凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法   作:けっぺん

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サキュバスたちのセレナーデ/4

 

 

 別に私は、自分の在り方を間違いだと思ったことはない。

 異常ではあったのだろう。だが、それはあくまでも、他のサキュバスよりも少しだけ“食欲旺盛”であったというだけ。私自身の、個性の範囲だという認識だった。

 だからこそ、恥に思うことも、迷いを抱くこともなく、他者のすべてを喰らっていた。

 

 

「た……たすけて……もう、でない、から……」

 

 

 不思議なことを言う。そこで止めたところで、助かる道理もないというのに。

 供された人間を啜りながら、私はいつも首を傾げていた。

 ここに来た時点で、命運など決定している。であれば、最後の最後まで快楽に身を委ねていた方が建設的で、ずっと幸福である筈だ。

 なにも、精気が十全にある状態で喉笛を噛み切ろうとか、臓腑を引き摺り出して貪ろうなどと考えている訳ではない。

 私は必ずしも苦悶を啜ることが美味に繋がらないと知っている。あの頃から私が求めていたのは他者の情動。幸福が最後まで味わい深いならば、そちらを優先したいと思う。

 人間はとりわけその傾向が強い。かれらは許容を超える快楽に幸福を感じ、その絶頂の中で死ぬことが得意な種族だ。

 だから私は、人間の精が好きだ。啜れば啜るほど、人間はそれを求め、味わいも深くなるのだから。

 

 精を啜り切り、やがて命を、魂を擦り減らすようになり、なおも快楽を感じることを忘れない。

 何を考えているのかも分からなくなる最後まで、幸福の最中。なんておめでたく、都合の良い種族なのだろう。

 

 精も、命も、魂も全部啜り尽くして、ようやく空っぽになった亡骸を、私はいつも喰らってきた。

 枯れた体に舌を這わせない同族の方が理解できないと、疑問を覚えながら。

 だって、そこにはその人間が生きてきた記憶が、道程が、すべて込められている。

 千差万別の味がそこにある。その人間の過去に、生き様に思いを馳せて、鼻で、舌で、それを感じる。

 肉にも、血にも、骨にも、とびきりの味が染みついている。

 そのすべてを喰らわなければ気が済まない。最後の最後まで新鮮な味わいで満ちているのだから、一片たりとも取り零したくない。

 私の食後に残るものはなかった。それを行儀が良いなどと言う者はおらず、誰もかれもが恐ろしいと、悍ましいものを見る目で遠巻きに見てきた。

 

 

「ガ、ァァ……ッ……!」

 

 

 サキュバスが餌とするものは、人間に限った話ではない。とはいえ、下品で、褒められた話ではないとはされているが。

 そのようなイメージだけでかれらを食わず嫌いするのは実に愚かだ。

 理性など皆無。獣と大差ない、後先考えない欲望だけでできたような魔族たち。

 そこには、本来サキュバスが啜るべき情緒さえ欠けている。確かに、生きる上では一切必要のないものだろう。

 

 だが、本能だけで生きるからこそ、純然たる命の味わいが感じられる。

 深みは生まれず、混じりけのない欲望の味。いささか大味ではあるが、そういう味を求める日もあろう。

 それに、あの者たちは招くにも苦労はしない。

 原野を歩き、適当に淫気を撒いてやれば、いくらでもやってくる。無暗に貪る訳にもいかない人間よりも、遥かに手っ取り早い。

 

 精も、肉も、舌に乗せるには相応しくない醜悪な味。

 しかしゲテモノだからこその楽しみ方もある。吐き戻したくなるほどの臭いを胃の腑に満たす感覚が、堪らなかった。

 ただの一度も理解されたことはなかったが。

 

 

「なっ、何してんのよ!? 気でも狂ったの!? やめてよ! やだっ!」

 

 

 その甲高い悲鳴を、どれほど聞いてきただろう。

 私は欲張りだった。情動が熟した匂いを嗅ぎつければ、それを啜らずにはいられないほどに。

 人間の可愛らしい欲望が好きだ。ゴブリンやオークの身の程を弁えない欲望が好きだ。ワームやローパーの無自覚な欲望が好きだ。死体になおも染み付いた欲望が好きだ。妖精たちの悪意なき欲望が好きだ。ドラゴンの浅ましい欲望が好きだ。ミツカイの境遇の中でも燃える欲望が好きだ。ヴァンパイアやエルフの私たちを侮蔑しきった欲望が好きだ。

