凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
これまでに経験したことのない、めちゃくちゃな戦いだった。
吹き荒れる魔力の嵐はバラルバラーズのそれを思い出すが、それと異なるのは、今回の戦いは互いの出せる火力をぶつけ合っての結果だということ。
別に、そうしたい訳ではない。そうしなければ、イルミナの攻撃を迎撃しきれないのだ。
「素晴らしい。これに付き合ってくれる人間がいるなどとは、思いもしませんでした」
「ユーリ! 次、来ますわよ!」
「わかって――るっ!」
再び振り抜かれた剣。巻き起こる魔力の暴風に対して、銃砲形態へと切り替えた魔剣の引き金を引く。
殺傷力を伴わないほどにまで威力の軽減した風圧に乗って部屋の反対側まで跳びつつ、姿勢を整える。
ある程度慣れてきたとはいえ、やはり片手で扱うには、魔剣の反動は大きい。しかし、ナディアを抱えながら戦うには、こうするしかない。
この部屋のどこにいようと、この戦いを続けていればナディアを巻き込まずにはいられない。これが唯一、ナディアを守れる手段だが――このままでは限界も遠くない。
『まさか……っ、イルミナ様がこんな戦い方をするなんて――』
「おや……もしかすると、こちらを望んでいるのでしょうか」
ラフィーナが想定外だと声を零したのが聞こえたのか、イルミナは振り上げていた剣を突如手放したかと思えば、己の腹から新たな一本を取り出す。
何を――と怪訝に思った直後、その姿が眼前にまで迫ってきて。
「っ!?」
それまでの大雑把なものとは違う、精錬にして迅速な、“剣術らしい”剣。
魔剣での防御は間に合わない。その瞬間にできることは一つだった。
切り裂かれようとした外装の一部に咄嗟に魔力を込めて爆発させることで、斬撃の勢いを削ぎつつ、その推進に乗ってイルミナから飛び退く。
「熱っ――! ユーリ、わたくしを巻き込んでいることを忘れてますの!?」
「そんなこと言ったって!」
距離を取りつつ、体勢を立て直す。パージした外装は徐々に修復されていくものの、その修復速度は魔族のように迅速な訳ではない。
この位置を二度狙われれば、次の瞬間、決着はついてしまうだろう。
「勇者と戦うことがあれば、こちらで戦えば良いとは思っていましたが……あなたたちの活躍を耳にして、気分が変わったのですよ。この方が、最後の戦いに相応しいのではないかと」
……対応方法のまったく異なる、二つの戦法を切り替える剣士……いや、そうではないか。
ラフィーナが驚愕したように、イルミナが他者の前で振るってきた剣というのは、今の一撃のような――正確で素早いものなのだろう。
だが、彼女の本質は、この大部屋でさえ狭いと感じさせるような無茶苦茶な戦い方。
正確な剣術であれば、リーテリヴィアで経験はあった。ある程度、戦法を共通させることもできただろう。
戦いにくい、と歯噛みするが……弱音を吐いてなどいられない。
無茶苦茶だろうがなんだろうが、越えなければならない相手だ。
「まあ……無理に、とは言いませんが。このように振るう剣は、品がないでしょう? せっかくここまで来たんですもの――獣と戦うよりは、剣士と戦った方が、あなたたちの相手としては相応しいとは思いますし」
そんな風に遠慮して、剣を構え直すイルミナ。
戦いやすくなるのは確かだろう。だが――つまりそれは、彼女からすれば手加減した状態だということ。
「……別に構わないよ。僕は、どっちでも」
「はい……?」
目立った感情の変動のないイルミナではあるが、その状態に僅かな不満を覚えたことを、察することは出来た。
それに同情した訳ではない。そもそも、彼女は敵であるし……この場にやってきて、ナディアに対して剣を向けていたことから、僕たちの知らない本性があることは確実だろう。
だからこそ、それを理解するためにも、全力を向けてこられた方が分かりやすい。僕は、そういう勇者だ。
