミは一体何をしようとしている……っ!」

「うるさい、黙れ。すべてを思い出した訳じゃないんだろう? だったら大人しく、受け入れたまえよ!」

 

 我ながら、無茶苦茶なことを言っている。だが、自嘲さえ湧いてこない。

 それほどまでに必死だった。リーテに付け入る隙が出来たことで、もっと、もう少しと欲張ることで精一杯だった。

 そうだ――まだ一撃。たった一回だ。

 

「動くな、リーテ!」

「くっ……正気を失っているのか、キミは……!」

 

 ああ、そうかもしれない。今の一撃だけで脳がピリピリと痺れるくらいには、今の私は希望に浮かれているのだろう。

 ほんの少し、力を借りただけでこれだ。

 混沌の力というのは、一端だけであっても、私たちのような存在の手には余る。

 まだ数秒だというのに、思考を蕩かし、自分がどこかへ行ってしまいそうな浮遊感を覚えてしまう。

 その感覚に身を委ねてしまえば、さぞ最高の快楽が待っているのだろう。それは確信だった。

 

「言っただろう。狂気に堕ちたのなんか、何百年も前の話だ。キミを取り戻して、ようやく私は正気に戻れるんだ」

 

 だが、そこに浸る訳にはいかない。一瞬立ち止まればそこにある誘惑を振り切って、苦難の向こうへと手を伸ばす。

 ここで至上の悦びに堕ちてしまっては、なんの意味もない。

 私は――私たちは、明日の日常を、当たり前の些細な幸福を手にするために戦っているのだ。

 

「ッ」

 

 動揺に付け込み、退避しようとする彼の影を掴んで、また一秒を稼ぐ。

 そう来るとは思わなかったのだろう。目を見開き、対処に遅れの出た彼に向けて、ナイフとなったスティーライザを投げつける。

 簡単に直撃など叶わない。混沌の刃は、肩を軽く掠めるだけに留まった。

 いや、それでいいとも。たったそれだけでも、深い混沌は奇跡を起こし、失ったものを縫い合わせ――修補する。

 

「ぐ、ぅ……」

 

 刃でつけた傷から、私の記憶を注ぐ。彼との絆を、もう一度紡いでいく。

 向こうの家族と共に、聖都近くにある村のヒマワリ畑を見に行った日。明るい色は苦手だったのだが、あの日みた一面の真っ黄色には感動したものだ。

 私が彼に魔法を教えた日。日がな一日引き籠って、本や術式と向かい合っていた私の方が得意だったから、彼に基礎を教えてあげたのだっけ。

 初めて喧嘩をした日。鍛錬に打ち込み過ぎて、碌に休んでいなかった彼と、生まれて初めて本気の言い合いをした。

 取り戻したい日常は、いくらだって存在する。

 どれだけ過去になったとしても、振り返ればすぐに思い出せる、一つ一つが、今の私からすれば眩しすぎる記憶。

 

「……どれも、知らない記憶だ。だというのに、ひどく胸に馴染む。ならばこれは、本当に俺の過去なのだろう。俺とキミの間に、かつてあった出来事なのだろう」

「リーテ――」

「――だが」

「ッ!」

 

 彼の言葉に、ほんの僅かに気を緩め、次の瞬間振るわれた光の剣に、今度は私の対処が遅れた。

 咄嗟に身を翻し、被害は外套を切り裂かれるだけに留まるが、当然のように追撃が来る。

 私の真上に生成された剣が落ちてくるのをどうにか避け、床に突き刺さったことで飛び跳ねた瓦礫を、瞬時の判断で蹴り飛ばす。

 飛んで行った瓦礫が、先ほど投擲したスティーライザの引き金を叩き、入力しておいたコマンドを撃ち出した。

 そのコマンドを受け止めて、変質した体を全力で動かす。

 突き出された光の槍はギリギリ、横腹を掠め、さらに追撃の蹴りを叩き込まれ――しかし、とどめとばかりに降り注いだ剣の雨を、バンダースナッチの因子で身軽になった体で躱しきった。

 

「果たしてそれは、今必要なことなのか。俺を討つ以上に、そこに気を回すとは、ずいぶんと余裕があるな、イリス」

「ごほっ、づ……っ……」

 

 息を整えながらも駆けることでスティーライザを回収し、さらに因子を調整することで再生能力を確保する。

 槍が穿った横腹からは、焼けるような痛みが広がっている。

 外装の防御力も、彼からしてみれば紙切れか。まあ、それも当然だろう。

 この外装はあくまでも、私の因子の調整に特化させたもの。真正面からの殴り合いなど、想定していないのだから。

 

「俺は水の四天王。『王剣』のリーテリヴィアとしてここにいる。キミの幼馴染としてここにいる訳ではない」

 

 冷たく告げられる言葉に、仮面の内側で下唇を噛む。

 分かっている――分かっているとも。たとえすべての記憶を取り戻したとしても、彼はそこに分別をつけ、責務を全うする男だ。

 私がやっていることが成功したとして、問題を一つ解決しても、魔王の前に立ち塞がる最強の砦を打ち崩すことにはならない。

 

「それとも、失われた記憶すべてを思い出させれば戦意を喪失すると、キミはそう信じているのか。であれば止めるつもりもないが――まともに俺を倒すよりも、遥かに高い壁だな、それは」

「っ……」

 

 右手を輝かせ、再び光の剣を構築して、握り込む。

 すべてが変わってしまう前から持っていた、彼に発現した独自の属性。

 戦闘に特化した、騎士としてこれ以上ないほどに適したそれは、敵として相対した時、極めて厄介な力となる。

 武器として発現させるだけがその真髄ではない。あの力の本質は、もっと別のところにある。

 

「しかしながら、実力が不足していながら、そのような戦いを選ばれるというのは、あまりいい気分にはならないな」

 

 ――次の瞬間、空いた左手が向けられて。

 全力でその場を飛び退くも、強く瞬いた輝きが膝に突き刺さった。

 

「が……ぁ――!」

「俺の戦いを知りながら、あまりにも動きが悠長だ。先手を打てたからと、気を緩めたか?」

 

 狙えば必中の、光の矢。

 彼の思考の速度を超えない限り、逃れられないその一撃を今まで使わなかったのは手加減か。

 いや――それが、彼の正々堂々の形だったのだろう。

 であれば、今のは警告。ここ暫く見ていなかった、不機嫌な表情を浮かべる彼を見上げつつ、傷を再生させながら体勢を立て直す。

 

「イリス。キミが勇者たちのように、信念を持っているのならば、死力を尽くして俺という試練と向き合うがいい」

「……っ」

 

 そうでなければ、きっと――彼は、私の命さえ奪う。

 ここに立つ以上、彼は『王剣』。魔王の騎士として振る舞うし、私に手を抜くこともない。

 なれば、手段を選ぶなというのは当然なのだろう。

 私の願望を優先している余裕などない。そんなこと、理解している。

 

 ……だが、それでも。

 やはりまだ、諦めようという気には、なれなかった。

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