凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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エルフたちのバラッド/1

 

 

 重苦しいほどの沈黙の中で空気が鳴るように、笑いが零れた。

 この場において、私やリーテが、リッカくんを茶化すように笑うことができる訳がない。

 

「ふ……ふっ、ふふ……」

 

 堪えるように、しかし隠そうという様子も見せず、リッカくんの宣言を受けたオリヴィエは胡散臭い笑みを深めた。

 

「……ハッピーエンド、ですか。青く、眩しい願いです。なるほど、それがあなたたちの原動力ですか」

 

 それは断じて、賛同や肯定の笑みではない。そうであれば――あの男が、この状況で現れる筈もない。

 心の底から馬鹿馬鹿しいと嘲笑う、邪悪なもの。

 いつかの私であれば、同じように彼女の希望を嗤っていたかもしれないが……今のあの男の笑みは、ひどく不快だ。

 

「――反吐が出る。一夜の肴にもなりはしない希望……よもや、そんなものに背中を押されてきたとは」

「別に、理解されようだなんて思っていない。むしろ、理解してほしくなんてない。オマエみたいな相手に理解されたら、私たちの理想が霞む」

 

 だが、そんなちっぽけな私の不快感など足元にも及ばないほどに、私たちを庇うように立つ彼女が抱いている怒りは強かった。

 これまでの旅を通して、私が見てきたリッカくんが抱いていた感情のどれとも違うもの。

 

 魔族に対する共通した恐怖。それだけではない。

 自身の目的を妨害する相手に対する敵意。それだけではない。

 真の信頼を向けられない味方に対する疑心。それとも違う。

 

「理解はできませんが、評価はしましょう。多くの敵を打ち倒し、ここまで至ったその結果は賞賛すべきものです」

 

 リッカくんの神経を逆撫でし、それを心から愉しむような物言い。

 しかし、リッカくんは動きはしない。ここまで歩んできた彼女が、この程度で判断を誤る筈もない。

 

「だからこそ――そんな小さな希望に縋っていたとは、なんとも意外です。もっと、大層な願いであったのなら、さぞ、へし折れた時の音は痛快だったでしょうに」

「なら、萎えて何処へでも行けばいい。オマエが逃げようっていうのなら、それをわざわざ追うほど今の私は暇じゃない」

「ふふ……随分と冗談に慣れていない様子だ。隙など見せれば、次の瞬間狙ってくるでしょうに。あなたの敵意を悟れないほど、私は鈍感ではありません」

 

 そして――その言葉とは裏腹に、リッカくんは目の前に現れたオリヴィエを逃がすつもりはない。

 リッカくんとオリヴィエに因縁があるとは聞いていない。この城に来る前の意識合わせでも、それらしい様子は見せていなかった。

 では、どうしてここに来て、私よりも強い怒りを募らせているのか。

 ……言うまでもない。いつか、彼とは違う彼が――リッカくんの旅を終わらせたのだろう。

 清廉で穏やかな、リーテの側近。そんな印象を覆す本性を、いつかのリッカくんは暴いたのだ。

 

「であれば、私がやるべきことはただ一つ。油断せず、あなたの小さな希望を砕くとしましょう。リーテリヴィア様は、その役割を果たすことができないようですので」

 

 そんなことは、あのオリヴィエにとって知る由もないこと。

 ただ、わざわざこの場に現れた以上、リッカくんは彼への報復を躊躇う気もない。

 それは、ハッピーエンドを何よりも追い求める、ユーリくんとリッカくんという、二人に共通する悲願ではない。

 リッカくんが抱き、そしてユーリくんが肯定した、復讐心の表れだ。

 だが……不安なのは、果たして勝てるのか、ということ。

 あれはリッカくんが個人で戦うための外装だ。この場にユーリくんはいない――恐らく別の場所で、まだ戦っているのだろう。

 彼女は強い。その力の権限はもちろん、戦うための気概も凄まじいものがある。それでも、体の弱さという、決定的な弱点を覆すことはできない。

 バラルバラーズとの戦いで初めて見せたあの力は、リッカくんの体に大きな負担をかける。

 あれからリッカくんの力はより強くなったが、だからこそ、戦うためにより大きな消耗を強いることになるだろう。

 

「っ……リッカくん、無理は……」

「大丈夫。あなたより無理はしないつもり。いいから休んでて……今更、あなたが死んだら困る」

 

 …………そう言われると、私も何も言えないが。どうにも、奇妙な感覚だ。

 こちらを向かないまでも、彼女が心から言っていることは理解できる。

 誰も欠けないと、約束したのだ。であれば私が今、この場ですべきは、致命傷が停止したこの機に可能な限り傷を癒すこと――リーテと共に、生き延びること。

 

