凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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勇者たちのラプソディー/2

 

 

「……あら、ほんと」

 

 僕には、それが事実かどうか、はっきりとは分からない。

 だが、騎士の様子はそれまでと比べても異常で――そして、コッペリアもまた、それに同意した。

 

「この城の死の気配がどんどん薄れてる。アトラスの苗床も、完全に停止しちゃったみたい。まさかオドマオズマ様が死ぬなんてねぇ。いえ、最初っから死んでるのだけど」

 

 そうか……ナディアちゃんは勝ったんだ。

 まだ、それで安心とはいえない。もしかすると、ナディアちゃんの方に行ったユーリくんとの共闘の結果かもしれない。

 向こうに行ったというイルミナがどうなったかもわからない。

 けれどそれは、大きな一歩だ。ナディアちゃんはついに因縁の相手に勝つことができたのだ。

 ……いや、ちょっと待て。素直に喜んで良いのだろうか。

 コッペリアは、アトラスの苗床が停止したといっていた。もしかして、彼によって生み出されたアンデッドが影響を受けてしまうのではないか、と。

 

「待ってください――ナディアちゃんは? ナディアちゃんは無事なんですか!?」

「ぁぁ、そのこと? 安心なさい、無事だから。オドマオズマ様、あの子をすごく大事にしていたんだから。あの子だけは、オドマオズマ様が消えても、“生き続ける”ことができるわ――そういう、特別な加工をしていた筈よ」

「そ……そうなんですか……?」

 

 彼女が嘘を言っている様子はないけれど……それが本当か、僕には断言できない。

 こういう時、ユーリくんの力が羨ましくなる。ユーリくんなら、嘘かどうかすぐに見抜ける筈なのに。

 一つ、考えてしまえば、心配になる。ナディアちゃんたちは大丈夫なのかと、不安が膨らむ。

 踵を返してユーリくんを追いかけようかと思い、そこでようやく、騎士たちの――エコーの新たな異変に気付く。

 

「……っ」

 

 半透明な髑髏の顔が、自分の鎧姿を呆然と見下ろす。

 よく見れば、鎧の隙間から魔力のような……小さな粒が零れ始めていた。

 そうか……統一騎士(デュラハン)――かれらは、オドマオズマが作り出した魔族。アンデッドの一つだった。

 ナディアちゃんのことを心配していたけれど、かれらは、コッペリアのいう“特別な加工”をされていなかったのだろう。

 

「……そうか。こうなるのも当然だ。私はオドマオズマの作品に過ぎない。あの男が消えれば、私は解れる。当然の帰結、なのだろう」

 

 その結果が、これか。

 騎士を構成するものが解れていく。魔族として、仮初の命を繋いでいた契約が消滅し、その存在を維持できなくなっているのだ。

 辺りを見渡せば、分身の騎士はたちまち消えていく。目の前の騎士が本体なのかは分からないけれど……この場で最後に残るのは、その一人らしい。

 

「エコー……」

 

 イヴちゃんとキリカくんが、騎士に近付く。

 先ほどの、攻撃に巻き込みかけたことを責める様子はない。強制的に終わりへと向かう騎士を、純粋に心配していた。

 多分……コッペリアと同じ。あの二人にとって、エコーも家族のような存在だったのだろう。

 エコーは二人を一瞥して――何も声を掛けずに、こちらに向き直った。

 剣を引き摺って、騎士は少しずつ近付いてくる。もう、あの鎧の中には、満足に剣を持ち上げるほどの力も残っていないのかもしれない。

 

「……続き、やりますか?」

「……オドマオズマが消えた。私が、統一騎士(デュラハン)として、強制されていた役目も終わった。では、残る時間――この、僅かな時間で、私がやるべきことはなんなのか」

 

 騎士がやろうとしていることは、なんとなく伝わってきた。

 かれらの言っていたことは本心だ。結局、僕が足掻く意味なんて、何もないと感じている。

 けれど、こうして二人を守り、僕たちを妨害していたのはオドマオズマによって与えられた命令。騎士として、逆らうことなどできなかった。

 では、使命から解放されて、やりたいことは何か。それを理解できたことが、嬉しかった。

 

