凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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バッドエンドは逃がさない/2

 

 

「妄執の……群れ……」

「ええ。ここまで成功してきたあなたたちでも、何かを後悔したことくらいはあるんじゃないかしら。こうしておけば良かった。この選択は間違いだったって」

 

 ……もちろん、ある。

 必ずしも戦わなくてもよかったかもしれない相手。もしかしたら心を通わせることも出来たのではないかという相手。

 犠牲が出た訳ではなくとも、最悪に近い選択肢を取ってしまった機会。

 ここに至るまでの道程は間違いではなかったと、信じることはできたとしても、後悔がほんの少しもなかった訳ではない。

 

「そんな後悔、無念、絶望……言ったでしょう? これまでの勇者たちの中には、そういう結末を迎えた子たちがいた。……ううん、大半が、そういう子たちだった」

 

 当然だ。そうでなければ、勇者の名は、生贄にも等しい称号にはなっていない。

 きっと、かれらの後悔は生半可なものではなかっただろう。しかし、それでも世界に影響を及ぼすほどの怨念にはならなかった。

 

「一人では、何を変えるにも足りない、世界にこびり付いた小さなシミ。それを、魔王様は意味があるものと信じて疑わなかった。一つ一つを取り零すことなく、確実に摘んでいった」

 

 この世界の千年間、僕やクイールの前――九十八人の勇者たちが抱いた心。

 それだけではない。僕たちの観測できない“もしも”でさえ、魔王は手を伸ばした。

 そして、ここにあるのは――エコーという騎士を構成しているのは、魔王が何らかの目的でそれらの感情を使った後の“残り物”。

 何十もの、あるいは何百、何千もの小さな小さな暗い心を集めた、怨念の騎士。

 キリカやイヴとはまた違う意味での……勇者という歴史の集大成なのか。

 

「……」

「……リッカ」

 

 勇者ではないサンプルも含めて、とコッペリアは言っていた。

 それはつまり、リッカの繰り返しもまた、そこに含まれているのだろう。

 かつての失敗の中にあった無数の後悔を、魔王は集めた。“何か”に使って、そしてやがて何でもなくなったものを、オドマオズマが騎士に流用した。

 

 ……彼の感情がごちゃごちゃで、どこを向いているか分からないのも当然だ。

 あれは個人ではない。誰でもなくなった無数の意思を、無念という方向性で統一させて、一種のアンデッドとして成立させているだけなのだから。

 そこまで僕たちが理解したのを見て取ったのだろう。

 コッペリアがキリカとイヴの頭を撫でながら微笑んだ。

 

「その無念の果てが、この子たち。キリカとイヴは、あの子たちの過ちがあったからこそ、ここにいる。であれば――この子たちが主役となる筈の使命が消えてしまったら、あの子たちの失敗には、意味さえなくなってしまう」

 

 だから――彼は、かれらはキリカとイヴを守ろうとしていて、僕たちが使命を果たすことを止めようとしている。

 かれらにとって、キリカとイヴが、次の勇者として成立することこそ、自分たちの終わりが無駄ではなかったと思わせるせめてもの救い。

 そのために、僕たちには、“同じ”になってもらわないと困るのか。

 

「勇者ユーリ。勇者クイール。あなたたちはどうする? あの子たちの妄執を感じて、何を選ぶ?」

 

 コッペリアは、何を選んでほしいとも言わず、僕たちに選択を促す。

 僅か――クイールと視線を交わした。

 選ぶべき道が、万が一にでも異なっていないということを確信するために。

 

「……エコーの……かれらの気持ちは分かった。けれど、それでも僕たちは、ここで立ち止まる気なんてない」

「お前……ッ!」

 

 やはり僕たちの決意は変わらない。それを聞いて、変わって良い筈がない。

 あの中にいるのがかつての勇者たちだけでなく、リッカの“いつか”も含まれているのなら、なおさらだ。

 

「僕はリッカと一緒に決意したんだ。もう立ち止まらない、諦めないって。過去のリッカが、過去の勇者が、今の僕たちを否定しても、僕たちが心を動かす訳にはいかないよ」

「……そっか。そうよね。そう言うに決まっている。いいえ、あなたたちは、そう言わなければならないわ」

 

 憤るエコーの一方で、コッペリアは悲しげながらも嬉しそうに頷いた。

 