「……問題ないさ、イリス」

「リーテ……?」

「彼女は強い。勇者のように、証を持つ訳ではなくとも……ハッピーエンドを掴むに相応しい力を持っているさ」

 

 ああ……本当に戻ってきてくれたのかと、リーテの笑みを見て、また実感する。そんな状況ではなくとも、それがどうしようもなく嬉しかった。

 ……あるいは、リッカくんは――今はそれを感じていれば良いと、言ってくれているのだろうか。

 彼女の気遣いか否か、不器用な私にははっきりしない。答えが出る前に……リッカくんは動き始めた。

 

「おっと……」

 

 一歩さえ踏み出す前。一息さえ零す前。

 リッカくんの黒い外装が瞬時にその場から消えたと思えば、オリヴィエに迫っていた。

 行動の起こりはない。いや、実際には存在していたものの、それを私たちは認識できない。

 リッカくんが動いた時間を、百分の一秒にも満たない密度に短縮して世界に出力する。それが、瞬間移動にも等しい挙動の正体。

 それに対処できるものはそういないと確信できるが――そういない、というだけだ。対策が皆無という訳ではない。

 

「なるほど、まるで時が止まっていたかのような素早さです。ですが……殺気があまりにも強い。それでは、あなたがどんな小細工をしたにせよ、私も対処“できてしまう”というものです」

「ッ……」

 

 オリヴィエはリッカくんの動きを見切らないままに、剣を動かし、リッカくんの杖先に形成された刃を受け止めていた。

 しかし、反撃を許すことはない。即座に姿を消したリッカくんはオリヴィエの背後に移動し、槍となった杖を振るう。

 

「抑える努力は認めましょう。ですが、意識をされていては同じこと。あなたはこれまで、感情を糧に戦ってきたのですね。であれば、即興で私が対処できないほどに抑えることは難しいでしょう」

 

 軽々に口を滑らせながらも、オリヴィエの剣の動きには無駄がない。

 速度はほぼ追いつけていないにも関わらず、最低限の動きを確実に実行することで、リッカくんの激しい連続攻撃のすべてを捌いている。

 恐らく……リッカくんも、攻撃において完全な時間停止は行えないのだろう。

 事象を引き起こすための時間はゼロにはできない。ほんの一瞬であれ動く機会があれば、オリヴィエはそれに対応できている。

 

「ふむ……?」

 

 その攻撃を止まないままに、リッカくんは自分たちの上方にいくつもの術式を展開させた。

 魔弾が雨のように降り注ぐ。かといってリッカくん自身の攻撃が止まる訳ではなく、魔弾と合わせたより過密な攻勢に仕上がった。

 あれは、私も対処するのは難しい。攻撃の数々の影響を少しでも防ぐべく、守りに徹するほかないだろう。

 だが、オリヴィエはそうではない。剣を持たない片手に魔力で障壁を作ることで盾として、降り注ぐ魔弾を逸らしつつ、あくまでも意識を向けるのはリッカくんの方だ。

 あれだけ苛烈に攻撃を受けていながら、彼はまるで脅威には感じていない。

 まるで、リッカくんの気力が尽きるのを待つように、攻撃の一つ一つを確実に防ぐだけ。

 

「随分と器用な人間だ。私でも捉えられないほどの速度で動き、武器を振るい、そして侮れない魔法を操る。あなたのようなことを他の者たちもできるのならば、ここまで辿り着いたことも、奇跡の連続に助けられただけではないのでしょう」

「――ッ」

「ですが、真正面から戦うすべを得るというのも、良いことばかりではない――経験と才の隔たりは、動きを歪にする」

 

 侮れない、というのは事実だ。彼は油断してはいない。

 全力で防御し、時間切れを待つばかり。その程度であれば、リッカくんを挑発する余裕もあるということか。

 

「……リーテ。ヤツはこんなにも強かったのか? こんなこと、キミでさえできないんじゃないかと思うんだが」

 

 はっきり言ってその技量は、私の想像を遥かに超えていた。

 果たして、こんなことが可能なのか。

 思わず傍にいるリーテに問いかければ、彼は一切戦いから目を逸らさずに、答えを返してくる。

 

「相手の意識を捉える手法は騎士としての基礎鍛錬に含まれる。上位の騎士ならば不可能ではない。……遊びが入っているとはいえ、オリヴィエが攻めに出られんとは。大したものだな、彼女は」

