凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
再来週からはまた少しずつでも、更新頻度を上げていければ良いなと思います。
思うだけかもしれません。
「遅いですわよ。どうせなら、わたくしが泣いてしまう前に助けにくれば良かったものを」
「これでも全力で飛ばしてきたんだけど……なんで泣いてるの、ナディア」
「国家機密です」
「何それ……」
それらしい理由なんて思いつく筈もないから、雑にでっち上げたということを隠す様子もなく、ナディアは澄ました顔で言った。
部屋はあちこちに罅や血飛沫の痕が残り、この場で繰り広げられた戦いの激しさを物語っている。
そこに既に、オドマオズマはいない。彼の意識の気配を掴むこともできない。
つまるところ、勝利はナディアが掴み取ったのだろう。
だが、ナディアも決して無傷な訳ではない。右腕の、外装を構築していたデバイスには罅が入り、義手そのものも拉げて、内部からいくらかの回線が飛び出ている。
あれでは、外装を纏うこともできないだろう。急いで正解だったと安堵しつつ、飛び越えてきたイルミナに向き直る。
「……なるほど。パーティを組むことの利点、ですね。戦力を分散させることで、複数同時に発生した事態にも対応できると。私自身はともかく、“上”に気付いているのは予想外でしたが」
「リッカがもしかして、って思ったんだ。キミみたいな魔族なら、イリスティーラを一人だけ先に通したことについて、なんの企みも持っていない筈がないって」
既にリッカはイリスティーラのところに辿り着いているだろう。
向こうで何かが起きているならば、それに対処できるように――僕たちは別々に行動することを選んだ。
あてが外れれば、弱体化した状態で危険に飛び込む賭けだったが……リッカの疑念は、見事に的中したようだ。
「さすが、無数の修羅場を潜ってきただけのことはある。これで躍る心があれば、さぞ歓喜で満ちたでしょうに」
薄く微笑むイルミナは、しかしそれ以上に喜びというものを出力することはない。
怒りも、悲しみも皆無。自身の企みが失敗に終わったにも関わらず、ひどくフラットな状態で、彼女は僕と向き合っていた。
「オドマオズマ様の末路では、ついぞ私の舌が喜ぶことはありませんでした。妹様の悲壮も、古い味わいに過ぎません。いよいよもって、私が満たされることなどないのかと、そう思ってしまいますね」
「キミの事情は分からないけど、できることなら僕たちを巻き込まないでほしい。キミの言う通り、まだ上で事態が動いているんだ」
「ええ、知っています。『残響』が叫び、『湖面』が微睡む……そうでなくては。妄執、欲望……それに従ってこその命です」
それこそ魔族の本望だと、上で起きている状況を把握しているらしい物言い。
しかし、イルミナの表情筋は、無意識にも感情を映すことはない。
一切変わらない、彫像のような仏頂面のままだ。
「……その割には、少しも楽しそうじゃないんだね」
「言ったでしょう――ひどい不感症だと。怒りを識っている、悲しみを識っている、愉しみを識っている……だからこそ」
戦意の起こりはなかった。しかし、イルミナはその代わりに、剣の切っ先をこちらに向けてきた。
「だからこそ――満たされたい。最早未知しか味わえぬ舌、未知でしか膨れぬ腹……勇者ユーリ、あなたならば、あるいは」
その気がなく、この場を去るのであれば、無理に戦うつもりもなかった。
だが――戦意がないのに、“戦うつもり”を演じるように突きつけられる剣は、僕が背を向ければ次の瞬間それを貫いてくると断言できる。
口にする欲求さえ、本当に求めているのか定かではないイルミナ。
どうあれ、その目的を達するための出力先として、僕たちを妨害するならば、戦わない選択肢はない。
「私の望みに付き合う気もなく、しかし戦う選択を躊躇わない。希望だけを真っ直ぐに見つめ、その障害を殲滅せんとする。ああ……素晴らしい」