「これまでのすべてを肯定し、そしてすべてを否定するために、あなたたちはここに来た。あらゆる躓き、絶望を受け入れて、世界の完成を拒絶する。だからこそコッペは、こんなにもあなたたちにきらめきを感じている」

 

 決して、エコーに渦巻くものを否定してはいない。だが、僕たちを否定することもない。

 眩しいものを見るように、コッペリアは目を細める。

 

「コッペリア――お前はどちらの味方だ。お前はその子たちを庇護しているのだろう。であれば、私とともに……」

()()()()。コッペの目は過去も今も、どちらの勇者も愛おしく映るわ。コッペにとって、過去は美しくて、今は眩しいものなの」

「……裏切るのか。裏切るのか、コッペリア! その子たちのために、私を、私たちを利用しながら!」

 

 髑髏の面を鷲掴み、苛立ちをあらわにしたエコーは、床を蹴ってコッペリアに迫る。

 迎え撃つことはしない。コッペリアはただ、キリカとイヴに促して、背後に下がらせた。

 振り下ろされた剣は霞を斬るように、途中に手応えを覚えないまま床に突き刺さる。

 斬撃の痕跡のようにそこに残る怨念がコッペリアを侵そうとするも、コッペリアは一つ、小さな溜息をつくと、広げた手のひらの内にそれを集めて、握り潰してしまった。

 

「あなたたちには怒る権利がある。みんなにとって、コッペはさぞ無責任でしょう? 自覚はあるわ。舞台に上がらず、誰かの指揮者、誰かの操り糸であり続けたのは、他でもないコッペの選択だもの」

「くっ、この……ぉ!」

 

 それまで以上に感情を出して、エコーはコッペリアを切り刻もうとする。

 しかし、刃はどれだけ振るわれても、彼女を脅かすことはない。

 噴き出した怨念も、コッペリアに害を及ぼす前に、彼女自身の指によって絡め取られてしまう。

 

「舞台に上がらない演者(ナレーター)。だからコッペは観客でも在れた。あなたたちの旅路に覚えた感動は嘘じゃないわ。……けれどね」

「……ユーリくん」

「うん。わかってる」

 

 勢いを増すエコーの剣。

 巻き込まないようにと、心の隅で意識しているようだが、あのままでは不意に二人を切り裂いてしまいかねない。

 息を合わせて、一気に踏み込む。

 僕たちがキリカを、クイールがイヴを抱えて、巻き込まれない程度の距離にまで離れる。

 それを、剣を受け流しながら、コッペリアはやはり目を細めて見ていた。

 

「ユーリさん――」

「く、クイールさんっ……? 別に、私たちは助けなくても……」

「危ないところを見ちゃっているんですから、助けない訳にもいきません。だって、僕たちは勇者ですから!」

 

 その通り――僕はクイールのように、字面通りの勇者を志しているつもりはないが。

 けれど、それでも目の前で危険が迫る者を、見て見ぬふりなんてできない。

 

「……ええ、そう。けれどね、エコー。長生き……いえ、“長死に”しているとね、生きているゆえの選択を、何より輝かしく思えるようになる」

「……何が言いたい、コッペリア」

 

 離れた場所に、二人を下ろす。

 そのまま魔剣を構えて、万が一もないようにする。

 僕たちの行動に、エコーは理解できないとでもいうように、苛立たしげに強く剣を握り込む。

 コッペリアはエコーの問いへの回答に、少しだけ時間をかけた。

 数秒の後、どこか恥ずかしそうに微笑んで、答える。

 

「あー……なんていうか。“推し”っていうのはね、変わっていくものなの。新しく、瑞々しく、若々しい、だからこそ純粋な、今を生きる勇者を尊重したくなるのは……うん。当然のことじゃあないかしら?」

「は……? ……お前は、一体何を言っている……?」

 

 ――僕たちも、理解が出来なかった。

 エコーの先ほどと同じような問いを、コッペリアは笑顔で黙殺する。

 言いたいこと、言うべきことはこれで言い終えた。

 自分が舞台に上がって口にする台詞はこれで終わりだとでも言うように。

 それ以上語るつもりはないことを悟ったのか、暫くコッペリアを睨みつけていたエコーは、諦めたようにこちらに向き直る。

 