 その者が生きるために求める拠り所を私は嗅ぎつける。それが大きければ大きいほど、欲しいと希う。

 そんな私の目に、情動の捕食者たる同族がご馳走の山と映るのは、当然のことだった。

 

 精を啜り、欲望を蓄え、生きる糧とする。

 サキュバスにとって、何よりも至上の美味となり得るものに手を出すことが、禁忌とさえ広まっていないことは意外だった。

 驚くべきことに、同族を貪ることは誰にとっての常識でもなかったのだ。

 よほど飢えとは無縁の種族だったのか。あるいはこれだけ放埓を尽くしていながら、案外理性的な種族であるのか。

 どうあれ――誰も手を付けていないご馳走があるならば、惹かれてしまっても仕方がない。

 

 同族の集めた情動は、それに十分に浸した臓腑は、しかと醸造した血液は、数えきれないほどの美味を舌に乗せた私をして陶酔するほどの絶品だった。

 もちろん、この世の何よりもと言い切るほどではないが――平均すれば、そもそもサキュバスの主食として舌に合うようになっている人間にさえ匹敵するほど。

 たった一つ残念だったのは、そこに罪悪感も背徳感も乗せられなかったこと。

 不感症は昔からだった。自分が舌に乗せ、咀嚼し、嚥下するモノ以外には、とことん何も想えなかった。そんな私に、他者を害して“悪かった”と悔いる自責の念など生まれる筈もない。

 最高のスパイスになり得る感情を生成できないことが惜しかった。

 

 惜しかったから――果たして、それも含めて味わったとき、どれほどの多幸感に包まれるかを試してもらったこともある。

 結果は惨憺たる始末だったが。ほんの一瞬たりとも幸福を抱くことなく、挙句の果てに喉を掻き毟ってまで、それを拒んでしまった。

 あの後悔と絶望の味も得難いものではなかったが……結局私は、その味を知らず仕舞い。

 とはいえ、自分の好物が一つ増えたことには変わりなく、あの経験を通して、私の食道楽はいっそう華やいだ。

 

 ただひたすら、それを探求できていれば良い。ただひたすら、暴食に興じられれば良い。そもそも、満たされようとも思っていなかった。

 ただ、サキュバスらしく、欲望に忠実だった。それだけなのに。

 

 

「ああ……なんと残酷な。生かしもせず、殺しもせず……ただ壊れて在れと、それが相応しき罰であると。そう仰るのですね」

 

「そういう訳でもないのだけど……まあ、どう受け取っても構わないわぁ。これは、私の身勝手だもの」

 

 

 ――飽くなき衝動は、あるとき突然に取り上げられた。

 出会ったことはなかった。興味さえなかった。絶対的な存在だと知ってはいれど、きわめて個人的な自慰行為に耽る方を優先していた。

 当然だろう。狂気で腹は膨れない。あれは毒よりも性質が悪い――夢を無に帰す現実性の具現。私たちの天敵なのだから。

 畏怖はしても良い。けれど、あんなものを崇拝するなどどうかしている、と……言葉にせずとも感じていたものだが。

 

「あなたの『共感』は噂に聞いていましたが……その正体が、他者の存在意義を奪い悦に浸る悪鬼外道であったとは。いえ……だからこそ、絶大な畏怖を向けられるのでしょうか」

「奪うか、与えるか。どちらも私にとって大差はないわ。私はただ、あなたの行いに共感した。その結果……こうしてしまっただけだから」

 

 あの日私は、四肢を捩じ切られ腹を裂かれ、かつてないほどに無力化された。

 私の放埓が目に余ったか。このままでは秩序を脅かしかねないと思われたか。

 どうあれ、この時、私は初めてアリスアドラ様という存在を目にして、その凄まじさの一端を知った。

 操る夢の深さと、滲んだ狂気の濃さ。在り得ざる二つが共存した、サキュバスという種族のイレギュラーの極致。

 ああ――この方は怪物だ、私など及びもつくまい。そう直感出来る存在だった。

 