「こういうこと、直感でわかるタイプで良かったです」

「直進的かつ単細胞だな。こう決意したのは良いが、いささか不安になる」

「なんで今罵倒したんですか!?」

「いや……それで良いのだろう。今の私には……私たちには、その方がありがたい。あとどれだけ保つかも、分からんからな」

 

 むう……そういうことを言って、怒るに怒れなくするのはずるいと思う。もしかして、かれらの“本来”って、みんなちょっと性格が悪かったりするのだろうか。

 せっかく応じてあげようとしたのに、なんだかもやもやする。

 不満を表すように、聖剣からゼクセリオンを外して、外装を解く。積み重なりつつある疲労は無視できないけど……まだ大丈夫。

 解放感を味わいつつ、それでもとびっきりの不満顔を騎士に向ける。どうだ、気まずくなってしまえばいいんだ。

 

「……何のつもりだ?」

「別に侮ってる訳じゃないですよ。ただ、こうした方がいいなって思っただけです」

 

 もちろん、外装を纏ったままで応じても良かった。全力で、というならば、そちらの方が相応しかっただろう。

 けれど、きっと今、かれらと向き合う上で正しいのは、“こう”なのだ。

 

「僕はクイール。聖都出身の、九十九代目勇者。十年前に選ばれつつも、百代目勇者のユーリくんに道を譲らず、一緒に歩む、現在(イマ)の勇者です」

 

 聖剣を構えて、名乗りを上げる。そういえば、かれらにはこうして名乗っていなかったと思い出したのだ。

 

「……私はエコー。いつかの、どこかの、敗北の『残響』。私を構成するものは勇者だけではないのかもしれない。勇者を救わんとした誰かの、無数の失敗も含まれているのかもしれない。私の内には、お前のもしも(イフ)も含まれているのかもしれない。だが――」

 

 騎士はそれを静かに聞き入れてから、ギチギチと鎧を鳴らしつつ剣を持ち上げた。

 

「今は、先の時代の勇者の総意として、お前を試す。託す価値は、果たしてあるのか」

「はい――しっかり受け止めます。先輩の皆さん」

「――いくぞ、後輩」

 

 要はこれは、継承式。

 本来勇者にそんなものは存在しない。勇者が選ばれるのは十年に一度。

 旅に出てしまえば、生き残ることなんてできない。次の勇者が選ばれる時には、どうあっても前の勇者は生きていない。

 だから、こういう機会はすごく貴重なのだろう。

 僕よりも前の勇者として――僕と向き合ってくれる機会。千年なんて膨大な月日の後悔を受け止めて、引き継ぐ機会なんて。

 

「――――っぉおおお!」

「ッ!」

 

 叩きつけられる剣は重い。

 外装がないからとか、そういう理由ではない。実際の重さとは、また違う。

 そこに込められた意思が、何よりも一振りを強くしている。解れかけていても、まだその“妄念”は、晴れていないことを証明している。

 

「何故……私たちは、お前たちのようになれなかった。お前たちのように、前へ、前へと強く踏み出す力がなかった!」

「皆さんがっ……どこで間違ったのかは、わかりません。けれど、僕には仲間がいました。運にも助けられました。色々なものに助けられて、そして、確かな願いを持って、今、ここにいます!」

 

 剣をぶつけ合う。闇雲に振るわれる剣の一振り一振りから、数えきれないほどの感情が伝わってくる。

 ……うん。前言撤回。ユーリくんの力は持っていなくて良かったかも。

 これら一つ一つを感じないと、受け止めないとと思っていても、流石にこんなの許容オーバーだ。爆発しちゃうかもしれない。

 だから――できる範囲で感じ取る。剣を交えて、可能な限り受け止める。

 

「私たちだって、願いは持っていた。使命とやらの先で、生きたかった! 誰もが抱く当然の願いだ! 無様に死にたいなどと思った者など、一人もいない!」

「そうですよね――この世界は理不尽です。この使命は理不尽です! だから抗うって決めました! だって、そんなのに振り回されて終わるなんて、ムカつきますから!」

 