その構えは洗練されていた。まだ剣の高みなど程遠い僕でさえ、分かるほどに。
リーテリヴィアのそれとはまた違う。
彼とは正反対だ。精神を合わせて鍛えるのではない。剣を振るうためだけに最適化された、一つの生命体。
これほどまでに、何も込められていない剣などあり得るのかと、思わずにはいられない。
「勿体ない、その決意が実ってほしいという想いも、それを溶かし、啜りたいという想いもある……ふふ、なんてはしたない。それでも、この衝動には……」
言葉と感情が一致することはない。未だにイルミナの感情は、凪のまま。
衝動なんてないくせに、それを感じていると信じ込み、原動力につなげる。そういう類の、一種の精神集中。
ならば――来る。確信をもって、その場で魔剣を振るった。
「――突き動かされずには、いられない」
「ッ――――!」
誰の意図もなく、突風で飛んできた石を弾いたような、静かな一撃だった。
受け止めた剣と競り合うようなこともない。何故ならば、今の攻撃になんの感慨も持たず、イルミナは次の行動へと移っている。
流れるような動きで構えを変えたイルミナは、そのまま上段から剣を振り下ろしてくる。
その一撃は、直前のそれとは正反対の重さがあった。
まったく性質の異なる攻撃へと、ここまでシームレスに移行できるのかという驚愕の後、その重い一振りは、ともすれば躱せるほどに緩慢としたものだったことに気付く。
「――――――――ッ」
こちらに踏み込んできたあの速度を持つ者が、受け止められると分かっていながら、意味もなく動きを鈍らせる理由などない。
ならばその目的は一つだと、目の前に魔力を迸らせて咄嗟の障壁とする。
視界が一瞬奪われるが、その直後、形成した障壁に尋常ならざる衝撃が叩きつけられた。
「静から動への転換。アリスアドラ様に勝利した以上、これを学んでいることは当然でしたね。たいてい、戦いの最中に私がこういう手段をとると、驚かれるものですが」
「……アリスアドラと同じことをしてくるとは、思わなかったけどね」
その場に落ちた剣は、イルミナの手から離れたことでかたちを維持できなくなったように朽ちていく。
それを気にすることもなく、彼女は障壁に叩きつけていた拳を引っ込めて、一度距離を置いた。
緩慢な動きと急な攻撃を切り替えることで思考の不意を突く技術。
アリスアドラから僕たちにも齎された技術は、ラフィーナも知っているものだった。
イルミナの拳にはアリスアドラほどの鋭さはないものの……この外装で問題なく防ぎきれる確証はない。
ゆえに、それを警戒して防御姿勢を取ったが、まさか剣を捨ててまで攻撃を行ってくるとは。
「……? ああ……剣を離してしまいました。私としたことが、いささか夢中になってしまったようです」
とはいえ――それがイルミナにとっても想定外だったとしても、攻めるべき隙にはならないか。
空っぽになった手を見下ろしたイルミナは、不意に手を己の腹に当てると――ずぶり、とその内に沈み込ませた。
『なっ……!?』
思わず声を上げたラフィーナに、イルミナはごく僅か、首を傾げてから、納得するように頷いた。
「そういえば、ラフィーナにこれを見せるのは初めてでしたっけ。何のことはありません。昔の“やんちゃ”の名残というもので……腹に色々と収まっているのですよ」
恥に思うように、はにかむ表情を出力しながら引き抜かれた手には、先ほど朽ちたものとよく似た剣が握り込まれていた。
しかし、先の一振りとまるで異なるのは、その剣に染み込んだ膨大な魔力。
名前のある業物とは思えないのに、剣は異様な存在感を放っていた。
「ほら、鞄や家の内を拡張する技術があるでしょう? あれと同じです。品がないのは自覚していますが……便利なのですよね。狂っているでしょう?」
『……いいえ。驚きはしましたが、合理的なイルミナ様らしい行いだと思います。それに……もっと狂ったヤツと、それなりに付き合ってきましたから』