「これが、私にとっての救いになると?」

「さあ? そんなの、あなたの捉え方次第だもの。私はあなたの在り方として、この方が良いと思って、動かずにはいられなかった――誰かのために動く動機なんてそんなものでしょう?」

「……あくまでも“私のため”だと仰る。なるほど……そうであるならば、受け入れましょう。私に、この強欲以外の道があるものと信じて」

 

 ――この時、私に怒りはなかった。悲しみもなかった。疑問は、すぐに己の内に仕舞い込んだ。

 

 後でこの、サキュバスたちの頂点が私に下した選択の正否が明らかになるのであれば、無理に抗う気もなかった。

 生まれて初めて全霊で戦い、完膚なきまでに敗北した。その上で、この方は私に枷を掛けた。

 好みの情動を探し出すための嗅覚は失った。他者を感じるための舌や尾は、何も感じられなくなった。私は、真の意味での“不感症”になった。

 では、そこにアリスアドラ様が意味を見出したのであれば、その正体はなんなのか。

 もしかしたら、そこに私の救いがあると、そう考えることにした。今の私こそが、かつてよりも“私らしい”というのならば、その正体を探りたい。

 その先にこそ、至高の美味がある筈だ、と。

 

 

「待ってください、逃げないで――勇者ユーリ! どうかあなたのすべてを、私に味わわせてください!」

 

「――お断り、だよ!」

 

 

 その果てに待っていたのは、他愛のない結末。

 私はこうして、最後の戦いにやってきた勇者に対し、乾きと飢えを堪えきれずにいた。

 この結末に不満は持つまい。どうせこのような、大した末路にはならないと、どこかで抱いていた諦観が現実になっただけの話なのだから。

 

 現代まで欲望の捕食に意味を見出せなくなっていた私は、必然的に規律正しい存在にならざるを得なくなった。

 他者を貪らないサキュバス。お笑い種だ。そんな存在、サキュバスとして破綻しているではないか。

 自嘲はすれど、浮かんでくるのはわざとらしい笑みのみ。喪失したものに追従するように、私が感じられるものは、月日が経つにつれて少なくなっていった。

 精に生きる糧以上の意味はない。肉や臓腑で舌が悦ぶこともない。血はただ喉を潤すだけ。かつては確かな好物であった血酒でさえ、何も感じないものに変じてしまった。

 退屈――実に退屈な数百年だった。

 ――二つ。趣味といえるものを思いついていなければ、耐えられなかったほどに。

 

「来ますわよ、ユーリッ!」

「くっ……! 尽きる気配がないっ!」

 

 振るった剣は、内に染み付いた魔力を解放し、たちまち崩れ落ちていく。

 問題ない――どうせ代えの利く、どこで喰らったのかもわからない一振りだ。

 ……丸ごと呑み込んだわけでもない剣の破片の一つ一つが、腹の中で形を取り戻していることに気付いたのは、いつのことだっただろうか。

 そういえば、武具を噛み砕き、呑み込むことも、怖気に満ちた目で見てくる者がいた。

 これだって意味のある行為であるというのに。何せ、頼りに――支えにしていたものを餌にされたときの絶望は、実に良いものだったと記憶している。

 そんな、かつてのスパイスはいつの頃からか、私の内で武器庫と化していた。私の魔力で満ちた武器の山に。

 

「これだけやっても、まだ壊れない……! やはり、あなたたちは最高です!」

 

 バラバラと散らばっていく剣の残骸。あれを再び呑み込んだところで、使い物にはならないだろう。

 これだけ剣を犠牲にしたのは初めてだ。元より、このように野蛮で頭の悪い戦法は取らないようにしてきたが――今回ばかりは話は別だ。

 

 本当にアリスアドラ様が死んだかどうかはどうでもいい。

 多くのサキュバスがパニックに陥ったあの出来事を悲劇と受け取るには、あまりにも何も感じなさ過ぎた。

 たった一つ、私にとっての真実は、私を縛っていた枷が外れたこと。

 それでも――それでも、私の舌は戻らなかった。数百年ぶりに口にした人の肉は、さして高揚するほどのものでもなかったのだ。

 

