凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
無数の妄執。無数の後悔。無数の殺意。
そういう、悪い気持ちが向けられていることは、肌を刺すような寒気で理解できる。
けれど僕には、それらの深くまでを理解することはできていなかった。
だって、僕はユーリくんではない。ユーリくんのように、誰かの気持ちに触れるような力は持っていない。
だから――こういう風に、肌でそれを感じてあげることが精一杯。
無数の憎悪。無数の憤怒。無数の疑問。無数の羨望。
一つ一つを推し量ることなんてできない。僕はそんな風に、誰かが感じた理不尽には寄り添えない。
それでも、剣を交えれば、その感情は伝わってくる。聖剣を通じて、痛いほどの感情が流れ込んでくる。
「くっ……これだけ数の差がありながら……っ、化け物め!」
「化け物じゃなくて、勇者です!」
騎士の攻撃は絶え間なく続く。
一つを捌けば、二つが振るわれる。二つを往なせば、四つが突き付けられる。四つを弾けば、八つが投げられる。
個々に大した価値はない、だからいくらでも使い潰せるし、こちらが一人である限り負けることはない。そんな勝機があるからこそ、かれらは動くことができる。
うん、確かに――これだけの数を相手に、防戦を続けていても、僕に勝ち目はない。
だからといって、僕は負ける訳にはいかない。守っているばかりで勝てないならば、攻めるだけ。
「やあああああああ――――!」
聖剣を振り回して、周囲の騎士たちを吹き飛ばし、跳躍。
上は空ではなく天井だ。この翼で翔けるには狭すぎるけれど、部屋全体を認識するのには十分だ。
騎士が何人いるか、なんて数えていられない。というか、部屋を埋め尽くそうとしてもなお増えている時点で、数えるだけ不毛なこと。
一つ、呼吸で気持ちを落ち着かせてから――天井を蹴る。翼を広げて、音を超える。
始点と定めた一人を切り裂き、その隣へ、その隣へと、呼吸よりも早く聖剣を振るっていく。
速度は緩めない。自分の感覚を、どこまでも加速する体に合わせ、光に近付く領域を感じたまま動き続ける。
「なっ――――」
なんていう驚愕の声が零れている間に、十、二十と鎧を砕いていく。
人の限界なんてとっくに超えた。それでも、僕という存在が悲鳴を上げることはない。
僕は勇者クイール、限界を超えることこそが、僕の在り方。
限界を超えたほんの一歩先で、自分が壊れないように適応する。適応できたならば、その一歩先にも行ける筈。そんな風に自分をごまかして、考えなしに前進を続ける。
なんだか、猪突猛進、単純思考だと言われている気がしないでもないけれど……どうあれ、僕にどうしようもないほど向いているのだから文句も言えない。
「それ! それそれそれ――!」
人間を超えて、魔族を超えて、生命に許された速度の向こう側へ。
そこは孤独の世界だ。けれど、寂しいなんてことはない。
ユーリくんたちなら――ついてきてって一つ頼めば、なんだかんだで追いついてくれると、そう信じられるから。
僕が初めて辿り着いたというだけ。みんなが辿り着けない筈がない。だからこそ、僕はここで、思い切り聖剣を振るうことができている。
百を斬る間に、増えるのは五十ほど。こうして翔け続ければ、あの騎士が周囲に存在を響かせて増える速度に勝てる。
「この私が……っ、圧倒されるというのか! こんなもの、人間業ではない……っ、勇者の業では――!」
「いいえ。勇者ならば、至れる力の一つです。僕の内の勇気が目覚めた力がこれなんですから!」
騎士たちの困惑に、言葉は返しつつも速度は緩めず。残る鎧をまとめて打ち砕く。
残るはたった一人。その騎士が魔力の粒子を零していることは理解しつつも、ひとまずそこで立ち止まって、聖剣を突きつけた。
「――勝負あり、ですかね。悪いですけど、僕たちは世界の完成とかいうのに興味はないんです」
「っ、それは、お前が……お前たちが何も知らないからだ。真実を知らない。絶望を知らない。如何に目を逸らそうとも、もうその時は、目前にまで迫っているっ」
敗北を恐れている様子は、かれらにはなかった。