「キミの好きなように戦えばいい。何をしてきたとしても、僕はそれを超えてキミを倒す。それくらいできないと、魔王には届かない」
上でみんながそれぞれ戦っている。ならば、ここを任された僕が情けない姿を見せる訳にはいかない。
イルミナの全力に、こちらの全力をぶつけて上回る。
今ここで求められているのがその結果であるならば、それを勝ち取るしかないだろう。
「そういう訳だから……ごめん、ラフィーナ」
ラフィーナが尊敬する存在の、“らしくない”姿を見ることになる。
僕自身がその選択をしたことに若干の負い目を覚えて謝罪すれば、ラフィーナは魔剣の内で僅かに唸った。
『……なんの謝罪よ、それは……気を付けなさいよ。あんたがそれを選ぶんなら、多分……この戦いは、私の事前知識なんて、まるで役に立たないから』
きっと、決して短い関係だった訳ではないのだろう。
少なくとも、僕たちとの関係よりは、ずっと長い筈だ。この旅は、たった一年間のことなのだから。
そんな中でラフィーナが見てきた、イルミナの剣。その“理想”を彼女に演じさせたまま戦うことを拒否したのだ。
そしてその上で――僕はラフィーナに付き合わせようとしている。イルミナを倒すための戦いに。
「わかってる――それでも、手を貸してほしい。ラフィーナが支えてくれるなら、負ける気がしない」
紛れもない本心。
僕は独りでは戦えない勇者だ。常にだれかに助けられて、今、ここに立っている。
それを恥とは思わない。今更、“つながり”を力とすることを、恥に思う筈がない。
だから――ここまで僕たちをずっと助けてくれたラフィーナが助けてくれるならば、勝てる。そんな確信をもって、笑ってみせる。
『…………ああもう。地味に情けないこと言ってんじゃないわよ。……いくわよ、ユーリ。精々、頼りにしていなさい』
「もちろん。いくよ、ラフィーナ」
「わたくしを抱えながらイチャつかないでくれませんか」
浮ついていたつもりはないのだが……ナディアが窘めてきたことで、気を引き締め直す。
そんな僕たちを見て、イルミナは――目を細めて、笑っていた。
「――――――――あは」
「……ッ」
少なくとも、その時の声は、決して意識して零したものではなかった。
だが、確かな歓喜を――この瞬間、イルミナは初めて露わにした。
尋常ならざる感情を膨れ上がらせ、そして波のように引いていく。本人が噛み締める前に冷えていく。
「私の浅ましい獣性を、肯定してくださると。私とはどこまでも敵同士、相互理解の必要性など、ないというのに……」
それをイルミナが惜しむことはない。何故ならば、ここから先に、これ以上の喜悦を確信しているから。
「たった一言……言葉を受けただけで広がったこの味わい。なるほど、これが、世界の理に抗わんとする勇者の姿……かつて啜った勇者とは何もかもが違う、変革の才……」
『……イルミナ、様?』
「素晴らしい出会いをしましたね、ラフィーナ。そして、あなたは私に素晴らしい出会いを齎してくれた。勇者ユーリ、ともすれば、あなたは……」
一体何が、イルミナを刺激したのかなど分からない。
だが――来る、というのは確信だった。
咄嗟に魔剣に魔力を込める。剣を振り上げたのは、ほとんど同時。
「私にきっと……至高の美味を、与えてくれる――――!」
叩きつけられた魔力を、魔剣の一振りで相殺する。ラフィーナがぴたりと合わせてくれたことにより、片手でその勢いを受け止めることにも成功した。
今度は、僕の方から踏み込む。相手の攻め方が分かったならば、戦い方を変えればいい。
イルミナの魔力に浸った剣は、振り抜かれることで僕たちにとって都合の悪い威力を発揮する。
これを受け続け、そのまま戦うのはのは難しい。勝利を掴むならば、こちらから攻めるしかない。
『ユーリ! そのまま出力全開を維持しなさい! どうせリッカの魔力は無尽蔵よ、気にしなくていいわ!』