「……いいや、どうでもいい。お前の性癖になど興味はない。お前がなんと言おうと、私はこの者たちを討つ。そうしたいのだ」

「それは止めないわ。あなたたちのことも否定はしない。コッペはこの場で、どちらにも手を貸さないから、行く末を見届けさせてちょうだい」

 

 ……結局のところ、エコーは僕たちを認めることができない。

 ならば、戦うしかないのだろう。僕たちとかれらは、決して相容れない存在なのだ。

 戦意を確かにする。僕たちは、かれらを否定しなければならない。

 未来へと進む――ハッピーエンドを掴み取る存在として。

 その決意を感じ取ってくれたのか、握り込んだ魔剣から、安堵の息が零れる。

 

『……ま、安心したわ。今更、過去に絆されるようなことがなくて』

「それはそうだよ。ここで勝手に諦めたら、ナディアにもイリスティーラにも申し訳が立たない」

『そうね。……なら、あんたたちのハッピーエンドのために、一つ助言をするけど』

 

 ラフィーナは僕の言葉に苦笑して、その後、どうしてか息を吞んでから、躊躇いがちに告げてきた。

 

『……気付いているかしら? イルミナ様が、部屋を出ていったわ』

 

 それを聞いて、思わず部屋を見渡す。

 クイールにエコー。コッペリア、キリカにイヴ。

 言われてみれば、イルミナの姿がない。戦いを見物しているものかと思っていたが、いつの間にか気配を消し、この部屋を出ていったのか。

 ……いや、そうだとしたら、一体どこに。

 

『向こう……あんたたちが入ってきた方よ。あんたたちの戦いはもう、殆ど心配ないからね。イルミナ様に注意を向けていたの……あの方が不意打ちなんてする筈ないとは思っていたけど、念のため、ね』

 

 僕たちが通ってきた扉。そちらに向かったということは……その先には、ナディアがいる。

 イルミナのことを、ラフィーナは心から信頼している。

 気にする必要はないと、僕もそう信じたい。

 だが……どうして今ここを離れたのかが、どうしても引っかかる。ラフィーナもそう思って、僕たちに教えてくれたのだろう。

 

「……さすがに、無視できませんね。あの場はナディアちゃんに任せてきましたけど、これは話が別です」

「うん。すぐに向かわないと――」

 

 杞憂であったのなら、それでいい。

 しかし、一度考えてしまうと、どうしても悪い予感を覚えてしまう。

 もしもなんてことがあってはいけないと踵を返す――当然ながら、簡単にそれを許すエコーではない。

 

「逃がすと思うか。どんな理由があろうと、私はここでお前たちを……」

「――うん。わかっています。あなたの相手だって、忘れていませんよ」

 

 先ほどのやり取りで、互いの意思は確認しあった。

 エコーを無視して戻ったとしても、かれらは追ってくるだろう。

 そうして更なる混沌を巻き起こすよりも、適切な“分担”というものがある。

 

「……任せていいんだよね、クイール」

「はい。あの騎士さんが、過去の想いの塊だっていうのなら、今の勇者で、過去の勇者でもある――僕が受け止めるべきなんです」

 

 そんな持論を、相変わらずクイールは、己の内に固く定める。

 こうなったクイールを動かすのは難しい。いいや――元より、止めるつもりもない。

 彼女が負けることなんてない。ここをクイールに任せていれば、僕たちも、集中して事に臨める。

 

「僕も負ける気はないですけど……ユーリくんも、リッカちゃんも、負けちゃ駄目ですよ。また後で、すぐに会いましょう」

「もちろん――ナディアと一緒に、すぐに戻ってくるよ」

 

 逃がすまいと迫るエコーの剣をクイールが受け止め、その間に駆け出す。

 

「……ユーリ、いい?」

「うん。考えすぎだったらいいんだけど……それでも」

 

 そして、リッカとも言葉を交わしあう。この後の、方針を定めるために。

 ラフィーナから話を聞いた時、頭に過ぎった最悪の可能性。

 リスクは大きい。だが、その“最悪”を防ぐための備え。

 考えすぎだと、無意味なものになってほしいと願いつつ――どうにも確信は消えない。

 

 だからこそ、僕たちはこの、クイールと離れるこの時。

 一つ、賭けの一手に打って出た。

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