『ユーリ、私に合わせなさい――せえ、のっ!』

「未熟な技術をあなたが補っているのですね、ラフィーナ。見事な連携です――ですが』

 

 けれど、彼ならば。かれらならば、きっとかつての悦びを……いや、それ以上の歓喜を沸き上がらせてくれる。

 あの真紅の外装を編む、その希望、その憎悪、その勇気。ひとかけら齧っただけで、私の喉を熱くしたかれらの意思。

 オドマオズマ様をついぞ味わえなかったのは、これを最初のご馳走にすべきだからなのだと納得する。

 

 今、互いの信念をぶつけ合うこの戦い。これは勇者ユーリとの戦い、というだけではない。

 ラフィーナがいる。妹様……オドマオズマ様の忘れ形見がいる。勇者クイールがいる。憎悪を湛えた少女がいる。妄執を匂わせるエルフがいる。すべての希望が、あの少年に込められている。

 であれば――その希望を融かすことで得られる刺激はどれほどだろう。希望を捨てて快楽に走るさまはどれほど甘美だろう。

 私はそれを味わいたい。希望でできたあの体を、一片も残さず貪りたい。

 かつて失ったこの衝動を、かれらを前にして取り戻すことが出来たならば、アリスアドラ様の死さえありがたい。

 

 ああ――早くその外装の下に辿り着きたい。

 肉の柔らかさを知りたい。血のまろやかさを知りたい。仮面の下の、愛らしいかんばせを見せてほしい――!

 

『っあ――!』

「しま……っ!」

 

 剣を二本投げ捨てて、それが巻き起こした魔力の嵐をかれらが対処している内に、その懐に飛び込む。

 手首――力の限り噛み砕こうとするも、外装に阻まれて、内の柔らかい肉には届かない。

 しかし、その衝撃を受けてか、勇者ユーリは思わず剣を手放した。

 ラフィーナの意識が込められた剣。オドマオズマ様の妹様を庇いながら戦う今の彼にとって、最も大きな力。

 それを手放してしまった以上、彼は手負いのウサギ――未だに牙はあれど、私が如何様にも弄ぶことができる相手に過ぎない。

 妹様を下ろして戦えば厄介だろうが……私が剣を砕いて嵐を巻き起こすことを厭わない以上、彼にはその選択はできまい。

 

「ふふ……据え膳、ですね。まだ抵抗のすべはあるのでしょう? どうか、私をもっと楽しませてください」

 

 焦らす手立てはまだ尽きていまい。

 いくらぶつけてきても構わない。なにせ私は数百年、舌を断たれていたも同然だったのだ。あと少しの辛抱など、最初の一口を引き立たせる絶好のスパイスだ。

 さあ、どのようにしてその不屈を蕩かそうか。彼の味をそのまま舌に乗せるのも良いが、妹様とともに味わうのも捨てがたい。

 あるいは、上で戦っているだろう勇者クイールたちがここに来るのを待つのもありだろう。

 いずれにせよ、私にとっては得難いご馳走。どのように調理するかさえ、心を躍らせて――――

 

「っ…………」

 

 ……?

 

 ……、…………なるほど。

 

 油断をしたところで影響はない。どうせ大したことはできない。今は目の前の彼に向き合う方が重要だと、そう思っていたが。

 

「……成長しましたね、ラフィーナ。知らないうちに、随分と手癖が悪くなったようだ」

「――私も旅の中で、鍛えられましたから。思い切りの良さとか、後先の考えなさとかは……そこのバカたちから感染したかもしれませんが」

 

 先ほど勇者ユーリが手放した筈の剣が、背後から私を貫いていた。

 いつの間にか剣の外に出てきた彼女に気付かないほど、私は夢中になっていたようだ。

 

 とはいえ……さすがに予想外。

 かわいい教え子……私になんの影響も齎さない、小さな小さなはぐれ者。

 ただ、そういう認識しか持っていなかったこの子が。自己主張が弱く、サキュバスらしくなかったこの子が……こんなにも強気な選択を取れるなんて。

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