かれらが恐れているのは自分たちの失敗が無為に終わることだっていうのは、ユーリくんでなくともわかる。
この騎士は、これまでの勇者たちの無念を集めたもの。
その結末が無駄になるよりは、魔王の目的が果たされて、自分たちに意味が生まれた方が良いと――そんな風に、後ろ向きに受け入れてしまった結果なのだろう。
「けれど、僕たちはここに辿り着きました。知らなくとも、阻止はできます。阻止しないといけないんです」
「……その希望もすぐに潰える。勇者とは、そういうものだ。すべては、世界のための
「ユーリくんも言ってました。希望を捨てて諦めるのは、諦めなきゃいけなくなった時でいいんです。だって……ここまで来たのに、あなたの言葉だけで諦めたら、それこそ、僕たちの旅はなんだったんだって話じゃないですか」
「それ、は……」
騎士たちも、理解できない訳ではない筈だ。
かれらは自身の行いが無為になることを恐れているが、それは僕たちだって同じこと。
その言葉を万が一にも受け入れてしまえば、ハッピーエンドを目指して歩んできた僕たちの旅路だって、なかったことになってしまう。
かれらだって、そういう旅路を歩んできた。自分こそはと足掻いて、足掻いて、足掻いて……けれど及ばなかった。
僕たちを否定しようとしていれど、僕たちの足掻きの意味を誰よりも理解しているのはかれらなのだ。
「それに、絶望を知らないって言いましたけど……僕たちだって、嫌になるほど苦しんできたんですよ。死んだ方がマシなほど苦しんで……でも、諦めたくなくて、必死に足掻いて、ここまでやってきたんです」
「お前たちも、だと……?」
「はい。だから、『ハッピーエンド同盟』なんです。苦痛と絶望の中でも諦めたくなかった僕たちが、拠り所としている希望の名前です」
今まで苦しい思いをしてこなかった者なんて、僕たちの中には一人もいない。
旅の中でも、旅より前でも、味わわなくとも良いことを味わって、知らなくても良いことを知ってきた。
普通なら、諦めて当たり前だ。僕にだってそのくらいの自覚はある。
諦めなかったのは――やっぱり、ユーリくんとリッカちゃんがいたから。
僕だけであれば、諦めてしまったかもしれないことだってあった。正直、僕の心なんて強くない。ここまで来るのに、一人だったら何度心が折れていたか分からない。
どれだけ危なくなっても、二人は諦めなかった。ナイトラクサで、死んでしまっても諦めなかった。
そんな二人に感化されてきたのだ、一人で諦めたり、一人で満足したり――そんなの、今更許されない。
「ハッピー、エンド……そんなものは……」
「なかったのは知ってます。だから、開拓するんじゃないですか! 誰も行き着かなかった場所に、僕たちが辿り着くんです!」
この先で何が待っていようと。どれだけ絶望的だろうと。魔王の目的が、何だったとしても。
それを打ち破らなければ僕たちのハッピーエンドには到達できないというのなら、全部突破して辿り着く。
ここまでずっと、僕たちは頑張ってきた。だから、そのくらい欲張りになったって良い筈なのだ。
「――やはり、認められない!」
「認められなくても、いいんです。だってこれは、僕たちの価値観なんですから」
聞こえてきた声は背後から。
辺りに散らばった粒子が、新しい騎士を造り出したことには気付いていた。その中の一人がゆっくりと近付き、剣を振り上げていたことも。
それよりも早く振り返って、騎士を切り裂く。
話し込んでいるうちにまたその数は随分と増えていたけれど、先ほどの人数には届いていない。
もう勝負はついているようなものだ。
かれらは――僕には勝てない。このまま続けていても、僕がどれだけ消耗するかの差しかない。
それでも……なおも騎士たちは、剣を下ろさない。僕たちの意地を、どうあってもへし折ろうとする。
その姿を見て――思わず、笑みが零れた。もちろん嘲りとかでは断じてない、感心とか、嬉しさの類だ。
「……なんだ。あなたたちもできるじゃないですか、諦めないこと」
「……何?」
この後もきっと戦いが待っている僕からすれば、歓迎できない事態ではあるけれど。
その不屈を無視したりはできない。かれらにも、僕たちと同じものは、確かに眠っていたのだ。