己の内に、別の何かを収める空間を定義する。発想としては、リッカのそれと大きく変わらないのだろう。
まさか、ここまで頼りにしてきた力と似たものと、戦うことになるなんて。
「……まあ。本当に、不思議な旅をしてきたのですね、ラフィーナ。不思議で、有意義で……きっと、素敵な旅だったのでしょう」
『…………否定はしません。ものすごく、癪ですが』
「……ふふ」
心底から不本意だという声色で肯定したラフィーナに――ほんの一瞬、小さく、イルミナの感情が動いた。
しかし、それを彼女が自覚することはない。もしかすると、気付いたのは僕だけなのかもしれない。
ともかく――警戒すべきはあの剣だ。
魔族の内部ということは、生成された魔力に直に浸っているということ。
ただの剣であったとしても、長い年月、魔力の中心にあれば、何をせずとも染み込んでいく。
あの、魔剣ともいえない一振りは、その産物なのだろう。
「ラフィーナの生真面目さは美点ではありましたが……それで喜びや楽しみを損なっては良くないと思っていましたから。感謝します、勇者ユーリ」
「感謝されるようなことじゃないよ。寧ろラフィーナに、僕たちが助けられているんだから」
『ああもう、私の話はいいから! 気を引き締めなさいユーリ! 腑抜けていて勝てる相手じゃないんだからね!』
それもそうだ――イルミナにこちらを油断させる意図がないのだとしても、気を抜いて話をすべき相手ではない。
どうあれ、何かしらの思惑でナディアに剣を向けようとしたのは間違いないのだ。
ラフィーナもイルミナへの敬意はそのままに、警戒を強めている。
感情や戦意の発露で攻撃の兆しが掴めないということは、何がきっかけになるか分からないということ。
つまり――今こうして話をしている間にも斬りかかってくる可能性もある。
「なるほど、なるほど。実に微笑ましく、羨ましい。私も、あなたにもっと早く出会っておくべきだったかもしれません」
「ッ!」
次の瞬間、振るわれた剣が唸りを上げる。
ただの風圧ではない。魔力を伴った暴風が嵐のように、叩きつけられる。
「く、うぅ……っ!」
攻撃でもなんでもない。ただ、剣の調子を確かめるように振っただけ。
それだけで、溜め込まれた膨大な魔力が解放されたのだ。
「やはり、あなたは良い人間です。そんなあなたと、私も全力で戦いたい。ああ……これは欲求なのでしょうか。久しく忘れていた感覚です」
堰を切ったように流れ出した魔力で、剣が歪む。
だが、その威力はただの剣に耐えられるものではない。なおも剣が砕けていないのは、イルミナが魔法で維持しているのだろう。
「あなたならあるいは……私を満たしてくれるかもしれない。いいえ――」
魔剣を構え直す。足に力を入れて、吹き飛ばされないように――ナディアにまで被害が行かないように、しっかりと立つ。
「どうか、私を満たしてください、勇者ユーリ」
そんな、抑揚のない要求の直後の接近を確信し、イルミナに立ち向かうように踏み込む。
振るわれた剣を受け止めて、全身が震えるような衝撃に耐えながら、反撃のために魔力を滾らせる。
「いくよ、ラフィーナ!」
『ええ――全力でやりなさいっ!』
ラフィーナにとってこれは、本当ならば避けたかった戦いだということは分かっている。
それでも、戦う選択肢を選んでくれた。ならば僕は、ラフィーナの決意に応えるしかない。
『アドラ・エクスラッシュ!』
魔剣で引き出せる最大威力でもって、イルミナの剣が放つ魔力を迎撃する。
至近距離で二つの魔力の嵐がぶつかり合い、あっという間に二振り目の剣が役目を果たして朽ちていく。
それに感慨さえ見せずに、イルミナは己の内から三本目を取り出す。
僕たちとはまた違う、“無茶苦茶な戦い”を可能とする魔族。
そんな相手を前にして、リッカのいない状況――それでも、リッカは僕を信じて、独りで動くことを選んだのだ。
ならば、僕がこんなところで負ける訳にはいかないだろう。