 壁にまで追い詰められて、負けるものかという気持ちが沸き上がる。

 思い切り壁を蹴ってかれらを押しのけて、意地を見せる。どうだ――あなたたちの後輩は、こんなにも強いぞ、と。

 

「何故、理不尽に抗える! 何故、前に進める! 何故、こんなにも強く在れる!」

「――勇者だからですっ!」

 

 一つ、また一つと剣をぶつけ合うたびに、かれらの存在は解れていく。

 まだだ。まだ、あと少しだけ、保ってもらわないと困る。

 納得してもらわないと。受け入れてもらわないと。誇りに思ってもらわないと。

 せめて、そうでもしないと――かれらは浮かばれない。

 

「勇者はもう、生贄の名前なんかじゃありません。これからは、世界を変える偉業を果たした者を示す称号になります!」

「変えてどうなる!」

「変わった結果、どうなるかなんて知りません! ただ僕たちは、僕たちのハッピーエンドのために、すべてを変えてしまうんです!」

 

 我儘だ。これは単なる我儘。理屈も何もあったものじゃない。

 魔王が何を企んでいようとも、僕たちは僕たちのためのそれを阻む。

 それぞれが思う、この先の平穏、この先の幸せを手に入れたいから――!

 

「……っ……、…………馬鹿らしいほど……ふざけた自我の強さだな」

「勇者ですから」

 

 限界を迎えたように、剣が落ちる。

 それを悟ることができたからこそ、僕はその時、防御を捨てて聖剣を突き出していた。

 パキリ、と乾いた音。ブレダリオンは、半透明な髑髏の額、そのど真ん中を貫いた。

 勝ったという確信と共に引き抜けば、騎士はその場に力なく膝をつく。

 

「……こんなものが、最後の勇者の在り方というのは、どうにも癪だが」

「そ、そんなにですか……?」

「ああ、正直呆れる。だが……だからこそ、良い意趣返しかもしれない。こんな他愛のない、ふざけた望みで、世界は変わるのか」

 

 悪態なしで認めることはできないのか、と思ったものの……騎士は、納得したような声色だった。

 なら、それでいいかとその言葉を引っ込める。

 きっと、これまでずっと不満だらけだっただろうから、癖のようなものだろう。

 

「もっと素直に託してくれていいんですよ」

「ふん。お前たちが勝ったところで、私たちが救われる訳ではない。私たちはここで消える。お前たちは進む。それだけだ」

 

 パラパラと鎧の内から零れる魔力は、徐々に多くなっていって、それと引き換えに騎士の存在感は薄れていく。

 そう、ここで僕に、かれらが何を託してくれたとしても、かれらの結末や運命が変わる訳ではない。

 では、この戦いは無意味だっただろうか。きっと――そうではない筈だ。

 

「……だが、私たちにとって呪いでしかないものを、お前たちが持っていく分には、止めはしない。無意味な重荷を背負って歩くお前たちを、物好きだと思うだけだ」

 

 そういって――かれらが手放したものに、僕はそっと手を伸ばす。

 本来、こんな風に形がある訳ではない。こんな風に、誰かに渡すことができる訳ではない。そんなことが出来ていれば、きっとかれらも苦しまなかった。

 受け取って初めて、なんとなく理解する。

 勇者同士であれば――こんな風に、証を継承することができるのだと。

 

「意味はありますよ。あなたたちの選択は、無駄じゃありません。僕がこの先で、きっと証明してみせます」

「……そうか。ならば、冥界で見物しているとしよう。大言壮語であれば、笑ってくれる」

 

 最後まで素直じゃない騎士は、僕たちから視線を外す。

 罅の広がる髑髏の面を震わせながら、イヴちゃんとキリカくんへと向ける。

 

「…………」

 

 何も言葉は出てこなかった。言葉を、選んでいる様子もなかった。

 最後に、躊躇いがちに伸ばされた手は、何も掴むことはなく、髑髏が砕け、残った首なしの鎧はその場に崩れ落ちる。

 ……悲しいとも思わなければ、達成感もない。僕の中にあるのは、毅然とした決意だけだ。

 ますます、負けられなくなった。これで何か失敗したら、どれだけ文句を言われるかも分からない。

 

「……そうだ」

 