「この先でどうあっても僕たちが諦めるっていうのなら。僕たちの抵抗が無駄だっていうのなら。最初から僕たちを好きにさせておけば良かったんですよ。あの子たちに何かしようとしても、それも全部、無駄になる筈なんですから」
イヴちゃんとキリカくん――かれらが全力で守ろうとしていた二人の、最新の勇者。僕たちの後継者となる筈の子たち。
あの二人を連れ出そうとしたところで、なんの意味もない。
魔王がかれらを必要としているのなら、危害を加えないだろうし、僕たちの心が折れて、それでおしまいとなる筈だった。
けれど、騎士たちはあの子たちのために戦って、僕たちを諦めさせようと意地になって。
今もこうして、諦めようとしていない。
「けれど、あなたたちは僕たちを止めようとしている。負けたくないって思っている――諦めたくないって思っている」
「っ……下らない感傷だ。これは私に実装された機能に過ぎない。お前たちの悪足掻きと、関連性などないものだ」
「恥ずかしいことじゃないんだから、隠さなくていいんですよ。意地があっていいんです。負けそうなことに、腹が立って当然なんです。理不尽に対して、それでも、と言っていいんです」
もしかするとかれらの行き着いた絶望に、そういうものは通用しなかったのかもしれない。
まだ、諦めないという気持ちが成熟していなかったのかもしれない。
けれど、それで道理を覆す“芽”は、かれらにも芽生えている。
「それが勇気です。僕たちの誰もが持っている、きっと世界を変えるに足る力なんです」
「……勇気、だと……いいや、違う。私に、そんなものはない。その力に目覚める者などいなかった。私は……私たちは断じて、勇者などではない!」
かれらの不屈は確かなもの。それでも、この話は平行線だ。
僕にとっては勇者の在り方とは誇りある、自慢できるものだけど、かれらにとっては呪いでしかないのだから。
そうでなければ平穏な人生をまっとうできた。当たり前の幸せを過ごすことができた。
勇者としての使命が、すべてを奪っていった――誇りに思える筈がない。
だが、そうであるならば。
「きっとこれからは、誇れるものになりますよ。だって、僕たちの先輩なんですから」
「……先、輩? 何を……言っている……?」
「はい。先輩です。世界を変えて、初めて自分たちの望む幸せに辿り着く勇者たちの――どうです? なんか誇らしいとか、思っちゃいませんか?」
「……意味が分からん。お前の言動のすべてが、理解できん――!」
うん――おかしなことを言っているのは、分かっている。
けれど、かれらにだって、納得できる“未来”は必要だろう。
「考え方、ってやつですよ。僕たちは魔王の計画を阻みます。魔王が何を企んでいようと、僕たちのために戦います。だから、そんな僕たちの先輩だって考えた方が、ずっとお得なんですよ」
「……キリカ……クイールさん、何言ってるか、わかる……?」
「ううん……ちょっとよくわかんない……」
「あれ……?」
まさかイヴちゃんとキリカくんから言われるとは思っておらず、躓きかける。
ま、まあ……こういう、“勇者の価値観”というものは理解するのに時間がかかるかもしれないけれど。
それでも、そう思っていた方が、きっと気持ちいい。
絶望の、敗北の礎になるよりも、希望と勝利の未来へと繋がった方が、失敗の過去もずっと浮かばれる筈だ。
「……理解できない。やはり……お前の言葉は……」
頭を押さえ、呻く騎士。
そこまで難しいことだったかな、と思っていれば――
「――ッ!?」
突如、騎士は明後日の方向に目を向ける。
その先は、僕たちがやってきた食堂の入り口。先ほど、ユーリくんが出ていった先。
かれらはその先で何かを感じ取った。かれらにとって、あり得ざることを。
「ど、どうしたんですか……?」
「――魔力の供与が、断たれた。『天骸』が――オドマオズマが、消滅した」
――そしてそれは、僕たちにとっては、とびっきりの『勝利の報せ』だった。
本作は初期プロットの時点で、30分×50話の物語(冥界編除く)というふざけた構想をしていました。
後々の調整でいくらか変わった展開もありますが、概ねプロット通りに進行しております。
本話からは、初期プロットでいうと48話の内容になります。