「っ……わかった!」
「ああ……それでこそっ」
必殺技に相当する魔力を常に滾らせて、イルミナに叩きつける。
イルミナの剣が振るわれる前にそれ以上の威力をぶつけて制圧する。
「何度でも言いましょう、あなたたちは素晴らしい――私の内に火が灯るのはいつ以来でしょう。久しく忘れていたこの感覚。ふふ……そうでした、私にも、一端の欲があったのでした」
だが、イルミナを追い込めている感覚はない。
魔剣を叩きつけ、内側から解き放たれる魔力との衝突に耐えきれず、次々に彼女の剣は砕けていく。
しかしその度に、一切の隙もなく己の腹から次の一振りを取り出し、僕たちに対抗する。
イルミナの口が自然と弧を描く。封じられていた感情が呼び起こされ、そしてそれに従い体を動かす。
「あなたたちのような者に溢れていれば、きっと私も、こうはならなかったのでしょうが……この一時を味わうための不感であったのならば納得がいく。アリスアドラ様の横暴も、今ならば受け入れられる!」
『アリスアドラ様の……?』
「ええ――ええ! ラフィーナ、あなたも知っているでしょう。アリスアドラ様の共感が、どれだけ横暴で、独善的なものか!」
剣を片手に持ち替え、空いた左手で二本目の剣を握り込むイルミナ。
手数を増やそうとする彼女の攻撃の起こりを、炎を纏わせた右足で蹴り込むことで封じ込める。
さらなる追撃は叶わない。突如としてイルミナの腹部が縦に開かれ、そこから飛び出した剣を受け止めざるを得なくなったのだ。
『ッ……!? い、イルミナ様……? その、お腹は……!?』
開いた腹の奥は空洞。内に無数の牙が並び、粘つく半透明な液体を滴らせるさまは、まるで第二の口であるかのようだった。
「かつての私の名残です。ああ……別に私が、別の怪物との間の仔であった訳ではありませんよ。私は純粋なサキュバスです。壊れていたのは、私自身でしかなかったのですから」
内の牙が蠢く。零れ落ちた剣を掴み取り――それにくっついて、一緒に何かが零れ落ちてきた。
かつての形がなんだったかのかも分からない、粘液塗れの小さな肉片。
イルミナの魔力で維持されていたらしいそれは、外に零れ落ちたと同時、灰のように崩れていった。
「やはり餓えた身である方が、よほど私らしい。もはや退屈しかないこの世界で、この感覚を思い出させてくれたこと、心から感謝します。ゆえに――」
言葉の最中に、ようやく掴むことができたイルミナの戦意を受けて、もう一度踏み込む。
イルミナの一振りに対して、先手を打ったと思った直後――その手応えのなさに違和感を覚える。
砕け散る剣は、魔剣が巻き起こした魔力を受け止めない。
その魔力の嵐で傷つきながらも、イルミナはこちらに飛び込んできた。
「なっ……!」
「――あなたたちを、喰らい尽くしたい……っ!」
僕たちに対する不意打ちの意思などない。砕けた剣を補充せず、徒手のまま踏み込んできたイルミナは、喜悦の表情のまま――魔剣に噛みついた。
何を、とその意図を把握するよりも前に、バキリ、と乾いた音が鳴る。
ほんのごく一部ではあるが……イルミナが魔剣の刃を喰った、と理解するのに、少しの時間を有した。
僕も、ナディアも、ラフィーナも言葉を失い、イルミナが刃の破片を咀嚼するさまを見ているしかなかった。
「……ふふ。実に味わい深い。後悔と憎悪を鍛ち、希望と成す……その矛盾を受け入れてここまでやってきた旅路……この味から目を背けることなど、サキュバスである私ができましょうか」
『……い……イルミナ、様……』
当然のように、口内を傷つけたのだろう。
口元から零れる血を舐め取って、イルミナは沸き上がる衝動を、こちらに向けてくる。
「すみません、ラフィーナ。ですが私も、抗えないのです。私の知らない希望……そのすべてを貪りたいという欲求に」
――その瞳の奥には、見たことのないほど深い欲望が蠢いていた。