「……攻められない? あれだけ余裕があるのに、か?」

「余裕がある訳ではない。狙える隙があるならば、オリヴィエも突かずにはいられまい。現状を維持できる、というだけだ――だが、彼女を相手取るには、それで十分であるようだが」

 

 つまるところ――オリヴィエを相手に勝ちを拾うには、リッカくんではあと一歩足りないということ。

 時を操る強大な力を持っていても詰めることができないほんの一瞬のみで、オリヴィエはリッカくんに拮抗している。

 ……本当に、彼はリーテに劣る騎士なのだろうか。

 そうだとすれば、先ほどまでよくも私はリーテと戦うことができていたと……今更ながら恐ろしく思った。

 

「っ……っ……」

「リッカくん……づ、っ――!」

 

 攻め続けるリッカくんから、荒い吐息が零れる。

 彼女の体の限界の表れに、思わず手を伸ばそうとして、傷が広がりかけて激痛が走った。

 くそ……命を助けられたというのに、手助け一つままならない。歯痒い思いをしている私の一方で、やはりリーテに焦りは見られなかった。

 

「……心配するな、イリス」

「だけど、リーテ……! このままではリッカくんが……!」

「二人の力量差は大きくとも、精神力や気力で覆せる範囲だ。そうである以上――彼女は負けない」

「…………なんで彼女のことを知っている私よりも、勝利を確信できるんだい?」

「オリヴィエを知っているからだ。今の彼は、勝てる存在ではない。既に、彼の命運は尽きているということだよ」

 

 何を根拠に……とは、そこまで答える気はないらしい。だが、リーテに言葉を撤回する様子は見られない。

 確かに、今のオリヴィエは、聖都の民が知っている彼とは違う。

 少なくとも、民の間で憧憬を抱かれている彼の姿は、決して他者の努力を嗤わない理想的な騎士。リーテの副官として相応しいと言わざるを得ない、いけ好かない男だった。

 あのようにリッカくんを嘲り、その消耗を待つような存在ではない。

 てっきりその本性を隠していたのだろうと思っていたが……リーテの言い分からして、そうではないのか……?

 

「……っ」

「ただでさえ消耗の大きな戦い方をしていながら、それを受け付けるほど丈夫な訳でもない。……所詮これが、人間の限界です」

 

 そうしているうちに、リッカくんの攻勢は止んだ。

 オリヴィエは無傷ではないが、優位を保つために躱す必要もない攻撃を受け入れているだけ。

 数秒、治癒でも掛けていればすぐに治るものでしかない傷しか与えられないままに、リッカくんは肩で息をしつつ、一度距離を置いた。

 その姿を見て、オリヴィエは笑みを深める。

 ……嫌な笑みだ。仮にも名誉ある立場の筈の、聖都の騎士が、ああも下卑た笑みを浮かべるなど。

 

「勇者を引き連れず、単独でここに来た。それがあなたの末期の過ち。なに――まだ殺しはしませんよ。あなたには使い道があります」

 

 オリヴィエの笑みの意味、言葉の意味は理解できる。理解できてしまう。

 最早、体が動かなくても助けるしかあるまいと、激痛の中で、どうにか魔法を紡ごうとする。

 だが――誰よりも狼狽えるべきリッカくんが、異様に静かであることを疑問に思った。

 

「希望を断つなら、徹底的でなければならない。あるいは、生きていたことさえ後悔するほどの――」

「……知ってる」

「……なんですって?」

 

 息を整えていたリッカくんの声は、寒気がするほど静かだった。

 その消耗は決して偽りではない。だが、かといって今のリッカくんに手札がなくなった訳でもない。

 

「オマエの本性くらい、私はずっと昔から知っている。きっと、オマエが生まれるよりもずっと前から」

「……何を言い出すかと思えば、訳の分からないことを。あなたと知り合ったのは、『残響』の時が――」

「本当は私の手で仕留められれば一番だったけど……真面目な戦い方が私に向いていないなら、拘りはしない。どうせ私は、勇者じゃないし」

 

 小さな、ほんの小さな諦観を零して、即座にリッカくんは、その感情を捨て去った。

 理想の勝ち方をあっさりと手放し、そして意識を切り替える。

 

「――だから、ここからは、私らしくやらせてもらう」

「ッ――――!?」

 

 その瞬間、オリヴィエの上から落ちてきたものに、今更――そう、今更ながら怖気を覚えた。

 彼女の、そういう戦い方をここ暫く見ていなかったという理由もあるだろうが。

 ……いや、やはりいささか悪趣味だろう。私の目の前で、躊躇いなく触手の群れ(あれ)を呼び出すなど。

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