 ここでの戦いは終わった。まずは、ユーリくんたちの様子を見に行かないと、と駆け出そうとして、先にかれらをどうにかしておいた方が良いと思い直す。

 これからどういう戦いになるのか分からないけれど、イヴちゃんとキリカくんに何も言わない訳にもいかない。

 

「――コッペさん。二人を連れて安全なところへ。さっきの部屋とかが安全なら、それでもいいので」

「あそこなら、上でどれだけ戦いがあっても平気だと思うけど……いえ、ちょっと待って。コッペ、勇者クイールに名前呼ばれてる……!? ぁ、待って、消えそう」

「まだ消えちゃダメです。ここにいたら危ないかもしれないので、二人には逃げてもらわないと」

 

 ハローネの町で最初にあった時と同じようなリアクション……さっきまでの雰囲気のままでいてくれた方が接しやすいのだけれど、あまり、それに突っ込んでいう時間もない。

 不安げな表情の二人と目線を合わせ、笑いかける。

 

「全部終わったら、ユーリくんたちと、みんなで迎えに行きます」

「……僕たちを、連れて行ってくれるの?」

「二人を放ってはおけないですもん。きっと、外の世界は楽しいですから、楽しみに待っていてください」

 

 尋ねてきたのはキリカくん。そして、僕の言葉に小さく頷いたのは、イヴちゃんだった。

 まだ酸いも甘いも、善いも悪いも知らない、純白の子。そんな子たちに、僕たちが何をしてあげられるかは分からない。

 けれど、かれらをここに置き去りにするなんて選択肢はない。ユーリくんだって、そういうに決まっている。

 だからそう、口約束を残して、二人に背を向ける。

 ハッピーエンドまで、まだやらなければならないことはある。

 誰一人欠けない盤石なしあわせを掴み取るために、あと少し、体に鞭打って頑張らないと。




『エコー』
【属性】■
【攻撃力】■■■■■■■
【防御力】■■■■■■■
【素早さ】■■■■■■■
【魔 力】■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■

【種族】デュラハン種
デュラハン――首なし騎士の存在は、かつてはそれなりに知られたものだった。
人が鎧を纏い、魔族と戦うのが珍しくない時代。末期のネシュアよりもさらに前の時代。魔族と人が戦い、人が人と戦う、戦乱の時代。
死因など、そう重要なものではない。実際のところ、そこにこびり付くべき怨念さえ、必要不可欠なものではない。
戦いの中で首を奪われた戦士。そこに、実体を持たない死霊のような魔族が憑くことで、デュラハンは成立していた。
現代においては、人が戦う時代ではない以上、デュラハンという存在は、世界のどこだろうと成立しない。遥か東の島国では武人の存在こそあれ、土地柄からかアンデッドが成立しにくい。
そういった時代に、アンデッドを支配する『天骸』は己の手駒……『統一騎士』として、この概念を蘇らせた。
その存在を反響させ、合わせ鏡の如く、際限なく己の虚像を投影させる、無数の無念の集合体だ。

【『残響』エコー】
勇者という風習は、魔王が世界を支配してから千年間、途切れることなく続いてきた文化である。
平穏に生き続けることの許されない使命を負って生まれ、然るべき年月に、自身が生贄であることを知る。
そこからのかれらの生き様に、碌な結末はなかった。町中にしろ自然の中にしろ、そのほぼすべてが魔族の脅威に敗れ、命を散らしてきた。
無様でしかない者もいた。誇りある者もいた。生まれ育った村にほど近い平野で食い散らされる者もいた。風の座す霊峰の裾野で力尽きる者もいた。夢魔によって干からびた者もいた。虫たちの苗床になった者もいた。
一人ひとりの勇者に付き纏う結末は、決して一つではない。鏡映しの向こう側には、絶望しかない選択肢がいくらでも存在する。
そこに『天骸』は着目した。正当ならざるもしも(イフ)を空想する着眼点を、魔王もまた肯定し、力を貸した。
失敗の数だけ虚像を生み、そして虚像が減れば、さらなる失敗を定義する。『統一騎士』は、この世界の不具合の化身とも呼ぶべき存在だ。
中には強い自我……あるいは妄念を持ったものもあった。そういったものはエコーという塊から零れ、世界そのものの不具合として定着する。
元になった死体のない死霊、個人を判別できない魂魄、誰が叫んだ音でもない残響……そういった、致命的ではないが、説明のつかない不具合として。

【コッペリアの評価】
「あの子たちの最期は救いじゃなかったけれど……納得できる結末にはなったのかしら。……お疲れ様、コッペの愛しい……ううん、なんでもないわ」

【リッカの評価】
「……何も思うことなんてない。いつか、どこかの失敗なんて――もう、省みないって決めたから」



『コッペリア』
【属性】土/死
【攻撃力】■
【防御力】■
【素早さ】■■■
【魔 力】■■■■■■■■■■
【精神力】■■■■■■■■■■■

【種族】ポルターガイスト種
ポルターガイストとは、低級の霊体魔族の一種である。
特段、魔族として成立するために確固たる精神や魂が必要な訳ではなく、元になった個人がいない場合も珍しくない。
ほんの些細ないたずら心の残滓が、偶然集まって成立する。大抵のポルターガイストとは、そんな存在である。
その力は小さく、数週間――短ければ、数日もすれば消えてしまう。そして、人に対して干渉できる力はなく、物体に働きかけて、浮かせる程度が関の山である。
性質上、町や村など、人の生存圏で発生する可能性が高いが、人に害は殆どないといえるだろう。
――ネシュア最盛期、とある派閥においてアンデッドに関する研究が行われていたことがある。
末期には既にその記録も大半が遺失していたものの、かれらは死後の自身を確約することで、死を超越しようとしていたという。
かれらの研究においては、自身の魂を魔族として保存するための精神鍛錬方法はある程度確立されていたとか。

【『七色人形劇団』コッペリア】
――“推し”。それが、彼女の原動力である。

そのポルターガイストにとって、人生……霊生の転機とは二度あった。
一度目は、勇者を造り、勇者を見守る役目を与えられた時。
自由気ままに世界を浮き遊ぶ彼女は、およそポルターガイストとして異例な存在。その異常性を、魔王は見出した。
魔王は彼女に、勇者を生み出すための工房の管理と、各地の教会における勇者の支援を任せた。それは、試練の運営を最たる使命とする四天王よりも大きな役割だった。
教会という、古き祝福の根付いた建物は、かつての役割を失っても多くの町に存在する。そのすべてに自身の人形を配置し、正常に稼働できるようにする。
それは、一人のポルターガイストが行使できる力を遥かに超えた領分。当然だ――祝福を前にすれば、ポルターガイストが物体を操る糸など容易く解れてしまうのだから。
だが、彼女にはそんな常識は通用しなかった。己が祝福に踏み入ることも、操る人形を配備することも、すべてを可能にした。
自身から巣立ち、そして絶望を前に足掻く勇者たち。かれらに対する、母性にも近しい強い感情が不可能を超える。そんな、冗談のような事象を、彼女は実現させたのだ。
勇者たちの苦悩のすべてが愛おしい。勇者たちの努力のすべてが愛おしい。勇者たちの奇跡のすべてが愛おしい。勇者たちの挫折のすべてが愛おしい。
かつて、彼女には子がいなかったという。彼女はその人生を人形に尽くし、そして人生だけでは不足していると感じた。
その、人形への愛は――死んで使命を得たことで、別の形に昇華されたのだろう。

ちなみに、彼女の転機は、勇者の使命が繰り返され、その風習が当たり前となってから。
勇者の使命とは関係のないある時、彼女はネシュアの跡地で、不思議な妖精たちと出会った。
自分とは特に、趣味が合う訳ではない。力には雲泥の差が存在する。しかし、美しい物語を是とする、魔王の支配する時代には珍しい価値観を持った者たち。

「凄いぞ、お前の力! なあ、あたしたちの劇に力を貸してくれないか!?」

ちょっとした暇潰しの気まぐれが、随分と長い付き合いになることを――この時のコッペリアは知らなかった。

【ユーリの評価】
「あの、変な癖さえなければ……ね」

【クイールの評価】
「あの、変な癖さえなければ……なんですけどねぇ」
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